Memory'sOff ─Innocent Fille─ REMAKE 作:キラトマト
────それは、日曜日の午後、俺が買い出しから帰ってきて自炊をした俺は、どうせ今日は用事もないし眠ろうと思っていた。その時だった。
「ん……?」
スマホから通知音が鳴る。
{ルイルイ、今ちょーヒマだよね? }
俺が返事に迷っていると、またメッセージが来た。
{既読無視すんなし! }
見たかどうかもわかるのか。すごいな、ちょこって。
{ムカつく! もういいし! }
諦めた……のか? まあいい。どうせろくな用じゃなさそうだし。そう思って今度こそ眠ろうというとき、チャイムが鳴らされる。
「……しょうがねぇなあ」
俺は観念して、仕方なく玄関へと足を運ぶ。
「……なんだよ、休日だぞ」
「やっぱいるし!」
俺が出てきたことは予想済みだったようで、寿奈桜ちゃんにはさほど驚きの様子は見られない。
「寝てたんだよ」
「でも既読ついたし!」
「寝ようと思ってたとこだった。俺は寝るから、さあ帰った帰った」
俺はなるべく早く事を済ませたかったので、無理やりにでも返そうとする。
「ってちょっと待つし!」
「なんだよ……?」
「ルイルイさあ、嘉神川と付き合ってんの?」
あぁ、前のあん時のことか。
「いや、前に嘉神川さんが絡まれてた時に、助けるために言ったけど……」
「そうじゃないし! ほら、ちょこ見たらルイルイと嘉神川がフレンドで繋がってたからだし!」
……どうやら、俺の予想は外れたみたいだ。
「っていうか、絡まれてた時ってなんのことだし!」
「いや、嘉神川さんが前、女子二人になんか言われてて、彼氏? って聞かれたからうんって答えたんだ。もちろん、後で嘉神川さんには謝ったけど」
「あ……なんか、その……ごめん」
俺の言葉に寿奈桜ちゃんは気まずそうに目をそらす。
「いや、今は責めてるんじゃないから! それより、誰と誰が連絡とってるとか、分かるんだな」
俺は気まずい空気を払拭しようと話題を変える。その考えをくみ取ってくれたのか、寿奈桜ちゃんも普段のテンションに戻る。
「ルイルイが素直に認めた……?! どんな悪いことして嘉神川と繋がったし! 言うし!」
「どんなって、嘉神川さんの方から教えてって」
「!? ありえないっしょ! 嘉神川から!?」
俺の言葉に寿奈桜ちゃんは怪訝の目をこちらに向けてくる。
「ウチですら教えてもらうのに一ヶ月かかったのに……」
「そんな事言われても……」
「やっぱり、ルイルイが嘉神川を無理矢理……」
「そんなに疑うなら本人に聞いてみればいいだろ」
「本人ならここにいるし!」
「いや、嘉神川さんにだ」
「そ、それは……なんか恥ずかしいし?」
「なんでだよ……」
俺にはいいのかよ、というツッコミは置いておいて。
「じゃ、じゃ〜あ〜、ちょうどもうすぐ嘉神川が遊びに来るから、ルイルイも来て」
「なんでこんなことに……」
俺はあまりにも突発的な発案に思わずため息をこぼしてしまう。
「それで嘉神川が嫌そうな顔したら、ルイルイが悪いってことが証明されるっしょ」
「俺に利点は」
「お……女の子の家に遊びに行けるの、文句言うなし!」
「大家さんの家、な」
「……! そうだ、うち大家じゃん。来ないとお母さんたちに言い付けるよ!」
しまった、あんなこと言わなければ……。今更悔やんでも仕方がない。
「……しょうがねぇなあ」
寿奈桜ちゃんの実家である明龍神社は、俺の住む夕凪荘のすぐ隣にある。ほぼ同じ敷地内と言っても過言ではなく、部屋の窓からも神社が見える。境内では寿奈桜ちゃんのお母さんが、掃き掃除をしていた。
「あら……、まあ、そうなの」
「ナオちゃん、良かったわねぇ。お兄ちゃん出来て」
「違う! そういうんじゃないし!」
どうやらお母さんの方は勘違いしているようだ。
「こんにちは」
「こんにちは、楠瀬くん。今日はお父さんもいるし、呼んでこようかしら」
その言葉に寿奈桜ちゃんはすかさずに口を挟む。
「余計なことすんなし!」
その声につられたのか、お父さんがやってくる。
「やあ、キミが楠瀬くんか」
「もういた!?」
「えぇ、初めまして。大家さん」
「いや、今は大家ではなく、寿奈桜も父として、ここに立っている」
(うわぁー、なんか気難しそうな人だな……)
「いや、父として出てくんなし!」
「寿奈桜は、今でこそこんな喋り方で虚勢を張っているが、根は優しく真面目な子でねぇ。とにかく、よろしく頼むよ」
「ナオちゃん、良かったわねぇ。お父さんも喜んでくれて」
「あーっ! もう、いいから行くし!」
寿奈桜ちゃんは俺に促す。
「あら、お部屋行くの? 片付いてる?」
「いいから、ほっといて!」
「あとでたい焼きかってきてあげるわね」
「それは食べるし!」
……面白い家族だな。
「……ぅぅ」
部屋に着いた俺たちは、嘉神川さんが来るまでの時間を、会話をして潰していた。
「なんというか、マイペースなご両親だな」
「……ぅぅ」
