Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE   作:キラトマト

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第十六話 突然の来訪者 ~累の恩人~

「……うーん」

 

 どうしたのだろうか? 

 

 モノレールが動き始めると、寿奈桜ちゃんが何か悩んでいるような素振りを見せた。

 

「……?」

 

「な、なに? ジロジロみんなし!」

 

「いや……もしかすると、誕生日会のことでも考えてるのかなって」

 

「……う、うん、そんな感じ。って、なんで分かるし!」

 

 この態度からして、本当のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、飾り付け用にいくつか雑貨を買って……。

 

 最後にケーキを予約した俺たちは、荷物を置きにYuKuRuへ寄った。

 

「じゃあ、準備は順調ってことかな」

 

「バッチリだし! ケーキだけ明日取りに行くよ。ね? ルイルイ?」

 

「そんなわけなので、少し早めに来て飾り付けてもいいですか?」

 

「もちろん。明日はランチ以外は臨時休業だ」

 

 どこからともなく湧いて出た鈴さんが言う。

 

「センセー!」

 

「やあ、ナオちゃん久しぶりだね。相変わらず元気そうでなによりだ」

 

「おいおい姉貴、そんな勝手に休みを決められちゃ……」

 

「その分の補填は私がしよう」

 

「はぁ……金払えばいいってもんじゃ」

 

「なんだ? 友達の可愛い妹の誕生日を祝おうっていうのに、何か問題でも?」

 

 狡い……

 

「……ございません」

 

 降参したマスターを後目に、鈴さんは俺たちに合図を出す。

 

「というわけだ。お姫様の到着前までに、ゆっくり準備するといい」

 

「ありがとうございます、センセー!」

 

 寿奈桜ちゃんは目をキラキラ輝かせている。

 

「とりあえず、明日はお京さんと日紫喜さんもシフトに入ってもらってる。人手が足りないってことはないだろう」

 

「あと、こっちでも声掛けといたよ。俺とノエルちゃんの共通の知人ってやつだな」

 

「誰が来るんだい?」

 

 俺も気になる。

 

「今のところ唯笑ちゃんが来ていることになってる。それと、ちょっとしたシークレットゲストもありだな」

 

 知ってる人かな? ま、嘉神川さんが喜んでくれたなのなら、それでいいけど。

 

「そうだ! ルイルイもうたんぷれ用意した?」

 

「たんぷれ? ……ああ、プレゼントか、まだ決めれてない。今日買えたらって思ってたんだけど……」

 

「ウチ、ルイルイにはぜったい負けないかんね! こう見えて、嘉神川との付き合いは長いんだから!」

 

「ちょっと待った。その理論だと、俺の方がすごいプレゼントを用意しないといけなくなる。あの子が小学生の頃から知ってるんだから」

 

「ああ、それならあたしもだ」

 

 ……そんな真剣に考察しなくても……

 

「なっ!? 敵はセンセーとマスターだったし!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 {明日、楽しみにしています}

 

 {うん}

 

 こっちへ来て、まだひと月も経っていない。けれど俺を取り巻く環境は、とても賑やかなものになっている。……とても、幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、学校から急いでYuKuRuへと向かう。

 

 嘉神川さんの誕生日会は、6時からになった。

 

 丁度いい。学校が終わってすぐに来たからか、今は4時だ。

 

 鈴さんが言っていた通り、今日のYuKuRuは『貸切のため臨時休業』という事になっている。

 

「お、早いね」

 

 店に入ると、マスターが出迎えてくれる。

 

「ちょっと待っててねー。もう少しでランチの片付けと明日の仕込み終わらせちゃうから」

 

「お京さんと店長は飾り付けを手伝ってあげてください。それは私が」

 

 いつもは片方のときが多い汐鐘さんと日紫喜さんも、今日は一緒にシフトに入ってくれたようだ。

 

「わかったけど、日紫喜さん。俺のことはテンチョーじゃなくてマスターと呼んでくれと────」

 

「では、次回からそうします。店長」

 

「……絶対忘れたフリするよね、キミ」

 

 そんな漫才を見て、俺はクスリと笑ってしまう。

 

「ちなみに楠瀬くん、キミは俺の事をマスターでも店長でもなく、信と呼んでくれていいぞ」

 

「え……なんですか、突然」

 

 普通、こういうセリフって、彼女から言われるものじゃないのか? 

