Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
{今行く}
嘉神川さんに短くちょこを送り、俺は走る。
◇◇◇
楠瀬さんを見送ったわたしは、楠瀬さんが来るまでの間、ひとりでしらすと触れ合うことにした。
今日は……楽しかった。
だからこそ、こうしてひとりになるといつも以上に寂しさを感じたのかもしれない。
手にしたキーホルダーの、楠瀬さんの名前をそっと指でなぞってみる。
早く……来てくれればいいのに。
「なかなか、全部はうまく、いかないよね」
わたしが話しかけると、しらすが答えるように鳴き声をあげる。
「だって……こんなのはじめて、だから」
しらすはいつだって可愛い。いつだって、わたしの話を最後まで聞いてくれる。けど、そんなしらすが急に走ってどこかへ行ってしまった。一体、どうして? 背後に……嫌な気配を感じた。振り返ると、そこには災厄が立っていた。
「あれー? 嘉神川だ」
「……」
「ま、アンタのその髪を見間違えるわけないとは思ってたけどさー」
相変わらず嫌味ったらしい言い方だ。
「……Disparais」
こんな人達に興味はない。わたしは待っているのに。
「っていうか、ナオも嘉神川も最近チョーシ乗りすぎだよねー」
「乗りすぎ乗りすぎー」
「さっきさー、芦鹿島でオトコといたよねー? 何アレ? 前のあのオトコ? まさかアレホントだったの? 随分たのしそーだったじゃん」
まさか楠瀬さんと一緒の所を見られていた? ……どうして、今日に限って。どうして、こんな人達に。最悪だ。本当に、最悪。今日一日、ここまで楽しく過ごせていたのに。
「っていうかさ、嘉神川も笑えるんだな」
「……ッ」
「てかさー、前のオトコって、根暗っぽくてなんかヤな感じだったよねー」
「ま、それでもさぁ? ナオの妄想カレシよりは100倍マシじゃね?」
「うわーソレ言っちゃった~。ソレ言ったらダメなやつじゃなくね? ナオ、泣いちゃうよ?」
「って、別にいいよねー。あのネタもうつまんないしー」
「大体ナオってばさー、この前だってアタシらとのカラオケ途中でバックれるしさー。あの後どこ行ってたのかなー」
「ま、さ、か、お前と一緒に遊んでたりしないよな?」
「……」
その時、わたしのスマホが静かに振動する。
「なにー? まさか、カレシ?」
三浦さんがわたしのスマホを奪い取る。
「えーっと、『今行く』だってー。なに? 待ってたの?」
「……やめて」
「……はぁ?」
「あなたたちが気に入らないのは、わたしででしょう? 嫌がらせをするなら、わたしだけにして」
そう、楠瀬さんもナオちゃんも関係ない。この人達は、わたしが嫌いなのだ。だから、くだらない嫌がらせをする。
そんなことに、ナオちゃんや楠瀬さんを巻き込みたくない。絶対に。
「へえ~? いい覚悟じゃん」
「アハハ。ちょっとー、りいなってばソレじゃアタシたちが悪者みたいじゃん」
「あっら~? 高校生にしてはハゲシい遊びしてるじゃないの~、アナタたち」
突然、誰かがわたしたちに声をかけてくる。
「は? なに? この人」
「うわー、引くわー。嘉神川って、こんなのとおトモダチだったなんてねー」
「……No sait pas」
「は? まぁいいや、行こ? りいな。また明日すればいいんだし」
「アハハー。それ天才ー」
そう言いながらふたりは帰っていった。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……嘉神川さん! ごめん遅か────え?」
急いでいつもの公園に着いて見た光景、それは……
「誰も……い、ない……?」
俺は念の為にちょこを確認する。
「なし……か」
「はぁ……」
絶対に何かあったに決まっている。悪い方向で。
俺はいつまでも待っている訳にもいかないので、数十分ほど待ってから家に帰った。
{いなかったけど、大丈夫? }
{大丈夫です。それと、今日は楽しかったです}
何かを隠すように嘉神川さんは話題を切り替える。嘘に決まっている。嘉神川さんは約束を破るなんてこと、余程のことがない限りは絶対にしない。
{いただいたプレゼント、大事にしますね}
正直、ソレについて聞きたい気持ちの方が大きかったが、嘉神川さんを傷付ける訳にも行かないので、俺も嘉神川さんに合わせる。
{俺も大事にする}
{はい。相変わらず、文に感情が籠ってないですね}
{でも、それが楠瀬さんらしい}
{褒めてないよね}
{どうでしょう? それでは、Bonne nuit.
