突然学校のクラスメート達と共に異世界に召喚され!戦争の手伝いをしてくれみたいな事を言われてしまった。
要するに頼んでもないのに呼び出しておきながら人殺しの手伝いをしろと言われたも同義である。
しかし、そんな事をストレートに言えば断られる事ぐらいは向こうの方も分かっていたらしく、如何にもな言葉を並べて、自分達を持ち上げつつ誘導しようとしている。
その事に端的に気づいたのはハジメを含めて何人かのクラスメート達だった。
しかしいつの間にか天之河光輝という、所謂クラスにおけるカーストトップの男子がこちらに確認も無く勝手に了承をしてしまったせいで、見事ハジメ達は戦争の加担をするハメになってしまった。
「考えもしないで傍迷惑な話を勝手に進めてくれてどうもありがとう、天なんとかクン?」
「え、兵藤さん……?」
無論、最初から――いや、この世界に飛ばされたその時から異様に機嫌の悪かったハジメの幼馴染みの少女・マコトも同じことを考えていたらしく、『良いことしたぜ自分』みたいな満足気丸出しな顔だった光輝に対して吐き捨てる様に言うと、やはり終始不機嫌そうにハジメの横で、腕を胸の下で組んで立っていた。
「やっぱアレは馬鹿なんじゃないか? 要するに畜生共との戦争に加担して殺しまくってくれって言われてるような話に何で簡単に、疑いもなく――しかもオレ達まで同意してますみたいな体で了承しちゃうわけ?」
「ま、まあまあ……。ここに来てからずっとみたいだけど、どうしてそんなに機嫌が悪いの?」
「……。ちょっと久々に――ムカつく嫌な感覚に囲まれてる気がしてよ」
胸の成長のせいで、既にイッセーの頃のような腕組みができない様子のマコトが嫌に機嫌が悪い理由を訊ねるハジメ。
まあ、そうで無くとも普段からクラスメートとはハジメの件もあるので殆ど口も聞かないし、何なら中指でも立てる程度には嫌っているので、仕方ないのかもしれないが。
(その魔人族ってのと戦うのかな……。
もしそうなったら、今までマコトにして貰って来たように、今度は僕が……!)
肩まで伸びたブラウン色の髪を揺らしながら不機嫌そうな目をしている幼馴染みを見つめるハジメは、唐突すぎて色々と受け入れがたい事も多いが、マコトを守る事を心に誓う。
正直、マコトならその魔人族って者達を一捻り出来てしまいそうな気がしないでもないけど、それでもハジメは想うのだ。
マコトに貰ってばかりだった今までから、今度は自分が少しでもお返しをしないといけないのだ……と。
(普通の人には無いアレはある程度マコトに教えて貰ったから制御もできている。
……まさかラノベみたいな力が現実あるなんて思わなかったけど、これが僕にとっての『普通』になった今、何の疑いもなく受け入れられる……!)
その為には、マコトから少しずつ教えて貰った――『自分自身を知って受け入れた結果となる力』が必ず必要になる。
唯一他の誰にも無い、自分だけのマコトとの繋がりと思い、誰にも見せたことなく、軽いイジメも甘んじて受け入れてきた。
恐らくここでの生活が始まっても、彼等は自分に悪意を向けるだろう。
その度にマコトは何を言うまでもなく、それも堂々と自分を庇い、何ならハジメに悪意を向ける者達に飛び蹴りをかますお転婆っぷりを発揮してきた。
「? なんだよハジメ? オレの顔になんかついてるのか?」
「いや、何時ものマコトだねって思っただけ。
あと口調が素になってるから気を付けよう?」
「む……へいへい」
「違うでしょ?」
「わ、わかったわよ……!
