「はぁ 暇だ。なぁクレー、ここから抜け出さない?」
「ダメ! ちゃんと反省しなきゃ!」
「だよね」
湖の魚を乱獲したため一日反省室に入れられて数時間がたったが退屈で今にも脱走してしまいたい気分だった。クレーも赫子を使った新しい爆弾作りに夢中なようで時折赫子の切れ端を要求してくるため出るに出られない状況が続いていた。何度も反省室に入れられて退屈ではないかとも聞いたが、反省室では爆弾の新しいアイデアを思いつくそうで別にそうでもないらしい。
「そうだ! お兄ちゃんも新しいわざのアイデア考えてみるのはどう?」
「! そうだな…」
子供らしい柔軟な発想に頭に走るものがあった。東京で喰種狩りをしていた際、赫子を分離させる者や直接赫子で捕食する者、言葉を発する赫子を持った者と戦ったことがあることを思い出した。現在は数秒かかるものの分離が使えるが、彼らのように赫子を使いこなすことが出来れば戦闘の幅が広がるかもしれないと思い、さっそく実践することにした。
それから数時間後…
「おや、クレーもいたのか」
「アルベドお兄ちゃん! 遊びに来たの?」
「いや、まだ仕事だ。 ハリマに用があって来た」
「俺に?」
「ああ この前の実験の結果だが…」
アルベドからいくつかのことが聞かされた。
まず食事ができるようになった理由はやはり神の目によるものと見て間違いないこと。詳細はまだわからないため、まだ調査が必要であること。
そして赫子を発現させるために必要なRc細胞は食事からは賄えないが、人間およびヒルチャール、アビスの魔術師から摂取する必要があること。喰種の体質的にはヒルチャール等を捕食した方が栄養効率も良く、何日か食事の必要がなくなるがやはり精神衛生上は普通の食事の方が良いとのことだった。
「調査の時、ヒルチャールを倒して集めさせたのはこのためだったのか?」
「ああ これで食事の問題も解決できただろう? ボクはまだ仕事が残っているからまた今度。 クレーもいい子でね」
「うん!」
アルベドはそう言って反省室を後にした。
赫子を出すためにヒルチャールを喰わなければいけないのは気が滅入るが基本的に普通の食事で済ませられるというのは本当にありがたかった。
その後はひたすら赫子の訓練をしているうちにあっという間に反省室を出る時間になった。
「分離はまあまあ物にできたな。実戦で試してみたいが…」
「あっ!ジン団長!どうしたの?」
「今回の件で二人とも監視する人が必要という結論が出た。これからは栄誉騎士とともに行動してもらう。異論はないな?」
「うん! クレーいい子にする!」
「ああ」
「返事だけは良いんだがな… 栄誉騎士は外で待っている、何か用事があるようだから早く行ってくるといい」
「は~い!」
「さすがに反省したし今度は釣りで魚を獲るよ。ではまた」
「そうしてくれ…」
騎士団本部を出ると蛍とパイモン、そして見慣れない二人の女性がいた。
「遅いぞ!おいら待ちくたびれたぞ」
「すまない ところでその二人は?」
「私の名前はアストローギスト・モナ・メギストス、偉大なる占星術師モナです。」
「七七、キョンシーだ」
「俺は播磨、よろしく」
「クレーはクレーだよ! 早くどかーんしに行こう!」
占星術師とキョンシーという不思議な組み合わせであったが蛍の二人を見る目を見た感じでは彼女の趣味のようだった。
ふとパイモンを見ると何やらもじもじして何かを我慢している様子だった。太陽の高さを見るにこれは…
「それよりもまず腹ごしらえだ!」
やはり空腹だったらしい。しかし反省室での訓練の成果を試したかったためとある提案をすることにした。
「ハリマも腹減ってるよな?早く行こうぜ」
「まあ待ってくれ。今日は俺がご馳走しよう。ちょうど移動しながらでも作れるレシピがあるし、反省室にいる間にうまく出来たから問題ない」
「「本当か」ですか!」
パイモンだけでなく、なぜかモナも食いついてきた。しかしはっとしたのか目をそらし、
「外の世界の料理に興味があったからです! 別にお腹は空いてませんからね!」
「そうなのか? てっきり…」
「違います! さあ早く行きましょう!」
そういうと早足で行ってしまった。
…後姿を見て思ったがあの格好は恥ずかしくないのか?
