Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE   作:キラトマト

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第五話 つけていたのか?!

「ちょっと、ルイ!?」

 

 俺の行動に驚愕したのか、リーチは声を上げる。

 

「おはよう、コウサカさん、ノリちゃん」

 

 俺は咄嗟に思いついた名前を口に出す。

 

「へっ? ルイルイ?」

 

「……」

 

 二人とも困惑の表情を浮かべている。

 

「コウサカさん、ちょっと顔色悪いね。押されて気持ち悪くなっちゃったかな? 次で降りようか」

 

「大丈夫、任せて」

 

 俺は小声でそう言って電車を一緒に降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寿奈桜ちゃんは、電車をおりた途端、俺に文句を言ってくる。

 

「もーっ! なんだよルイルイ、さっきのは! わざわざ一本電車を遅らせるとか、意味わかんないし!」

 

「大体、ノリちゃんって誰だし! ウチ、そんなあだ名で呼ばれたことあったかなー? って、悩んじゃったじゃん!」

 

「そうだよ。ちゃんと説明してくれないと」

 

 寿奈桜ちゃんの言い分に、リーチまでもが口を挟む。というか何故リーチも一緒に来たのだろうか? 

 

「いや……別にリーチまで降りる必要はなかったんだが」

 

「ちょっ、酷くない?」

 

「……」

 

「俺の勘違いでなければ……なんだけど、嘉神川さんの後ろにいたおじさん、痴漢だったんじゃないのか?」

 

「ゲ……、マジで?」

 

「マジで!? それワタシが見てたオヤジじゃん! コロす!」

 

「……」

 

 尚も嘉神川さんは黙ったままだ。自分が痴漢されていたというのに、いや、だからだろうか。

 

「俺から見たらあのオジサン、いくら電車が混んでるとはいっても、必要以上に押しているように見えたんだ」

 

「てかそれだったらさ!! あのオヤジ、つまみだすなり駅員呼ぶなりすればよかったじゃん!!」

 

「当然それも考えたよ。でもただ押してるだけじゃ痴漢として立件するのは難しい。かといってもっと触るのを待つというのはあまりにも酷だ」

 

「ったりまえっしょ!」

 

「だからわざと大きな声を出して、気づいてるぞってアピールしつつ電車を降りたんだね?」

 

 リーチが確認する。

 

「そんな感じだ。……まぁ、根本的な解決にはならないけど……、寿奈桜ちゃん、こういうことって結構あるの?」

 

「ば、バカにすんなし! ウチだって痴漢にあったことぐらい……あるとは────」

 

(そういうことを聞いているんじゃないんだけど……)

 

「そういうことを聞いているんじゃない、かい?」

 

 ハッ! 

 

「リーチお前……」

 

「はは、ルイの考えてることなんて手に取るようにわかるって」

 

 怖いんだけど……

 

「……まぁ、とりあえず、今度朝一緒になったら俺も同じ車両に乗ることにするよ。もし何かあったらすぐに声をかけて」

 

「あ、ありがと……」

 

 寿奈桜ちゃんはいつもとは違って弱々しく感謝の言葉を伝える。

 

「……って、もしかしてルイルイ、そうやって嘉神川に近づこうとする作戦!?」

 

「お、おいルイ、そうなのか……?」

 

 リーチは寿奈桜ちゃんの言葉を信じたのだろうか? 