………ぐっ、やっぱり無理があるっつーの……ブツブツ」
中学高校と、男としか思えない口調や態度ばかりだったそれをある程度矯正し、普段こそそれなりに女子っぽく振る舞えるようにはなれたマコトだが、そういう所だけはあの時から一切変わっていない。
どんな時でも傍にいてくれる親友。
どんな事があっても決して裏切らない幼馴染み。
そして、まだ自分も知らぬ何かをずっと抱えて生きている想い人。
貰ってばかりで何も返せなかったハジメは、女口調にしようとブツブツと練習中の幼馴染みを見つめながら、小さく微笑むのだった。
さて、そんなハジメの男らしい密かな決意を横に、かつて兵藤一誠であった兵藤マコトは、この異世界の胡散臭さについて相棒の龍と話し合っていた。
(死ぬほど大量で久々の畜生共の気配だらけだぜ……ハァ)
『昔なら嬉々として襲撃しようとしていたのに、マコトとして自制心を育めてくれたようで俺としては何よりだな』
(言うなよ。まあ、今となっては狂ってたと思ってるさ、『俺』も)
かつての頃の思い出をドライグに蒸し返されてしまい、軽く反省するマコト。
とはいえ、基本的に一誠の頃とは変わらず、人ではない存在には殺意程までとはいかぬものの、嫌悪感は残っている――いや、警戒心を抱いているというべきなのだろうか。
(寧ろ今現在は人間含めた他人が敵に感じちゃうしなぁ………)
『ハジメの小僧の事だな。
あの小僧が他人から悪意を向けられやすいのはお前と同じものを自覚せず持っていたからだろうな。
人間というのは、自分の理解の及ばない存在を排除したがる生物だ』
(まーな……)
『だから少しずつ小僧に教えたのだろう? 自衛の手段を含めて』
(けどハジメはオレに教えられた事をただの一度も報復に使わず、いじめられっ子を続けてる……。オレなら直ぐ様八つ裂きにしてやるのに)
『お前から教えられた事をそんな小さな事に使いたくなかったのだろうな。
貧弱ではあるが、精神は間違いなく強いぞ……』
(ああ、だからオレはハジメが好きだ)
『………………………………。肉体のみならず、精神も女に寄ってきたのか?』
(そういう意味じゃねーよ!? 人間としてって意味だっつーの! 一応心は男のままのつもりだ!)
『……。何時までも拘れる事でも無いだろうに……』
ドライグにからかわれつつ、この世界は引き続き要注意と判断するマコトだが、無論同じように飛ばされたこのクラスメート達にも警戒はする。
何せちょっと目を離せば、例えばちょっと向こうに居るヤンキー崩れグループの檜山辺りがハジメに絡み始め、やがて暴行までするのだ。
マコトがその瞬間、檜山の顔面を思いきり蹴り抜き、他の取り巻きもボコボコに伸してやってからは、表だってやることは無くなったが、それでもマコトが留守を見計らってハジメにちょっかいをかけているのは知っている。
ハジメ自身が何時だって『大丈夫だからマコトが心配することなんて無いよ』と言うから、ハジメの意思を尊重して気づかないフリをしてはいるが、この混乱に乗じてまたしてもやる可能性は高いので、今度現場を抑えたら、寝たきりぐらいにはしてやる気満々だ。
まあ、その気にさえなればハジメでも充分やり返せるのだが……。
「それ以上に問題なのは、どうやらあの天なんとかみたいだな……」
『周りを巻き込んで事態をややこしくする才能ならトップだな、あの
今に至るまでカーストトップの天之河光輝の事はそこら辺に落ちた消ゴムの欠片程度の認識しかしてなかったマコトだが、この異世界においては『自己満足で周りを巻き込んで事態を勝手にややこしくする木偶人形』という認識に変わっている。
彼もどういう訳か取り巻き共々、イジメではないがハジメに対して良い対応はしてなかった。
「んで、一番厄介なのがあの女の子だな……」
『ああ、今もハジメの小僧をガン見しつつお前に嫉妬めいた視線を寄越す小娘だな』
「は? オレ? なんで?」
