レイブンクローの髪飾り
ホグワーツ四寮のうちレイブンクローの創設者、ロウェナ・レイブンクローが遺した髪飾り。
歴史から長く失せていたが、ある日、人知れずあるべき場所へ戻された。即ち、ホグワーツ城へ。
髪飾りにはレイブンクローの言葉が刻まれている。
『計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり!』
ここは、アルバニアの森の中。
あの日も雨だった。雷雨は勢いを増し、一度雷が奔れば雨は矢のように宙を冷たく貫いた。
倒れ伏した体は、もう眼を動かす力さえない。
狂った男爵の怒号が割れ鐘のように響く。ほんの数分までうるさいまでに聞こえていた森のざわめきや驟雨は、もう聞こえない。死は、虚を掻いた爪先からやって来た。
──ああ、ああ、どうして。
私は落葉の茂る林に倒れているのだろう。
刺されたからだ。やや鈍い頭が嫌々に状況を理解し始めた。この、恐ろしい現実を。
──どうして。
あんなに空は遠いのに。
私の指は黒ずんでいるのだろう。
──どうして……。
母よりも賢く、母よりも重要な人物になりたかったのだろう。
母に背き、裏切って、逃げて、母の物を使ってまで、私が果たしたことは何だろう。
──どう……して……。
無性に母に会いたかった。顔も見たくなかったから家を出たというのに。たった今、母に会いたかった。そういえば、母は病に冒されているのだと言う。
もう一度会いたい。会いたい。嗚呼。死ぬのは嫌だ。母に会いたい。死にたくない。もう一度、母と呼ばせて欲しい。死にたくない。もう一度。たった、もう一度だけでいいから。
──……。
朽ちるに任せるばかりの肉体は、いつまでも秘密を隠した木の虚を見ていた。
──ねぇ、お母様。
──どうして髪飾りにそんな大きな石を使うのですか。
──お母様に似合わないわ。
──見せびらかすような大きい石はよくないわ。
無機物は、変わりにくい。
宝石に相応しい姿になるには、より堅い石を使って削る行程を経るのだと言う。
──計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり!
虚に隠された翼の文字は高らかに謳う。
そして、聞いた。
──これは象徴なのだよ。
失血により、まとまりのつかない私の頭は、今さらになって気付いた。
なぜサファイアのような大きな青い宝石を使ったのか。
母は魔法族、自らの後継に対し魔法族の知の研鑽を望んだ。そして事実、母は生涯を通して実践した。
願ったのだ。
自らが信じるものが永久に輝き続けることを。どこにいても、いつにあっても、たとえ失われたとしても、輝き続けることを願ったのだ。
しかし。
──ヘレナ。ヘレナ。
──おいで、私の小鳥。
在りし日。
そう言って小さな私を抱き寄せ、額に唇を寄せた母を覚えている。
──ヘレナ。我が娘。
──英知に等しく。
──私には、お前が宝なのだよ。
まだ幼い私は、その言葉の意味を理解しなかった。
もはや永遠に手に入らない温もりだと知る由もなかった。
なぜ、気付かなかったのだろう。
なぜ、気付かずにいられたのだろう。
──ああ、母よ。我が母、ロウェナ・レイブンクロー。
──貴女が、貴女だけが、正しくレイブンクローだった。
──小鳥には貴女の姿さえ本当は見えていなかった。
──ならば、どうしてその御心が分かったことでしょう。
雷が森のどこかに落ちた。
その光がにわかに窪んだ木の虚を照らす。
力なく閉じかける瞳が最期に見たのは、叡智を象徴する青い光だった。
──貴女は、偉大すぎた。
──私は死に至り、ようやく貴女に愛されていることに気付いたのです。
若い娘は事切れた。
ここは、アルバニアの森の中。
雨が降っている。
■ ■ ■
ホグワーツ。
灰色のレディを見つけるために彼らは時間を費やした。
城内には濡れた服を引きずった生徒が見える。クィディッチは終了したのかもしれない。だが、窓から飛び込んでくる雷の轟音はとどまることを知らないようだった。
テルミとクルックス、ネフライトとセラフィと二人一組で城内を駆け回り『灰色のレディ』を探した。髪飾りの入った箱はテルミが抱えていた。
