Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
「あ! ルイルイ来た! どこいってたんすか!」
俺が戻ってきて、志摩さんは俺に問いかける。
「どこ、って、喉渇くといけないから飲み物あった方がいいと思って」
「お、気が利くっすね! 女子力高いオトコはモテるって雑誌で見たし!」
(別にモテたくてやったわけじゃないんだけど……)
「そんじゃ、冷めないうちに……ジャンケンっす!」
「ん? ああ、数のことなら俺が少なくていいよ」
俺の言葉に志摩さんは怪訝するような目でこちらを見てこう言う。
「へ? 何が? そんなことより、これロシたこだから順番決めないと」
「……は? ろし、たこ?」
「うん、ロシたこ。ロシアンたこ焼き。一個だけタコの代わりに目一杯のわさびが詰まってるっす」
「……」
(何てものを買ってきたんだ志摩さん!)
「……」
嘉神川さんの方を見てみると、彼女も絶対嫌だ、という表情を浮かべていた。
「海陵祭と言えばロシたこだって、売り子のお兄さんも言ってたし! それじゃ、最初ーはぐー。じゃーんけーん……」
俺たちが断る暇もなく、ジャンケンを始めた。しかし、たこ焼きの一つから、微妙に緑のモノが覗いていることに、俺は気付いてしまった。
「ぽんっ!」
俺たちは、同時に手を出す。俺はグーで、嘉神川さんと志摩さんはパー、……つまり、俺の負けだ。
「はぁ……しょうがねえなぁ」
俺は、仕方なく、ワサビ入りのたこ焼きを口に運ぶ。
「……ッ!」
俺の頬に涙が伝う感触を感じる。──予想以上の辛さに、俺は涙を見せないようにその場でうずくまる。
「だ、大丈夫……ですか? 楠瀬さん……?」
嘉神川さんは、俺にハンカチを渡してくれる。それを受け取り、自分の安否を言葉にする。
「あ、あぁ……だ、大丈夫だから……二人とも、少しだけそっち向いててくれないかな?」
俺は、あさっての方向を指さす。そして、二人がこちらから目を離した瞬間、持っていた飲み物を勢いよく飲み干す。それだけでは足りず、追加の飲み物を買いに行こうとした、その時だった。
「君、うちの生徒に何をしている」
嘉神川さんたちの学校の制服を着た見知らぬ人が俺に声をかけてくる。
「え? 何って──」
「む、むらさき先輩!?」
どうやら、彼女達の先輩のようだ。
「ナオちゃん、むらさきじゃなくて、日紫喜先輩だってば」
「──それで、君はなぜうちの生徒を連れ回して──」
日紫喜さんは、何かに気づいたように目を見開き、言葉を途中で中断する。
「……」
「……」
俺たちの間に、沈黙が流れる。だが、それに耐えかねたのか、日紫喜さんはもう一度言葉を続ける。
「それで……、説明してもらおうか。どういうことなのか」
「はぁ……」
しょうがねえなぁ……。
俺が説明しようとした瞬間、嘉神川さんがことの経緯を日紫喜さんに話してくれる。
「……と、いうことです」
「ちょ、その話し方だと、ウチがちょっと悪いみたいだし!」
いや、十中八九志摩さんのせいだろう。
「これは……とんだ失礼を。私の早とちりでした、すみません」
嘉神川から説明を聞いた日紫喜さんは、丁寧に謝ってくれた。
「では、私たちはそろそろ帰るとしよう」
「ちょっ、先輩、ちょっと待って欲しいし」
「……?」
志摩さんの要望に、日紫喜さんは目を点にする。
「まだロシたこの勝負が終わってないし!」
「……」
「……」
それを聞いた俺たちは、全員困惑する。
「実はこのロシたこ、ワサビ入りの当たりは一個じゃないっす」
「……そういうことは先に言ってくれ」
「じゃ、次は私の番だね!」
志摩さんは、たこ焼きを口に運び、食べる。
「────ッ!?」
反応からして、どうやらワサビ入りの当たりを食べたようだ。
「う、う、うわぁぁあああん!」
志摩さんは号泣しながら、日紫喜さんと共に行ってしまう。
嘉神川さんたちと別れ、俺はまた独りになってしまった。
相葉さんに言われたとおり、俺は出店を見て回るが、なんとも気が乗れずにいた。
「はぁ……」
俺は、校門の前へと行きため息を漏らす。そう、帰るかどうか迷っているのだ。
「……やっぱ、帰るか……」
──その夜、俺は寝付けずにいた。
「暇だな……」
俺は外の神社で時間を潰す、寝付けないときは、こうすると決めている。
神社で、ランニングをしている最中、なにか良い香りが漂っていることに気付く。
「だ、誰だっ!?」
誰かから警戒するような声をかけられる。
「……え?」
「あ、怪しいヤツ! ケーサツ呼ぶっすよ!」
「怪しくなんて──って、あれ?」
暗闇に隠れていた声の主の顔が月夜の灯りによって明らかになる。
「へ? あ、あんた……」
「…………柚莉さんの……」
それは、今日文化祭で会った女子たちだった。
「嘉神川さんに、えっと……志摩さん……?」
「なっ、なんでウチらの名前知ってるし! ストーカー!?」
「嘉神川、下がってて」
志摩さんは、嘉神川さんに俺から遠ざけるよう警告する。
「なんで、って、今日文化祭で会ったはずだろ……」
「……たこ焼き」
「は? あ! あー! あーあー!」
「ロシたこで泣いてたヤツだ!」
別に泣いてないんだけど、とは口には出さない。
「で……誰だっけ?」
(冗談キツイよ……。いやマジで)
「楠瀬だよ……」
「……累って読めないからルイ、の人」
(嘉神川さん……!)
「あ! そうだ! ルイルイ!」
「……で、ルイルイはストーカーだったん?」
「違う。むしろなんで君たちがここにいるんだよ」
「なんでって……ねぇ、シュガー」
「ワンッ!」
突然、志摩さんの足元から犬が出てくる。
「ヒッ!」
「あははっははっ! びっくりしてやんの! けらけらくすくすー」
志摩さんは、俺の驚いた様子を見て爆笑する。
「……」
「大丈夫ダイジョーブ、噛んだりしないから。ね、シュガー?」
「わふ!」
「シュガーはモフモフで、めっかわだねー」
「うぉふ」
「嘉神川は、モフモフ大好きなんすよ! 飼ってるフェレット、あの子もモフモフだし。名前、なんだっけ?」
「……おもち」
嘉神川が静かに名前を言う。
「それで、たまたま犬の散歩コースだったと」
「へ? いや、コースっていうかさー」
「いや、まぁ、そんな感じ?」
「それじゃ、嘉神川さん、志摩さん、夜道に気をつけて」
「あー、ルイルイそれさ。やめよ? お隣さんなのに志摩さんとか気持ちわりーから。ウチのことはナオって呼んで。ウチも敬語使うのやめるから」
「えっと、志摩──じゃなくて、……寿奈桜、ちゃん」
「ルイルイって結構ガンコだなー。でもまぁ、それでいいよ」
「……」
「……Salut」
まーたね、か。
「シュガー! ゴー!」
「ワオン!」
鳴き声を発して、シュガーは夜道を寿奈桜ちゃんと一緒に駆けていく。
「あっ、……ナオちゃんちょっと待って……」
嘉神川さんを置いて行ってどうする。
────俺は、家に帰り、布団に入って眠りにつく。