Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
──翌日。
シカ電車内で目が合うと、嘉神川さんが乗客の合間を縫ってやって来た。
「Bonjour. おはようございます、楠瀬さん」
「おはよう、嘉神川さん。……昨日は、色々と迷惑をかけてしまった」
「いいえ」
俺の言葉に嘉神川さんは一言で返した。
「わたしは部外者ですが、色々と考えさせられました」
「忘れたけど、覚えている。そういうことでしょうか」
「……ああ、そういうことだろう」
「難しいですね」
「時間は……かかるだろう、でも、例えどんなに辛い真実だったとしても、俺は受け止めるよ」
「そう……ですね」
「だから、これも考えました」
「楠瀬さんの消えた記憶より、もっといい思い出を作るにはどうすれば良いのか」
「……え?」
「わたしは、ここにいます」
「それは分かるんだけど……」
「時間短縮のためです」
「ええっと、意味は分かるというか分からないというか……」
「もっと、ですか」
その言葉ともに、嘉神川さんは眼前に近付いてくる。このままじゃ……!
「ちょ、ちょっとストップストップ!」
電車の中だというのに俺は大きな声を上げてしまう。
「んっ、んんんっうっうっ……げほっ、えほっ」
「あの~さぁ……ふたりともぉ、ウチもことぉ、忘れてない?!」
寿奈桜ちゃんもだ。
「ああ、いたのか」
俺は、すっとぼける。
「ふっざっけんなし! ウチの嘉神川にそれ以上近付いたら、社会的にぶっころーす!」
「海陵の校庭に『ルイルイ大好きー!』とか書いちゃうからね! 愛を叫んじゃうし!」
「ナオちゃん、楠瀬さんのことをそんなに……?」
嘉神川さんは勘違いしてしまう。
「嘉神川!? 冗談だし!?」
「んなことより、電車の中で騒ぐなよ」
「っていうか、ふたりの間にまた何かあった!? その辺、詳しく聞かせてもらうし!」
「だから黙れ────」
俺が注意しようとした瞬間、アラートがなる。
「次は、林鐘寺。林鐘寺でございます」
その音に俺は小さくガッツポーズをする。
(ナイスッ!! 時間!!)
「あーっ! じゃあ放課後ルイルイんち行くし!」
「いや、それは嘉神川さんに……ってダメか。ゴメン、あんま詳しい話は出来ないんだ」
俺に続いて嘉神川さんが俺に同意する。
「言えないの」
「まっすます、アヤシーしー!!」
「それよりいいのか? もう閉まるぞ」
「あーっ! あっぶない!!」
俺の言葉で気が付いたのか、寿奈桜ちゃんたちはそそくさと降りていく。
午前中の授業が終わり、やっと昼休みの時間がやってきた。と、同時にリーチが笑顔でやってきた。
「やあ、ルイ。お昼一緒に食べない?」
いつも通り。昨日のことなどなかったようにリーチは笑顔でそう言う。
「あっあたしもあたしも! でもなー、学校来てまでリーチと一緒ってのもね。またリーチがシスコンとか言われちゃいそうだし」
その言葉にリーチは反論する。
「だから僕はシスコンじゃないっての! 大体、僕がルイを先に誘ったんだからね! ユズは、誰か別の友達と食べればいいじゃん!」
「リーチこそ、クラス違うんだからそっちで食べればいいじゃない……って、あ、もしかして友達いない系?」
「そんなわけないだろ。ま、一番の親友はルイで間違いないけどね」
リーチはハッキリとそう言った。
「!? もしかして、シスコンからBLへの転向を狙って……」
(なんでだよっ!)
