Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
嘉神川さんとは3時にYuKuRu出会う約束だ。俺はそのために早めに起きて、予定の30分前に家を出る。結局、着いたのは20分だけ早い時刻だった。だが、嘉神川さんはもう来てるだろうな。
「いらっしゃい」
「こんにちは、マスター」
「彼女、もう来てるよ」
やっぱり、嘉神川さんは律儀だな。
「あぁ、やっぱり」
「余計なのが引っ付いてるけどね」
「……?」
寿奈桜ちゃん……ではないか。マスターが彼女にそんな口を叩くとは思えない。俺が嘉神川さんの座っている方へ行くと、待っていたのは予想外の人物だった。
「やあ、5分前どころか、20分前だとはね。そこは合格だ」
……誰だ?
「こんにちは、楠瀬さん」
「ああ、ええと……この人は?」
「いいから、座りなよ」
「はぁ」
俺は疑問に思いながらも席に着く。
「楠瀬累、通称ルイ。今は一時的にトクトク制度を使って姉妹校である湘南海陵高校に通っている」
「……?」
どうして知っている?
「洞察力に優れ、物静かな性格ながらも正義感が強く不正や犯罪を許さない傾向にある。そして誤魔化すのが下手」
通っている高校とかは、調査とかで分かるかもだけど、性格とか洞察力どうこうとかは、関係者とかに話を聞きこまないと分からないことだ。でも警察ならすぐに手帳を出すだろうし、探偵だとしたら調査対象に顔は出さないはず……だとしたら……
「もしかして、久世さんのお仲間ですか……?」
「久世……? ああ、あのライターか。違う違う。ああ、いや、職業的には比較的に近いかもしれないが」
似ている……報道関係者……? 俺が考え込んでいると嘉神川さんが答えを出す。
「鈴さんは作家さんなんですよ」
「……初めて会いました、そういう仕事の人」
「それで、どうして作家さんが俺個人のことをそこまで調べてるんですか?」
「人聞きが悪いな。単なる興味だよ」
「別に、興味を持たれるような人生は送っていませんが」
確かに記憶喪失とかはあるけど、それはまだ嘉神川さんにしか話していない。
「ふぅん……」
「……」
まさか、嘉神川さんが……いいやありえない、彼女がそんなことをするはずがない!! でも、俺の失った記憶に関係があるのかな?
「なるほど。楠瀬くんはこういうタイプか。それで、今、彼女とかいるの?」
しばらく俺の目を見ていた鈴さんは、くすりと笑って言った。
『別にこれ以上踏み込むつもりはない』……という意思表示にとれる。
「べ、べべべ、別に! 言わなくても、良くないです……か?」
「調べたとおりだね。……ほら、かなり重要なことだから」
「……」
嘉神川さんはいつになく真剣な眼差しでこちらを見ている。
「いません」
俺が答えると、鈴さんはまた一つ質問してくる。
「ほうほう。それじゃ、好きな子は?」
「……」
ダメだ。誰か、とか言ってしまったら意識してしまう。
「年上と年下、どっちが好みだい?」
「メガネはかけてた方がいい? それとも、ない方が?」
「バイクは好きだよね? 免許は?」
鈴さんに質問責めにされる。
「……」
はぁ……。嫌だ嫌だ。さっさと切り上げるべきか……?
いや、嘉神川さんの知り合いだろうし、あまり失礼な態度でもいられないしな……。
「何やってんだ姉貴、お客さん困らせるなっての」
助け舟が出された。
「姉貴……えっ? あ、なるほど……」
そうか、どことなく誰かに似ていると思っていたら、マスターに似ていたのか。
「ああ、すまない。つい根掘り葉掘り聞こうとしてしまった。職業病だと思って許してくれ」
「久世さんより酷いな……」
「全然違います。あの人とは……」
ほぅ、嘉神川さんが自分から意見を出すなんて珍しい。と、ということは鈴さんは普段は普通なんだろう。
「それよりも、そろそろふたりの関係を知りたいんですが」
「ああ、ノエルちゃんはあたしの妹なんだ」
嘉神川さんと顔を見合わせて確認する。……おそらく、冗談だろう。
「待て、その理屈だとノエルちゃんは俺の妹ってことに……いや、それはそれでアリだな」
「わたしの姉はクロエおねえちゃんだけです」
嘉神川さんは口をすぼめてそう言う。お姉さんはクロエさん……あれ? クロエって……いや、考えるのはやめておこう。
「でも、鈴さんもお姉さんみたいな感じです」
「じゃあ俺は」
マスターは会話に口を挟む。
「信さんは信さんです。それ以上でも、以下でもなく」
「……」
マスターのテンションがみるみる下がっていった。
「あんたは早く世帯でも持って、稲穂家を継ぎなさいよ」
マスターのテンションが、どん底まで下がった、ように見えた。
