金剛杖物語~青髪の海美の章~   作:仲村大輝

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この子守歌は埼玉県秩父地方の子守歌と、製糸工場で歌われた歌です。海美の地元は秩父なんでしょうか?
機会があれば、海美のお父さんのパルチザンの話も書けたらと思います。お楽しみに。



第八話 まつり

「殺人列車。定刻で発車します。」

白杖の駅員さんが案内する。

 発車するのは蒸気機関車である。

 この蒸気機関車。別に人を轢き殺しているわけでない。

 燃料が墓場近くで尽きたことがあり、有機物ならなんでも良いということで、墓を掘り起こして、死体を燃料にしたり、目に入った燃えるものならなんでも燃やして走りきったという伝説からそう言われている。

「君はここでいいの?」

海美を見送ろうと、赤鬼は、赤マントを羽織ってホームまで来た。

 ゆっくりうなずいた。

「そう?…それじゃあ…」

そう言って、青髪の女の人は行ってしまった。

 赤鬼は、また何か言いたげな感じで駅に戻ろうとして改札をくぐろうとした。

「へへへ…お嬢さん。それでいいんですか?」

白杖の駅員が話しかける。

「………。」

「本当は行きたいんでしょ?」

「………。」

「行ったら迷惑になるんじゃないかって思ってるんでしょう?」

「!……。」

「大丈夫ですよ。彼女は大丈夫です。だって彼女は、あなたが寝てる時、家族だって言ったんですよ。」

「?…。」

「家族ってのはね、家や、血の繋がる人間のチームのことですが、私はちょっと違ってもいいと思うんですよ。それら、血や家はそれを助けるものであって、本日は、その人に向けられる特別な感情。すなわち、愛情です。

