Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
俺は、寿奈桜ちゃんの家を出た後、嘉神川さんを駅まで送ることとなった。ちなみに、寿奈桜ちゃんはというと、神社を訪ねてきたおじいさんに捕まっていた。
(ついでに、帰りに買い出しでもするか)
「……そろそろ、空気に冬の気配」
「……そうだね」
「楠瀬さんは……」
「……?」
「なんというか……あまり自分からは喋らないですよね」
「そうかな? というか、それを言ったら嘉神川さんも……」
「そうですか?」
嘉神川さんはそれに気づいていないようだ。
「まぁ……必要最低限っていうのは、好きだけどね」
(しまった。好きとか言っちゃったよどうしよう。そんなつもりは無い、とか言えるわけないし……)
「そう……ですね」
(ふぅ……良かった。嘉神川さんが分かってくれる子でよかったよ)
「言わなくても分かってくれる人もいます」
「みんながそうだといいんだけどね……」
俺はその言葉に共感する。
「……そうですね」
この前彼女も言っていたけど、俺と嘉神川さんは少し、似てるところがあるように思う。まぁ、そんなことは思っていても口には出さないけど。
────少し歩くと、すぐに駅へとたどり着いた。
「送ってくださって、ありがとうございます」
「うん。それじゃ、気を付けて」
嘉神川さんに軽く頭を下げて俺は帰る。
俺は昨日、歩道橋の上で俺の方を向いている一人の少女を見かけた。その制服が海陵高校のものだったので俺が見つめていると、彼女は口を開ける。俺には読唇術なんて持っていないので、何を喋っているのかはさっぱりだった。一体……誰なんだ? だが俺は考えるのを辞める。また前のように倒れることが怖いのだ。そしてその少女の隣に立っていた男性。それは紛れもなく俺の夢に出てきた男性の姿であった。
俺と、あの男との間に面識はない。少なくとも俺の記憶の中では。
『──は、──海岸──園。湘南海──園でござ──す』
「──れ? ルイ──。寝──るん?」
断片的に周りの声が聞こえてくる。それに気付いた俺は慌てて起きて周りの様子を確認する。
「……」
「ん……? 嘉神川、昨日駅まで送ってもらったんだよね?」
「……そう」
「んー、なんか、ルイルイに初めて会った時みたいに距離感あるようなー、ないようなー」
寿奈桜ちゃんはすかさず俺に近づいてきて小声で訪ねかける。
「で、なにしたの? 無理矢理キスでも迫った? 壁ドン床ドン? 嘉神川、なんかめっちゃ機嫌悪いんですけど」
「……」
(知らねーよ。だいいち俺に心当たりなんてないし。もしかして、昨日歩道橋の上にいた少女を見つめていたところを見られたのだろうか。謝る……べきだよな……?)
「嘉神川さん、昨日のことなんだけど」
「……」
「駅まで送った後、歩道橋の上に旧友がいてさ、それで懐かしんでたんだ。その時なんだけど……見た? その相手」
嘘だ。実際は旧友でもなんでもない。
「……いえ」
「あぁ、そうか」
俺は安堵する。相手が女性だったので誤解されたと思ったからだ。
「ハァ? ルイルイってば、もしかして浮気!? 嘉神川の前でほかの女を追いかけてたとか、ちょーサイアクだし!」
「ちょっと待て、俺は女とは言ってない。それに浮気も何も俺は……嘉神川さんに手を出すなとか言ってたの、寿奈桜ちゃんだろ」
「ハァ……分かってない。分かってないよルイルイ。ちょっと今度ウチのオススメのハウツー本貸すから、ちゃんと読むし。ちょー泣けるし!」
嘉神川さんが不機嫌なのも、その原因が俺なのも、恐らく事実だ。嘉神川さんが……多少なりとも俺に好意を持ってくれている。それも事実だ。けれどもう、俺の頭では整理が付かない段階まで来ている。
俺が教室に着くと早速リーチが話しかけてくる。
「おはよ、ルイ。ちょこ、上手く使ってるか? 特に嘉神川さんとかと」
「なんでそこで嘉神川さんの名前が出るんだ?」
「はぁ……ったく、ルイはなんも分かってないな……」
「分かってないって、それはないだろ、リーチ。俺は、ただ聞いただけなんだぞ」
俺のその言葉にまたもやリーチはやれやれ、といった風にため息をこぼす。
「これじゃ嘉神川さんが報われないな……」
だからなんで嘉神川さんの名前が出てくんだよ……
そんな感じで喋っているとチャイムが鳴る。
「ってことで、今日は嘉神川さんの気持ちを考えておくように!」
リーチにそう宣告される。
本当に意味が分からないんだけど……。
結局、授業中もあの男の事が頭によぎって集中出来ずに先生の話もほとんど頭に入ってこなかった。
俺は電車を降りるが、家に帰る気にはなれなかった。多分、一人で部屋にいたらまた余計なことを考えてしまう。
────気が付くと俺は、海の方へと歩みを進めていた。
そして、またあの地点に『彼女』はいた。まだこちらには気付いていないようだ。
……朝のこともある。おそらく、嘉神川さんは俺と話すようなことはしないだろう。ここは、彼女の姿を見れただけで良しとするか。そう思って俺はそのまま通り過ぎようとする。が、
「……無視、ですか?」
「え、あ、い、いや、そうじゃなくて……じゃまを……そう、じゃまをしたら悪いなと」
俺は突然声をかけられたことによって言葉が詰まってしまう。
「じゃまを……するつもりなんですか?」
「そうじゃなくて、ただ……さ、今朝のこともあるし……俺がいても楽しくないだろうな、って」
「わたしがどう思うのかを、勝手に決めないでください」
「……ごめん」
「今日は、ここで待っていました。あなたを」
いや、聞き間違いかもしれない。一応聞き直しておこう。
「え?」
「しらすにはまた会えます。でもあなたは……どこかへ消えてしまいそうです」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。
「……あぁ」
その通り、俺は3年生が終わったらまた北海道に帰らなくてはならない。残酷だが、仕方がない。
「今朝、失礼な態度をとってしまいました。ごめんなさい」
「わたし、どうして良いのか分からなかったから」
「前に、楠瀬さんは言いました。助けて欲しい時には、言わないと分からない、と」
「話、聞きますよ? わたしで良ければ……ですが」
「嘉神川さん……」
なぜ、なぜそこまで俺に深入りをしてくるのだろう、彼女は。確かに俺に興味があるとは言っていたけど……
「……なぜかは、わかりません」
「でも、聞かなくてはいけない。そうしないと、きっと私は後悔する……気がするんです」
俺はそんな嘉神川さんを連れて、YuKuRuへと向かった。あそこなら余計な邪魔も入らないだろう、という考えだ。