ようやく出会ったのは、西の塔だった。ネフライトから以前、レイブンクローの談話室が近くにあることを聞いたことがある。
「灰色のレディ、貴女と話したい」
「…………」
灰色のレディ。
かつては艶やかな黒髪、輝く灰色の目だったのだろう。いまやゴーストの彼女は真珠色にくすんでいた。
だが、今なお変わらないものもある。気の強そうな目でテルミとクルックスを見下ろした。
「俺はクルックス・ハントと言う。初めまして。魔法界の外、ヤーナムよりやって来た狩人だ。魔法界の厚意によってこの学校に通っている、ただのグリフィンドールの生徒でもある。……俺は貴女と話したい。しばしお時間をいただいてよろしいか」
「いいでしょう」
無愛想な答え方をしたが、答え自体が不承不承だとテルミは見抜いた。
テルミは、レディと目が合った。髪飾りの箱は後ろ手に隠したまま、ニコリと薄く微笑んで見せたが、すぐに目を逸らされた。
「灰色のレディ。その真名をヘレナ・レイブンクローと聞いた。レイブンクローの貴女にお願いしたいことがあって来た。レイブンクローの失われた髪飾りのことだ」
「そのことには答えません」
灰色のレディは、分厚い石壁の向こうに消えようとした。
クルックスは追いかけることをしなかった。
「いいや、答えるのだ。それは俺の手中にある」
「つまらない嘘を吐くのですね。グリフィンドールが嘆くでしょう。それは失われたのです。ああ、髪飾りを欲しがった生徒は、あなたが初めてではない。何世代にも渡って、生徒たちがしつこく聞いたものです」
しかし、レディは壁を背に振り返った。
「では、これまで生徒にしなかった話を貴女にはしてほしい。──テルミ」
クルックスの合図を受けて、テルミが後ろ手に持っていた箱を差し出し開いた。
「確かめていただきたいですね」
雷の光が明滅する。光が、廊下を宝石の青に染めた。
レディが箱の中にある髪飾りに吸い寄せられるように音もなく近付いた。
「これは……これは……そん、な……いったい、どこで……?」
たおやかな指が箱の中の髪飾りを掬おうとして、すり抜けた。
ゴーストは物に触れることはできないのだ。
恐れた顔でレディは、ふらふらと後退った。
「『必要の部屋』はご存じか?」
「……ええ。あったりなかったり部屋とも呼ばれていますね……。けれど、まさか……」
「貴女の驚きようは意外だな。寮祖、ロウェナ・レイブンクローが望み『必要の部屋』に置いたものだと思っていたが、違うのか?」
「あなたに話すことは……ありません」
驚愕と恐怖から立ち直り、レディは唇を固く引き結んだ。
「それでは困る。話を続けてほしい。俺達は髪飾りを見つけたが、呪いが掛かっている。その様子では『ご承知』というワケではなさそうだな?」
「呪い──?」
灰色のレディに二度目の衝撃がもたらされた。
「まさか」とか「そんな」といったことを彼女は囁いた。だが、やがて「ああああ」と言葉にならない嘆きで顔を覆った。何かに気付き、絶望した声だった。クルックスは、それを静かに見つめた。
「俺達はこの『呪い』を調べたい。異なる神秘から来た我々には必要なことだ。そのためこれをしばらく預からせて欲しい。どんな形になっても最後にはお返しすることを月の香りに誓おう。いかがか? 沈黙は肯定と受け取らせていただく」
「呪いは……解けないでしょう」
「ほう。なぜ? 心あたりがあるのか?」
「それは……それは……。それを呪ったのは、自らを『卿』と呼ぶ、あのヴォルデモートという魔法使いなのですから」
「なるほど。それはそれは、ほうほう、難解だ。実に難解な闇の魔術に違いない」
テルミは、クルックスが狂喜していることを察した。テルミは小さな靴でクルックスの靴をコツンと突いた。レディに悟られないように彼は咳払いをした。代わりにテルミが訊ねた。
「レディ、教えていただけますか? なぜ呪ったのがヴォルデモートだと分かるのでしょう」
「……最初から『必要の部屋』にあった物ではないとだけ伝えましょう。これ以上のことを話すつもりはありません」
その言葉から推し量れることは多くある。
元は別のところにあり、その場所をレディは知っていた。そして、レディが知っていたということは『母の所有物を彼女が持っていた』ということでもある。
