Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
「てかさー、ルイルイ、嘉神川に言ってた昨日はありがとうってなんのこと?」
その質問に俺は返答に迷ってしまう。
「あ、あぁ、そ、そのことか……。俺が倒れたから助けてもらった」
俺はなるべく誤解されないように説明した。
「は?! ルイルイ倒れたの?! いつ!?」
「いや、まぁ、寿奈桜ちゃんたちが去っていってすぐ、かな」
「それでそれで?!」
「もう、いいだろ。ほら、着いたぞ、帰った帰った」
俺がそう言うと、寿奈桜ちゃんはぶーっと顔を膨らませて帰って行った。
「さて、と。俺も帰るとするか」
そして、俺も家に帰って早めに寝床に入った。
気が付けば、こちらに来てから10日がすぎていた。
今日は夕方からリーチに浜咲の周辺を案内をしてもらう予定はあるが、それ以外は特にない。
「もう出るか」
俺は家にいても何もすることがないので、外で時間を潰すことにした。
日中は部活だというリーチに早めに出ていることを連絡すると、
『引っ越してきてもう10日も経つのに、他に友達とかいないの~?』
と、情のかけらもない酷い返信が来た。友達ならできたっつーの。こっちから誘わないだけ、それだけ……のはずだ。
そんなことを心で呟いていると、
「…………やめてください」
「大丈夫、君ならすぐ人気出るから」
「お金あれば、なんだって買えちゃうよ?」
人気の少ない通りで、嘉神川さんが二人組の男に絡まれている光景が目に入った。
(……キャッチか?)
「……しょうがねぇなあ」
俺が助けてやろう、と、動き出したその時。
「ナンパにしてはセンス無さすぎね、あんたたち」
「んだ、てめぇ。年増に用はねぇよ」
「ねーちゃんには関係ないやろ」
セリフクサすぎだろ。
「じゃあ、こういう状況に関係の深い、お巡りさんに来てもらおうかしら。通報させてもらうわね」
そう言って久世さんは手に持ったスマホを耳元に当てた。
「あっ、てめぇ……!」
「くそっ、あーもうめんどくせぇ……行くぞ」
「え! いいんすか?!」
一人の男はもう片方に指示を出して去っていった。
「ついに念願の『おぼえてやがれ!』を聞けると思ったのに、残念」
「ノエルちゃん、大丈夫だった?」
「……はい」
「この辺、ああいう強引な連中もたまにいるのよ。気を付けて」
「……はい」
まぁ、これで久世さんも立ち去っていれば、ただの善意の行動として片付けられるんだろうけど……
「そうそう、この前の話、ちょっと考えてくれた?」
「……え?」
ほら、やっぱり。
「良かったら、どこかちゃんとしたプロダクションや事務所も紹介するわよ。それなら、さっきみたいなのに絡まれても『もう所属してますから』って済むし」
「もちろん、私はさっきのと違って────」
そして久世さんは、自分の事務所に所属するメリットを嬉嬉として語り始めた。
(はぁ……もう見てられないぞ。こんなクサい茶番につきあってられるほど俺も暇じゃない)
「久世さんとさっきのお仲間と、どう違うんですか」
「え……? 君は、この前の……楠瀬くん? えーと、どういう意味かしら?」
「どうもこうも、あなたのマッチポンプですよね? 全て」
「何? もしかして、さっきノエルちゃんに絡んでた連中が、仕込みだとでも?」
久世さんが敵意のようなものを向けてくる。
「ええ、そうです。違いますか?」
嘉神川さんがそっと俺の陰に隠れる。
「……」
「あなたの携帯、電源入ってなかったですよね? 脅しだとしても、不自然すぎる」
「それに、見たんですよ。あなたがずっと絡まれている嘉神川の方を見てタイミングを見計らっているのを」
もちろん嘘である。俺はずっと嘉神川さんの方を見ていたのだから。
「……ひ、人違いじゃ。ま、まあいいわ。とにかくノエルちゃん、私は諦めないからよろしくね!」
そう言い残して、久世さんは踵を返して行ってしまった。
「今の……」
「ああ、嘘、見てはいないよ。ま、あの反応を見るに、当たらずとも遠からずって感じかな」
「俺も年増にのくだりまでは信じてたんだけどね……」
「というか、嘉神川さんも気付いていたんじゃないか? 所属して、の辺りで」