 

「は、はぁ……。ちょっと意味が、分からないんですけど……」

 

「あははっ。この人ね、若い友達が出来て嬉しいのよ。だから、名前で呼んで欲しいんだって」

 

「なっ、そういう説明入れると俺が友達少ないおじさんみたいだろ」

 

「事実じゃない」

 

 事実なのか……

 

「そ、そんなことは……ない。多分。とにかく今日から俺の方もキミをルイと呼ぶ。いいな?」

 

 少し、強引のような気もするけど、不思議と嫌な気持ちはしない。

 

「横暴な先輩……って感じですね、信。いえ、信さん。これで勘弁してくれ。ください」

 

「んー、ま、そうだな……いきなり呼び捨てはハードル高いよな。我慢しよう」

 

「……別に、我慢するぐらいなら」

 

「いや、この人の呼び方って言うのは結構大事でさ。距離感がだいぶ変わってくる」

 

「例えば……ルイは今、ノエルちゃんのことも名字で読んでるだろ?」

 

「ま、まぁ、そうですけど……」

 

 まさか、嘉神川さんも名前で呼べとかいうんじゃなかろうか? 信さんは。

 

「思い切って名前で呼んでみたらどうだ? そうすれば一気にふたりの距離は縮まって……」

 

 ……言った。

 

「へぇ……確かにそうかも。じゃあ、あたしも稲穂さんじゃなくて、今日から信さん……って呼ぶわね」

 

「え」

 

 その場を包んだのは、一瞬の静寂だった。

 

「何か問題でも? 信さん?」

 

 汐鐘さんはニコニコと、張り付いたような笑みを浮かべながら、信さんに迫っていく。

 

「……ない。です」

 

 さすがの信さんもこれには応えたようだ。

 

「それじゃあ、その方向で。あたしも楠瀬くんのことは、ルイって呼んでいいかな? あたしのこともお京さんでいいから」

 

「はぁ……しょうが……いや、分かりました」

 

 狡いな……汐鐘さん……じゃなくてお京さん……というか、俺も嘉神川さんのことを名前で呼んでみるとなると……。

 

 ノエルさん……いやノエルちゃん……? ノエル……? ノエルん……はないな。

 

 まぁ、そのうち考えておこう。急に呼び方変えられたところで、嘉神川さんも驚くだけだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、開始時間が刻一刻と迫ってきていた。

 

 準備はだいたい終わっている……か。

 

「Bonsoir.こんばんは」

 

(!?)

 

 お客さんの中で一番早く来たのは、主役である嘉神川さん本人だった。

 

「あ、ノエ……嘉神川さん」

 

 危ない危ない。危うく言いかけるところだった。

 

「今日はすみません、わたしのために……ありがとうございます」

 

「……この絵、描いてくれたの、楠瀬さん……ですか?」

 

「あ、ああ、そう……だよ」

 

 今の俺は、気付いてくれた嬉しさよりも不安の方が勝っていた。

 

「あの……不満……かな?」

 

「Je suis heureux。嬉しい、です」

 

「ほ、本当?! あ、ありが、とう」

 

 俺はその言葉に口が上手く回らない。

 

「と、というか、早いね」

 

「なんというか……待ちきれなくて来ちゃいました」

 

「そ、そう……なんだ。嘉神川さんでも、そういうとこ、あるんだね」

 

「……だって、しょうがないじゃないですか」

 

「あははっ。でもまだ他のお客さん来てないから、少し待ってて」

 

「飲み物は好きな物を頼んでいいぞ」

 

 初めて日紫喜さんの優しい部分を見た気がする。

 

「あ……お京さんに日紫喜先輩まで、ありがとうございます」

 

「私たちはキッチン担当だ。何か欲しいものがあったら言ってくれ」

 

「そういえば、リーチも早めに来てくれるって言ってたな」

 

「……」

 

 なんだろう? 何故か日紫喜さんに睨まれたような気がする。しかもリーチも名前を出した途端だ。

 

「今日は懐かしい顔が色々集まってくれて楽しくなりそうだ」

 

 しかし、鈴さんの姿は見当たらない。〆切までには間に合わせる、とか言っていた気がするんだけど。

 

「ちなみに姉貴は〆切一個忘れてたとかで、今二階のカンヅメ部屋で、般若みたいな顔して歩き回ってるから近づかない方がいい。ま、少ししたら降りてくるだろ」

 

 マジですか……と、店内を見渡していて気が付いたことがあった。

 

