Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE   作:キラトマト

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第二十三話 待望の日

 翌日、嘉神川さんからは再びちょこが届くようになった。当たり前のことだが

 

「こんなに嬉しいことはない……か」

 

 相変わらずスマホの入力は苦手だけど、なるべく早く返すようにした。

 

 {今、空港です}

 

 {これから飛行機です}

 

 このメッセージを見た瞬間、俺の心は弾け飛んだ。

 

  {飛行機か}

 

  {国内しか乗ったことがない}

 

 {そうなんですか? }

 

  {北海道でも遠く感じるのに}

 

  {フランスとか}

 

  {テレビの中の話みたいだ}

 

 {確かに遠いですけど、少し寝たり}

 

 {映画や本を読んでいれば着きますよ}

 

  {そういうものか}

 

 {そんなものです}

 

 {でも、ちょっと}

 

 {早めに来すぎました}

 

 {そうそう}

 

 {きちんとお詫びをしてませんでした}

 

 メッセージの流れが早くて追いつけない。

 

  {?}

 

 {楠瀬さんが心配してたのもわかってます}

 

 {気を使ってくれてたのもわかってます}

 

 {ごめんなさい}

 

  {気にしなくていい}

 

  {帰ってきてくれるだけで、それだけで}

 

 {それと}

 

 {ナオちゃんから何か聞いているかもしれませんが}

 

 {気にしなくて大丈夫です}

 

  {そうか}

 

 {では、飛行機乗ります}

 

  {日本で待ってる}

 

 ……寿奈桜ちゃんから何か聞いている、か。

 

「なんでも、お見通しだなぁ……」

 

 恐らく、いじめに関してだろう。自分で何とかするから、それでいい。周りに負担をかけたくない。でも……

 

「嘉神川さんの負担は、どうなんだよ……」

 

 やはり、放っておくのは出来ないから、俺は寿奈桜ちゃんとのちょこを開き、嘉神川さんの事情を説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイルイ、ちょっと相談が」

 

「嘉神川さんとの、待ち合わせの時間か?」

 

「そうじゃなくて……それもあるけど、ちょっと違う」

 

 部屋にやてきた寿奈桜ちゃんは、誰が見ても泣いていたとわかるぐらいに目が腫れていた。彼女は嘉神川さんのフランス行きの理由を『おばあちゃんの危篤のため』と信じていた。のだが、本当の理由はいじめや、第一には俺との交流が問題だった。……だから俺は、彼女を守るために寿奈桜ちゃんに協力を仰ぐことにした。だからそのために、事情を説明したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょこで、彼女は納得してくれたようだった。……だったら、先程の相談、というのはなんなのだろう? 

 

「あのさ……もうすぐ、クリスマスだよね」

 

「あ、あぁ、そうだったな」

 

「でさ、ウチの学校、『クリスマスの集い』って行事があるんだ」

 

 俺は相槌を打ちながらその話を聞き続ける。

 

「生徒は強制参加じゃないけど、当日は一般開放もするから実行委員会とか決めて、飾り付けとか色々準備もしたり……ウチの学校、ミッション系だからね、ミサとか読み聞かせとか、合唱とかなんだけど」

 

 話の流れから、大体は察せられる。

 

「その、嘉神川……そのクリスマス実行委員に……されちゃった」

 

 つまり、嘉神川さんはここしばらく学校を休んでいたせいで、『ん? 誰もいないのか。じゃあ休んでる奴……』『嘉神川で良くね?』『それな!』なんてやり取りがあったのだろう。

 

「これって……さ。嘉神川、帰ってきても絶対にまた……」

 

「まずいな……」

 

「……うん」

 

 どうしたものか……。女子高だぞ? そんなところ入れるわけが無い。かといって寿奈桜ちゃんに全部任せる、というのも難しいだろう。

 

 ……ずっと考えてみたものの、最善策は浮かばなかった。

 

 誰かに相談してみるか……。出来れば信さんには知られたくないし、兄さんはそもそもどこにいるか分からないし……

 

「こんな時間にどうしたんだい? ルイ」

 

 俺はリーチに頼ることにする。

 

「リーチ……悪い、頼みがある。実は────」

 

「嘉神川さんのことだね?」

 

 ……相変わらず、話が早いとかそんなレベルじゃないくらい理解が早い。

 

「……どうして分かったんだ?」

 

 だが、当然疑問も湧く。いくら親友とはいっても……

 

「ルイが僕に何か頼み事をしようとする。それはつまり、誰かが困っているということだよね。ルイは、いつまでも自分より周りを優先しちゃうから」

 

 言われてみればそうかもしれないな。

 

「まあ、それ以前に、嘉神川さんのことでルイが悩んでいること、実は知っていたんだ。むしろ、相談してくれるのが遅いと思ってたよ」

 

 ……俺はリーチに、今の状況と、そして打つ手がないことを伝えた。もちろん、リーチといえど具体的な案が浮かんでくるとは思っていなかった。ただ、聞いて欲しかったという面もあったのかもしれない。だが……

 

