Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE   作:キラトマト

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第一話 転入生 楠瀬累

 ──俺が、彼女と出会ったのは、偶然じゃなかったと思う。そう、全て必然だったのだ。

 

「えっと、札幌海陵高校から来ました……楠瀬累です……よろしくお願いします」

 

 俺は、台上に立って、自己紹介をする。

 

 俺の自己紹介が終わると、もう一人の転入生も自己紹介を始める。彼はハキハキと喋って、好きな物や事などを話している。

 

 この様子じゃ、俺の事なんて覚えてもらえないだろうなぁ……

 

「楠瀬クンと高坂クンは、我が湘南海陵高校の伝統である『特待生特別国内交換留学制度』──」

 

「トクトク制度によって、札幌海陵高校から短期転入という形で来てくれました」

 

「三ヶ月という短い間ではありますが、姉妹校の優秀な生徒と親交を深め、お互いにいい刺激を受けてください」

 

 生徒会長の相葉さんが俺たちの転入についての説明をする。

 

「楠瀬クンは、なにか目標などありますか?」

 

 相葉さんが、俺の方にマイクを向けてくる。恐らくあまり喋らなかった僕へのフォローだろう。

 

(目標……か……)

 

 僕は少し考えてから、

 

「みんなと、仲良くなりたいです」

 

「他にはなにか……」

 

「えっと、勉強も頑張りたいです」

 

「あとは……ないです」

 

 俺は、自己紹介を終えて、その場から逃げるように離れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──校内に戻ると、幼馴染のリーチが話しかけてくる。

 

「何やってんだよルイ。あんな自己紹介はないだろ」

 

「あんな、って、別にあれでいいだろ。早く終わらせたかったし」

 

「ルイったら……ホント、そんなんだから友達出来ないんだよ?」

 

 リーチの妹 柚莉が説教じみた言葉を吐く。

 

「そのことは言うな」

 

「もうすぐ海陵祭、始まるんだろ? そんな状況で長ったらしい挨拶したところで……」

 

「もう……気を使ってるんだかよく分かんねーよ。ルイは」

 

「とにかく、行くわよ」

 

 そこに相葉さんもやって来る。

 

 柚莉は俺の手を取って、一年の教室がある三階へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこみたいね」

 

 喫茶店をやっている教室の前に、人だかりが出来ていた。

 

「ん? なにかトラブルでも起きたのか?」

 

 俺はわざとらしくそう言ってみる。

 

「そそ、ぱぱっと解決しちゃってね、ルイ♪」

 

「ったく」

 

 俺がそう言って、向かおうとする。それと同時に、相葉さんも動いて、野次馬の群れに向かって話しかける。

 

「通してもらえるかしら」

 

「あっ……」

 

 相葉さんの言葉に、野次馬たちがサッと身を引く。

 

 俺も相葉さんのあとを追う。そこには、ベージュ色の髪をした女の子が、一人の少女に責められているという、祭の場ではありえない光景が広がっていた。

 

「ちょっとさー、黙ってたら分かんなくない? 日本語、喋れたよね?」

 

「……」

 

 だけど、責められている方は、何も言い返そうとはしない。

 

「昔っからそうだよね。人のモノ横取りしといて、あたしのせいじゃないもん、みんなが勝手にしたことだもん、って」

 

「……」

 

 尚も彼女は黙ったままだ。

 

「何それ? 周りがみんな味方だとでも思ってんの? 黙ってれば可愛いってチヤホヤされて、男どもが守ってくれるって?」

 

「何とか言えっての! そのウジウジした目がムカつくんだよ!」

 

「……」

 

「……Fais come tu le souhaites」

 

 絡まれている方の女の子が、何か呟いた。

 

「……勝手にして……」

 

 俺はつぶやく。

 

「はぁ? 何? ここは日本だって、そんなこともわかんないの?」

 

「詠美ちゃんさー、もういいじゃん。うちら帰るからさ。ね、嘉神川」

 

 フランス語を話した女の子の隣の金髪の子が口を開く。

 

「……」

 