「そういえば、寿奈桜ちゃんがまだですね」

 

「ケーキ、あの子が予約してくれてたんだろ?」

 

「そうなんですよね……」

 

 スマホも見てみるが、特に何の連絡も来ていない。電話もかけて見るが、電源が入っていない、と文章が出るだけだ。

 

 ……何か、嫌な予感がする……。

 

 すると、ガチャり、と店のドアが開かれる音がする。寿奈桜ちゃんか!? ……と思ったが、違った。

 

「こんばんわー。あ、稲穂さんお久しぶりです」

 

「お、イケメンリーチくんじゃないか。元気だったかい?」

 

「まぁ……それなりですかね。急に辞めちゃってすみませんでした」

 

「いやいや、最初から短い期間でとは言ってただろ。問題ないよ」

 

 どうやらリーチは過去、ここで働いていたようだ。

 

「やっほー、こんばんはー」

 

 すると、またお客さんがやってくる。

 

「あれ、ええと……今坂さん?」

 

「君は楠瀬くんだよね、良かった覚えていてくれて」

 

 今坂さんは、にっこりと笑った。

 

「恩人ですから、忘れませんよ」

 

「お久しぶりです……あの、そちらの方は」

 

 と、嘉神川さんも挨拶をする。

 

「……」

 

 綺麗な髪色……この人もハーフだろうか? 

 

「おっ、双海さん! 良かった、都合ついたんだ」

 

「はい、お久しぶりですね」

 

 どうやら、信さんとは顔見知りのようだ。

 

「ふたりは初めましてだよね? じゃあ紹介するね。私や信くんの高校の頃のクラスメイトで、双海詩音さん」

 

「はじめまして。今坂さんから楽しそうな集まりがあると伺って、御一緒させて頂きました」

 

 丁寧な態度だが、接しやすい感じがする。むしろ、初対面なのもあってか、嘉神川さんの方が緊張しているようだ。

 

「ノエルさん……ですね? 本日は誕生日おめでとうございます」

 

「あの……あ、はい。ありがとうございます」

 

「綺麗な髪……お名前からすると、出身はフランスでしょうか?」

 

「父が日本人で、母がフランスの生まれです」

 

「ハーフなんですね。私もクォーターで、はじめて日本に来た時は色々と驚きました」

 

「そうなんですか……あの、よければ……その時のお話とか聞いてもいいですか?」

 

「はい、もちろんです」

 

 と、ふたりが会話を交わしていく。

 

「なんかこのふたり、独特の世界作っちゃってるねー」

 

「楠瀬くん、カノジョ取られないように気をつけなよ?」

 

「いや……嘉神川さんが楽しそうなら、それでいいですよ」

 

 これは、全て本音であり、本心だ。

 

「ああ、なるほど。これが最近の草食系って子なんだぁ……」

 

 すると、またふたりのお客さんがやって来る。

 

「し、……し、志緒兄さん?!」

 

 そう、記憶を失った俺のメンタルケアや、その後の面倒を見てくれた恩人。

 

「お、累、久しぶりだな。それと今日は、りりすも来てるから」

 

「よっ、おひさー」

 

「りりす姉さん!」

 

「あの……楠瀬さん……?」

 

「あ、あぁ、ごめん。はしゃぎすぎちゃった」

 

 嘉神川さんに指摘されて、やっと気が付いた。俺は少し、いやかなり騒がしくしてしまったことに。

 

「というか、兄さん、信さんに知り合いだったの?」

 

「あぁ、学生の時、世話になってな。それとりりすは鈴さんの原稿とったりしてて、結構なファンなんだよ」

 

 りりす姉さんも鈴さんのファンだったんだ……。

 

「「それと、ノエルちゃん、誕生日おめでとう」」

 

 兄さんと姉さんは嘉神川さんの方を見てそう言った。

 

「まさか、志緒にも彼女が出来るとはねー」

 

 姉さんは茶化すように言ってくる。

 

「ち、違うよ姉さん!! ……まだ、だよ」

 

「そ、そうだ! 兄さんたち、もう結婚したの?」

 

 俺がそう言うと、まだ、というような態度だけで、言葉は発さなくなってしまった。

 

「……嘉神川さん?」

 

 俺がふと嘉神川さんに目をやると、何かを悩んでるような素振りをしていた。




メモオフ6のヒロインは全員好きです(隙自語)
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