「先に言っておくけど、難しいと思うよ? 分かってるだろうけど、いじめというものには、周囲の環境や本人の問題が複雑に絡んでいる」

 

「それに、何かをしたところで、余計に彼女が傷付くことだって、ルイが傷つくことだってあるかもしれない。ただの自己満足に終わる可能性だってある。それなのに────」

 

「いいんだ。それで」

 

 俺はリーチの言葉を遮った。俺のリスクなんてどうでもいい、ただ、彼女に何かしてやれるなら……

 

「逆に、自己満足のためだって割り切った方が、彼女の負担も減らせる」

 

 俺のその言葉に、リーチは分かっていたぞ、といった風に口を開く。

 

「まぁ、ルイならそう言いそうな気はしてたけど……それでも今回は、愛かな?」

 

「それは……今はまだ……だと思う」

 

「まだ、ねぇ……ってことは、可能性はあるってことだろ? ルイが新しい道を見つけて、また一歩前に踏み出そうとしている。そういうことなら、僕も全力で協力するしかない。親友だからね」

 

 ホント、いい友達を持てたな。俺って。

 

「ありがとう、助かる。それで……何か妙案はあるのか?」

 

「すぐには思いつかないけど……とりあえず、少し時間を貰えるかな」

 

「……分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして深夜、帰国した嘉神川さんから短いちょこが届いた。

 

 {ただいま}

 

  {おかえり}

 

 {また明日}

 

  {うん。また明日}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日から、嘉神川さんのいる日常が戻ってくる。そう思うと、駅へと向かう足も自然と早まった。それは、寿奈桜ちゃんも同じだったようだ。寿奈桜ちゃんには『いつも通り、自然に迎えてあげよう』と話している。だったのだが……

 

「嘉神川~! ほんとに良かった!! ウチ、ウチ……もう戻ってこないかもって!」

 

 嘉神川さんに飛びつく寿奈桜ちゃん。

 

「な、ナオちゃん、おっきな声出さないで……。その、迷惑かけたのは……わたしの方だし」

 

「ううん、そんなことないよ……だって、友達なのに!」

 

 寿奈桜ちゃんはとうとう泣き出してしまった。

 

「嘉神川~! ごめんね~! ホント、ウチ! もぅ~!」

 

 まったく、黙っていようといった話も関係なくなってるな。

 

 なんて声をかけようか迷っている、そんな最中、ふと嘉神川さんと目が合った。

 

「……」

 

 久しぶりの嘉神川さんの笑顔というのは、とても破壊力のあるもので、考えていた言葉が全て吹き飛んだ。

 

「……おかえり、嘉神川さん」

 

 俺はそれだけしか言えなかった。だが、これで良かったのかもしれない。無駄に長い文よりシンプルに。

 

 嘉神川さんの目を見ると、以前のような輝きを取り戻していた。何かの決意をしたような、とても芯の通った透き通った、そんな輝きであった。

 

「そ、それで、おばあちゃんは大丈夫だった?」

 

 どうやら寿奈桜ちゃんはまだ信じているようだ。その言葉に嘉神川さんも動揺をかくせていない。

 

「え?」

 

「え?」

 

 ふたりが聞き返している。

 

「……ナオちゃんって、本当にいい子だよね」

 

 次に驚いたのは寿奈桜ちゃんであった。

 

「……ええ!? なになになに!?」

 

「ううん。ナオちゃんと友達で良かったなって」

 

 その言葉を聞くと、再び寿奈桜ちゃんは嘉神川さんに抱きつく。

 

「ウチもだよ~!」

 

「わっ!」

 

「もー! こっちも大変だったし! ルイルイ、嘉神川がいなくってから、おかしくなっちゃって……」

 

 ……そこは、話さなくても良くないか? とは思ったが、それよりも俺が蚊帳の外なのが腑に落ちないんだよな……。

 

「そ、そう……なんだ」

 

 だが、その考えも嘉神川さんの少し嬉しそうな声で上塗りされる。

 

「最初は平気そうだったのに、どんどんボヤーって! もー、勉強してても全然集中してないし、スマホばっかいじってるし……ウチ、見ちゃったんだ……」

 

 そういえばそんなこともあったな。志摩家で勉強会。

 

「な、何を?」

 

 恐る恐る質問する嘉神川さん。

 

「ルイルイ、スマホ留学のこと調べてるし。ウチ、ルイルイまでフランスに行っちゃうんじゃないかって、不安で不安で……」

 

「え……?」

 

「あいたっ!」

 

 俺は慌てて寿奈桜ちゃんを嘉神川さんから引き剥がす。

 

「余計なことを言うなよ……」

 

「ご、ごめん……でも、ホントにルイルイ、顔ひどかったし……」

 

 顔ひどい、って……普通、『顔色が』だろ……。

 

「ふふっ」

 

 そんな俺たちのやりとりを見て、嘉神川さんが微笑んだ。

 

「本当に……楠瀬さん、ナオちゃん。心配かけてごめんなさい。これからも、よろしくお願いします」

 

 差し出された右手に、俺と寿奈桜ちゃんの手が重なる。俺たちは微笑みあい、歩き出した。

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