Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE   作:キラトマト

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第二十四話 勉強会にて

 学校が終わって夕凪荘へ帰ると、そこで待っていたのは……。

 

「く、クロエさん? ……あの、初め、まして……」

 

 間違いない。画面越しに見た嘉神川クロエその人だ。だが、何故こんなところに……? 

 

「あら。初めまして、とは少し違う気もするのだけれど……」

 

「まあ、いいわ。楠瀬……累さんね、あらためまして。ノエルの姉、クロエです」

 

「どうも、こんにちは」

 

 クロエさんに俺は挨拶を返す。

 

「ノエルの大切な人、とやらを……直接見に来てみたわ」

 

 ひととやら、ねぇ……。

 

 まさか、来るとは思ってもみなかったので、態度には出さないまでも内心は今までにないくらい緊張していた。

 

 嘉神川さんと一緒に帰国していたのか……。

 

「じぃぃぃ……」

 

 ……わざわざ声に出して言うことかそれ……? 

 

 ……。……同じ、翠色の綺麗な瞳。一切の淀みがない。

 

 嘉神川さんがクロエさんの元に帰ったと聞いた時、クロエさんが嘉神川さんのことを自慢している時、俺は嫉妬に駆られていた。……でも、今なら理解出来る。この人は、安心出来る。家族だから、とか以前に、だ。俺も……嘉神川さんが当たり前に頼ってくれるように────

 

「『見に来た』と言った相手の目線から、目を逸らさない。姿勢も自然体のまま。無駄な口を聞かない。そして、私を通してあの子のことを考えている……」

 

 俺が考えていると、テストか何かのような項目の内容でも読み上げるように先程までの俺の態度を、嘉神川さんが言葉にしていく。

 

「まあ、合格としましょう」

 

 合格……か。俺が、か? まあ……好意的に捉えておくとしよう。

 

「……ありがとうございます」

 

「先日もお話しましたけど……あの子の心には、鍵が掛かっていました。ノエル自信が無意識に掛けた、心の鍵。心に鍵をかけて、感情を透明にする。それが、あの子が自分を守るために、辿り着いた答えなの」

 

 感情を透明に、か。確かに会った時は、そんな雰囲気だった。

 

「楠瀬さん。あなたはその鍵を、開けたのかしら? それとも壊しただけかしら? 答えは、これからのあなたの行動にかかっているのよ?」

 

「……知ってます」

 

「分かってる、ではなく知っている、と言ったわね? それなら、もう私が口を出すことではないわ」

 

 それでは、とクロエさんは言葉を繋げる。

 

「改めて言うわ。ノエルを……あなたのノエルを、お願いね」

 

「勿論です」

 

「良い答え。……今度、うちに遊びにいらっしゃい」

 

 うんうん家にね。……えぇ?! 

 

「あら、恥ずかしいのかしら」

 

 俺が先程の答えに驚いていると、クロエさんがからかってくる。どうやら俺は大分と顔が赤くなっていたようだ。

 

「い、いえ! 是非!」

 

「必死、ね。……ところで……ピーマンは、好き?」

 

 今、少し失礼なことを思われた気がする……で、だ。ピーマンって一体なんだ? 

 

「……ピーマン?」

 

「ふふっ……それじゃ、また会いましょう?」

 

 そう言ってクロエさんは帰っていった。……最後、疑問形だったよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験終了後……。俺は寿奈桜ちゃんの家に来ていた。相変わらず、煌びやかな部屋だ。

 

「テストおわったぁぁぁ! お疲れ様ぁ~! ……ってことで、カンパ~イ!!」

 

 寿奈桜ちゃんは手に持ったソフトドリンクを掲げて言った。

 

「楠瀬さん、勉強見て頂いてありがとうございました」

 

「人事は尽くしたから、あとは天命を待つだけ」

 

 俺がそう言うと、寿奈桜ちゃんが困惑する。

 

「え、あれ? ちょっと? 嘉神川? ルイルイ? か、かんぱ~い?」

 

「天命……ですか。ナオちゃんの家は神社ですから、希望がありますね」

 

 尚も寿奈桜ちゃんはスルーされたままだ。"ナオ"だけに。

 

「ちょっとふたりとも!? ウチのこと無視するなし!?」

 

「「?」」

 

 俺と嘉神川さんはポカン、とした顔で彼女の顔を見る。

 

「つーか! 自己採点して、成績アップ確実って分かってるじゃん! 後、神頼みじゃなくて! ウチもちゃんと頑張ったじゃん!」

 

「確かに……正直、寿奈桜ちゃんがそんなに勉強できるなんて思ってもみなかったよ」

 

「でっしょー!? ウチだってやる時はやるし!」

 

 寿奈桜ちゃんは少し褒めただけでこんなに機嫌が回復した。

 

「いいなあ……ナオちゃん……楠瀬さんの家庭教師。わたしも、もっと受けたいかも……」

 

「?!」

 

 俺は驚きのあまり声が出なくなってしまう。

 