「……? どうかした?」
「る、ルイルイは……その、慣れてるの?」
寿奈桜ちゃんは、少し言いづらそうに聞いてくる。
「ああ、女の子の部屋に来てるってこと?」
「そ、そう! なんかすっごいフツーにあがってきたし!」
「普通って、案内してもらったら普通に入れるだろ」
「そ、それはそうだけど、もうちょっとこう……恥ずかしいとか嬉しいとか……」
「そんな事言われても所詮は友達の部屋じゃん」
そりゃ好きな人とか恋人の部屋に入ったとかなら別だけど、とは口が裂けても言えないな。
それに、女の子の部屋といえばこの前、柚莉の見舞いで行ったばかりだ。
「寿奈桜ちゃんこそ、確か彼氏いるって言ってなかったっけ? でも、だったらさっきのご両親の反応は……」
「う、ウチはそんな軽いオンナじゃないから、カレシも部屋にあげたりしないし! お父さんにもお母さんにも教えてないし!」
「そうなんだ。あの感じじゃすぐ受け入れてくれそうだけど」
「ウチのカレシの話は今はいいから! それより嘉神川のことだし!」
今まで嘉神川さんの名前出してなかっただろ、とは言わないでおく。
「ナオちゃん? 嘉神川さん来たわよ~」
「はーい!」
さっきまでとは違って寿奈桜ちゃんは元気に挨拶する。
(なんだ、普通にいい子じゃん)
俺は寿奈桜ちゃんが嘉神川さんと一緒に来るのを待っていた。
「それで……どうして楠瀬さんがここに?」
「俺が聞きたいぐらいだよ。嘉神川さんは、どうしてだと思う?」
「ん……、どうしてでしょう?」
嘉神川さんは質問に質問で返してくる。
「いや、だからそれを俺が聞きたいんだ」
「いえ、先に尋ねたのはわたしですよね」
あ、そうか。質問に質問で返していたのは俺だったのかッ!
「やっぱり……仲良く喋ってる……」
「別にいいんじゃないのか? なぜそんなに疑問に思う」
「嘉神川は難しいハズなんだし!」
難しい、って、ゲームじゃないんだし……
「わたしは、いつも通りだよ? ナオちゃん、今日なんか変だよ?」
「変だな」
俺も嘉神川さんの意見に賛成する。
「ウチがおかしいの!?」
そろそろ寿奈桜ちゃんが可哀想になってきたので、理由を話すことにした。
「寿奈桜ちゃんは、俺と嘉神川さんが連絡先を交換していることに、驚いたらしいんだ」
「にゃ、な、なんでそう言うこと言うし!」
「楠瀬さんには……色々してもらったから」
嘉神川さんは、あっさりとそう答えた。誤解を生みそうな言い方で。
「し、してもらった!? 色々!?」
(ほ~ら、寿奈桜ちゃん絶対変な意味に捉えてるよ)
「……助けて、くれたから」
「ウチだって、助ける……る、よ……?」
「だから、寿奈桜ちゃんはもう嘉神川さんの連絡先知ってるだろ。それに同じ学校だし」
「それはそうだけど! そう、なんだけど」
まだ納得していない、という様子の寿奈桜ちゃん。嘉神川さんって、いつもはそんなにガードが固いのか……。
「ナオちゃんは、わたしが楠瀬さんと連絡しない方がいいの? だったら登録消すけど……」
嘉神川さんは名残惜しそうにそう言う。
(消す……? え?)
「えっ? そんなことないけど……」
「良かった。ナオちゃん、楠瀬さんのこと好きなのかと思った」
……???
「はああ!? なんで!? ウチが!? そんなわけないじゃん!!」
「ルイルイはただの……隣のお兄ちゃん? お兄さん? みたいな感じだし!」
それはそれでダメな気がする……
「だだだ大体、ウチ、カレシいるって言ってんじゃん!!」
「うん、そうだったね」
「……今日の嘉神川、なんかちょっと意地悪な気がするぅ」
「楠瀬さんは……なんていうか、今まで私の周りにいなかったタイプ」
「ん? そうなのか?」
俺は嬉しい気持ちを抑えて質問する。
「……はい。だから────」
「ちょ、ちょっ、待つし! まさかウチの部屋で告白とかしちゃうの!? そんないきなり!?」
いきなり寿奈桜ちゃんが慌てて止めようとする。
「……ナオちゃんは、少女漫画の読みすぎ」
「でも、少しだけ……楠瀬さんに興味があるのはそうかも」
(!? ま、マジでか……)
俺は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。だが、そんな俺よりも驚いているやつが一名。
「ふぇ……、ええええ!?」
と、寿奈桜ちゃんのお母さんが部屋に入ってくる。
「あら~。大変ね、なお。お兄ちゃんの取り合い? はい、たい焼き」
「楠瀬くん……男にはな? 必ず選ばなければならない……そういう時が、いずれ来る。覚悟だけはしておきたまえ。ほら、たい焼き美味いぞ?」
寿奈桜ちゃんのお父さんまでもが入ってくる。
「っていうか、勝手にゾロゾロ入ってくんな~~っし!」
────それから、いろんなたい焼きを食べたり、ゲームで遊んだり──嘉神川さんは、何故か格ゲーが異常に強かったり、とにかく、最高の一日を過ごせた。
遊んでる時の様子はまた今後、書く予定です。お楽しみに!