『…………………』
そしてある意味一番ハジメにとって厄介すぎる存在が、クラス――いや学校でも指折りの美少女として名高く、女子のカーストでもトップに君臨する白崎香織である。
ドライグの言うとおり、本人はこっそりのつもりだが、先程からハジメの事をチラ見どころかほぼガン見しつつ、そのハジメの隣に居るマコトに嫉妬めいた視線を向けている。
生憎マコトとハジメ其々が彼女の視線に気づいていないのだが、とにかくマコト的には彼女は厄介この上ない存在だ。
それはハジメをイジメている――のではなく、寧ろ積極的に話しかけて来る程度には『分け隔てない』娘さんだ。
しかしその分け隔てなさがハジメにとって毒なのだ。
ご覧の通り香織は美少女で、それこそ男子人気なんかも当然高い。
そんな少女がほぼ嫌われ者にされているハジメに――好意的に話しかけたりすればどうなるか? 答えは簡単、『なんで南雲なんかに』というヘイトがハジメに向けられるのだ。
「う……また白崎さんがこっちみて笑ってる。
何なんだろうあの人……正直やめてほしいんだよね」
「多分ハジメが好きなんじゃねーの?」
「いやありえないよ、話したことなんてないし。
一億歩譲ってマコトの推察があってたとしても僕は別に白崎さんはクラスメートの人としか思えないし………」
「? なんだよ?」
「……な、なんでもない」
「???」
『………はぁ』
マコトは白崎香織がハジメにどんな意図の視線を寄越しているのか察している。
何度かそれとなく彼女をどう思っているのか、またハジメも好意的ならいっそアシストしてやろうとも考えてはいる。
しかし肝心のハジメは白崎香織を単なるクラスメートの一人としか思っておらず、この様子では他の誰かが気になる様子。
このすれ違いのせいで余計白崎香織の行動が微妙に大胆になりつつあり、そのせいでヘイトが余計向けられるという悪循環。
だからマコトとしてもハジメがこう思う以上は無闇に人前で白崎香織からの接触を避けさせるアシストをしようと思うのだ。
まさかそのアシストのせいで白崎香織から死ぬほど嫉妬されているとは知らずに。
そんなこんなでコントみたいなすれ違いのまま、飛ばされた時、偶々居た社会科教師の説得虚しく異世界で戦う事になってしまったハジメ達は、翌日に行われる座学と訓練の為に今日は休む事になった。
ハイリヒ王国なる国の王宮に通され、そこで一晩を明かす事になった。
「衣食住は保証してくれるみたいだね?」
「そりゃあこっちの意思ガン無視で呼び出したのは向こうだからな。
無かったら、あの偉そうなジジイを半殺しにしてやってたぜ」
「だからマコトその口調はダメだって……」
「あ、悪い」
「いや僕のほうこそごめん。
マコトのお父さんとお母さんにお願いされたから口うるさく言ってたけど、僕は無理することも無いと思うよ。
だからマコトが話しやすい口調でも良い――僕は無理して女言葉になるマコトより、いつものマコトの方良いし……」
「なにイケメンみたいな事言ってんだよ? けどありがとな?」
その際、マコトの口調について話し合い、結果ここは異世界だしマコトの好きにしたほうが良いとハジメに言われた事である程度いつもの口調で通す事になった。
「おい、聞いてたか南雲?」
しかし二人だけで話し込んでたせいで、王やら王妃やら王子といった紹介タイムを全スルーしてしまい、気づけば二人はクラスメートを含めた全員の視線を受けていた。
「えっと……すいません、聞いてませんでした」
「おい、一応オレも聞いてねーぞ」
何故かハジメだけ名指しで注意されたのてマコトも聞いてなかったと言うが、その男丸出しな口調を初めて聞いたクラスメート達の顔が驚いたものになる。
「兵藤さん……? キミそんな男っぽい口調だったか?」
「は? ああ……普段はこういうしゃべり方が素なんだよオレは。
めっちゃ親やハジメに注意されてきたから、今までは取り繕ってただけ」
