Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
──曰く、俺の父は正義感に溢れた人だったらしい。
そして、その正義感の強さに、同僚、そして上司までもが尊敬していたらしい。
曰く、その正義感が災いし、殺されたらしい。死因は──
考えていると、騒々しくチャイムが何度も押される。
リーチだろうか? まったく、騒々しいやつだな。
「リーチ、そろそろノックの仕方ぐらい考えろ」
俺がドアを開けると、そこに立っていたのは予想外の二人だった。
「誰がリーチだ。いるのは分かってんだから、早く出ろし!」
「……」
寿奈桜ちゃんはここ夕凪荘の大家さんの娘らしいし、家も隣だからまだ分かるけど……
「なんで嘉神川さんまで?」
「ルイルイ、ウチはあんたのことみそこなったよ!」
「はぁ……」
「頭いいし、顔……はさておき、ウチのお兄ちゃん候補に入れてやっても良かったのに! なんでこんなことしたし!」
一体、俺が何をしたって言うんだよ? それを教えて貰えたら……、と、嘉神川さんが口を挟む。
「ナオちゃん、だからね……」
「嘉神川は黙ってて! またどっか連れてかれちゃうよ!?」
連れ去る……ねぇ……。あれのことかな? 俺は助けようと思ってやった事なんだけどなぁ……
「だいたい、うまい話には裏があるって、いつもおじいちゃんやおばあちゃんが言ってたもん!」
「いくら嘉神川が可愛くてもいきなりモデルとかテレビとかありえないし!」
「モデル……? あぁ、それなら昨日誘われてたぞ」
「そんな他人事みたいに言うなし! ルイルイが嘉神川を無理矢理モデルにスカウトしてたって、ちゃんと分かってるし!」
「しかも、なんだかいかがわしい人と組んで無理矢理……きっと最初はモデルとか言っておきながら恥ずかしい撮影とかされて、断れなくしておいて……」
日紫喜さんといい、都会はこんな馬鹿げた考えの人が多いのだろうか?
「この……この……!」
「ルイルイのエロエロ魔神!!」
……はぁ? いや、ホント、エロ同人の読みすぎだって……
それはさておき、俺はこんな恥ずかしいセリフを聞いているわけにもいかないので、何とかして誤解をとくことにした。
「いや、まぁ昨日嘉神川さんはモデルに誘われてたけど、俺からじゃない。久世っていう女性ライターからだ」
「はぁ? 何言ってんの? 嘉神川から証拠は上がってんだからね!」
こっちがはぁ? だよ、まったく……
「だから、嘉神川さんが嫌がってたから間に入ってフォローしただけだって」
どんな情報伝達をすればこんなに曲解して伝わるんだ?
「え? ……そんな簡単にバレるような嘘……あれ? 嘉神川?」
「だから……私の話、途中までしか聞かないから……」
「ふえっ!? マジで?! ちょ、ちょっと嘉神川!? それならそうと、もっと早く──」
「ピンポンに夢中で聞いてくれなかった」
「あわわ……わわわわ」
寿奈桜ちゃんが激しく動揺する。
「何度も止めたのに」
「ご、ごめーーーん!! ルイルイマジマジゴメン! ウチが悪かった! 嘉神川も話聞かなくてごめん!」
「ちょっと叫びすぎ……流石に近所迷惑なんだけど」
「え? じゃあ、許してくれる?」
俺の言葉に、寿奈桜ちゃんは顔を明るくする。
「いや……まぁ、誤解が解けたならそれでいいんだけど……」
「やったー! やっぱルイルイって、心がイケメンだし!」
「お詫びに、お母さんが作った煮付け持ってきてあげるから! これがけっこー評判いいんだよねー。じーちゃんたちに」
(持ってきて『あげる』か……上から目線だな)
「でもさー、今回のことは勘違いにしても、嘉神川ってやたらとナンパされたりとか多いんだよね。ほら、どうしたって目立つしさー」
まぁ、否定はしないけど、本人の前で言うのはちょっと……
「……」
「だから、もしまた絡まれてるとことか見たら、助けてあげてよ」
「まぁ、見かけたら助けるよ、絶対に。でも、寿奈桜ちゃんが一緒にいることの方が多いんじゃないのか?」
「え……」
「…………」
二人は黙ってしまう。どうしたのだろうか?