愛情を向けられるのが家族だと思ってます。」

「………。」

「じゃあ、分かりやすく言いますよ。

彼女はね、あなたが迷惑をかけても怒らないし、他人に迷惑をかけても一緒に頭を下げてやるって言ってるんですよ。」

「!」

「それなら、分かりましたね?じゃあどうしますか?彼女と行きませんか?早く追いかけなさいよ!」

汽車は走り始める。

 窓から、海美が空いてる席を探しているのが見える。

 そこを目指して走る。

 海美と目が合った。

 昇降口に出てきてくれる。

「…私も連れてって!」

海美の目が見開く。

 するとそのまま車両から飛び降りた。

「なんで?」

「私の背中にしっかり捕まって!」

そういうと列車に向かい直して、杖を構える。

 私は構わず、青髪に体を預ける。

 汽車はぐんぐん加速する。

 客車はめちゃくちゃに連結されている。

 とにかく客を運べれば、通勤、ボックス、寝台問わず連結されている。

 すると、最後尾に、展望デッキのある客車が連結されていた。

「いまだ!」

海美は杖を鎌状態で伸ばす。

 すると、展望車の柵にうまく引っかかった。

 そしてそのまま、列車に引っ張られて体が浮いた。

「うっ…」

海美はゆっくり杖を手繰り、列車に飛び乗った。

「あなた、大丈夫?」

「ぅ、うん。」

「あなた、本当にこれでいいの?」

「うん。」

「そう。」

「………。」

「とりあえず席を探しましょう。」

「うん。」

「さぁ。」

海美は手を出す。

 赤鬼はゆっくり手を伸ばして海美の手を取る。

 そして二人は客車の中に入った。

 大きな窓に、白いシーツが掛けられたゆったりとした大きな一人用ソファが通路側に向いて10個ほど置いてある。

 その間を縫うように人間のボーイがドリンクを持って行ったり、御用聞きをして働いている。

 イメージとしては、戦後から東海道で活躍した燕号の展望車である。

 席には地獄道の住人やモノが座っている。

「………!」

「………。」

「…ぁ……。」

誰も出てないのに誰か入ってきたからみんな驚いてこちらを向いた。

 しかしもっと驚いたのであろう。

 なにせあの、駅の赤鬼が手を繋いで現れたのだ。

 目を見開き、赤鬼を見つめるモノ。

 なにか面倒ごとが起きないようにと目を伏せるモノ。

 新聞や本を読んでていたことすら分からないモノ。

がいた。

「ここにする?」

海美は聞いてみる。

「ううん。」

首を横に振る。

「そぉう?」

そう言って次の車両に行く。

 この殺人列車は、使える車両を無茶苦茶に連結してるので全てが高級車と言うわけでない。

 次の車両は、ロングシート型である。

 収容力や昇降のしやすさを追求した通勤型電車の代名詞のような席である。

 つり革がブラブラ揺れて遊んでる。

 イメージとしては、山手線や阪急電車です。

 ここにはあまりモノはいない。

「ここは?」

「うーん…」

「あんま嫌?」

そう言ったら、赤鬼が先に歩き出す。

 次の車両は、2席のリクライニングシート型であった。

 これは説明するまでもない。

 新幹線や飛行機、高速バスの様な座席である。

 ここはモノが沢山いる。

 しかし、みんなこちらをみてギョッとしている。

「ここは?」

「…横だと。」

「うん?」

「横だと、嫌。」

「そっかぁ〜…じゃあ!あるかな?」

海美はぐいぐい赤鬼を引っ張り次の席に向かった。

「ここは!?」

次は、木造のボックス席であった。

 レトロ調でとても落ち着く。

 イメージとしては、銀河鉄道999か、鬼滅の刃無限列車編の客車だと思ってください。

 ここにもモノは何人かいたが、赤鬼を見るとギョッとしたのか、前と後ろの車両に移ってしまった。

「さあ。」

赤鬼を座らせて、その向かい側に海美は座った。

「どう?」

「…ここがいい。」

「なら良かった。」

そう言うと、海美は赤ん坊を縛る紐を緩めた。

「ねぇ…」

「なあに?」

荷物を下ろしながら聞く。

「また、…歌って。」

「!………いいよ。その前に。」

そう言って、海美は荷物を棚にあげる。

「…あなた、名前は?」

「名前?」

「名前。あるでしょ?私は海美。」

「うみ。」

「そう。」

「私は…分からない。」

「分からない?」

「ないって言うか…いままでそんなこと言われたことないし…」

「うーん…そっか、悪いこと聞いちゃったね…」

「うみ。あなたが決めてよ。私の名前。」

「えっ!?私?」

「お願い。私を…人間にしてくれたのはあなただから…」

「あなた…」

「私はいままでモノの物取りで生活してきて、誰も私を知ろうとしたモノはいなかったのに、うみは違う。私を人として、怖がらず接してくれた。だから、うみの言うこと聞く。」

「そう。…じゃあ、ちょっと考えさせて。」

「分かった。じゃあ!…歌って…」

「分かったわかった。…えっと…

 

泣いて暮らせば月日は長い 唄で暮らせば夢のようだ

早く行きたいあの山越えて 可愛がられた親のそば

つまらないから裏へ出て泣けば 裏の松虫共に泣く

カラス鳴いたって気に掛けしゃるな カラスはその日の役で鳴く

親のためだと十年年季 主のためだとまた二年よ

早く日が暮れて早や夜が明けて 早く年季かま明けりゃよいよ。

 

殺人列車は山林を整備した線路を爆走する。

 たまにトンネルに入るが、スピードなど落ちない。

 機関室でこき使われているのは人間でそれを監視してるモノが一匹いるぐらいで、あとは窓さえ閉めてればススにやられてしまうことはないのだ。

 子守唄を歌い始めたごろからトンネルに入り、全部歌い終わるぐらいでもまだ抜けない。

 そのまま走り続けて、赤鬼と赤ん坊は寝て、

 海美もウトウトし始めた。

 その時、蒸気機関車が悲鳴を上げた。

 いや、警笛と言ったほうがいいかな。

「なに!?」

海美は飛び起きると杖をギュッと握る。

 すると

 ギギギィ!

と急ブレーキがかかった。

 海美は、進行方向に背中を向けていたため、吹っ飛ばなかったが、赤鬼が海美に突っ込んできた。

 赤ん坊を守りつつ、赤鬼も抱き止める。

「どうしたの?」

寝ぼけ眼で赤鬼が海美に聞く。

「分からない。」

 安心させようと周りを見渡す。 

 シュー!

と機関車が唸っている。

「…海美。」

赤鬼が海美の服を掴んでくる。

「大丈夫。わたしがここにいるから。」

頭を軽くポンポンと叩く。

 その時、前方車両から、だれか来た。

 制服と制帽を被っている。

「お客様にご連絡いたします。ただいま、殺人列車の前方にトレインジャックがいるとの連絡を受けました。そして、トレインジャックの要求が、『青髪の女が連れた赤ん坊を渡せ。』でしたみなさんご注意ならびに、その赤ん坊の情報がありましたらお知らせください。」

