Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE   作:キラトマト

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第二十一話 為すべきことは何か

 俺は、少しでも手がかりを集めるために、YuKuRuへと向かった。

 

「いらっしゃい。ああ、ルイか」

 

「はい……えっと」

 

 店内を見渡してみる……。が、嘉神川さんの姿はなかった。

 

「どうした? ノエルちゃんなら今日は来てないぞ。うるさいヤツならいるが……」

 

 信さんの視線の方向を見ると、鈴さんがいた。

 

「ほお……? 京子さんがうるさいと」

 

 仕事が終わったのか、逃避行なのか、面倒なのであえて突っ込むのはやめておこう。

 

「いや、どっからどうみてもうるさいのは姉貴だろ」

 

「ひどい! 実のお姉様にそんなこと言うなんて!」

 

 お京さんも声を上げる。

 

「……訂正しよう。うるさいやつらだ」

 

 ……このコントのようなやりとりに、どこか慣れてきてしまっている気がする。

 

「それで、どうした? ノエルちゃんとケンカでもしたか?」

 

「違いますよ」

 

 それなら良かったのだが……な。

 

「確かに、ふたりのケンカってあまり想像つかないわね。すぐお互いに謝っちゃいそう」

 

 お京さんが納得したような声を出す。

 

「そうだな。うるさいふたりより大人って感じもするし」

 

「信さん、謝るなら今のうちだけど?」

 

「前言撤回、すみやかに謝罪する」

 

 即座に謝罪の体勢をとる信さん。

 

「ま、こういう感じの痴話喧嘩ぐらいなら、スパイスとしてはアリじゃない?」

 

「ですから、ケンカしたわけじゃないですって、ただ……」

 

 1.理由は……断定はしないけど、同級生とトラブルが起きた可能性が高い。

 

 2.会いたいと言ったけれど、避けらているようだ。

 

 3.電話をするのも躊躇わられたので、偶然会えないかこうして探している。

 

 ……。そう簡単に、言えないよな。

 

「何か心配なことがある。でも電話はしにくいし、もしかしたらここで会えるかも、か」

 

(……怖いです。信さん)

 

 俺の脳内から全て読みとったように、俺の考えを簡略化して声に出す。

 

「あらヤダ、素敵」

 

「愛だな……うん」

 

 口々に口を挟む。

 

「……ここに来たのは失敗だったとは思ってます」

 

「あのー、信さーん、まだっすか?」

 

 ふと客席から聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「……兄さんか」

 

「お、累じゃないか。話は聞いてたぞ? 兄さんから一つアドバイスをやろうか?」

 

 だったらなんで話を途切れさせるようなことを言ったのだろう? 

 

 まあいい。少なくとも信さんたちよりはまともなことを言ってくれるだろう。兄さんは俺の応答を聞かずに語り始めた。

 

「後悔しない方を選べ、例え、その道が間違いだったとしても、累自身の意思に従うんだ。だから、他の人に流されるんじゃないぞ」

 

「……分かったよ、兄さん」

 

 俺は親指を立ててOKというジェスチャーで現す。

 

「お、ルイ、覚悟、決まったのか」

 

「はい」

 

「なら俺たちに口を出す権利はない。でしょ? 信さん」

 

 兄さんが信さんに言う。

 

「とりあえず、ノエルちゃんがここに来たら様子見とくよ」

 

 信さんがそう言って俺に安心感を持たせてくれたようだ。

 

「……頼みます」

 

「うむうむ。大いに悩め、少年」

 

 鈴さんがどこかで聞いたことのあるような呼び名で俺を呼ぶ。

 

「はい」

 

 俺はそう言って一杯コーヒーを飲んでから、YuKuRuを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 YuKuRuを出た俺は、しらすの元へ向かった。けれど……嘉神川さんの姿も、更にしらすの姿もなかった。俺はひとり、海を眺めて腰を下ろした。客観的に見ると、俺のやっていることはおかしいと思う。ただ連絡をしたいだけなら、電話をかければいい。もしくは、寿奈桜ちゃん経由で確認すべきだろう。けど、俺は、そんなことはしたくはない。だって……

