Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
その夜、俺は嘉神川さんからの約束を思い出し、ちょこの画面を開く。すると、丁度五分前にメッセージが来ていた。
{今日は驚きました}
{どうして来たんですか}
{心配だったから}
{わたしの問題は、わたしが解決します}
{そう言いました}
{ごめん}
{でも}
{でもじゃないです}
{わたしもクリスマス実行委員なんです}
{学校で会ったらどんな顔をすれば? }
{わかった。近付かない}
{ごめん}
{だから}
{もういいです}
……怒らせてしまった。どうしたらいいんだ……? 直接会って謝るか? いやいやいや、余計怒らせてしまう気がする……。すると、突然スマホが着信を告げる。……嘉神川さんからだ。
「……もしもし」
「……今、時間ありますか?」
嘉神川さんは少し間を開けて言葉を紡ぐ。
「ちょこ……苦手です。伝えたいことの何分の一かしか伝えられない……気持ちとか、温度とか、空気とか。……やっぱり、電話の方がいいです」
「それは、同感だ」
俺の返答を確認すると嘉神川さんは本題に入る。
「楠瀬さんの気持ちは、嬉しいです。でも、やめてください。わたしの問題ですから」
「……わかった。先走ってごめん。ちょうどいいタイミングで林女に行く話を聞いたから、乗ってしまったんだ。相談すべきだった」
嘘をつくと、やたらと事細かに説明するのって、本当だったんだな。と、当事者になって気づいた。
「……はい」
多分、嘉神川さんも無理やり自分を納得させようとしている。
「だから、あまり気にしないで欲しい」
「……分かりました。でも、一応言わせてください」
「あぁ」
「もし、何かあった時、わたしよりナオちゃんに迷惑がかかります。それだけは、絶対に嫌なんです」
俺が口を挟もうとすると、嘉神川さんは即座に話を続ける。
「わたしたちがおかしな関係になってるのは分かってます。でも、それがわたしたちなんです。わたしと、ナオちゃんの場所なんです」
「だから……」
今度は俺がそれを遮って口を開く。
「分かってる。どれだけ過ごしてきたと思ってる。俺は、嘉神川さんも、寿奈桜ちゃんも、誰も傷つけたくない」
……俺以外、とは流石に言わなかった。
「……お願いします」
「とりあえず、そっちの学校では他人のフリをしておくよ。外から来た男と喋ってるってだけで、悪目立ちしちゃうから」
共学ならそこまで特別感は無いのだが、女子高なら別だ。
「せっかく、近くにいるのに……寂しいですね」
嘉神川さんは少し考えたようにしてから、言葉を発する。
「……いいえ、今のは忘れて下さい」
忘れて、と言われても……。
「いいや忘れない。自然に出た言葉に嘘偽りはない。本物だ。それに、俺も……その、同じ、気持ちだから」
「Une vraie plaie……」
!? 突然のフランス語、しかもかなり早く言われたので意味が分からなかった。
「……ずるいなぁ」
自然と口から出ていた。その言葉が。
「……?」
「……いや、なんでもない。おやすみ、また明日」
「はい。おやすみなさい。また明日」
────こうして、日中は普通に湘南海陵に通い、放課後には林女に通う日々が始まった。少し惜しい気もしたが念の為、朝も嘉神川さんや寿奈桜ちゃんとは一緒に登校しないことにした。
林女に行っている間は変装しているが、嘉神川さんの時のような事があるかもしれない。もう痴漢の話も聞かないので、大丈夫だろう。……と、そんな話を寿奈桜ちゃんにしたのだが……。
「おはよ、ルイ兄」
ルイ兄……かぁ……。
「寿奈桜ちゃん……」
朝起きて外に出ると、寿奈桜ちゃんが待っていた。その様子を見ると、偶然というわけじゃなさそうだ。
「あー、だいじょぶだいじょぶ。ルイ兄の言いたいことはわかってるし。ただ、ちょっと話があって」
俺の考えを読んだようなことを言い始めた寿奈桜ちゃん。
「……それに、元はといえばウチのせいだし」
「寿奈桜ちゃん……いや、それは……」
完全には否定できないのが悔しい。
「とりあえず、行こう?」
寿奈桜ちゃんはいつもの登校の道を先導する。
「ルイ兄がウチの学校に来たのって、嘉神川のためでしょ? 本当は、一番近くにいるウチがなんとかしなきゃなのに」
……いや、リーチの憶測を踏まえるなら、神崎さんは関与していないし認知すらしていないってことになる。いじめているその取り巻き連中は、寿奈桜ちゃんのことをあまりよく思ってないみたいだし。言っても聞かないだろう。
「寿奈桜ちゃんだけのせいじゃないよ」
……確かに見ていただけの寿奈桜ちゃんにも少しは責任はあるだろう。だが、一番悪いのは、直接いじめている側だ。……そして、助けてやれなかった……俺自身。
「ありがと、ウチも出来るだけのことはやってみる」
「……ああ、分かった」
寿奈桜ちゃんだって苦しいはずなのに、なのに……。
「それよりルイ兄、女子高でテンション上がって変なことしちゃダメだかんね」
「なんだよ、変なことって……そういうのはリーチに言ってくれ」
「あー、リーチさんはしょうがないね。イケメンだし。人にはそれぞれ色んな生き方があるって、ウチも分かってるし」
なんか扱い違くね……?