「なんでだよっ!」
珍しく俺の気持ちとリーチの発言が一致した。
「あーあー、もううるさいな……一人で食うからほっといてくれ」
「「ルイー!?」」
結局、俺はリーチと柚莉の三人で昼食を食べた。ともあれ、俺はリーチが昨日のことを克服してくれたようで安心した。
俺は帰りにYuKuRuに寄ることにした。店内に入るとマスターが出迎えてくれる。
「いらっしゃい」
「こんにちは、マスター」
「彼女、来てるよ」
「……え?」
マスターの視線の先には、窓際の席で静かに佇む嘉神川さんの姿があった。
「……嘉神川さん」
俺は嘉神川さんの席の方へと向かった。
「莉一さんから……ナオちゃん経由で連絡があって」
「楠瀬さんが、きっと行くだろうから……と」
(リーチの奴なんてことしてんだ!!)
「ありがとう。なんとなく、そのまま帰るのが嫌でさ」
「……わたしも」
「……そう」
俺は、口では落ち着いた口調だったが、心は穏やかではなかった。
「……」
お互い、口数は少ない。だが、今はそんな空気が心地よいとさえ思っていた。マスターの淹れたコーヒーの深い香りが、その雰囲気をさらに良いものにしていた。
とても穏やかで落ち着く……色々あった後だけに、この時間が貴重なものに思えた。
「もう1ヶ月か……」
「……? なにがですか?」
「いや、嘉神川さんたちと出会ってさ」
そう言うと嘉神川さんはクスリと笑って答える。
「フフ、……そうですね」
そんな会話をしていると、マスターがやって来た。
「なんだなんだ、その縁側の老夫婦みたいな会話は」
「キミら、まだ高校生だろ」
「別に、そんなつもりはないんですが……」
「ノエルちゃんも、昔と違って随分と落ち着いて────」
「昔? この店が出来たの、まだ一年前とか聞いたんですが」
マスターの言葉で疑問に思った疑問を投げてみる。
「ああ、俺は元々ノエルちゃんのお姉さんと知り合いでさ」
「余計なことは言わないでください、信さん」
今まで黙って聞いていた嘉神川さんがジト目でマスターを睨んで言った。正直可愛い。ま、思っていても言わないが。
「う……ごめん」
「へぇ、嘉神川さんはお姉さんがいるのか」
「これがまたすごい美人でさ!」
マスターが口を挟む。
「……信さん?」
「あ、ええっと……それじゃふたりとも、コーヒーお代わりでいいかな?」
嘉神川さんに睨まれたマスターは逃げるようにカウンターの奥へ戻っていった。
「でも、嘉神川さんの家族か。たしか……お母さんはフランス人だっけ?」
「……はい。家族が……少し離れていた時期もあったんですが、今は一緒に暮らしています」
「そうか……お姉さんも、嘉神川さんに"似て"可愛いんだろうな……」
あ……しまった。
「い、今の取り消して! 言葉のあやっていうか……」
「フフ……、構いませんよ」
嘉神川さんはいたずらっぽく笑ってみせた。
「い、いや、マスターが言ってたからさ、そりゃ嘉神川さんが一番だけど、それに似て、って意味でさ!」
「なんだか楠瀬さん、必死です」
嘉神川さんは笑いながら言った。
「そ、それよりも、もうこんな時間じゃないか! そろそろ帰らないと、家の人も心配するんじゃないかな?」
俺は必死に話を変えようとする。
「ふふ、そうですね」
と、二人で立ち上がろうとした瞬間だった。
今坂さん……前に柚莉が発作を起こした時に助けてくれた人と雑談していたら、すっかり遅くなってしまっていた。
「嘉神川さん」
「……?」
「……またね」
出来れば送っていきたかったが、それは流石にお節介がすぎるだろう。
「はい」
少しの未練を残して、俺は家に帰宅する。
部屋について風呂に入り、少ししてからベッドに潜り込んだ。今日は……少し失言の場面もあったが、平穏な日だった。これからも、こんな日が続くといいのだが。そんなことを頭に思い浮かべながら目を閉じようとしたところで、スマホがチョコの着信を告げた。
{おやすみなさい}
嘉神川さんも今寝ようとしていたところだろうか。凄いな、タイミング。俺は短めに返信して、目を閉じた。
{今日は楽しかった。おやすみ}
今回サブタイトル銀魂っぽくしてみました。