「そ、そうか……ま、まあ決して似合わなくはないと思うぞ?」
「そりゃどーも」
サバサバというか、チンピラみたいな喋り口調は、今現在のマコトの容姿のせいか初めて聞かされた者達にとっては違和感が凄まじい。
まあ、一部のどこかの誰かは『アリかもしれない』と思ったようだが……。
チンピラ童顔気味巨乳少女キャラは流行りそうもなかった。
「えっと、とりあえず今日は二人一組に別れて用意して貰った部屋で休む事になったんだ……」
と、若干戸惑い気味に光輝がマコトに説明をするので、マコトは『あっそ』とだけ言うと、ハジメに言う。
「だってよハジメ? 早いとこ部屋行って今日は寝よーぜ?」
「あ、うん……でも部屋ってどこだろう?」
「あぁ、そうだった。
ねぇ、部屋ってどこすか?」
「え、あ……はい、ご案内します」
近くに居た騎士っぽい男性に部屋に案内して貰う事になったマコトは、そのままハジメの手を引きながら……なんか普通に行こうとする。
「ちょ、ちょっと待て! さっきからキミは南雲と行こうとしているが……いやその、間違いだったら勿論謝るが、同じ部屋で寝るなんておかしな事はしないよな?」
違和感を覚えた光輝が訊ねる。
それに対してハジメが慌てて答える前にマコトが……。
「おかしいってどいう意味だ? ハジメと一緒の部屋で寝るのがそんなに変かよ?」
爆弾を放り投げてしまった。
「ま、マコト、それ言ったらダメだって――」
『えぇぇぇっ!?』
しまった、自分もその生活に慣れすぎていてつい何時もの様にと気付いたのも後の祭り。
その爆弾発言に、クラスメートの特に女子達から悲鳴に近い声が出てくるし、社会科教師もマコトに詰め寄る。
「兵藤さん! だ、男子と同じ部屋で寝るなんていけません! まだ子供なのに、そういう事は大人になってから――」
「ど、どどど、どういう事よ兵藤さん!? じょ冗談で言ってるのよね!?」
教師の声を消し飛ばす勢いで、ヤバイ顔になっている香織もマコトに詰め寄る。
彼女には刺激とショックがどうやら強すぎたらしい。
ハジメは片手で顔を覆いながら天を仰いでいる。
「いや、何時もオレかハジメの部屋で遊んだ後にそのまんま寝るだけだぞ? それの何がいけないんだ?」
『…………』
「多分僕達の常識は普通に非常識だよマコト……」
今にも眼力だけで呪い殺しに来そうな香織に『はて?』みたいな顔のマコトに、ハジメは気まずそうに告げる。
既にこの時点で、男子から『こ、こんな奴が』みたいな顔をされまくるハジメはひっそりと『優越感』なんかを抱いちゃうのは彼も男の子な証拠だ。
何せ、黙っていればマコトはそこそこ美少女なのだから。
「わ、私のハジメ君が兵藤さんなんかに汚された……私のハジメ君が……!」
「か、香織……?」
「そ、それでもダメです! 兵藤さんは今晩先生と一緒の部屋ですからねっ!!」
「え? はぁ……わかりました。
だってよハジメ? なんでか知らんが、先生と一緒の部屋らしいぜ?」
「南雲君は別のお部屋ですよ!!」
「いやそれはダメっす。ハジメを一人にしたら馬鹿共が調子くれるから絶対にダメっす」
「ま、マコト……良いよ僕のことは――」
「じゃあオレがお前と一緒の部屋じゃないと嫌だ。オレはハジメしか友達がいねーし、恒例のゲーム談義ができねーじゃん」
「兵藤ぉぉぉっ!!」
「のわっ!? なんだこのアマ!?」
「お、落ち着いて香織!?」
「な、南雲の癖に……!」
結果、カオスになってしまった。
終了
補足
生まれて初めて出会った自分の同類なせいか、少々ハジメっちに対して親愛の意味で過保護なマコト(TS一誠)
異性的な意識は皆無なものの、距離感が異様に近いのはこのせい。
だから嫉妬光線向けられる。
その2
マコトが最近落ち込んだこと。
胸の成長のせいで男の時にはできた腕組みができなくなり、下から胸を抑えるよう組み方しかできなくなった。
背が全然伸びない。