Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
「ごめん! 遅くなったし!」
「ナオちゃん……」
「ホントごめん、ウチ、ケーキの注文忘れてて、それで遅くなっちゃって」
「ううん……大丈夫」
嘉神川さんのことだ。俺たちがいなかった理由、寿奈桜ちゃんがいなかった理由、おそらく察しているだろう。だが、それを表には出さない。彼女はそういう子だ。最近は、そういうことも分かるようになってきた。
「来てくれてありがとう、ナオちゃん」
「あ、あったり前だし! 嘉神川祝うのに、ウチがいなくちゃはじまらないっしょ!」
「よーし、それじゃケーキとおまけの寿奈桜ちゃんも来たことだし、改めて乾杯といくか!」
信さんがみんなに合図を出す。
「おまけ扱いすんなし!」
「未成年組はジュースで、ね」
お京さんが場を仕切り直す。
「……っぷはー、やっぱ原稿上げたあとの一杯はサイコーだな!」
「って、姉貴もう飲んでんのかよ!?」
「流石センセー、オトナのオンナは違う!」
寿奈桜ちゃんが尊敬の眼差しを向ける。
「では……みなさんを代表して私、久世奏波が乾杯の音頭をとらせて頂きます」
「うんうん……ってぇ! なんで久世さんがここにいるんですか!?」
「たまたま通りかかったら、ノエルちゃんが貸切の店に入っていくじゃない? これは何かあると思って」
「はぁ……相変わらず滅茶苦茶な人だ……」
「うふふ……とても賑やかな集まりですね」
「でしょー? トモちゃんとかも来れば良かったのにー」
「というわけで、嘉神川ノエルさんの16歳の誕生日を祝って、か────」
「かんぱーい!」
久世さんのコールを遮って寿奈桜ちゃんが満面の笑みを浮かべる。
その乾杯のかけ声で、楽しい楽しい最っ高の夜が始まった。
「ぐぬ……いいとこだけ取られた」
「だって、そこは親友のウチの仕事だし? ところでモデル足りてないって話、まだあります?」
「ウチも色々考えたんですけど、その、やってみてもいいかなって────」
「え? あ、いえ、あなたは別に……」
……ドンマイ。何となくそんな気はしてたけど……
「楠瀬さん……あの……ありがとうございました」
嘉神川さんが、"俺"個人に感謝を述べてくれる。
「あ、あぁ、準備なら、みんなも手伝ってくれたからね」
俺は照れ隠しで、みんなもやってくれた、ということを言う。
「いえ、多分、それだけじゃなくて……」
「ほらほら、今日は嘉神川さんが主役なんだからさ、そんな難しい顔しないで」
「わたし、いつもと変わらないつもりですけど……」
「そ、そう、かな?」
「……嘘です」
「とっても、嬉しい日ですから」
と、言葉を続ける嘉神川さん。
その笑顔が、俺には何よりも眩しいものに見えた。
「さーて、ここでスペシャルゲストだ」
信さんが言っていたアレか……誰だろう?
「誰だろう? 嘉神川さん聞いてる?」
「いえ、なにも……」
どうやら、嘉神川さんも知らないようだ。
「残念ながらその人は、今はちょっと遠くにいるので来られません。代わりに、電話が繋がっています。スピーカーにしたから、みんな静かにー」
『こんにちは、じゃなくて……こんばんは』
「……!」
嘉神川さんは何かに気付いたように声を上げる。
『お誕生日おめでとう、ノエル』
「おねえちゃん……?」
嘉神川さんが声を上げる。
「え、嘉神川さんの?」
『嘉神川クロエです。みなさん、こんばんは。妹がお世話になってます』
『どう? 私の妹、可愛いでしょ? まだ小学生だった頃、うろちょろ私の後ろついてきた動画とか、みなさんにも見せてあげたい────』
「会長……」
志緒兄さんは頭を抱える。
「……? 兄さん?」
「ちょ、ちょっとおねえちゃん! そういうのは!」
「どうしたの? ノエルがはじめて書いたパパの似顔絵の話とか、みんなに教えてあげようと思ったんだけど。あれも可愛かったわよね~」
「やーめーてー!!」
嘉神川さんは顔を真っ赤にして止めようとする。
……正直もっと続けていて欲しかった。だが、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
そして時は過ぎる。明日まで。
「昨日はすごかったし! あんだけ人集まるのも嘉神川のジンボーって奴?」
寿奈桜ちゃんは、まだ昨日の嘉神川さんの誕生日会の興奮が冷めやらぬようだ。朝から、いつも以上にテンションが高い。
「確かに……まあ、久世さんまで来るとは思ってなかったけどね」
「双海さんとは、嘉神川さん随分仲良くなってたみたいだね」
「はい……少し、境遇とか似ているところもあって」
どうやら、双海さんも幼い頃から海外に住み慣れていたせいで、来日当初は、日本での暮らしにだいぶ苦労したらしい。
「そうだ、ルイルイ、兄さんとか言ってたけど、どういうカンケーなの? まさか……」
勘違いしてるな……絶対。
「違ぇよ。俺の育ての親、みたいな感じだ」
あまり詳細な情報は教えられないので、寿奈桜ちゃんには簡単に説明する。
「あっ、そうだ! ルイルイ、誕プレ何あげたの?」
「あ……」
やってしまった。
「……」
嘉神川さんは驚いたような表情を浮かべている。
「え……まさか……」
「ごめん……ごめんなさい……」
俺は素直に自分の非を認めて頭を下げる。
最悪だ……。折角嘉神川さんが期待してくれていたはずなのに、俺は……。俺は恐る恐る嘉神川さんにお伺いを立ててみる。
「あの、嘉神川さん。もし良かったら……良かったらでいいんだけど……今日の放課後、空いてるかな?」
「嘉神川さんの好みとか、あまりよく分からなくて……その、一緒に探す、とか出来ないかな?」
一瞬の静寂の後に、嘉神川さんはニッコリと微笑んで答えてくれた。
「……はい」
マジか!? 怒って、ないのか? 嘉神川さん……!
「あーっ! 何それ! 漫画にあった『デートに誘うテクニック』じゃん!」
「いやそんなテクニック知らないんだけど」
「大体、な~に嘉神川も嬉しそうな顔してんの!? 忘れられてて上手く誤魔化されてるってことだし!」
「いや、そんなつもりは……」
本当だ。まず、デートに誘うのにそんな回りくどい、しかも相手を傷つけるような真似、絶対にしたくない。
「ナオちゃん、そんなわけないでしょ? それに……わたしは昨日来てくれただけで、嬉しかったので……」
おお、やっぱり嘉神川さんは分かってくれているんだな。
「あー……もー……。わかったわかった! デートでもなんでも勝手にすればいいし!」
寿奈桜ちゃんは不貞腐れる。
「ただし、門限はちゃんと守ること! 遅くなる時は連絡入れる!」
「なんで寿奈桜ちゃんが親みたいなこと言ってるんだ」
「だって、ウチは嘉神川の保護者だしー」
良かったね嘉神川さん、また一人、鈴さんに続いて親が増えたね。まぁ、そんなことは置いておいて、だ。
ふたりが仲良くしているのは微笑ましい。