「チキってんじゃねーぞ寿奈桜! ってかあんたにやられたことも忘れてないからね!」

 

「ハッ? ウチが何したっつーの?」

 

「……ほんっと、あんたらだけは許さない。このクソビッチども。高校違って、やっとそのムカつく顔見なくて済むと思ったら」

 

「まぁ、ウチらの方が成績優秀だしー?」

 

「あああ? 補欠合格で喜んでた奴が、マウント取ってんじゃねぇよ!」

 

「はぁ……しょうがねえなぁ」

 

 俺は彼女たちに声をかける。

 

「あの……その子たち、嫌がってるみたいなんで、そろそろやめてもらえますか?」

 

「は? 誰?」

 

 うちの高校の女の子が問いかける。そしてあとの二人も僕に怪訝の視線を向けていた。

 

「俺は……」

 

 俺は返す言葉が思いつかない。

 

「はいはい、そこまで」

 

「……会長」

 

「会長?」

 

「……」

 

 相変わらずフランス語の子は黙ったままだ。

 

「あなたたち、その制服は林鐘寺女子高校よね。生徒会役員?」

 

「あー、いや、ウチら生徒会の日紫喜先輩に一緒に行こうって言われて来ただけっす」

 

 金髪は、気まずそうにそう答える。

 

「先輩、ちょっと遅れるって連絡あって、とりあえずウチらだけで先に入っとこうかーって」

 

「そう。それにしても、他校でこんな騒ぎを起こされては困るわ」

 

「すみません……」

 

「……」

 

 二人とも、相葉さんに軽く頭を下げた。

 

「常盤さん、それで……何が原因なのかしら?」

 

「それはっ……」

 

 常磐と呼ばれた子が言葉に詰まる。

 

「大体、意味わかんないんだよねー」

 

「そこの男子がウチらのことナンパしてきて、めんどくさいしーとか思ってたら詠美ちゃん来てくれたからさー、助けてくれるのかと思うじゃん?」

 

「そしたら逆にウチらのことボロクソに言い始めるしさー。もう、わけわかんないしー」

 

「ぐっ……本当に、このクソバカビッチは……」

 

「ビッチはそっちじゃん。昔っから惚れっぽくてさー、手当り次第ってカンジ?」

 

「そっ、そんなことないもん! ちゃんといいオトコだけ選んでるんだから!」

 

「詠美、もういいだろ。そんなの相手にしなくたって」

 

 一人の男子生徒が常磐に声をかける。

 

「長村……だ、だって……」

 

「それで、結局どういうことなのかしら」

 

「もういい、です」

 

 常磐は、もういい、といった様子で声を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──先程の事件は解決し、相葉さんは戻って行った。だが……

 

「もーっ、あんたが余計なことするから! で……ええっと、誰だっけ?」

 

「楠瀬累、かさねって読みづらいから、みんなルイって呼んでるよ」

 

「ルイかー、変わった名前だな。で、ルイ何世?」

俺が返答に迷っていると嘉神川さんがフォローしてくれる。

 

「merci」

 

 嘉神川さん……綺麗な……人形のような面立ちにベージュ色の髪。

 

「それにしても、久しぶりだね~」

 

 顔見知りなのか、柚莉が久しぶりという言葉を使う。

 

「あれ、つーかよく見たらゆずちゃん先輩!? なんでここに!?」

 

「なんでって、ここあたしの学校だし。むしろ、ふたりがいるのがびっくりだよー。元気だった?」

 

「あ、は、はいっ」

 

「ご無沙汰してます、柚莉さん。お会いできて嬉しいです」

 

 嘉神川さんが口を開く。

 

「うんうん、ノエルんはやっぱり笑顔が可愛いよね~」

 

「……」

 

「……!」

 

 一瞬、嘉神川さんと目が合ったのだが、すぐに目を逸らされてしまう。

 

「柚莉の知り合いだったのか」

 

「うん。こっちが志摩寿奈桜ちゃんで、そっちが嘉神川ノエルちゃん」

 

