夕日に照らされた南凪自由学園の化学準備室。
そこでは二人の青年が酒を交わしていた。
「ささ、呑んでくれ」
中国人青年が完未のコップに注いだ酒・・・材料は簡単に調達できる。
薄めたエタノール、キャラメル、色付けのための茶葉。
さあ、画面の前の君も作ってみるんだ!
さて、青年の名は勢金課。つい最近、神浜に来たばかりだという。
どのくらい最近かというと、転生者が全滅した直後のことだ。
ちなみに、今は南凪自由学園に通っている。
みふゆの家から逃げた後、南凪で偶然にもぶつかったのだ。
そして、互いの瞳で理解できた。
詳しく聞くと、金課もまた転生者に狙われていたらしい。
どうやら近所の幼馴染と仲良くなっただけでそうなったらしい。
経緯まで似ていた。だが、戦い方がだいぶ違った。
彼は転生者のせいで別世界に飛ばされたそうなのだが、そこで武器を得たのだ。
古代だか近代だか代金だかわからないが、ベルカ式という武器を。
そのベルカ式は金を取るそうなのだが、問題はなかった。
なぜなら、金課は別世界の生活の末に金融センスを得たのだから。
株、仮想通貨、なんでもござれなのだ。
おじいちゃんからの仕送りで生活している完未とは大違いだった。
「・・・それにしても、すごいですねえ。
僕にもそういった株取引のテクニックを教えてほしいというか」
「別にいいけど、一つ問題がある」
「なんですか?」
「私のように廃課金勢になるということさ」
別世界に送られた反動からか、彼は課金欲に屈してしまった。
「ははは、そりゃごめんですよ。
・・・それはそうと、あなたも一杯どうですか?」
完未は隙間があったドアに向かって話しかけた。
すると、キイッっドアがさらに開いた。
「バレちゃったか。観鳥さん一生の不覚だよ」
彼女の腕章には新聞部と書かれていた。
「おや、危ないところだったね。
完未くん、私たちは危うくゴシップにされるところだった。
彼女は観鳥令。この学校の新聞部の部長だよ。
どれほどの生徒が彼女の牙にかかったことか」
「まあいいでしょう。僕はこの学校の生徒じゃないので。
それはそうと・・・観鳥さん、一杯どうぞ」
「お酒で篭絡する気だね?まあ、おいしそうだし・・・」
ちょっと舌がひりひりするが、甘くてすっきりした味わい。
「ふーん・・・これ、君が作ったの?」
「いえいえ、僕は化学薬品の扱いが上手くないので・・・。
作ってくれたのは、ひなのさんですよ」
「えっ、みゃーこ先輩が?」
「あと、ここで寝泊まりする権利もひなのさんがくれました。
何しろ、僕は課題と魔法少女に追われている身なので・・・」
完未はプリントを指さした。
「あと23679文字も残っているんです。
信じられますか?四日後までに3万字もやらなくちゃいけないんですよ。
仕方ないので、期限提出は諦めることにしました」
「うん、観鳥さんだってそうするよ。
というか、かなり問題があるような気がするけど」
「僕の担任はたまに魔が差すんですよ。もう慣れました。
ただ、先生を慕うどっかの魔法少女さんが暴走してるんです。
おかげで、僕以外に逃げた人は全員が捕まってしまいました。
平熱を出して休んでいる人ももうすぐ限界のようです」
「あのロシアの事件はそういうことだったのか。
まあ、安心してくれ。私も君のことは言わないから」
ちなみに、ヨーロッパでも似たようなことは度々起こっている(噓)。
生徒が隣国に亡命するのだ。国境の自由化のおかげだ。
しかし、先生も自由に国境を出入りできる。そういうわけで大事には至らない。
そういうわけで、先日のブリヤート共和国のような馬鹿げたことにはならないのだ。
というか、他国に亡命する努力を課題に向けろというのが今の国際世論だ。
「それにしても、至れり尽くせりだね。
観鳥さんからすると信じられないよ。
まさか、みゃーこ先輩が君にそこまで親切にするなんて」
「昔、一緒に戦ったことがあるんですよ。信じてくれるとは思いませんが」
「いや、信じるよ。それっぽい話や噂を聞いたことがあるし。
それにしても、君だったなんてね・・・一枚撮っていい?」
「いいですよー」
これがちょっとした騒ぎを引き起こすのだが、それはまた別の話。
ほんのりと酔いながら、片手で宿題を片付けていた。
わからないところはキュゥべえがテレパシーで教えてくれる。
そして、すごいのは酔っていても、綺麗ではっきりと字であるということ。
もうすぐ施錠ということで、金課と観鳥は帰ることにした。
別に施錠がなくとも、金課は帰るつもりだった。
もうすぐイベントがあるからだ。それに行動力もMAXになるころだ。
「・・・それにしても、あの狩人があんな感じだとは思わなかったや」
「おや、失望してるのかい?」
「いや、全然?むしろ、ほっとしたというか親近感が湧いたというか・・・。
観鳥さんが噂で聞いたのは無慈悲冷酷なハンターって感じだったし」
(そりゃ転生者相手にはそうなるだろうね。私もそうだったし)
正門を出たとき、観鳥はピタッと動きを止めた。
「・・・そういえば、狩人は怖い存在じゃないってみゃーこ先輩は言ってたんだよね」
「一緒に戦ったことがあるからわかったんだろうね」
「まあ、ちょっとおかしなところはあるって言ってたけど。
問題はそこじゃなかったんだよ・・・なんか顔が赤かったというか。
どこかしどろもどろになるというか・・・ありゃ惚れてるね」
「悪くはないんじゃないか?誰かが通報するかもしれないが」
すると、彼女は首を振った。そうじゃない。
「・・・もやもやするんだよね。なんか嫌な予感がするというか」
その時、観鳥の脳裏にある単語がよぎった。
ばっと振り向くと、都ひなのがカーテンを閉めようとしていた。
その顔はすごく赤くなっていた。
そして、観鳥と目が合い、慌てふためいた。
まるで”これは違うんだ”と言わんばかりに。
「むう、あれは御望顧ネ!」
「知っているのかい、美雨」
「当たり前ネ、あきら・・・」
御望顧(おもちかえり)
古代中国において編み出された王道を征く求婚術である。
相手に酒を呑ませることで思考を奪い、寝床に引きずり込む業である。
この秘法は現代日本においても合コンなどで引き継がれている。
なお、御望顧は自宅に引きずり込まなくても成立する。
つまり、その場で御望顧を実行しても定義的には問題がないのだ。
民明書房刊 『魔法少女のまま独身30代になってしまっても逆転する方法論』
「まあ、別に思考を奪うのに酒は必要ないネ」
その瞬間、勢金課は逃げ出していた。
得意の代金なんとか式という魔法を用いて加速していた。
「やらせはせんぞ!私のソシャゲ人生を!ようやく逃げれたと思ったのに!」
だが、魔法少女に簡単に追いつかれてしまう。
そして、腹に蹴りを入れられて沈黙した。
「この廃課金でこんな時間から酔っ払ってるバカはどうしようもないネ。
私で管理してあげないと、本当にダメダメでしょうがないネ。
これからは食事も課金額も何もかも私が決めてあげるネ。
そういうわけで、あきら。後は任せるネ。私はこいつを御望顧するから」
そのまま純美雨は去ってしまった。
「・・・そういうわけで、ボクは完未くんを救出しに行くけど、君はどうする?」
「そうだね・・・こんなのみゃーこ先輩らしくないからね。
ちょっと頭を冷やさせないと。あと、ゴシップ狙えるかもだし」