Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
「……うーん」
どうしたのだろうか?
モノレールが動き始めると、寿奈桜ちゃんが何か悩んでいるような素振りを見せた。
「……?」
「な、なに? ジロジロみんなし!」
「いや……もしかすると、誕生日会のことでも考えてるのかなって」
「……う、うん、そんな感じ。って、なんで分かるし!」
この態度からして、本当のようだ。
それから、飾り付け用にいくつか雑貨を買って……。
最後にケーキを予約した俺たちは、荷物を置きにYuKuRuへ寄った。
「じゃあ、準備は順調ってことかな」
「バッチリだし! ケーキだけ明日取りに行くよ。ね? ルイルイ?」
「そんなわけなので、少し早めに来て飾り付けてもいいですか?」
「もちろん。明日はランチ以外は臨時休業だ」
どこからともなく湧いて出た鈴さんが言う。
「センセー!」
「やあ、ナオちゃん久しぶりだね。相変わらず元気そうでなによりだ」
「おいおい姉貴、そんな勝手に休みを決められちゃ……」
「その分の補填は私がしよう」
「はぁ……金払えばいいってもんじゃ」
「なんだ? 友達の可愛い妹の誕生日を祝おうっていうのに、何か問題でも?」
狡い……
「……ございません」
降参したマスターを後目に、鈴さんは俺たちに合図を出す。
「というわけだ。お姫様の到着前までに、ゆっくり準備するといい」
「ありがとうございます、センセー!」
寿奈桜ちゃんは目をキラキラ輝かせている。
「とりあえず、明日はお京さんと日紫喜さんもシフトに入ってもらってる。人手が足りないってことはないだろう」
「あと、こっちでも声掛けといたよ。俺とノエルちゃんの共通の知人ってやつだな」
「誰が来るんだい?」
俺も気になる。
「今のところ唯笑ちゃんが来ていることになってる。それと、ちょっとしたシークレットゲストもありだな」
知ってる人かな? ま、嘉神川さんが喜んでくれたなのなら、それでいいけど。
「そうだ! ルイルイもうたんぷれ用意した?」
「たんぷれ? ……ああ、プレゼントか、まだ決めれてない。今日買えたらって思ってたんだけど……」
「ウチ、ルイルイにはぜったい負けないかんね! こう見えて、嘉神川との付き合いは長いんだから!」
「ちょっと待った。その理論だと、俺の方がすごいプレゼントを用意しないといけなくなる。あの子が小学生の頃から知ってるんだから」
「ああ、それならあたしもだ」
……そんな真剣に考察しなくても……
「なっ!? 敵はセンセーとマスターだったし!?」
{明日、楽しみにしています}
{うん}
こっちへ来て、まだひと月も経っていない。けれど俺を取り巻く環境は、とても賑やかなものになっている。……とても、幸せだ。
俺は、学校から急いでYuKuRuへと向かう。
嘉神川さんの誕生日会は、6時からになった。
丁度いい。学校が終わってすぐに来たからか、今は4時だ。
鈴さんが言っていた通り、今日のYuKuRuは『貸切のため臨時休業』という事になっている。
「お、早いね」
店に入ると、マスターが出迎えてくれる。
「ちょっと待っててねー。もう少しでランチの片付けと明日の仕込み終わらせちゃうから」
「お京さんと店長は飾り付けを手伝ってあげてください。それは私が」
いつもは片方のときが多い汐鐘さんと日紫喜さんも、今日は一緒にシフトに入ってくれたようだ。
「わかったけど、日紫喜さん。俺のことはテンチョーじゃなくてマスターと呼んでくれと────」
「では、次回からそうします。店長」
「……絶対忘れたフリするよね、キミ」
そんな漫才を見て、俺はクスリと笑ってしまう。
「ちなみに楠瀬くん、キミは俺の事をマスターでも店長でもなく、信と呼んでくれていいぞ」
「え……なんですか、突然」
普通、こういうセリフって、彼女から言われるものじゃないのか?