「髪飾りを預かることをお許しいただけるのですか?」
クルックスの問いに灰色のレディ──ヘレナ・レイブンクローは嘆くのを止め、背を向けた。
「もはやレイブンクローの手を離れた物です。私には、もうどうすることもできない」
その肩は、小さく震えていた。
「ええ、触れることも被ることも……壊すことも出来ない」
「壊す? なぜレイブンクローの貴女が壊すことを望むのか。これは宝だろう?」
彼女は、ほんの一瞬、痛ましい顔をした。だが、背筋を正してクルックスに言い放った。
「その髪飾りの本当の所有者は永遠に失われ、髪飾りも長く失われていました。それでもレイブンクローの精神は今も息づいています。その間、髪飾りに頼ることなく魔法族は自らの英知を磨き続けました。かつて、きっと、レイブンクローが望んだように。……ですから、髪飾りが果たす象徴の役割は、もう千年も前に終わりました」
「なるほどな。全て了解だ。俺は、その願いを聞き届けた」
「え?」
声を重ねたのはレディとテルミだ。クルックスが右手を差しだし、握った。
「レイブンクローの貴女が壊してほしいのならば、俺はそうしよう。英知が呪いに蝕まれることが耐えられないのならば、貴女達レイブンクローの誇りのために、我らはこれを破壊しよう。完膚なきまでに有意に壊そう。そして、貴女の前に持ってこよう。──とても時間が掛かるだろう。しかし、いつかの未来で約束を果たそう」
灰色のレディはクルックスを見つめたまま、姿を空気に溶かすようにして去った。
テルミは手の中にある箱の蓋を閉じた。
「用件は以上ですね。……ええ、想像以上に有意義でした。呪いをかけた者が分かるとは嬉しい誤算で──クルックス?」
クルックスは、テルミの手を取って歩き出した。
歩幅を考慮しない歩き方でテルミはつんのめり、駆け足になった。
「クルックス、貴方──」
「フッ、ククク、フ、フフフ、ハハハハハッ!」
廊下に誰もいないことは幸いだった。
楽しげに笑ったクルックスは、テルミを引き寄せた。
「お父様は、お喜びになるだろうか!?」
「え、ええ、もちろん……。不思議な呪いには違いありません。そして、ヴォルデモートの痕跡であるならば尚のことです」
クルックスは話の半分も聞いていなかった。
鐘を鳴らし、ネフライトとセラフィに事態の終了を告げると衣嚢から古びた紙に刻まれた『狩人の確かな徴』を取り出した。
「さぁ、お父様の夢へ帰ろう。陳情しに行くぞ! ヤーナムの冒涜の限りを尽くし最後には破壊して欲しいと! ああ、そうだ。コッペリア様にも弁明を──」
ひょっとしたら。
テルミは腕の中にある箱を意識した。
これは触れるだけではなく、近くにあるだけで精神に影響を及ぼすのかもしれない。
そんな危惧が浮かんだが、クルックスがいつになく楽しげで嬉しそうに屈託なく笑っているので。
「いい子ね。ええ、ほんのすこし帰りましょう。夕食には城に戻りましょうね?」
「ああ!」
二人の姿は夢に溶けた。
テルミの言葉に、クルックスはやや平常を取り戻したようだった。そのことにテルミは「むぅ」と唇を尖らせた。狂喜のクルックスは、いつもに増して素直に感情表現をする。テルミは、それをとても好ましいと思っていたのだ。
■ ■ ■
ここは静かな狩人の夢。
古い夢の生地にして上位者の揺籃、その中枢である。
クルックスとテルミがやって来た時、夢の主人たる父たる狩人は不在のようだった。
細かな古い遺志が漂う空間に佇んでいるとクルックスは、自分の不調さの客観視が出来た。
「なにか……さっきもおかしくなっていた気がする。その箱のせいか?」
「そうでしょうね。距離を取った方がよいのかも」
クルックスは、たかが小さな箱に自分の気分が妙な高揚や不快に左右されるのが気に食わずテルミの持つ箱を睨み付けた。
「ハッ、テルミは何ともないのか?」
「ええ、まあ、今のところは、ですが」
「そうか。俺が影響を受けやすいだけなのかな。……さて。見たところお父様はいらっしゃらないが、髪飾りから目を離すのは憚られるな。呪われているのは確実だと分かったのだし……」
狩人は、聖杯に潜っているのかもしれない。
とある聖杯を設置している儀式祭壇が微かに光を放っている。二人は、儀式祭壇で聖杯の使用中と見た。
