トレーナーたちとウマ娘たち   作:メンタル弱々マン

3 / 6
早くもネタ切れ寸前の模様。
誰か助けて。
ください。


《トウカイテイオーのいる場所》

 あの日のことはよく、よく覚えている。

 私が私であることをやめた日だ。

 あの時の、トレーナーの顔は今でも夢に見る。

 

「ッ……!? ……ゆ、夢、なのか……」

 

 飛び起きた私の冷や汗を垂らした姿は、はっきりと近くの鏡に映っている。

 恐怖で怯えたような目、見たくない現実を叩きつけられた顔。

 そして、あの日から背負い続けている重圧を。

 

 朝だと言うのに、実に気分が優れない。

 あんな夢を見てしまったからだろうか。

 

 悪夢だ。

 悪夢を見るのだ。

 あれから、何年経ったか。もう覚えていない。

 だと言うのに、あの日の景色は悪夢になって出てくるほど鮮明に覚えている。

 

 きっとあの人はこの重圧を一緒に背負ってくれない。

 

 

 

「カイチョー……?」

 

 あの日私が見たものは、一人部屋の中に佇む会長、シンボリルドルフの姿だった。

 トレーナーは何も話してくれなかったが、他のウマ娘たちは言った。

『会長はもう二度、走ることはない』と。

 

 あの日見た彼女の顔は、とても悲しそうだった。

 悲しそうだったのに私のことを見た瞬間、それを覆い隠すように、明るい顔を取り繕った。

 それに酷く、ショックを受けたのを覚えている。

 ああ、私には何も教えてくれないのだ、と。

 

「やぁ、テイオー……来てくれたのか」

「ほ、本当にもう、走らないの?」

「……ああ。私の足はもう、ダメになってしまったからな」

 

 そう言って彼女は悔しそうに自身の足の姿を見ていた。

 私は何を言おうか戸惑って、悩んで。

 そしたら彼女はこう言った。

 

「実はな、私のトレーナーが田舎で一緒に暮らさないか、と言ってくれててな」

「トレーナーと? ……カイチョーはそれで、それでいいの?」

「……もう、走れないからな」

 

 暗く、微かな明かりしかない外を窓から見て呟く。

 こちらからは見えなかったが、その時きっと悲しそうな顔をしていたと思う。

 それが理解できたからこそ、それを見せてくれないことが辛くなっていた。

 私には、どうしてもそれが辛かった。

 

「エアグルーヴにはもう既に伝えてある。逃げるようで、申し訳ないと思うが、私がいなくなった後に伝えてもらう予定だ」

「本当に、もう走れないの? もしかしたらカイチョーがそう思ってるだけで、頑張ったらボクみたいに……!」

「もうだめなんだ。私は」

 

 私の言葉を遮ってそう言った会長の声は、絞り出して出した声だった。

 私はその声を、それ以上遮ることなんてできなくて、もう黙るしかなかった。

 

「……テイオー。君に、後を任せても構わないか?」

 

 そんなこと、そんなこと言うなんて予想だにしていなかった。

 いやそもそも、彼女がそう言うはずなどなかった。

 当時の私にはその言葉の意図が全く理解できなかった。

 でもそれだけ言って、彼女はその場を去って行ってしまったのだ。

 

 立ち去った後で、一つだけ理解した。

 私はもう《帝王》ではないのだと。

 あの人のような、《皇帝》にならなくてはならないのだと。

 

 数分後、既に遅かったがトレーナーは現れた。

 だから私は、ボクは、トレーナーにこう言った。

 

『……ねぇ、トレーナー。ボクは、ううん。私は、あの人の代わりになれるかな?』

 

 そう言った時のトレーナーの顔は、酷く苦しそうだった。

 

 

 

 日常は毎日のように過ぎ去る。

 トレーナーが消えて数年経った今も変わらない。

 昔とは違うが、今はトレーナーがいる。

 

「トレーナー。次のトレーニングは」

「も、もう次に行くのかい!?」

「ああ。私はこんなところで止まれないからね」

 

 新しいトレーナーは少し頼りなさそうな顔をしている。

 メガネをかけて、いつも忙しそうにあっちこっち走っている。

 彼を選んだのは、その頼りなさそうな顔が、あの人を思い浮かばせるからだ。

 そう、私は単純に、あの人の代わりが欲しかった。

 

「次は、街の方でトレーニング施設を借りて練習かな」

「借りれたのか?」

「ギリギリなんとか、予約もいっぱいだから、有馬記念までに間に合わせるのはキツかったけどね」

 

 そう言ってあはは、と笑う姿なんか、特に似ていた。

 だからこそ、彼を感じれば感じるほど。

 そこにいる新しいトレーナーに申し訳なく思っていた。

 

 街中、最近では常に私のニュースが流れる。

 三冠を取った時以上、あの日から常に無敗を取り続けているが故だった。

 

「トウカイテイオーって、雰囲気変わったよな」

「なんと言うか、シンボリルドルフみたいになった? って感じ」

 

 そんな声だって聞こえた。

 あの人のように、そう言われると更に辛くなる。

 そうなるつもりはなかった、あの人と並ぶつもりはなかった。

 ただ、あの人を目指しただけなのに。

 

「……」

 

 ふと、一つの声が聞こえた。

 

「なぁ、トウカイテイオー」

 

 その声は、何度も聞いた声だった。

 あの日、いなくなってしまった日。

 あの人に、もう一度会って聞きたかった。

 今の私は正しいのか。

 

「トレッ──!」

「お前は一体。何を目指しているんだ?」

 

 振り返って聞こえた声は、それだった。

 そして見た先には、私の探し求める人はいなかった。

 

「と、トウカイテイオー?」

 

 振り返った先には、今着いてきてくれているトレーナーしかいなかった。

 かつてのあの人はどこにもいなかった。

 だと言うのに、私にはその声が幻聴のように思えなくて。

 小さく呟いた。

 

「……トレーナー。私は、私はっ!!……間違って、いたのか?」

 

 答えを、答えを聞きたかった。

 本当に今、私は正しいのか。

 ここに立っているのは正解なのか。

 一つわかることがあるとすれば、今聞こえたかつてのトレーナーの声は、あのときのように、酷く、苦しそうだった。




そのトレーナーは、信じることができなかった。
そのウマ娘は、強くいることができなかった。

次、誰がいい?

  • アグネスタキオン
  • サイレンススズカ
  • メジロマックイーン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。