おやすみなさい}
{Bonne nuit. おやすみ}
(また明日……か。『明日』か)
明日、会って話そう。
「もう寝るか……」
「ルイルイやっほー!」
家を出ると、寿奈桜ちゃんが大きな声で挨拶をしてくる。
「おはよう、今日は珍しく早いな」
「う、ウチだってちゃんと起きる日もあるし!」
「起きる日もね」
「ルイルイだって、寝坊することあるっしょ!」
「うぅ……」
それを言われると反論できない。何しろ、この前寝坊したのだ。それも、寿奈桜ちゃんとの約束で、だ。
「ほら!!」
そんなことより、せっかく寿奈桜ちゃんが早く出てきたのに、こんなところで漫才をしていたのでは意味が無い。早く学校に向かおう。
「あれ……嘉神川からだ。遅れるから、先に行っててって」
やっぱり、大丈夫なんかじゃないじゃないか。だがあえて、その事は口には出さない。確証のないことを無闇に言えば、大変なことになる。
「そう……なんだ。体調崩した、とかじゃなければいいけど」
嘘だ。体調不良であって欲しい。それで済むならそれでいい。治すだけ済むんだから。でも、昨日何かがあったとすれば人間関係……もっと言うとあの女子二人だろう。
「ちょ?! ウチの時と反応違うし!」
「寿奈桜ちゃんのは日常だろ」
それより、嘉神川さんの所へ行きたい、というのが今の俺の頭の中の大部分を占めているものだった。
「ナニなに? 嘉神川に会えなくて残念?」
寿奈桜ちゃんは……こういう時だけ鋭い。
「ひゅーひゅー!」
「……ひゅーひゅーは止めてくれ」
「きゃ~! いいなー! ウチもデートしたいし!」
「ちゅーした? ちゅ~~」
昨日のことは、どんな風に伝わっているのだろうか。
唇を突き出してくる寿奈桜ちゃん。……うざいんだが。
「……彼氏いるんだろ?」
俺がそう言うと、話を濁らせて寿奈桜ちゃんはこう言う。
「そっ、それはそれ! これはこれだし! 人の恋は別腹なの!」
「はいはい。じゃあ行くぞ」
結局、今日の日中は嘉神川さんと連絡が取れなかった。
一応、{昨日は遅れてごめん}と送ったちょこに既読だけは付いたけど……。
嘉神川さんは、就寝前にちょこを送ってくる傾向にある。だからその前に寝てしまわないよう、外で素振りをすることにした。
そうして、暫く竹刀を振って汗を流していると……。
「どうした?」
足音に振り向くと、寿奈桜ちゃんが立っていた。……嘉神川さんのことだろうか? なにか思い詰めたような顔を浮かべている。
「シュガーの散歩……じゃ、ないか」
「……うん」
「ひょっとして、俺に何か用事?」
「ううん」
寿奈桜ちゃんは首を振った後、さらにその言葉を撤回する。
「……違う、そう……だけど」
「あのね、ルイルイ。ウチ……」
「……なんでもない」
(……しょうがねぇなあ)
俺は心の中でそう呟いて発言する。
「何かあるんだろ?」
「そう……なんだけど」
様子から察するに、本当に深刻……いや、十中八九嘉神川さんのことだろう。
「別に、無理強いはしないけど」
「……うん」
「……」
暫く黙ったままだった寿奈桜ちゃんは、なにか意を決したように口を開いた。
「ねえ……ルイルイ、竹刀貸してよ」
「ん」
俺は竹刀を手渡す。
「ありがと……よし」
寿奈桜ちゃんは受け取った竹刀を構えると、思い切り振り始めた。
「えい! えい! えい!」
慣れないせいか、軸がブレている。だが、今そんなことはさしたる問題ではないようだ。俺も敢えて口を出さず、静かに見守ることにした。
「……はー、結構疲れるね」
「……」
「……ウチ、ダメな子だなぁ」
「少しは気、晴れたか?」
「ぜーんぜん。勇気が、出ると思ったんだけどなぁ……」
勇気……か。懐かしいな、兄さんもそんなこと言ってた気がする。
「……ねえ、ルイルイ」
「ルイルイはちゃんと、嘉神川の味方でいてね」
「当たり前だ」
俺は即答する。
「だよね。ウチは、やっぱダメな子だし」
「……嘉神川さんに、何かあったんだろ?」
しかし、俺の問いに寿奈桜ちゃんは背を向ける。
「そんじゃ、帰る」
……どうやら、今の彼女に答える気はなさそうだ。けれど、このまま放っておくわけにもいかない。
「なあ、俺に何か出来ることはあるか?」
「……だから嘉神川のこと、お願い」
それだけ言い残し、家の方へ行ってしまった。嘉神川さんが一番心配だけど、寿奈桜ちゃんの方も大丈夫だろうか。
あまり思い詰めすぎないといいのだけど……。
────部屋に戻って、嘉神川さんにちょこを送ってみた。
{おやすみ}
他愛もない一言だが、今度は既読すら付かない。
俺は、不安を抱えたまま眠りについた。
俺は、嘉神川さんからのちょこで目が覚めた。
{遅れました}
(返事が来た!)
いや、今は喜んでいる場合ではない。
{本当に大丈夫なのか? }
{大丈夫}
{です}
小分けにして送ってくる。
{何も無かったの? }
{もし良かったら、会いたいんだけど}
{すみません}
{忙しくて}
{では}
嘘だ。明らかにいつもと態度が違う。いや、違うというより……出会ったばかりの彼女に戻ってしまった、と言うべきか。明らかな拒絶と距離を感じる。
────となると、ここで考えていても仕方がない。幸い、今日は土曜日だ。僅かな可能性にかけて、嘉神川さんが立ち寄りそうな場所へ向かった。
次に書く作品のキャラが登場しましたが、これ以降登場する予定は無いです(多分)。まぁ、次回作もメモオフ時空で書くので、それの布石ということで。