 

「……俺は、嫌われたくないんだな」

 

 嘉神川さんと俺は似ている。だからこそ、分かる気がする。一人になりたい時と言うのは、誰にでもある。

 

 でも────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、今日は嘉神川さんには会えずに、ちょこの返事もなかった。俺は慎重に言葉を選んで、ちょこを送ってから眠りについた。

 

 {話したい}

 

 {週明け}

 

 {いつもの場所で待ってる}

 

 同じように寿奈桜ちゃんにもちょこを送ってみたが、これも返事がなかった。後は、時間が解決してくれるのを待つしか……

 

 今日と明日の週末で、嘉神川さんもまた連絡が取れるようになるかもしれない。しかし結局、月曜日まで返事が返ってくることは無かった。

 

 次の日、目覚めてすぐ通知を見てみるが、やはり嘉神川さんからの返事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の支度をしていると、寿奈桜ちゃんからの返事が返ってきた。

 

 {先に行くね}

 

 嘉神川さんからは連絡すら取れず、寿奈桜ちゃんからも、この様子だと避けられていると考える方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校では、リーチに助言を貰い、YuKuRuでは兄さんからアドバイスを貰った。しかし、俺は結局この日は何も手につかなかった。このままでは、心配でおかしくなりそうだ。

 

(まずは、寿奈桜ちゃんに直接話を聞きに行ってみるか)

 

 帰り道そんなことを考えていると……寿奈桜ちゃん本人を見かけた。

 

「……」

 

 寿奈桜ちゃんの両眼には、多量の雫が溜まっていた。俺は慌てて彼女の元へ駆け寄る。

 

「寿奈桜ちゃん、話を、聞かせてくれ」

 

「……ルイルイ?」

 

「あぁ」

 

「ウチ、最低だ……」

 

 寿奈桜ちゃんはそう言うと、突然人目をはばからず泣きはじめた。

 

「……ごめ、ごめん。ごめんなさい……」

 

 おそらく、嘉神川さんへの言葉だろう。

 

「とりあえず場所を変えよう。おじさんたちが見たら心配する」

 

「うん……」

 

 俺は涙を拭おうともしない寿奈桜ちゃんを連れて、いつものシュガーの散歩コースのベンチにやって来た。

 

「少しは落ち着いたか」

 

「……」

 

「話、あるんだろ」

 

「……った」

 

 寿奈桜ちゃんが小さな声で言うので、俺は遮らないように沈黙を貫く。

 

「何も、出来なかった……」

 

「ううん、しなかったんだ。ウチ、勇気が無くて……」

 

「嘉神川さんのこと、か」

 

「うん……なんでか知らないけど……また嘉神川へのイジメ……酷くなって」

 

 その言葉を聞いて俺は無意識に拳を強く握り締める。俺は聞きたくはなかったが、寿奈桜ちゃんに話の続きを促す。

 

「なんていうか……ヘンな噂流されたり……」

 

「嘉神川の物を勝手に捨てたり、壊したり……」

 

 内容を羅列していく寿奈桜ちゃん。

 

 他人の物を勝手に捨てたり壊したり? そんなの言語道断だ。クズだ。俺は、記憶が無いから分からないけど……こうやって怒りが湧いてくる、ということは少なくともする方の立場では無かった、ということであろう。

 

「……ルイルイ、本当、ごめん……ウチ……親友なのに……」

 

 ……聞きたくない。これ以上耐えられない。

 

「ウチ、見てたんだ……だけど、止められなかった……」

 

「トイレで嘉神川、捕まっちゃって。持ってるものとられて、トイレに投げ込まれて……お財布とか、ハンカチとか……」

 

「……嘉神川じっと耐えてた。でも……その中に、ルイルイがあげたキーホルダーがあってさ。それだけ、ダメだったんだ……」

 