「繰り返します!…」

と言いながら車掌らしきモノが走ってくる。

「海美!」

そういうと赤鬼はマントを脱ぐと、車掌から見えないように海美に着させて、赤ん坊も見えなくさせた。

 強引に渡されたから前が見えない。

「あれ?お嬢さん。」

赤鬼に話しかけられた。

 まずい…

 初めて乗った人間がまともに話せるわけがない。

 第一、切符は私が持ってるんだから、私は車掌に髪の毛を見せないといけない。

 色々まずい。

「大丈夫ですか?そんなに長い刀をお持ちで。」

「…は、はい。」

「トレインジャックがいるそうなので、いざとなったらお願いしますね。では。」

というと車掌はタッタッタと次の車両に行ってしまった。

「…海美?」

赤鬼が話しかける。

「あなた、なんで?」

「…こうしないと赤ちゃんが……連れていかれちゃう。」

「たしかにそうだったけど、私が隠れてあなたが姿を表したら話しかけられるって分かってたんじゃ…」

「だけど、…海美と赤ちゃんが大事。」

海美はゆっくりマントを脱ぐと赤鬼に返した。

 それと海美は改めて面白い格好を赤鬼はしているなぁと思った。

 刀は腰の外側にさしているのではなく、股の間にさしてあるのだ。

 あれで歩くのに邪魔じゃないのだろうか…

 しかし、今はトレインジャックだ。

「…後方車両の人には顔がバレてるし、前の車両に移っても通報されちゃう。」

「…とりあえず外に出たら?屋根の上とか。」

「そっか…じゃああなたは…とりあえず、ここでじっとしていて」

「なんで?!」

「大事な仕事よ。様子を見るの。もし、大丈夫そうなら、迎えに来て。危なくなっても迎えに来てね。」

「分かった。」

その時、列車が走り始めた。

 赤ん坊を身体に縛り直す。

「なぜトレインジャックが……仕方ない。」

そう言って、海美は前方の連結部分に移動する。

「うわっ?ブッ!フゥ!」

口にススが入る。

「チッ!」

おくるみを引っ張り赤ん坊を完全に隠す。

 自分は布の切れ端でマスクを作る。

「よし!」

連結器部分にしがみつく。

 片手が杖だからうまく登れない。

 ただ必死に上がる。

 なんとか登った。

「海美!」

進行方向の後方から声がした。

 パッと振り向く。

「海美。」

「えっ!…パパ?」

そこには、お父さんがいた。

 ススでよく見えないが、自分のお父さんだと思った。

 声がそうだ。

「そう。パパですよ。海美。今までよく頑張って来たね。」

「でもなんで?…」

「このトレインジャックはパパが考えたんだよ。君ならこの列車に乗ると思ってね。君を迎えに来た。さぁ、帰ろう。その赤ん坊もパパがなんとかしよう。」

「…パパ!」

海美は屋根の上に立つとそのままお父さんに近づく。

 

 あぁ…ここまで長かった。

 父と別れて何年経ったか。

 海美の地元では、モノが出たら、女子供が一斉に捕まりどこかに連れて行かれてしまった。

 海美の父親は、海美に魔法をかけた。

 それは、海美を人間の女として見られない。という魔法だった。

 その魔法のおかげで海美はどこかに連れて行かれるということはなかった。

 しかも、人間として見られないから、モノたちには自分達と同じモノに見えるし、臭いも自分たちと同じに感じるらしい。

 ただ、地蔵菩薩も言っていたように、天道だけでなく、仏様たちも分からなくなっているので、死んでも生き返ることが出来ないのだ。

 そのことを父は教えなかった。

 また、海美の地元は男たちが天道や仏、日本の神々がモノたちに蜂起。主戦場となっていた。

 それに海美が巻き込まれないように旅に出したのだった。

 最初は本当に困った。

 杖がないし、今はだいぶ経済をモノが学び利用しているが、当時、金など役に立たなかった。

 雨が降れば寺の下に潜り込み、腹が減れば木の実をかじった。

 その都度思い出すのは父の顔だった。

 

「パパ!」

 

海美は走り寄る。

 

「海美!」

 

父が大きく腕を広げる。

 

「パパ!」

 

海美は、

 

そのまま通り過ぎる。

 

バチン!