「は、はぁ……。ちょっと意味が、分からないんですけど……」
「あははっ。この人ね、若い友達が出来て嬉しいのよ。だから、名前で呼んで欲しいんだって」
「なっ、そういう説明入れると俺が友達少ないおじさんみたいだろ」
「事実じゃない」
事実なのか……
「そ、そんなことは……ない。多分。とにかく今日から俺の方もキミをルイと呼ぶ。いいな?」
少し、強引のような気もするけど、不思議と嫌な気持ちはしない。
「横暴な先輩……って感じですね、信。いえ、信さん。これで勘弁してくれ。ください」
「んー、ま、そうだな……いきなり呼び捨てはハードル高いよな。我慢しよう」
「……別に、我慢するぐらいなら」
「いや、この人の呼び方って言うのは結構大事でさ。距離感がだいぶ変わってくる」
「例えば……ルイは今、ノエルちゃんのことも名字で読んでるだろ?」
「ま、まぁ、そうですけど……」
まさか、嘉神川さんも名前で呼べとかいうんじゃなかろうか? 信さんは。
「思い切って名前で呼んでみたらどうだ? そうすれば一気にふたりの距離は縮まって……」
……言った。
「へぇ……確かにそうかも。じゃあ、あたしも稲穂さんじゃなくて、今日から信さん……って呼ぶわね」
「え」
その場を包んだのは、一瞬の静寂だった。
「何か問題でも? 信さん?」
汐鐘さんはニコニコと、張り付いたような笑みを浮かべながら、信さんに迫っていく。
「……ない。です」
さすがの信さんもこれには応えたようだ。
「それじゃあ、その方向で。あたしも楠瀬くんのことは、ルイって呼んでいいかな? あたしのこともお京さんでいいから」
「はぁ……しょうが……いや、分かりました」
狡いな……汐鐘さん……じゃなくてお京さん……というか、俺も嘉神川さんのことを名前で呼んでみるとなると……。
ノエルさん……いやノエルちゃん……? ノエル……? ノエルん……はないな。
まぁ、そのうち考えておこう。急に呼び方変えられたところで、嘉神川さんも驚くだけだろうから。
そうこうしているうちに、開始時間が刻一刻と迫ってきていた。
準備はだいたい終わっている……か。
「Bonsoir.こんばんは」
(!?)
お客さんの中で一番早く来たのは、主役である嘉神川さん本人だった。
「あ、ノエ……嘉神川さん」
危ない危ない。危うく言いかけるところだった。
「今日はすみません、わたしのために……ありがとうございます」
「……この絵、描いてくれたの、楠瀬さん……ですか?」
「あ、ああ、そう……だよ」
今の俺は、気付いてくれた嬉しさよりも不安の方が勝っていた。
「あの……不満……かな?」
「Je suis heureux。嬉しい、です」
「ほ、本当?! あ、ありが、とう」
俺はその言葉に口が上手く回らない。
「と、というか、早いね」
「なんというか……待ちきれなくて来ちゃいました」
「そ、そう……なんだ。嘉神川さんでも、そういうとこ、あるんだね」
「……だって、しょうがないじゃないですか」
「あははっ。でもまだ他のお客さん来てないから、少し待ってて」
「飲み物は好きな物を頼んでいいぞ」
初めて日紫喜さんの優しい部分を見た気がする。
「あ……お京さんに日紫喜先輩まで、ありがとうございます」
「私たちはキッチン担当だ。何か欲しいものがあったら言ってくれ」
「そういえば、リーチも早めに来てくれるって言ってたな」
「……」
なんだろう? 何故か日紫喜さんに睨まれたような気がする。しかもリーチも名前を出した途端だ。
「今日は懐かしい顔が色々集まってくれて楽しくなりそうだ」
しかし、鈴さんの姿は見当たらない。〆切までには間に合わせる、とか言っていた気がするんだけど。
「ちなみに姉貴は〆切一個忘れてたとかで、今二階のカンヅメ部屋で、般若みたいな顔して歩き回ってるから近づかない方がいい。ま、少ししたら降りてくるだろ」