「ビルゲンワースに持っていきましょうか。お兄様やお姉様ならば」
「却下だ。……お父様がいらっしゃる前にあれこれと手出しをするだろう。それで怪我をされたら俺は……」
「ああ、ごめんなさいね。やめましょう。では──あ、人形ちゃん」
微かな足音を立てて、背の高い人形がゆっくりと歩いてきた。
「おかえりなさい。小さな狩人様。狩人様は、まだお帰りになっていません。……お荷物ならば、預かりましょうか」
球体関節を軋ませて人形が大きな手を開く。
クルックスは、テルミと顔を見合わせた。
人形に持っていてもらえば安心だが、精神に不調を与える物を人形のそばに置いておくのは不安が残る。
折衷案を思いつき、クルックスは手を叩いた。
「人形ちゃん、これを見守っていてほしい。実は、呪いが掛かっている代物なんだ。人形ちゃんにも害を及ぼすかもしれない。だから直接手で触れないようにしてほしい。お父様ならばきっと大丈夫だろうけれど、人形ちゃんは念のために」
「呪い?」
「うん。そうなの。……もしかして、何か、わかる?」
テルミは箱を差し出した。
人形は、クルックスの言葉を受けて手を引いていたが、腰を屈めて箱をよく見たようだった。
「遺志の塊を魔法では呪いと言うのでしょうか」
「遺志の塊? 人形ちゃんは遺志を俺達の力に変えてくれるがそれと同じものなのか? では俺達がたまに拾う死血は、血の遺志の塊と言えるだろうか……?」
「力に変える遺志とは違うようです。まだ、この遺志は生きているように思えます」
「それは……ええと」
クルックスは、理解が難しくテルミに解説を求めた。
「新鮮な呪いということでしょう。形骸化した呪いではなく、惰性で取り憑いている呪いではなく、誰か被った人を苦しめるために手ぐすね引いて待っている呪い──という意味ではないかしら。だから遺志なのに生きている」
「なるほど。ではやはり直接触れない方がいい」
クルックスは、いつも人形が立っている花壇のそばを指差した。
「あそこに置いておこう。人形ちゃん、お父様がお戻りになったらこれを見るように伝えてほしい。ヴォルデモートが手ずから掛けた呪いが掛かっていると思われる。それから、くれぐれもご注意あれ、と。書き置きもしておこう。…………こんなところだな」
クルックスは人形に手記の一部を渡した。人形が「分かりました」と静かに言い、テルミが人形の定位置から少し離れた場所に箱を置いた。途端に箱を囲う青白い小人がワラワラと現れた。
「──お父様の使者達。これに触ってはダメですよ。近付いてもダメよ。危ない物ですからね?」
「では俺達は学校に戻る。またクリスマスの休暇に戻ってくるだろう。しばらくお別れだ」
「はい。有意な目覚めでありますように」
クルックスとテルミは手を振り、外なる辺境の墓碑に触れた。
それから。
狩人のいなくなった夢のなかを人形は長い時間、主人にして赤子である狩人を待っていた。しかし、現れない。数日現れないのは珍しいことではなかった。もっとも人形は一日という単位の存在を知らなかったが。
狩人がようやく夢に姿を現した時。
クルックスとテルミが髪飾りを夢に置いてから五日が経っていた。
彼が帰ってきたのは、定期的な輸血液配達の任務を思い出したからだ。
その時、人形は花壇の縁に座り、眠っていた。
人間と異なり休憩を必要としない人形だが、どんな不思議か、彼女はたまに眠ることがある。狩人にとって珍しい光景ではなかったが、誰かが眠っている光景を見るのは彼にとって楽しいことだった。
もう彼女を縛るものは何もない。だから、彼女がもしも夢を見ることができるのなら、せめて幸せな夢を見ていて欲しかった。
眠っている彼女に声を掛けることは憚られる。そして彼女の前に立って待つのも落ち着かない。
結局、いつもそうするように彼は人形からすこし離れた場所で座って待つことにした。
すこし離れた場所。それは奇しくもテルミが髪飾りを安置したレンガの上だった。
外套を払い、座る──着地と同時に飛び跳ねた。尻に何か固い物が触れたからだ。
「おうっ!? な、何だ──っ!?」
ついでにバキッと嫌な音を聞いた。
うつらうつらと舟を漕いでいた人形が目を開けて立ち上がった。
「あっ狩人様」