「Oui.……その通りです」
嘉神川さんは静かに肯定する。
「あの……楠瀬さんは、なぜいつも、私を助けてくれるのですか」
「なぜって……自分の意思に従ったまでだよ。助けたいから助けた。それだけだよ」
「何かを……後悔しているのですか?」
「……分からない」
俺にはそう答えることしか出来ない。なぜなら俺には幼少期の記憶が無いからだ。リーチや柚莉との思い出も中学からしかないし、もちろん、この話はリーチや柚莉にも言っていない。俺しか知らない秘密だけど。
「でも、今日俺がここを通り掛かったのは、本当に偶然だよ」
「って! それよりさ、謝らなければいけないことあるんだけど……」
「……なんですか」
「一昨日さ、俺と付き合ってるとか言ってしまったからさ、なにか迷惑になってないかとか……」
「……別に、心配はいりません」
「……そうか」
「でも、何かあったら、いつでも言っていいから」
「あっでも、学校が違うから……」
「……それなら、ちょこを交換してください」
嘉神川さんが具体的な案を出してくれるが、なんだ? チョコを交換って、バレンタインならまだまだ先のはずだけど……
「……チョコ? バレンタインのことか?」
「……スマホ、貸して下さい」
俺は言われるがまま、嘉神川さんにスマホを手渡した。
「ごめん、俺、スマホじゃなくてガラケーな上に壊れてるんだ……」
「……」
嘉神川さんが目を細めて、大きくため息をもらす。
嘉神川さんと別れて、元々約束していたリーチと合流した。
「────ってことがあってさ」
「つまり、ルイにもスマホが必要になったと」
「ああ、そういうことだ」
「ところで、嘉神川さんが言ってたんだけど、ちょこってなんなんだ?」
「おおお……ルイ漫画に出てくるおっさんみたい……」
「おじさんで悪ぅございましたぁ」
「あと、今さりげなく嘉神川さんの名前がでたけど……」
「……まぁいいや。ちょこっていうのはね、ChoCoTalkってアプリのこと。IDを交換しておけば、メールやチャットみたいなやりとりや、通話もできるんだよ」
なるほど、LINEみたいだな。……ん? LINEってなんだ? ……まぁいい、そんなことは今は関係ない。
「つまりは、メールとか電話が無料で、できるってことだな」
「正確にはデータ通信量はかかるけど……って、あー、もういいや。その認識で大丈夫。あとは使ってみて慣れて慣れて」
「ああ、そうだな。……でもさぁ、俺の携帯壊れちゃってるんだけど……」
俺がそう言うと、リーチは待ってましたと言わんばかりにスマホを取り出す。
「リーチの……にしてはやけに派手だな」
「ユズが前に使ってたヤツだよ。少し前に機種変したんで余ってたんだ。これ、引越し祝いにあげるよ」
「ま、マジでか?!」
突然の申し出に驚きを隠せない。
「もちろん、ちょっと手続きが必要になるけど、この後ショップ行けばすぐ使えるようになるよ」
「なんか悪いな。色々付き合わせちまって」
「いいってことよ!」
こうして俺は、リーチに一通りの使い方を教えてもらい、嘉神川さんとリーチ、柚莉のIDの登録を済ませてから家路に着いた。
「絶対寝るって!」
リーチにスマホと一緒に渡された説明書はとても分厚く、ペラ紙一枚のそれを大きく凌駕していた。
とりあえず、普通の通話とネットの見方、それからちょこの使い方ぐらいは何とか覚えられた。が、俺の体は既に限界であった。
予習を終わらせた後だったので、なんの躊躇いもなくベッドに入ると、ちょうどちょこのメッセージが届いた。
{ちょこ、使えるようになったんですね}
{今日はありがとうございました}
とても簡潔なメッセージだったので、俺もそれに合わせて短いメッセージを送ることにした。
{どういたしまして。もう寝ます}
{Bonne nuit. おやすみなさい}
それにしてもアイコンの白い動物……この子が前に飼ってるって言ってたおもちかな? 俺はそれに対するメッセージを送る。
{かわいいね。おやすみ}
(いいものだな……ちょこって)
俺は電気を消して、目を閉じ、そのまま眠りにつく。
実は(暇じゃない)の後の文が消えちゃって、しかも保存してなかったから覚えている範囲で書き直しました。そのせいで投稿が遅れました。すみません!