「そ、そうだけどぉ……でも、やっぱりずっと一緒って訳でもないし。ほら、ウチ部活もあるからさ。テニス部……」
二人の態度に違和感を覚える。やっぱり、昨日寿奈桜ちゃんは分かっていてスルーしたのだろうか。
(いや、邪推はやめよう。こんなこと考えるだけ無駄だ)
そんなことを考えていると、ケータイが鳴った。
携帯を見ると、リーチの名前が表示されている。
「今度こそリーチだ」
「あ、顔がイケメンの方か。それじゃ、ウチら帰るね。とにかく、今日はゴメン!」
「Excuse moi……失礼します」
そう言って、二人が部屋から出ていく。そして、俺は電話に出る。
「もしもし?」
「ああ、ルイ。やっと出た。何? 昼寝でもしてたの?」
「悪い、一度起きて、また寝てた」
「まあ、色々と疲れてるだろうしね、仕方ないよ」
「お気遣い、感謝するよ。それより、柚莉は大丈夫なのか?」
「うん、帰ってきてからはずっと安静にしてたから、落ち着いてるよ」
「そっか……」
「でも、昨日ルイに助けられたことを気にしてるみたいでさ。倒れる前後、少し記憶が飛んでるみたいで、どんな姿を見られたのか分かってないみたい」
「気にするな……と言いたいところだけど、ま、気にするよな。普通は」
「うん。だから病気について知ってるってことは、黙ってて欲しいんだ。昨日のことは、あくまで貧血を起こして倒れただけ、とかね」
「わかった。この後、ちょっと見舞いに行っても大丈夫か?」
「もちろん。ルイさえよければ。ユズには僕から伝えておくよ」
「……って、ルイ、ウチの場所知らないよね。じゃあ、シカ電の柳小路まで来てくれれば、駅で待ってるよ」
「じゃあ、また後で」
時計を見ると、もう夕方の4時を過ぎていた。
俺は簡単な用事を済ませ、早足でリーチたちが住む三城家へと向かった。
初めて訪れた三城家は、駅から少し歩いたところにある古い大きな家だった。リーチに案内された俺は、柚莉の部屋へとやってきた。
「お邪魔しまーす」
そう言いながら俺は、静かに扉をノックする。
ノックとほぼ同時に、扉が勢いよく開かれる。
「はぁ……はぁ……る、ルイ、来てたんだ」
「ん? どうしたんだ? そんなに息切れして。まさかまだ治ってないのか?! だったら俺は帰るけ────」
俺がそう言いかけた瞬間、リーチの言葉でそれが勘違いであることに気が付く。
「いや、大丈夫だよ。ルイが来るって聞いて、めっちゃ慌てて部屋を片付けてただけだから」
「もう! なんでそういうこと言っちゃうの!?」
「まったく、普段から綺麗にしてないから……ルイ、そこのクローゼット開けてみて」
俺は言われた通りにクローゼットに手を伸ばす。
「あれ? なんかはみ出てるけど……」
俺はクローゼットを見ると、端から何かが出ているのに気づく。
「これって……」
俺は敢えてその先の言葉は言わない。
「なんでもないよー! なんでもないからねー!」
柚莉はそう言って誤魔化そうとする。そして柚莉は、クローゼットを直そうとするが、それは叶わず中身が全て出てしまう事態となった。
「はぁ……しょうがねえなぁ」
俺たちは一緒に部屋の中を片付ける。
「じゃ、そろそろ帰るか?」
もうここにきてかなり時間も経っているので、ここらで帰らせてもらうことにした。
「そうだな。じゃあ、僕が送っていくよ。ユズは絶対安静にしておくように」
「はーい」
柚莉はやや不服そうにそう答える。
俺たちが歩いていると、背後から声がかけられる。
「あれ……楠瀬くん?」
「あ……ええと、YuKuRuの……汐鐘さん」
この人は汐鐘京子さん、YuKuRuで働いてる人で、前に嘉神川さんがスカウトされた時に助けてくれた人だ。
「そうそう。夕凪荘の、でもいいけど」
「汐鐘さん、お久しぶり……って、なんでルイが知ってるの?」
「この前、偶然お店に寄って、そこで」
「ええ? なんで?」
なんで、って言われても成り行きで、としか言えない。そうしたら余計話がややこしくなりそうだったので、俺は話題を変える。
「そもそも、汐鐘さんは夕凪荘で下の階に住んでるんだから、知ってても変じゃないだろ」