「ああ、人形ちゃん。起きてしまったのか。起こすつもりはなかったんだ。すまない。まったく誰の悪戯だ? こんなところに置きっ放しにして、もう……」
「…………」
人形の薄い青の瞳が、狩人と腰掛けてしまった箱を行き来した。
「あの……」
「どうかしたのか、人形ちゃん? あ、歪んでしまったな。蓋が開かない」
狩人は壊れてしまった箱をあらためていた。
「それは小さな狩人様からお預かりしていた物です」
「クルックスから? ほう、珍しい。食べ物かな」
「『呪いが掛かっていると思われる代物で、くれぐれもご注意あれ』と」
「の、呪い──えっ、触っちゃったぞ!?」
狩人は両手で掴んだまま、上下左右に振った。
「魔法界の呪いの品物というワケか。いえ、何ともないが……? 俺には関係ないのかもな。んん、開かん……! 中身は何か聞いているか?」
「いいえ。ただ『ヴォルデモートが掛けた呪いだ』と」
「なるほど」
狩人は頭の上に振りかぶると箱を地面に叩き付けた。壊滅的な音を立て、箱は破壊された。
箱から飛び出して来たのは黒ずんだ古い髪飾りだった。墓碑に当たって弾かれたそれは咲き乱れる花のなかに紛れた。
拾い上げた狩人は、まじまじと髪飾りを観察した。傷は無いようだった。かなりの勢いで墓碑に当たったように見えたが、見た目通りの銀製ではないのかもしれない。
「しかし、髪飾りを呪うとは、ヴォルデモートは暇だったのかな? それとも髪に恨みがあるのだろうか?」
「いいえ。特には聞いておりません……。こちらを」
「クルックスからの手記か。なになに……『「最も価値のあるモノが必要」と願ったところ出てきた物品。呪われているが術者以外の詳細は不明。不可解ゆえにヤーナムに資するものと判断。また、所有者に連なる者から許可を得た為、お送りいたします。詳細は休暇で帰った際に。代表クルックス』──ほう。なるほど。なるほど。クルックスが俺に寄越したのは……ははあ、分かってきたぞ」
狩人は血除けマスクを引き下げると笑みを深くした。
青い宝石は、白銀の月の光に照らされている。
狩人は腕を伸ばして髪飾りを持つと人形と並べた。
「しかし君には、あの小さな髪飾りがある。これは少々派手かな。特にこの青い大きな宝石。サファイアだろうか。瀟洒ではあるが……」
「狩人様、呪いがわかるのですか? まだ生きている遺志の塊が」
狩人は手の中で髪飾りを弄びながら答えた。
見たことのないもの。知らないもの。糧となるもの。狩るべきもの。
それらを求めて悪夢に踏み入った者の末裔らしく、狩人は久しぶりの充実感を得て笑った。
「ああ。『日記帳』の欠片と同じ気配がする。あれはどうしようもなく壊れてしまったが、これは違う。──もっと話をしてみたいものだな」
月の光に透かした宝石のなかで、暗い影が泳ぐ。
手中に収める狩人の瞳は、何も見逃さなかった。
レイブンクローの髪飾り
ホグワーツ四寮のうちレイブンクローの創設者、ロウェナ・レイブンクローが遺した髪飾り。
歴史から長く失せていたが、ある日、人知れずあるべき場所へ戻された。即ち、ホグワーツ城へ。
髪飾りにはレイブンクローの言葉が刻まれている。
『計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり!』
盗みを犯した娘は、多くを求め、全てを失った。
裏切りを知りながらロウェナは罰することなく真実を秘した。
私の小さなヘレナ。
それを伝えた日から賢人は些かも変わらなかった。
罪まで愛していたのだろう。
髪飾りテキスト
条件によるテキスト変化があるといいなと思ったのでおまけです。
ハリポタは全編を通して偉大な(困った)親を持つと大変という話は、形を変えてあちこちに出て来るように思います。これはヤーナムの彼らにもかなり直接的に、そして容赦なく突きつけられるものでもあります。
灰色のレディ
彼女だけで一本作れそうなほど好きなキャラクターです。カッとなっちゃった『血みどろ男爵』は書けませんでしたが、たぶんピグマリオンがテルミをやっちゃった時みたいに衝動的にやっちゃったんだと思います。だといいな。
髪飾り
ヤーナム直通便で出荷されました。
ご感想お待ちしています(交信ポーズ)