(どうすんだよ俺! 嘉神川さん直々のお誘いだぞ? んなの断る理由見つける方が難しいぞ?! ……ちょっと待て累、罠かもしれない。……いやそもそもなんの罠だよ! てか────)

 

「ルイルイ?」

 

「いいよ!!」

 

 俺は突然声を掛けられたことによって素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「「?!」」

 

「な、ななな、ルイルイ!? 何言ってんの?!」

 

「い、いや……ごめん。突然声かけられたもんだから」

 

「で、あれだよな? あれ、そう! 家庭教師」

 

「はい」

 

 嘉神川さんは驚いた表情をしながらも、肯定する。

 

「いいよ。家庭教師、やる」

 

 俺がそう言うと、嘉神川さんは笑顔になってこう言った。

 

「……うれしいです」

 

「そ、そっかー。じゃあ次から三人で勉強だね!」

 

 寿奈桜ちゃんはそう言って誘ってくる。が……。

 

「いや……、そもそも寿奈桜ちゃんは成績上がったんだし、これからはそれを維持するために自主的に勉強するべきだろ」

 

「ええっ!? それって……もう勉強してくれないってこと?!」

 

 寿奈桜ちゃんは残念がる。

 

「いつまでも勉強を見てられるわけでもないしな」

 

「……わたしもそう思う」

 

 嘉神川さんも俺の意見に賛同してくれる。

 

「ええー……。じゃあ嘉神川だって、ジシュテキに勉強すればいいじゃん!」

 

 寿奈桜ちゃんは口をとがらせて拗ねたようにそう言う。

 

「ナオちゃん……」

 

 嘉神川さんは悲しそうな声で寿奈桜ちゃんに声をかける。

 

「あ、い、いやいや! ルイルイと勉強するのを邪魔しようってわけじゃなくて!」

 

 寿奈桜ちゃんはその声を聞いて取り乱す。

 

「ウチだって必死なんだし! 成績また下がったら困るじゃ~ん!」

 

 そこで、俺は善後策を出す。

 

「聞きたいことがあったら、電話なりちょこなりで答えるし。わざわざ時間をとって、ふたりで勉強する必要はもうないんじゃないか?」

 

「……」

 

 嘉神川さんは黙ってしまう。そして、寿奈桜ちゃんは俺の近くに寄ってきてこう言う。

 

「で、でも……ダメだし! ちゃんと責任とってもらうし?」

 

「なんのだよ」

 

 俺は疑問に思った。普通責任って、何か人に迷惑をかけた時にとるものなのではないのか? 

 

「責任って、ナオちゃん……」

 

 嘉神川さんは何を想像しているのだろう……。

 

「……拾ったにゃんこは最後まで面倒を見なきゃいけない的なアレ!」

 

「猫ってほど可愛いタイプか……?」

 

「ウチはにゃんこ以下!?」

 

 と、寿奈桜ちゃんの母がやって来る。

 

「あら、ナオちゃんは楠瀬くんが随分とお気に入りなのね」

 

「って、お母さん!? また勝手に入ってきてっ!」

 

「つ、つーかお気に入りとか……何言ってんだし!」

 

 寿奈桜ちゃんは強引に話の筋を戻す。

 

「……ナオちゃん?」

 

 嘉神川さんは困惑の声を漏らす。

 

「あ……ちげーから! そんなことないし!」

 

 嘉神川さんとの間に、微妙な緊張が走ったように思えたが、すぎに寿奈桜ちゃんが打ち消す。

 

「ほ、ほら! ルイルイはお兄ちゃん的な? 存在だし!」

 

「そう。素敵なお兄ちゃんが出来て良かったわね」

 

 おばさんはまたそうやって場を乱そうとする……。自覚はなさそうだけど。

 

「楠瀬さんは……どうなんですか?」

 

 急に嘉神川さんが俺に真剣な眼差しを向けてきた。それを確認したあとのふたりも、俺に目を向けてくる。

 

「うちのナオはどう? 楠瀬くん」

 

「騒がしい妹は、ちょっと……」

 

 それを聞いた寿奈桜ちゃんは反論する。

 

「な、なにそれ! ウチが妹で何が不満だし!」

 

「そもそも妹はノリで作るものじゃないだろ」

 

「……ダメ?」

 

 寿奈桜ちゃんは上目遣いでこちらに聞いてくる。が、ダメなものはダメだ。

 

「そうだそうだ! 寿奈桜の何が不満なんだ!」

 

 とうとうおじさんまで参戦してくる。

 

「……お父さん」

 

「じゃあ、おじさんは俺が寿奈桜ちゃんの兄でいいんですか?」

 

「そりゃあ────」

 

 そこから、恒例のうちの娘自慢が始まる。

 

「嘉神川さんは、いきなり兄とか妹とかって変だと思わないのか?」

 

「ええっと……いいんじゃないですか?」

 

 流石の嘉神川さんも少し投げやりな回答になってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから少し経って、危うく志摩家の息子にされかけた話も、何とか阻止し、家庭教師の話も流れた。が、『時間がある時は見てあげてね』ということらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、学校でリーチと例の件について話し合うことにした。

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