 俺は気が付くと、目の前の机を殴っていた。

 

「……もういい、もう、話すな。これ以上……!」

 

 俺は話の続きを察してしまった。壊されるか流されるか、もしくはその両方だろう。俺と嘉神川さんの絆の証……。

 

「その後は」

 

「ウチ、謝ろうとしたんだよ。そしたら……大丈夫って、むしろウチのこと心配してくれて……。仕方ないよって……」

 

「仕方、ない……だと?」

 

 嘉神川さんは、何故そこまで溜め込むんだ。どこか、吐き出せる場所……はなさそうだし。

 

「仕方なく、ないよ……仕方なくなんて、ないよ……」

 

「その後でちょこも、繋がらなくなっちゃって……」

 

「俺と一緒、か……」

 

「どうしよう、ルイルイ」

 

 寿奈桜ちゃんからの無責任な質問。

 

 寿奈桜ちゃんは、嘉神川さんがイジメられているのに、手を差し伸べることが出来なかった。それは、彼女自信がそのグループに所属しているから、そこから抜け出す勇気を持てなかったから。

 

 けれど、それが苦しいということは、寿奈桜ちゃんが一番わかっているはずだ。でも、黙って見ているなんて、俺には出来ない。寿奈桜ちゃんだって言っていた。『俺だけは、嘉神川さんの味方でいてあげてくれ』と。だったら、答えは一つ。

 

「──よし」

 

 俺は心のギアを全速力で上げ、勢いよくベンチから立ち上がる。

 

「……ルイルイ?」

 

「嘉神川さんの家に、案内して欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、俺たちが行った嘉神川さんの家は、チャイムを鳴らしても誰も出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、何の成果もえられないまま、それどころか、寿奈桜ちゃんからのちょこが、状況の悪化を暗に示していた。

 

 {あいつら騒いでた}

 

 {嘉神川学校に来てないって}

 

 {休みだって連絡あったって}

 

 {だからウチ、もう一回家に行こうって思ってるんだ}

 

 {家から連絡あったなら、誰かいると思うし}

 

 {俺も行く}

 

 当然の回答。

 

 {OK}

 

 {場所と時間は後で連絡するね}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、俺は再び嘉神川さんの家にやって来た。ただ、体調を崩しているならそれでいい。お見舞いに来たというだけの話。

 

 でも……、俺たちが聞いたのは、予想外の出来事であった。

 

「わざわざ来てくれたのにすまない。ノエルは今、フランスに行ってるんだ」

 

 嘉神川さんのお父さんの言葉で、俺の頭の中が真っ白になる。

 

「なん……で……」

 

 俺の口が勝手に動いていた。

 

「妻の母……ああ、いや、ノエルの祖母が病気にかかってね。仕事で動けない私たちの代わりに行ってくれたんだ」

 

「そう、なんですね……」

 

 嘉神川さんのお父さんの言動から、どこか後ろめたさを感じとってしまう。嘘。娘を守るための、優しい嘘。

 

「……悪かったね。心配してくれてありがとう。どうかこれからも……あの子によくしてやって欲しい。それじゃ──」

 

 そこでインターホンは打ち切られてしまった。

 

 嘉神川さんの考えは分かった。今の環境から、逃げ出したかったのだろう。家族も協力している。だったら、今出来ることは……俺にとっては辛いけど……待つしかない。少しでも早く、彼女が戻ってきてくれることを、祈るだけだ。……そうだ、帰ってきたら盛大にパーティーでも開こう。彼女が戻ってこれる環境を、全力で作る。してやれることは……それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、嘉神川さんの家で話し合って決めた内容を嘉神川さんにちょこで送った。

 

 {嘉神川さんへ。今日も試験勉強をしている。

 

 そちらは大丈夫ですか}

 

 が、それにも返ってくることも、既読が付くこともなかった。




書いてて辛いです。(精神的に)
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