Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
無事……と言っていのか分からないが、俺は寿奈桜ちゃんと話し合いと、後述する作戦の内容を伝えた翌日、俺たちはとんでもないことをしでかしてしまっていた。
「どうすんだよこれ……」
俺は目の前にある鞄を手にして大きなため息を漏らした。もちろん、彼女は分かっていないだろう。"いつものこと"として受け止めているだろう。
「どう、って、もう後戻りは出来ないよ」
この鞄はリーチが持ってきたのだが……。だが、この作戦の立案者は俺だ。
「困っているだろうな。窃盗だぞ、それは」
日紫喜さんは口ではそう言うが、止めるような気配は見せない。
「……止めないんですか」
「……」
日紫喜さんは小さく肩を竦めた。少なくとも、今、俺たちの行為を止めるつもりはないようだ。
なので、俺は自分の鞄からキーホルダーを取り出した。ちなみにこれは、あの時に買っておいたストックの一つであり、彼女と交換したものではない。その時の……一点物のキーホルダーは、既にこの世界には存在しない。
俺がそのキーホルダーを嘉神川さんの鞄に取り付けていると、寿奈桜ちゃんからちょこが届いた。
{こっちはおっけー}
{美咲とりいなたちは離れたし}
{よくやった}
{でも大丈夫かな}
{うまくいくかな}
{うまくやる。それだけだ}
「これで、よし」
準備は終わった。後は天に祈る……いや、俺たちの手で成功させるだけだ。
「覚悟は決めた。もし失敗したら……」
「俺が全責任を負う、かい?」
本当、リーチは俺の心の代弁者っつーかなんというか……。
「……本当なぁ……最っ高だ!」
俺は、この作戦の説明を改めて確認した。
「ちぇー、ナオ。美咲を連れ出しやがって……」
「幼なじみだからって、チョーシこきすぎだよねー?」
「小学生の頃、あんなに可愛がってたのにさー。ウチらには全然懐かないとか、オンギってものが分かってないよねー?」
「そうそう! ゴオンとホーコーだよ! ちょっとそろそろシメよっか。マジで」
「やっちゃう? 久々にすなおちゃんに踊らせちゃう?」
「犬ごっこする? あの子、犬のものまね上手いよね~。わーん、わーんって」
「あはは、それワンワン泣いてるだけじゃん? 泣き虫だから」
「あ、あの~」
相葉さんの声と共に、作戦が開始される。
「んん?」
「はい?」
両者とも疑問の声をあげる。
「すみません。そこの飾りつけをやっていたんですけど……終わって片付けていたら、鞄がひとつ残っていて……。多分、一緒に作業していた子のだと思うんですけど」
「アタシら、そこ担当じゃないからわかりませーん」
「てかあんたのその制服、湘南海陵から来たヒトでしょ? 馴れ馴れしくしないでくんない?」
「そうそう。そんなの、誰か他のヤツに頼んでよ。アタシたち忙しいから」
その憎たらしい声で、言葉を放つふたり。
「ごめんなさい。目立つ容姿の子だったから、同じ学校の人なら、心当たりがあると思って……留学生か、ハーフか……金髪っぽい子で」
相葉さんのその言葉に、何かを察したようだ。
「ハーフで金髪っぽい……」
「ちょっと春瑠花、そのキーホルダーって、あの時の……」
(食いついた……!)
「ご存知なんですか?」
「うんうん! いやー! ありがと! 友達のだった!」
「プッ、そ、そう! 友達! 大親友のやつなんだよね!」
その態度の変わりように相葉さんは少々驚くというか引くというか……。
「そ、そう! なら、任せるわ!」
「うんうん、任せてください! 届けとくから!」
「では……」
相葉さんがその場から去ると同時に、ふたりで話し合う。
「これ嘉神川のだよね? キーホルダー、トイレから拾ったのかな? うわー、きったなー」
「……っぷ、はははっ! 大親友とか! ま、まあ、ウチら仲いいからね~。仲いいから、荷物チェックしちゃおっか!」
勿論、これは全て映像として記録している。見ているだけ、というのはかなり堪えた。……これが寿奈桜ちゃんの気持ちか……。
「そうそう! 何か無くなってるか、調べてあげないと~」
「「あははははは!!」」
「あ、やっぱ嘉神川のじゃん。ノートに名前書くとか、まっじめ~」
「ウチら、ノートとってないからね~。つか、つまんねーなぁ。なんも入ってないじゃん、面白いのが……お?」
どうやら何か"面白いもの"を発見したようだ。
「どしたん? ああ、アルーキーズじゃん。あいつこんなの読んでんだ……」
「『この冬、愛しのあの人と過ごすクリスマス徹底ガイド』『もらうだけじゃダメ。彼氏へのプレゼント特集』」
記事の内容を読んでいく春瑠花。
「へぇ、あの彼氏ホントだったんだ」
「見てみて、付箋で一杯だわ~。お熱いねー、ヒューヒュー! って?」
「「あはっはははは!!」」
「このキーホルダー、やっぱ彼氏に買ってもらったのかな。前の時、アイツ必死だったし」
(必死……か)
自然と俺の拳に力が込められる。
「買い直してもらったのかな~。うんうん、仲がいいね、ステキ~」
「っふっざっけんなっ!!」
(?!?!?!!)
