「そこの君、大丈夫ですか?」
転生者とかいうよくわからん存在を追っ払った少年。
ひなのはその姿に一瞬、ときめきを覚えた。
そう言いながら、少年はひなのの頭を撫でた。
当然、彼の方が背が大きかった。
最初のときめきはこの余計な言葉で消え去った。
ひなのが自分の年齢を言うと、少年は驚いた。
彼の方が年下だったのだ。
「・・・それで、何か言い残すことは?」
「牛乳はおいしいから、ちゃんと飲んだ方がいいと思います」
当然、魔法ですぐに気絶させた。こればかりは今でも正当だと思っている。
牛乳を飲んで背が大きくなるくらいなら、こうなっていない。
それからも少年との奇妙な共闘は続いた。
「アタシは都ひなのっていうんだ」
「僕は完未題宿といいます。それはそうと、カルシウムは人を温厚にするようですよ」
「そうかそうか、背も伸びてキレにくくなって一石二鳥ってこの野郎」
少年こと完未の戦い方は実に機動的なものだった。
長い戦いで培った耐G能力やら空間認識能力が合わさってすごいことになっていた。
彼はビルの壁を蹴って、別のビルの壁まで跳んで、また蹴ってを繰り返した。
その様子から他の魔法少女は彼が空を飛んでいると勘違いするほどだ。
それで使い魔を正確に撃ち抜くのだからすごいものだ。
完未自身は自分は普通の青年と言っているが、もう詐欺にしか聞こえなかった。
いずれ”なんかしちゃいましたか?”とでも言いそうなくらいだ。
「魔女には勝てませんでした・・・」
「あっ、当たり前だ!このバカ!」
魔女に負けたときは普通(魔法少女基準)だと安心した。
でも、それ以上に無性に怒りが込み上げてきた。
そんな簡単に命を無駄にしてほしくなかった。
勝手に戦ってほしくなかった。
「次はもっと怒るからな」
「・・・わかりました」
それからは完未のサポートのために新しい銃弾を作ったりもした。
命中したら大爆発を起こす弾丸、撃った相手を回復する弾丸・・・。
魔法とありったけの化学知識を総動員して製造した代物だ。
弾丸を補充しに彼が帰ってくるときは、いつもほっとした。
次はどんな弾丸を作ろうかと笑いながら話した。こんな日々が続くと思っていた。
いつからか、転生者などという迷惑な連中もいなくなった。
すると、それに合わせるかのように彼もまた姿を見せなくなった。
よく考えたら当たり前のことではないか。
アメコミのヒーローだって、役目を終えたら表舞台から消えていく。
それと同じように、完未もまた戦いを終えたということなのだろう。
彼のことをを昔話のように後輩の魔法少女たちに話すこともあった。
反応は様々だが、やはり信じられないという感じだった。
雫は同じ学校だからか信じてはくれたが。
無理もないだろう。一般人がそんな戦いに身を投じれるなんてありえないからだ。
そんなある時、ひなのは気づいた。
彼のことを話すとき、自分の顔が赤くなっていて、しどろもどろになっているということに。
完未と一緒に戦ったのは数年だが、その数年の間にすっかり彼のことが好きになったのだ。
あまりに一緒だったため、ひなの自身も気づけなかったのだ。
「みゃーこ先輩、GO!」
衣美里からの応援もあって、また会った時に好意を伝えようと思った。
ちなみに、彼女も完未と一緒に戦ったことがあるから、彼の人柄を知っていた。
だからこそ、応援してくれたのだ。
そして、完未の方から再び会いに来てくれた。
だけど、悲しくなった。彼は弓袋を抱えていた。まだ戦いを続けているのだ。
アメコミのヒーローだって、創造主の都合で再び戦うことになる。それと同じだった。
そもそも、冷静に考えれば、この平和な日本で少年が村田銃を持つこと自体がおかしい。
まあ、それを言ったら魔法少女自体がアウトなのだが。
・・・完未の説明で戦い自体はしょぼいものだとわかったが。
それでも、今度は別の不安が生まれた。戦いが終わったら、またどこかに消えるのでは?