「ふたりとも中学の時の、テニス部の後輩。今は林女……林鐘寺女子高校に通ってるんだよね」

 

「その節はお世話になりました!」

 

「お世話になりました」

 

 志摩さんの言葉に続けてお礼を言う。

 

「ゆずちゃん先輩、前も助けて貰ったし、それに今日も……本当に頭が上がらないっす!」

 

「おおげさだよー。それに、今日はルイのおかげだし」

 

「それよりも、寿奈桜ちゃん変わったよね。髪とか喋り方とか」

 

「うぅ……そ、それはナメられないようにっていうか……」

 

「いや、すごく可愛いと思うよ」

 

「あ、あざーっす」

 

 志摩さんは恥ずかしながらそう言う。

 

「ノエルんは相変わらずだね~」

 

「……そうでしょうか」

 

「ノエルんはね、お母さんがフランス人なんだよ。でも、昔から日本語ペラペラなんだ。ルイもよろしくしてあげてね」

 

「ん……」

 

「…………」

 

 先程まで逸らされていた嘉神川さんの瞳が、じっと俺を見つめている。俺はその翠色の瞳に吸い寄せられる。だが、なんの感情も読み取れない。俺を拒絶しているような、それともあえてそうしているような……

 

「────イ」

 

「……綺麗」

 

「ルイ?!」

 

「ん……?」

 

「綺麗、って、まさか一目惚れしちゃった? まあ仕方ないよねー、ノエルんならしょうがないよー」

 

「……」

 

 柚莉のその言葉で、見るからに不機嫌そうな表情になる嘉神川さん

 

「……ちっ、違う……」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、僕らは演劇部の出し物を見終わって、模擬店を見ていた。その最中

 

「あれー? さっきの……ええっと、ルイ何世だっけ?」

 

「……ナオちゃん、それ何回やるの?」

 

 俺は、柚莉の友人二人組に遭遇した。

 

「んー、じゃあルイルイでいっか」

 

(じゃあ、じゃねぇんだよ)

 

「そんでぇ、ルイルイはぼっちで何してんすか? 友達とかいない系?」

 

「…………ナオちゃん」

 

「あ……マジぼっちだった? ごめん、うちそういう空気読めなくて」

 

「間違ってはないんだけど、俺は札幌から今日転入してきたばかりだから、知り合いはほとんどいなんだ」

 

「ナオちゃん……もう、いこ」

 

「えー? ここであったのもなんかのエンじゃん? ドルじゃん? ルイルイ、なんか奢ってよー」

 

「さっきのお礼ってことでさー」

 

「助けたのは俺なんだけど……」

 

「いやいや、助けてくれたお礼に、ぼっちのルイルイにウチらがしばらく付き合ってあげるってことだし」

 

「……しょうがねえなぁ」

 

「よしっ、嘉神川はなんかその辺で食べたいものある?」

 

 志摩さんは俺の承諾を得たので、すぐに嘉神川さんに食べたいものを聞く。

 

「……え? ……んーと、えーと……」

 

 急に振られたからか、嘉神川さんは悩ましそうにあたりの模擬店を見ている。

 

「あそこの、ブルーオーシャンかき氷って、舌が青くなったりする?」

 

「するする! 面白いからいっとく? 金髪翠眼青い舌! おっと、なんかカッコよくね!?」

 

「やだよ、ナオちゃん絶対スマホで撮るでしょ」

 

「あったり前だし! でも、嘉神川が嫌がるようなことはしたくないし」

 

「ナオちゃん……」

 

「おっけー、じゃあたこ焼きね! 買ってくる!」

 

「え……私、猫舌だからあんまり熱いのは────」

 

(何故かき氷の次がたこ焼きなんだ? 意味が分からない)

 

「大丈夫ダイジョーブ! 嘉神川、猫好きじゃん! フーフーしてあげっから!」

 

 志摩さんはそう言って、足早に行ってしまう。

 

「……」

 

(気まずい……)

 

「あ、あのさ……俺なにか飲み物買ってくるよ」

 

 俺はその空気に耐えきれずに、逃げるようにその場から離れてしまう。

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