彼女は、態度が急変し、そして手に持っていたキーホルダーを足で踏みつぶした。
「……ちょっと、中身軽くしてやろうぜ」
「そうだよねぇ────って……?」
「そこまでにしたまえ」
日紫喜さんが飛び出す。
「……え?」
「一緒に来たまえ。君たち」
「ふ、ふ~ん。で、でもアタシら美咲がいるから!」
これぞ虎の威を借る狐、といった感じだが、この場にはコイツらの前に立つ虎はいない。
「美咲とは、私のことかしら」
俺とリーチの間から表れる神崎さん。
「「美咲?!」」
ふたりが驚愕の声を上げる。
「……こんなところでもなんだし、場所を移しましょう」
神崎さんに促されて、校内の一室に入る。
「嘉神川さんのことでしたよね。それは、私も知らなかったとはいえ、申し訳ないとは思ってるわ」
部屋に入るとすぐに、神崎さんが謝罪の言葉を述べる。
「そ、それじゃあ美咲は……」
「ここは林女だし、退学もありえるかもね~」
少々オーバースケールな話で、ふたりを脅すリーチ。
「それもありえない話ではないな」
よし、日紫喜さんものって来てくれた。神崎さんの退学をちらつかせた以上、このまま放っておいても多分もういじめはなくなるだろう。が、それでは根本的な解決にはならない。嘉神川さんと神崎さんの間の溝を埋めるような、お互いの本音を言い合えるような、そんな場は……。そうだ……! 確か生徒会室で懺悔室が開設していたはず。それを上手く使えないだろうか……?
「日紫喜さん、すみません。また頼み事が増えてしまうけど……」
すると、日紫喜さんは快く了承してくれた。
「乗りかかった船だ。構わないよ」
よし、次なる作戦は決まった。
「神崎さん」
「……何かしら」
「この件はまだ、シスターや教師は知らない。鞄だって、嘉神川さんには落し物として届けるつもりだし、キーホルダーなら予備はいくらでもある。あの時に買ったものはもう無いけど」
俺はそう言って葛原と三浦の方を睨みつける。
「それで? もしかして、取引? ……嘉神川さんへの不干渉でも約束しろと?」
「それもある。加えて明日のクリスマス、あるイベントに参加して欲しい」
「もし、それを呑んでくれたら……俺はこれ以上、この件を追求しない」
神崎さんは少し考えるような素振りを見せたが、他のふたりも縋るような視線を感じたのだろう。すぐに俯いてくれた。
これで明日やることは決まった。上手くいけば、全部解決するだろう。
その夜、俺はいつものようにYuKuRuへと向かった。既に嘉神川さんには連絡してある。
「いらっしゃい……ああ、ルイか。お姫様がお待ちだよ。早く行ってやれ」
「信さん。一人ですか? このイブの夜に」
店内には、数組のカップルが座っており、その中には兄さんと姉さんもいた。流石に、これをひとりで回すのは大変そうだ。
「しょうがないだろ。相変わらずお京さんが具合悪いみたいでさ。ま、適当に早めに閉めるさ」
「ああ、注文は簡単なもので頼む。なんなら飲み物は、自分で勝手に持って行ってくれ」
それでいいのかこの店は……。
「とにかく、だ。上手くやれよ。友達として応援してるからな」
その言葉を背に受けて、俺は嘉神川さんの席へと向かう。途中、姉さんが俺を発見したのか声を上げようとしたが、兄さんが止めていた。