その後、いくつか材料を買い出発した。
もとより精密な操作が可能なくらいには赫子を使いこなせるため、歩きながら手早く調理していく。腰の周りに赫子を展開、固定してその上に材料を置き適当な大きさに切っていく。
「話は聞いていましたが実際に見るとかなり便利そうですね、その赫子っていうのは」
「そんなに良いものでもない。便利ではあるがそれ以上のデメリットもある。これについては追い追い話す」
ヒルチャールを喰わなければ使えないと言ったら卒倒するだろう。さすがに今言うと食欲が失せること間違いなしなので言わないことにした。
熱した鱗赫にフライパンを乗せ魚を程よく焼き、バターを塗ったパンにレタスと一緒に挟む。ソースは手製のものを使ったがそれなりにうまく出来たと思う。
「うん 味は問題ないから安心していいぞ。ほれパイモン」
「んん~ 美味いぞ! 癖になる味だな」
「確かに独特の臭みは気になりますが美味しいです。」
「そうか 要改善だな」
「味はわからない。けど、おいしい」
「このお魚おいしいね!」
「そうだねクレーちゃん、七七ちゃん。」フーフー
…何か蛍のクレーと七七を見る目に少し不安を覚えたが、見て見ぬ振りし先に進んだ。
しばらくすると北風の狼の神殿に着いた。
「用事ってここか?」
「いや、そこの穴を覗いてみて」
どうやら神殿に用はないらしい。そして言われた通り神殿から少し離れたところにある地面の割れ目を覗いてみる。かなり大きな空間があり、真ん中には大きな植物があった。
「あれはなんだ?」
「急凍樹っていう魔物。あれを倒してほしい。」
「なんでまた?」
「七七ちゃんの強化素材が全然集まらないから手伝ってもらおうと思って。ハリマなんでも言うこと聞いてくれそうだし。」
「七七、もっと強くなる」
「七七ちゃんもそういってるよ。さあ!」
こいつロリコンか?欲望が駄々洩れで今にも西風騎士団に捕まりそうな目をしている。
「モナ助けてくれ こいつ想像以上にヤバい!」
「私だって何度も駆り出されているんです。勘弁してください」
「はあ…分かった。すぐに終わらせる」
「さすがハリマ!大好き!」
「心にも無ぇ事言うなよ」
一瞬ドキリとしたがすぐに切り替え、穴から飛び降りる。
空中で赫子を纏い全力の一撃を叩き込む
「久々の強敵だ。本気でいこう」
冒険者のガイドブック曰く、コアが弱点と書いてあったのを思い出し、それをたたき割ると巨体が傾き、花弁のようなものが下りてきた。
後は持ってきた鉄の棒の先端に高密度の鱗赫を纏わせ、思い切り叩きつける。すると花弁の部分がほとんどなくなり、急凍樹はゆっくりと倒れ消えていった。
分離した赫子を爆発させる新しい試みであったが実際に試した結果、むしろ自分が爆風を食らうという初歩的な問題があることが分かった。技の改善点等を考えていると上から声がかかる。
「呆気なかったな」
「終わったー?」
「ああ 終わったが素材はどうするんだ?」
「見ていれば分かりますよ」
風の翼を使い降りてきた蛍たちは何やら地面から新たに出てきた植物のようなものから素材を取り出していた。理屈はわからないが急凍樹を討伐するとこのように地面から生えてくるらしい。
「はい七七ちゃん、これでもっと強くなってね!」
「七七、強くなる。」
「んん~可愛い~」
顔が蕩けて凄いことになっている。横ではモナもドン引きしている。なんだか気が合いそうだ。
「そうだお姉ちゃん、クレーも強くなれる?」
「ちょっと待ってね…」チラッ
クレーに渡せる素材がどうやら無い様で蛍は上目遣いでこちらを見てきた。視線に気づいたクレーも同じくこちらを見てくる。
「分かったからそんな目で見るな!」
「やったねクレーちゃん!」
「うん! お兄ちゃん頑張って!」
結局押し切られ、爆炎樹を討伐する羽目になった。
どこもかしこも、