「やだよ、めんどくさい。姉貴の方が稼ぎもいいんだし」
「なるほど、一理ある」
「なんだよ、珍しくあっさりと」
「しかし……この店を任せてやってるのは誰だったかな」
「ぐ……、そもそも押し付けてるだけじゃないのか?」
マスターも負けじと反論する。
────と、姉弟喧嘩も終わってマスターが俺に助言をくれる。
「楠瀬くん、一応助言しとく。姉貴には関わるな。それがキミのためだ」
そう言って、マスターは逃げるようにカウンターへ戻っていった。
「あっ! こら信! そうやって都合悪くなるとすぐ逃げるから、あんたはいつまで経っても──」
言いかけた言葉を、俺は遮る。
「さっきから話が全然進まないんですが」
「とりあえず、マスターと作家の鈴さんはご姉弟。マスターは鈴さんに頭が上がらない、鈴さんには関わらない方がいい、ということまでは分かりました」
「よくまとめたね。最後のは余計だが」
「そして、嘉神川さんとも前から知り合いと」
「はい。子供の頃、おねえちゃんに連れられて会ったのが初めてで……YuKuRuが出来てから、たまにここで一緒に」
「そういうことだ」
「あっとすまない、自己紹介が遅れたね。あたしは稲穂鈴。一応、この店のオーナーってことになってる」
「名前で呼んでくれていい。みんなそうしてる」
つまり、代理店長ってことになるのか。
「分かりました。それで俺は、鈴さんのお眼鏡にかなったんでしょうか」
俺の言葉に鈴さんは少し驚いたような顔を見せつつ、ちらりと嘉神川さんの方を見る。俺が嘉神川さんの相手として相応しいか、見極めたかった。そんな思惑だろうな。
「ふ~ん、そうだね……キミならいいだろう」
「……」
「これは失敬。言ったのだろう? ノエルちゃんは本当に妹みたいに思っているからね。傷ついて欲しくないのさ」
「それはいくらなんでも過干渉すぎでは?」
「……かもね」
恐らく、鈴さんも分かっているのだろう。しかし俺も否定はできない。嘉神川さんは護ってやりたくなるというか、言葉にはできない、そんな魅力を持っている……気がする。
そんなことを考えていると、鈴さんが身を乗り出すようにして聞いてきた。
「それで、24日の準備はもうしてる?」
「にじゅう……よっか……?」
「え、もしかして」
鈴さんがしまった、といった顔で嘉神川さんの方を見る。
「……」
嘉神川さんは表情を変えず、平静を保ったままだ。
11月24日に何かがある……これは……
「嘉神川さん、誕生日、なのか?」
「!? わたし言ってない……ですよね?」
「別に、当たり前だろ。準備がある……そして、鈴さんは嘉神川さんの方を見た。それに……」
「……?」
「嘉神川さんの顔を見れば、分かるよ。大体」
「……っ!」
嘉神川さんが驚いた。
「というわけで、24日はノエルちゃんの誕生日だ。まさか、忘れているどころか知らないとは思わなかったよ……」
「あまり人の誕生日とか、関わったことがないので……」
「しかし、君はもう知ってしまった。24日がノエルちゃんの誕生日だということを。もう関わっているんだよ?」
有無を言わさぬ態度で、鈴さんが圧をかけてくる。
「あの、別にわたしは無理に祝ってもらおうなんて……もう、子供じゃないですし」
「おやぁ? 一年前にここでパーティーを開いて満更でもない表情で喜んでたのは、誰かな?」
「……」
「あんな表情のノエルちゃんを見たのは久々だったねぇ、あのときはクロエお姉さんも来てたっけ」
鈴さんは口が達者だ。これを聞かされて断るやつはいないだろう。ま、俺はサラサラ断る気なんてなかったんだけど。
「つまり、その誕生日パーティーをパーティーをまた開こうと。そして俺はその幹事役、と言っているわけですよね?」
俺が確認すると、鈴さんが答える。
「そういうこと。オーナー権限で、ここを会場として提供するよ」
「料理や飲み物の分だけ、少し会費を貰うことになると思うけど……その辺は信に聞いて」
「このパーティーを見事成功させたら、キミがの隣にいることを、このあたしが認めようじゃないか」
……上から目線。が、嘉神川さんの様子を見る限り……
「……」
少し頬を赤く染めていた。
「……分かりました。招待するメンバーとか、俺が決めちゃっていいですか?」
「そうだね。その辺は任せるよ」
よし、飾りのレイアウトとかも、俺が決めれるってことだよな?
最高じゃないか!!
「それじゃ、あたしはそろそろ仕事に戻るよ。当日は〆切のない綺麗な身体で楽しみたいからね」
「はい、頑張ってください」
「あ……わたしも、そろそろ。今日はパパが早く帰ってくるから」
「じゃ、じゃあ俺も帰るよ。送ってくよ」
そう言って、俺と嘉神川さんはYuKuRuを出た。