Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
──俺は、夢を見た。見渡す限り白の世界の中、俺は一人、そこに佇んでいた。いや、一人という表現は違う。目の前にピクリとも動かなくなった男性が一人倒れていた。俺はその男性のことを、見たことがあるような気がした。ふと、手に握られているものを見ると────
「あぁぁああ!」
────俺はそこで目が覚めた。
「楠瀬くん!!」
マスターが声をかける。どうやら俺はベッドで寝かされていたようだ。しかし、ここはどこだ?
「ま、マスター?」
「マスター? じゃないよ! 大変だったんだぞ、突然ノエルちゃんがやってきて……」
「君を抱えてここに来たんだよ、お客さんがいなくてよかったけど……」
「そうだ嘉神川さんは……!」
俺は慌てて起き上がろうとするが、マスターに静止される。
「彼女なら君をここに連れてきたらすぐ帰ったよ。『お礼ならいりません。あとは頼みました』って言ってね」
「ハハッ」
俺はつい笑みがこぼれてしまう。
「ん? どうした楠瀬くん、君が笑うなんて珍しい」
「いや、嘉神川さんらしいなって思って」
俺は正直に思ったことを口に出す。
「というか、もう帰らせて頂いてもいいですか?」
あの場面に出くわしたのは夕暮れ時だったはず、ということはもう日は落ちているはず。
「大丈夫なのか? 確か、頭を抑えて倒れたんだろう?」
大丈夫といえば嘘になる。が、ここに長居する訳にもいかない。
「はい、大丈夫です。では」
俺はそう言ってYuKuRuを後にした。店を出るとそこには……
「か、嘉神川さん!?」
「ま、まさかずっと待ってたの……?」
「はい、心配だったので」
嘉神川さんはそう断言する。
「もう外も暗いのに……」
「……一応、私が送ったので」
「だったら店の中で待っていたら良かったのに……」
「何も頼まないで居座るなんて、失礼です」
「……それより、もう大丈夫なんですか?」
「うん、もう痛みは引いたしね」
「……それなら良かったです。ではこれで」
なんとも簡素な言葉を言って嘉神川さんはその場から立ち去る。
────俺は、またこんなことが起きないために、家に帰宅するとすぐにベッドに入る。
翌日、俺は駅のホームへと行くが、寿奈桜ちゃんの姿は見えない。
(昨日、あんなことがあったんじゃな……)
電車に乗ると、嘉神川さんと寿奈桜ちゃんが同じ車両に乗っていた。二人とも俺の姿を見ると目を驚かせる。それもそうだ、俺もいつもと一つ車両をずらしたのだから。
「あ……」
「……」
「おはよう、二人とも」
「ああっと……その……」
寿奈桜ちゃんは俺が話しかけると気まずそうにしどろもどろになる。昨日、俺に見られたことを気に病んでいるのだろうか?
しかし────
「……おはようございます」
嘉神川さんは平然とした顔で俺に挨拶をしてくれる。なら、俺が言うべきことは一つだ。
「昨日はありがとう、嘉神川さん」
そう、感謝の言葉だ。マスターは礼はいらないって言ってたけど、人として感謝はするべきだろう。
「え……な、なんか……あったの……?」
寿奈桜ちゃんは恐る恐る聞いてくる。
「ああ、少し世話になっただけだよ」
「それに、今日は痴漢もいなさそうだしね」
昨日のおじさんも見当たらないし、何より今日は空いている。
「……その節は、どうも」
「嘉神川さってさ、なんて言ったらいいか分からないんだけど、言葉遣いで距離感じるんだよね。なんかかたいって言うか」
「そうでしょうか」
「うん、誰にでも他人行儀だからさ。気になって。でも、言葉遣いが丁寧なのはいいと思うな」
「きっと、日本語を教えてくれた人がいい人なんだね」
「……はい。母が、いつ日本に来ても大丈夫なようにって」
「へぇ、お母さんが」
「や……ちょ、ちょい待った!」
「どうかしたのか?」
「どうかしたのか? じゃないし! なんでそんなフツーに嘉神川と話してるかな!」
「なんで、って。フツーに会話しただけでなんでこんなに言われなきゃいけないんだ? ね、嘉神川さん」
「はい……ナオちゃん、どうしたの? 大丈夫?」
「か、嘉神川まで……! 二人の間に何が……! うちでも普通に喋れるようになるまで、すっごい時間かかったのに……!!」
なんだか寿奈桜ちゃんの調子が戻ってきている。
「別に……ただ……」
「ただ?」
寿奈桜ちゃんは嘉神川さんの言った言葉をオウム返しのように聞き返す。
「楠瀬さんは、少し似ている気がする。だから、話しやすいかも」
「似てる……て、誰に?」
「……わたしに」
(マジで? 嘉神川さん?! 嘉神川さん!!)
俺は内心かなり嬉しかったが、それを顔には出さない。
「じーざす……っ」
「ちょ、ちょっと目を覚ますし、嘉神川! きっとまだ寝てるっしょ!」
正直、俺にとっても先程の嘉神川さんの言葉は驚きだった。だが、それを上回る喜びがあったのは確かだ。でも、これは本当に嘉神川さんの本心なのか?
『次は、林鐘寺。林鐘寺でございます』
「A bientot」
そう言って嘉神川さんは電車を降りる。
「おいこら、ルイルイてめー! ちょ、調子にのんなし!」
捨て台詞のようなものを残して寿奈桜ちゃんも降りていった。
GWも明けて学校も始まるので文字数少なくなります。楽しみにしてくれている皆様すみません!