「・・・そんなの嫌だ」
彼には可哀想なことをしてしまうが、課題を遂行させるわけにはいかない。
まず、匿うという名目で化学準備室に寝泊まりさせる。
そして、そこにお手製のウイスキーもどき酒を差し入れるのだ。
酔っ払ってくれたら、課題など手につかないはずだ。
そうなれば、ずるずると彼を引き留めることができる。
「・・・酒飲んだままでも課題やれるのかよ?」
「ええ、慣れれば簡単ですよ」
この少年が普通(魔法少女基準)だということをすっかり忘れていた。
だが、まだ別の勝機があった。それは彼が酔っ払っているということ。
つまり、ちょっと先っちょだけでも酔っ払っていればOKなのだ。
「・・・でもさ、本当は間違ってるよな。こんな方法取るなんて」
カーテンを閉めた後、なぜか急に冷静になった。
さっきまで逆レムーブをかましていたというのに。
こんなことをしても、完未の邪魔にしかならない。
本当に彼を愛しているのなら、彼が少しでも早く課題を終わらせれるようにする。
それこそが求められるべきことなのではないだろうか?
「アタシって、本当に馬鹿だよな」
すると、彼はひなのの瞳をまっすぐ見つめて言った。
「無理やり気絶させて貞操を奪おうとするよりかは遥かにマシですよ」
「アレと比較されても困るんだが???」
アレとはもちろん梓みふゆのことである。
「・・・それに、僕にはひなのさんを馬鹿にする資格なんてありませんよ。
一生懸命なひなのさんを、笑うことなんてとてもじゃないけどできない」
それはかつて後輩の魔法少女に言った言葉と同じだった。
彼はその魔法少女を知らないはずなのに。
「・・・でも、その気持ちに応えることはできません」
ああ、やっぱりこうなってしまう。
自信満々で作品を投稿して散々だったどこぞの駄文メーカーのように、
やっぱり撃沈してしまうのだ。それがひなのだった。
「・・・そうだよな。お前にも好きな奴はいるだろうし」
その時、ドアが派手に吹っ飛ばされた。
そして、中に入ってきたあきらが完未を殴り飛ばした。
吹っ飛ばされた彼は窓ガラスを突き破って、そのまま地上に落下した。
「・・・あちゃー、つい体が動いちゃった」
「いや駄目でしょ?」
観鳥令も入ってきた・・・もちろん、カメラも持って。
「ちょっ、完未に・・・いや、アイツのことだし大丈夫か」
予想通り、外から声が聞こえてきた。
「ありがとうございます、金課さん。それにしても空まで飛べるとは・・・」
「私も兵としての矜持があるからね。君を助けなきゃ名折れだ」
どうやって逃げてきたのかは知らないが、金課が助けてくれたようだ。
「それで、あきら。殴る必要あった?」
「いや・・・ちょっとかこが荒れていてね・・・。
完未くん、色々と忙しくて会えてなかったんだよ。
しかも、かこの方も完未くんに想いを寄せてるし・・・」
「「・・・あっ(察し)」」
「もうね、怖いというか・・・それで元凶を殴りたくなっちゃって。
・・・どうしよう。このままだとななかに怒られるよ。
完未くんの確保を命じられていたのに・・・」
あきらは茫然自失状態になった。
そこで、ひなのひらめく。
「・・・よし、呑もう!」
「・・・そうだね、そうさせてもらうよ」
「よーしっ!観鳥さんも呑ませてもらうぞー!」
グラスを三人分用意した。
なお、ひなののグラスは完未がさっきまで使っていたものだ。
この期に及んで、まだ間接キスを狙っていた。
「それじゃあ、みゃーこ先輩の失恋を記念して・・・」
三人はグラスを高々と上げる。
「「「かんぱーい!」」」
都ひなのさんは化学準備室全壊の件について今週末までに反省文を提出してください。
もちろん、酒類の無断製造と未成年飲酒の件についてもです。
あと、第四の壁の向こうの皆様は前話の分も合わせて感想、評価を提出してください。
by南凪自由学園校長