 

「近くにいる優しそうに見えるヤツがストーカーだったって昨日ドラマでやってたし!」

 

「リーチ、余計な口は慎め」

 

「……別にやりたくてやってる訳じゃないんだ。……ただ、困っている人を見過ごせないというかなんというか……」

 

「ヒューヒュー、ルイルイかっこいいー!」

 

「そうやって茶化すならもう助けてやらないけど」

 

「あー、ウソ! ウソウソ! ルイルイごめん! おねがいしゃす!」

 

「あの……」

 

 珍しく嘉神川さんが声を上げる。

 

「……ん?」

 

「名前、わざと間違えたのって……後から調べられたりしないように……」

 

「まぁ、一応ね。ただ、わざととはいえ、名前間違えてごめん」

 

「いえ……Merci. ありがとうございました」

 

 お礼を言って、彼女たちは林鐘寺駅で降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海陵祭も終わり、学校は浮かれた空気から落ち着きを取り戻していた。普通に授業が行われ、普通に一日が終わる。そんな毎日を繰り返していると次第に、感じていた違和感も収まっていった。三学期に行われる特別模試も、この調子なら大丈夫だろう。

 

「さて、帰るか」

 

 今日は柚莉もリーチも部活だ。このまま校内をぶらつくより、家に帰って勉強するほうが身のためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノレールに乗り換えようと、駅のホームを歩いていると……。

 

 改札の向こうに、明らかに目立つ髪色、そして赤のリボン……

 

 嘉神川さんを見かけた。どうやら海の方へ向かうようだ。

 

(せっかくだし、着いて行ってみるか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女のあとを着いていく。彼女は、ある場所へと辿り着くと、ちょこんとしゃがみこむ。彼女の前には、一匹の白猫が甘えた声を上げていた。

 

(飼い猫か……?)

 

 そして何より驚いたのは────

 

「にゃーを」

 

 声は発さないが、彼女は普段は見せないような……そんな柔らかな笑みを、猫に向けていた。

 

「ふふ……、にゃーお。しらす、ご機嫌だね」

 

 その言葉に呼応するように猫も鳴き声をあげる。

 

(しらす……か……)

 

「君は、私を嫌いにならないでね? ……今日も、しらすと会えて、嬉しいよ」

 

 ……俺は、彼女のその姿に、思わず見惚れてしまっていた。

 

「あっ」

 

 猫が逃げる。……やっちまった、少し近づきすぎたようだ

 

「あ……」

 

 嘉神川さんは俺に気付いたのか、声をかける。

 

「……いつから、そこで」

 

「覗き見していたのですか」

 

 嘉神川さんは、さっきとは打って変わって険しい表情になる。

 

「あ……いや、そんなんじゃ……散歩してて……じゃなくて……買い物……そう、買い物してたら見かけたんだ!」

 

 俺は必死に弁明する。……あの様子じゃ、嘉神川さんはおそらく許していないだろうな。

 

「……あの子、逃げてしまいました」

 

「ごめん……飼い猫……かな?」

 

「……家では、飼えません」

 

「……そうか」

 

「家には、おもちもいますし」

 

 おもち!? 

 

「あのさ……今更こんなこと言っても、言い訳にしかならないと思うんだけどさ、理由があるんだ」

 

「……何か、ご用ですか?」

 

(よかった……反応してくれた)

 

「……その、笑顔がさ、なんというか綺麗でさ……つい」

 

(は? 俺は何を言ってるんだ?)

 

 俺は口から自然と出た言葉に驚愕する。それは彼女の方も同じだったようで、嘉神川さんは……

 

「ぇ……」

 

 目を点にしていた。

 

「ん……」

 

「い、いや、俺はただ見惚れてたというか……」

 

 なんだか今この瞬間も失言をし続けている気がする。

 

「……知りません」

 

「あの……さ、あんな顔初めて見たから……」

 

「……今朝のことは、とても感謝しています」

 

「でも……そうやって人を観察するのは失礼です……失礼だと、思います」

 

「あ、あぁ、そう……だな。ごめん。君が嫌がるようなこと、してしまったな」

 

「……C'est genant」

 

「……? 時々挟むのはフランス語だよね? 何とか聞き取れるようにたまに勉強したりしてるけど」

 

「……別に、知らない方がいいです」

 

 また明日、か。そう言って嘉神川さんはひとりで駅の方へと歩いて行った。

 

 俺も駅の方へ行きたいんだけど……これ以上ついていったら、怒られそうだな。

 