場所は変わって例の歩道橋の下……琴莉の変装をしたリーチを見かけたところまで来た。
「それにしても女子高って、男子がいないからむしろ、乱れてるイメージがあったけどさ」
俺の言葉に、寿奈桜ちゃんは目を見開いて聞いてくる。
「どういうことだし」
「男の視線を気にしなくていいから、むしろ好き放題やるとかなんとか」
テレビで前に見たんだよな……。いや、恥ずかしくて内容は言うどころか、考えることすら躊躇われるが……。
「あー、そだね。もちろん、そういう人もいるし。でも、
「みんな育ちがいいんだよねー。ウチみたいなの、珍しいし」
「作業しててもさ、なんていうか少し遠くから見張られてるというか、見守られてるというか。直接どうこうってのじゃないんだよな。寿奈桜ちゃんと違って」
あ、やっべー。
「ちょっとソレどういうことだし! ウチに品がないってケンカ売ってる!?」
「考えすぎだって、それに、俺はそのくらいの方が居心地がいいよ」
「え?」
俺の言葉に、寿奈桜ちゃんは目を点にする。
「でないと、嘉神川さんや寿奈桜ちゃんとこんなに仲良くなれなかった」
俺は話を続ける。
「大体、大人しくお嬢様な寿奈桜ちゃんなんて考えられないし考えたくもない」
「やっぱり褒めてるのか貶してるのかわかんないし!」
「感謝してるってことだよ」
理解出来ていない寿奈桜ちゃんに正直な気持ちを話す。ちなみに、今の言葉は本心だ。兄さんや姉さんのお陰でマシになったとはいえ、あまり自分から積極的にグイグイ行くタイプではない。もし、寿奈桜ちゃんがいなかったら、嘉神川さんとは良くてすれ違いざまに軽く会釈する程度の、友達未満の関係だっただろう。
「んー、よく分かんないけど……ルイ兄は優しいってことだね!」
「だから、嘉神川のことよろしくお願いします!」
そう言って、寿奈桜ちゃんはぺこりと頭を下げた。
「んじゃ、先行ってる! ルイ兄は一本遅らせてくるし!」
命令するな、と言いたいところだが、まぁ今回はいいか。そう。本当に彼女には、救われている。
放課後、ホームルームが終わると、リーチがにこやかな笑顔でこちらに向かってくる。
「さて……ルイ。今日も仕事の時間だよ」
「リーチ……なんかお前、嬉しそうだな」
まさか、寿奈桜ちゃんの言った通りになるのか……?
「そんなことないって。深刻な事態なのは理解してる。だからこそ、腕の振るいがいがあるってことさ」
……絶対、人にメイクするのが楽しいだけだろ、こいつ。
リーチと演劇部にまた変装させてもらってから、学校を出た。
因みに相葉さんは、生徒会の仕事で忙しいらしく、今日は来られないようなので、リーチとふたりで林女を訪れた。
貶すって、けなすなんですね。いままでまずすって読むと思ってました。