マジですか……と、店内を見渡していて気が付いたことがあった。
「そういえば、寿奈桜ちゃんがまだですね」
「ケーキ、あの子が予約してくれてたんだろ?」
「そうなんですよね……」
スマホも見てみるが、特に何の連絡も来ていない。電話もかけて見るが、電源が入っていない、と文章が出るだけだ。
……何か、嫌な予感がする……。
すると、ガチャり、と店のドアが開かれる音がする。寿奈桜ちゃんか!? ……と思ったが、違った。
「こんばんわー。あ、稲穂さんお久しぶりです」
「お、イケメンリーチくんじゃないか。元気だったかい?」
「まぁ……それなりですかね。急に辞めちゃってすみませんでした」
「いやいや、最初から短い期間でとは言ってただろ。問題ないよ」
どうやらリーチは過去、ここで働いていたようだ。
「やっほー、こんばんはー」
すると、またお客さんがやってくる。
「あれ、ええと……今坂さん?」
「君は楠瀬くんだよね、良かった覚えていてくれて」
今坂さんは、にっこりと笑った。
「恩人ですから、忘れませんよ」
「お久しぶりです……あの、そちらの方は」
と、嘉神川さんも挨拶をする。
「……」
綺麗な髪色……この人もハーフだろうか?
「おっ、双海さん! 良かった、都合ついたんだ」
「はい、お久しぶりですね」
どうやら、信さんとは顔見知りのようだ。
「ふたりは初めましてだよね? じゃあ紹介するね。私や信くんの高校の頃のクラスメイトで、双海詩音さん」
「はじめまして。今坂さんから楽しそうな集まりがあると伺って、御一緒させて頂きました」
丁寧な態度だが、接しやすい感じがする。むしろ、初対面なのもあってか、嘉神川さんの方が緊張しているようだ。
「ノエルさん……ですね? 本日は誕生日おめでとうございます」
「あの……あ、はい。ありがとうございます」
「綺麗な髪……お名前からすると、出身はフランスでしょうか?」
「父が日本人で、母がフランスの生まれです」
「ハーフなんですね。私もクォーターで、はじめて日本に来た時は色々と驚きました」
「そうなんですか……あの、よければ……その時のお話とか聞いてもいいですか?」
「はい、もちろんです」
と、ふたりが会話を交わしていく。
「なんかこのふたり、独特の世界作っちゃってるねー」
「楠瀬くん、カノジョ取られないように気をつけなよ?」
「いや……嘉神川さんが楽しそうなら、それでいいですよ」
これは、全て本音であり、本心だ。
「ああ、なるほど。これが最近の草食系って子なんだぁ……」
すると、またふたりのお客さんがやって来る。
「し、……し、志緒兄さん?!」
そう、記憶を失った俺のメンタルケアや、その後の面倒を見てくれた恩人。
「お、累、久しぶりだな。それと今日は、りりすも来てるから」
「よっ、おひさー」
「りりす姉さん!」
「あの……楠瀬さん……?」
「あ、あぁ、ごめん。はしゃぎすぎちゃった」
嘉神川さんに指摘されて、やっと気が付いた。俺は少し、いやかなり騒がしくしてしまったことに。
「というか、兄さん、信さんに知り合いだったの?」
「あぁ、学生の時、世話になってな。それとりりすは鈴さんの原稿とったりしてて、結構なファンなんだよ」
りりす姉さんも鈴さんのファンだったんだ……。
「「それと、ノエルちゃん、誕生日おめでとう」」
兄さんと姉さんは嘉神川さんの方を見てそう言った。
「まさか、志緒にも彼女が出来るとはねー」
姉さんは茶化すように言ってくる。
「ち、違うよ姉さん!! ……まだ、だよ」
「そ、そうだ! 兄さんたち、もう結婚したの?」
俺がそう言うと、まだ、というような態度だけで、言葉は発さなくなってしまった。
「……嘉神川さん?」
俺がふと嘉神川さんに目をやると、何かを悩んでるような素振りをしていた。
メモオフ6のヒロインは全員好きです(隙自語)