 仕方がないので、しばらく時間を潰してから帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、浜咲駅で直ぐに乗り換えずに、海の方へと歩みを進めたのに、特別意味はなかった。断じて昨日嘉神川さんを見かけたから、という考えからではない、断じて。

 

 だが一応昨日嘉神川さんがいた場所へと寄ってみる。

 

 ……今日も嘉神川さんとバッタリ、なんて偶然は起きないか……

 

 そんなことを考えていると、予想外の光景に遭遇した。

 

「嘉神川さんさぁ、ちょっと勘違いしてなぁい?」

 

「……」

 

 俯く嘉神川さんの顔を、嫌な笑みを張り付かせた女子が覗き込むようにして口を開く。

 

「別に私たちはねぇ? あなたが嫌いだとかぁ、そういうことは言ってるんじゃあないの」

 

「ただぁ……」

 

 片割れは鬱憤を晴らすように言う。

 

「同じ空気を吸うとぉー、気分がねぇ、悪くなっちゃうのぉ」

 

「あは!」

 

「何それ、ウケる~!」

 

 もう一人も同調するように笑い声をあげる。

 

 ────醜い。だから俺は……いや、来てよかったのかもしれない。体の芯から湧き上がるような熱が、俺の体を襲う。

 

「チッ」

 

 俺は困っている人を放ってはおけない。ただ、それだけ、それだけのはず……

 

 ────気付けば、嘉神川さんと、彼女達の間に、割り込むように、俺は立っていた。

 

「……え」

 

 俺の行動に困惑したのか、嘉神川さんは声を上げる。

 

「誰よ、あなた」

 

「俺か? んなこと関係ないだろ。この場では」

 

「ハァ……? で? 何? もしかして彼氏?」

 

「って、んなわけないか! こぉんな能面女に!」

 

「ヤッバ、超ウケるー」

 

「あぁそうだ。俺は彼女と付き合っている。そうだな?」

 

 俺は嘉神川さんに目で合図を飛ばす。話を合わせてくれ、と。

 

「え、マジ……? こんなヤツと? 何言ってるかわかんねーんですけど? キモ……」

 

「ヤッバ、超キモイ」

 

「俺の事をなんと言おうと構わないけど、嘉神川さんのことを悪く言うのはやめてやってくれないか」

 

「人の悪口を言うなんて、弱者のやることなんだ。君たちは弱者なのか?」

 

 俺がここから何をいえばいいのか考えていると、同じ制服を着た女子が二人現れた。

 

「あれ? ふたりとも何してるの?」

 

「あ、美咲……いや、なんか変なのに絡まれてて」

 

「買い物、終わったの?」

 

「うん。……あれ? 嘉神川さん? まぁ、見間違えるわけもないけど」

 

 なんだか言い回しが嫌な感じがするが、それだけだ。それだけで非難する理由にはならない。

 

「……」

 

「ふ~ん。やっぱり返事はしてくれないのね。相変わらず、私の事嫌いなんだ?」

 

「……」

 

 しかし、嘉神川さんは何も言わない。

 

「おーい、何とか言えよー」

 

「起きてますかー?」

 

「いいよ、ほっとこ。行くよ」

 

 そうして、嘉神川さんに絡んでいた女子たちは去っていった。

 

 ──俺は何も言い出せなかった。それは、その四人組の中に────寿奈桜ちゃんが、混ざっていたのだ。

 

「……」

 

「……」

 

「一応、こういう時は、感謝……すべきですね」

 

「いや、俺は……本当にごめん。嘉神川さんにめい────」

 

 言いかけると、俺の頭に強い痛みが走った。

 

「────ッ!?」

 

 俺は痛みのあまりその場に倒れ込んでしまう。

 

「……っと……! ……すの……さん?」

 

 微かに嘉神川さんの声が聞こえる。心配してくれているのだろうか? 

 

「ぁ……ぁ……」

 

 ────俺はその瞬間、意識を失ってしまう。

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