Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
生徒会室に入った俺は、まずその聖堂のような内装に驚いた。聖母マリアのような銅像が飾られていたり、椅子が横にかなりの数が並べられたり……etc。とまぁ、何よりも驚いたのはあの時の……日紫喜さんがいたことだ。
「こんにちは、日紫喜さん」
俺たちふたりが挨拶の仕方に困っていると、生徒会長である相葉さんが先陣を切って挨拶をする。
「よく来てくれた相葉さん。会長の代わりに歓迎するよ。クリスマスの集いの手伝いということで、話は聞いている。助かる」
だが、と日紫喜さんは言葉を続ける。
「実際の所、どうしてもそちらの手が必要というわけではないのだが」
その通りだ。私立だったら、本当に必要なときは業者なりなんなりに頼めばいい。
「いえいえ、これも伝統、ということで」
「そう理解して貰えると助かる。実際の作業の作業に関しては、後で担当の教諭……シスターを紹介する」
ほう……ミッションスクールというのは、シスターが教えているのか。だが、教えている内容というのも違うのだろうか? ……不安だが、後で嘉神川さんに聞いてみよう。
……よし、本題に移ろう。リーチが俺に提案してきた作戦はふたつ。ひとちはこうして俺たちが直接林女にやって来て調査すること。そしてもうひとつというのが、この日紫喜さんに相談することだった。少なくとも、久世さんの時を見るに、嘉神川さんを大切にしているのは分かる。……だが、俺のことを信用してくれているか、それが一番の懸念点だ。だが、ジーッとしてても何も始まらない。俺は意を決して口を開いた。
「日紫喜さん。今回の仕事とは別に、相談があるんですけど」
俺のその言葉に日紫喜さんは怪訝そうな目を向けてくる。
「なんだ? それはその、ふざけた変装と関係あるのか」
「いや、嘉神川さんの事なんですけど……」
「ノエル……? あの子がどうした?」
その言葉と同時に、日紫喜さんは眉をしかめた。
「あまり広めたくはなかったけど……実は彼女、同級生から嫌がらせ……いや、はっきり言って酷いいじめを受けてるんです。そんな話、聞いたことないですか?」
俺の言葉に、日紫喜さんは少し驚いたような、けれどすぐに悲しげな横顔を見せ、申し訳なさそうにこちらへと謝る。
「……すまない。知らなかった……では、済まされないか」
「言い訳がましいが、学年が違うと普段の生活までは見られない」
まあ、仕方ないか……。隠れてやってるみたいだし、当の本人がだれにも言ってないならそうなるよな……。
「君と一緒にYuKuRuに来ているのは何度か見かけたが……」
ところで、と日紫喜さんから思いがけない質問が飛んでくる。
「君たちはその……付き合ってる、のか?」
どう答えるべきか……。
「まだ、だと思います」
こればかりは俺個人の意思で決められるものでは無い。あえて答えを濁す。
「……そうか。しかし、まだ、ということは今後の可能性はあるわけだな」
「君にもそんなひとができたのだな。良かった」
そう言って日紫喜さんはニッコリと微笑んだ。いや、なんだ、この違和感は? 君に"も"、だと? まるで俺の過去を知ってるような口振り……。いや、まずは感謝の言葉を述べなければ……
「ありがとうございます」
「あの子を大事にしてくれ。そうでないと、私が絶対に許さない」
(……いや、気の所為か……)
気づいた時にはいつもの日紫喜さんに戻っていた。……とにかく、肝に銘じておこう。
「つまりルイにとって大事な人なんで、見過ごせないんですよ。端的に言うと助けて欲しいんです」
リーチはこれまでの話をザックリと纏める。
「私からもお願いします」
相葉さんもリーチに続く。
「楠瀬くんや三城くんでは、この学校に知り合いは少ないし、表立って動くと目立ちすぎますからね」
だから、と相葉さんは話を続ける。
「だから、この学校の協力者が欲しいのです。校内でのいじめなど、生徒会としても看過できないのでは?」
相葉さんの言葉に、日紫喜さんは少し考えてから……言った。
「……そうだな。本当にそういう事実があるのなら、なんとかしたい」
その言葉に俺はそっと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます、日紫喜さん」
「……しかし、君は余程信頼されているのだな。普通、こんなことはしないし、良識があれば周りが止める。相葉さんも三城くんも、それを承知で行かせようと判断した、ということなのだろう?」
……俺はハッとなって気づいた。リーチはともかくとして、生徒会長である相葉さんは普通は、止める側だろう、と。なのに、相葉さんは違った。
「彼はトクトク制度で札幌海陵から来ているのだけれど……このまま湘南海陵で生徒会に入ってくれないかしら、ぐらいには信頼してますよ」
(普段の行い、ということか……)
「ルイは幼なじみで親友で腐れ縁ですからね。こいつが困ってたら何でもしないと」
(リーチ……お前は最高の幼なじみで親友で腐れ縁だよ!!)
「そうか……君はいい友人に恵まれているのだな」
「そう思います」
日紫喜さんの意見に全面的に同意する。俺に関わってくれた人達……志緒兄さんにりりす姉さん。リーチや寿奈桜ちゃん、信さんやお京さんだって支えてくれた……そして、嘉神川さん。彼女のおかげで、俺はここまで成長できた。……ありがとう。みんな。と、感傷に浸っていると、日紫喜さんが場を取り直す。
「それで? いじめている側の人間に心当たりはあるのか?」
「美咲さんとその友達。そう寿奈桜ちゃんから聞いてます……」
「美咲……まさか、神崎美咲さん、か」
日紫喜さんが何かを察したように口を開く。
「知っているんですか?」
「いや、あくまで私の印象の話だ。詳細を調べるまでは、迂闊なことは言わずにいた方が良いだろう。少し時間をくれ。信頼出来る生徒を使って調べようと思う」
使う、って、どこのスパイだよ……
「あの……ひとつ良いですか?」
リーチが口を開く。
「ここからは僕の憶測なんですけど、その美咲という人は関与してないと思うんです」
「ほぅ……根拠は?」
「その美咲って人、この学校の理事長の娘なんでしょ? それがあんなことをするとは思えない。多分だけど、その取り巻き達が勝手にやってる……もしくは、命令されてしていることでしょう」
……流石リーチ。相手の情報まで調べてやがる。
「ふむ。その意見は頭の中に留めておくとする」
日紫喜さんはだが、と念を押して言う。
「調べている間……私が良い、と言うまで君たちはあまり余計な動きをしないように」
まぁ、理事長の娘なら、嗅ぎ回っていることを知られれば大事になるということを分かっているからだろう。でも……!
「……分かりました」
「楠瀬くん、その言葉は嘘だと瞳が語っている」
……察しがいい。まるでリーチみたいだな……。
「いや、私の言い方も悪かった。ここまで来てしまうような者に、動くなという方が無理だな。……いつも以上に慎重に行動するように、以上だ」
「分かった。ありがとう、日紫喜さん」
俺はもちろん了承した。
それから日紫喜さんに案内され、俺たちはシスターから簡単な仕事の内容を伝えられた。
今日は初日ということもあって、飾り付けるもみの木や周りのサイズを測ったりするぐらいで終わったけど、明日からは実作業が多くなりそうだ。……こうして、俺たちの林女潜入作戦の初日の作業は終わった。