 

父の首が飛ぶ。

 

「えっ?」

 

すれ違った海美は刃を納刀する。

「嘘つけ。パパは自分で自分をパパって呼ばない。…人の弱みに漬け込みやがって。」

「…ハハハ!さすが。さすが!」

「なに?」

後ろを向く。

 頭のない身体がしゃべる。

「青髪よ。よくこの状況下でよくそんな些細なことに気づいた。」

「あなたは?」

「我々は、君に伊勢崎に来てもらいたくないモノだ。」

「えっ?」

「よく聞け、青髪の少女よ。伊勢崎の選挙というのは、3体の投票になるが、その時にその場にいなければそのモノは立候補が無かったことになる。すなわち、その赤ん坊が伊勢崎に着かなければ二人…いや一人になっちまえば投票せずに伊勢崎が手に入るってことよ。」

「……ほかの立候補者は?」

「阿修羅と餓鬼の子と餓鬼の純血だ。」

「あなたは?」

「おれは…私は、餓鬼の純血の支持者だ。欲食と言う。高ぇ金につられて化けてみたらこのザマだ…」

「教えてくれてありがとう。」

「…ありがとうか…餓鬼になってから言われたことなかったな。」

そう言うと、ススと共に欲食は消えた。

 その時、パッと明るくなった。

 トンネルを抜けた。

 しまった!…

 ススと明るさで前が見えない。

「トレインジャックはどこから来るんだ?」

目はつぶったままつぶやいた時、足元がバタバタとざわついた。後方車両から、モノが我 先にと前方の車両に移動しているようだ。

「うみ!」

赤鬼が後ろの車両から顔を出した。

「どうしたの?」

「トレインジャック?…が来た。私たちが乗ったところかららしい。」

「乗ったとこって?…展望車のこと?」

「うみみたいに列車にひっかけて乗ってきたって。

「馬鹿な。トンネルの中だったじゃない。」

「だから、敵の味方が止まってる間に忍び込んだんだよ。私もよくやるもん。」

「……前方に控えてた敵も乗り込んだはずだ…どこから?…」

「もしも、あなたがこの列車に勝手に乗り込もうとしたらどうやって乗る?」

「…駅の屋根からこの列車の屋根へ行くけど…うみ!前!」

前を見る。

 もう一度トンネルがある。

 しかし、そのトンネルの山には何体かモノが見える。

「!…元の座席に戻ろう。ここは危ない。」

そう言って赤鬼と屋根から飛び降り、元の座席に戻り、席に座る。

「海美…」

赤鬼の手を握る。

「…よく聞いて。これから、モノが私たちを殺しにくる。あなたはどうする?」

「…うみと戦う。私とうみは、…家族でしょ?」

「……そうだったね。私とあなたは家族。だから、名前をあげます。あなたは青髪の海美の娘、赤ゲットのまつり」

「まつり…」

その時、餓鬼道の大群が後ろの車両から現れた。

「まだ逃げてないモノがいるぞ!やい!俺たちは伊勢崎に行く赤ん坊を探してるんだ!お前らもたてつくとろくな目に…」

(あわないぞ。)

と言いたかったのだろうが、言えずじまいだった。

 まつりが、3メートルほど距離があったにもかかわらず、一気に間合いを詰めて、大刀で喉を突いた。

 どのように刀を抜いたのかは分からない。

 大刀は奥にいる餓鬼まで貫いた。

 無理やり引き抜くと、大刀をメチャクチャに振り回す。

 モノだけでなく、座席も窓ガラスもあたり一面にバラバラになり散らばる。

「このままだと列車が…まつり!」

めちゃくちゃに振り回す中、見極めてまつりの左で掴む。

 まつりの驚いた顔ったらない。

 今までこの振り回し方で負けたことがなかったのに、海美に止められてしまったのだ。

 しかも素手で。

「まつり、ありがとう。だけど…ううん。あなたは、屋根に上がって、敵を引きつけてくれないかしら?」

「…分かった。」

海美がどんな言葉を飲み込んだのかまつりには分かってしまった。

 客車がボロボロ。連結器から、天井付近に大穴まで空いてしまった。

 たしかに大刀を狭い空間で振り回せばこうなる。

「良い子。じゃあ頼んだよ。」

「海美は…」

「大丈夫!私、強いでしょ?」

「うん…」

そう言ってまつりは出て行った。

「さて…」

海美は進行方向を見る。

 窓や、前車両からモノが溢れるように出てくる。

 小癪なことに、一番前にいるのは車掌ではないか。

「お客様…」

なにか怯えているようだ。

 すぐ後ろにいるモノに刀でも突きつけられてるのかな?

「車掌さん。先程はどうも。」

「困りますよ。隠れられては…」

「ごめんなさい。だけど…」

天井がにわかに騒がしくなる。

 窓をチラ見するとモノがドサドサと落ちていく。

 まつりが始めたようだ。

 後車両からモノが我先にと出てくる。

 海美が杖を槍状態にして、背中にしょいこむ。

 そのまま、前車両の車掌を見る。

「すぐ助けるから。」

その時、赤ん坊が急に泣き出した。

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