「ああ、まあそれもそうか」
「そっか、楠瀬くんとリーチくんはお友達だって言ってたものね。ふたりとも、どこか出かけた帰り?」
「そうですね。ちょっとリーチの妹のお見舞いに」
「あら……ユズの具合悪いの?」
「ええ、ちょっと、でももう大丈夫です」
リーチは心配させまいとそう答える。
「なら良かった。この後、ヒマならどう? お店寄ってかない? 久しぶりにリーチくんも」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
俺は断る理由もないので、リーチも誘う。
「リーチもどうだ?」
「い、いや、俺演劇部の練習あるからさ……」
「……そうか、なら、また柚莉が元気になったら一緒に行こうか」
そんなわけで、思いがけず汐鐘さんと一緒にYuKuRuへと行くことになった。
俺はYuKuRuから帰宅し、勉強を始める。
(そういえば、こっちに来てから家で勉強するって、今日が初めてな気がする……)
「ふぁ……はぁ……」
机に向かって、参考書とにらめっこをしていると眠気が襲ってくる。
(ここらへんで辞めておくか……)
俺は30分ほどで勉強を終えると、軽くシャワーを浴び、明日の支度を終わらせ、早めにベッドに入る。
そして、瞼を閉じようとした瞬間、ケータイから通知音が流れる。
(誰だ? こんな時間に)
ケータイの表示を確認すると、ローマ字でこう書いてあった。
KOTORI
「…………」
「……誰だ? ことりって」
俺はメールの本文を確認する。
────────────────────────────
琴莉だよ
久しぶり、元気だった?
何から話せばいいか分からないけど……
琴莉は、元気だよ
多分、とっても心配かけちゃったと思う
だから、ごめんね
────────────────────────────
メールの内容は、たったそれだけだった。
心配をかけた? ごめんね? こんな短い文章じゃ、情報が少なすぎる。
とりあえず俺は、残っているボタンで出来る限りの情報を引き出せるような文章を考えた。
だれ おしえて かさね
少々簡潔すぎる文だとは思うが、仕方ない。俺はこれを送信する。
が、それに対する返信はかえってこない。
「まぁ、そんなすぐに来るわけないよな」
俺は明日に期待して瞼を閉じた。
翌日、俺は起床早々、携帯の通知を確認するが、なにも来ていない。
「はぁ……」
俺はため息とともに、朝の支度をして、家を出る。
リーチと柚莉に会って、一緒に電車に乗る。
「柚莉、本当に平気なのか?」
「だからー、今日あってからもう10回ぐらいしてるよ、その話!」
「ルイがそれだけ心配してくれてるってことだよ」
「それは分かってるけどぉ」
「大体、リーチだって昨日からずっと心配だー心配だーって言ってたじゃないか」
俺は琴莉さんのメールが気になっていたが、今は口に出さないでおいた。
────放課後、俺は電車に揺られながら考え事をしていた。
一体誰なんだ? 琴莉って。夢だったのか? いや、それは……
いや、夢だ。夢ということにしておこう。そうだ、いきなり北海道から転校してきて周りの変化に慣れてないだけなんだ。嘉神川さんたちと出会ったりYuKuRuで沢山の人に出会ったり……etc
「そうだな、色々出会いもあったしな」
「……顔を見ただけで見透かしたようなことを言うの、気持ち悪いぞ、リーチ」
「でも、こっちに来てから大変だったなーとか、そういうこと考えてたでしょ? そしたら、色んな人に出会ったってところまで考えるのがルイじゃん」
リーチは俺の性格が手に取るようにわかるようなことを言う。
「否定はしないけど」
「だったら、あそこの二人とか挨拶した方がいいんじゃない?」
そう言ってリーチは嘉神川さんと寿奈桜ちゃんの方を指さす。
俺はそこまで行こうと思っていたのだが、この電車はかなり混んでいた。
「……」
寿奈桜ちゃんが一瞬俺のいる方を睨んだ。俺ではなく
『俺のいる方向』をだ。
俺は人の間を縫うようにして、二人のもとへ向かった。