期待
心を寄せ、アテにすること。
ことネフライト・メンシスは他者からの期待に敏感だ。
誰よりも己こそが忠実だと信じるがゆえに。
怒濤の数ヶ月が過ぎていた。
その間、ハリーの気持ちは徐々に上向いていた。
不穏なものといえば、ときどきシリウス・ブラックの目撃情報が朝食時に話題になるだけだった。
やがて十一月の終わりに、クィディッチでレイブンクローがハッフルパフを大差で負かしたことでグリフィンドールはギリギリのところで優勝争いに加わることができる点差状況となった。これにはグリフィンドールのクィディッチメンバーが手を振って喜んだ。キャプテン、ウッドなどはファイアー・ウィスキーを大樽で飲み干したような情熱を取り戻し、煙るような冷たい雨のなか、クィディッチの練習にもますますの熱が入った。
宿題とクィディッチの練習の合間を縫ってロンやハーマイオニーと互助拝領機構杯決闘大会の練習をするのは、とても良い気張らしになった。ハリーとロン、ハーマイオニーにとって『武装解除呪文』は二年生の夏休み休暇前に何度か練習していたこともあって同学年の中では、かなり上手い方だった。
互助拝領機構杯決闘大会の出場に必要な事前講習が行われたのは、学期が終わる二週間前だった。その日の明け方に目覚めると校庭が霜柱に覆われていた。冬の到来だ。城は一気にクリスマス・ムードで満ち溢れた。
昼食後に講習会の時間が近づき、ハリー達はぞろぞろと会場である『呪文学』の教室に向かった。今日は休暇前の数少なくなってきたホグズミード行の日であるため、参加者は少ないのではないかと思っていたが教室に着いて驚いた。ざっと五〇人はいる。
「一対一にしないワケだよ。まともに決闘していたらトーナメントでも時間がかかりそうじゃないか」
どこへ行けばよいか迷っているとロンが教室の前方にある受付を指した。
「受付はこちらに。こちらに。二列になって下さい」
近付くとペチャクチャお喋りする生徒の列を整頓しているクルックスを見つけた。彼はすぐにハリー達に気付くと手を振った。
「おお、来てくれたのか! 俺はとても嬉しい。まず受付で名前を書いてくれ。指導を受けたいなら、あそこに立っているルーピン先生のところに行ってくれ。もう呪文が使えるのならネフのところに行ってくれ。──はい、並んで。そこ、人を押すな! この糞袋野郎ッ! 危ないだろうが!?」
彼は慌ただしく列の整頓に戻った。
順番に並びながらルーピン先生を見ていると生徒が数人集まると呪文の指導を行っているようだった。
教室の隅の方で立っているネフライトは檻を頭に被った、おかしな格好をしていた。いつもの休日の姿だ。彼の隣に置いたテーブルには校庭に落ちているような木の枝が大量に置いてある。彼の足下にも木の枝が散らばっていた。何をしているのか分からずただ眺めていると五年生くらいのハッフルパフの生徒がやや距離を取り、彼と向かい合った。そして、礼をする。
──エクスペリアームス! 武器よ去れ!
構えた途端、ネフライトの持っていた木の棒が手の中から飛び出した。
それから彼はテーブルに置いていた自分の杖を持ち、逆に呪文をかけた。今度はハッフルパフの生徒が見事な『盾の呪文』で武装解除呪文を防いだ。それからネフライトは「以上で終了です」ということを言ったのだろう。ハッフルパフの生徒は彼に手を振って教室を出て行った。
「うわあ……」
ロンが感心したように見ており、列に並ぶ前の生徒が数歩進んだことに気付かず、彼の後ろに並んでいるハーマイオニーに背中を突かれた。
「もう出来るならルーピン先生の指導は受けなくて良さそうだね」
受付にはルーナ・ラブグッド──ハリーは初めて彼女を間近で見た。──カブのピアスをしているレイブンクローの二年生がいた。もう一人はセラフィで「所属と学年と名前を書いてね」と羽根ペンを差し出した。
「自信があるならルーピン先生の指導は受けなくていい。ネフのところで実技をして問題がなければ登録になる。見たところ四年生以上で指導を受けている人はいないようだね」
「もし、実技で失敗したら?」
ロンが「念のために」と前置きして訊ねた。
「僕が君の名前を斜線で消すことになるね。実技は一度きりだ。頑張りたまえ」
ハリーとハーマイオニーは、それを聞いてもルーピン先生の指導を受けないつもりだったが、ロンは気弱な顔になり「やっぱり受けるよ」と言ってルーピン先生のそばでたむろする集団に加わった。
「前々から思っていたんだけど」
ハーマイオニーは神妙な顔をしていた。ただし、目だけは指導を受けに行ったロンの背中を追っているのだと何となく分かった。
「なに?」
「……ロンってとってもあがり症よね?」
「神経質と自信喪失の癖があるのは、たしかだ」
ハリーなら「最初から上手く出来るなんてことないさ」と思うような出来事だとしても、ロンは一度の失敗で途端に調子を崩してしまうことがあった。それでも練習ならば気を取り直して頑張る事も出来るのだが『実技が一度きり』と言われてしまったロンは不安定になっているようだった。
「君は先に行っててくれ」
ハリーは実技の順番を待っている列から外れるとロンのそばへ行った。
「ロン、あんなに練習したじゃないか」
「でも──」
最悪のタイミングで人混みが切れて、ロンとハリーにはネフライトと対峙するハーマイオニーが見えた。
抜群のコントロールでハーマイオニーがネフライトの持つ枝を飛ばし、また、ハーマイオニーは完全に防御し、わずかにネフライトを怯ませた。
しまった、と思ったが遅かった。ハリーはロンが顔をくしゃくしゃにしているのを見た。
「僕、あんな風にできないよ……! やっぱり出るのやめる……! 僕……僕……気が迷ったみたいだ……!」
「あんなに練習したのに!?」
ハリーが一生懸命に励ましているとルーピン先生が手招きした。見れば指導していた数人の友達グループは実技の列に移動していた。
「やあ、二人とも。君達も出るんだね。さぁ、呪文は知っているね? やってごらん」
ルーピン先生が指差したのは等身大に削られた木製の人形で右手に杖を持っていた。
ロンはぎこちなく歩き、咳払いをした。
「肩に力が入りすぎているね。深呼吸してごらん。……深呼吸……。そう、落ち着いて、焦らなくていい」
ルーピン先生の指導は、かなり効果があった。
今にもヒステリックに騒ぎそうだったロンが次第にいつもの調子を取り戻し、杖を構えた。
「エクスペリアームス! 武器よ去れ!」
人形が持っている杖が飛び出し、天井に当たって跳ね返った。
「上出来だ。次は『盾の呪文』だ──」
見慣れたスポンジのボールがルーピン先生のポケットから出てきた。これにはロンも自信が出てきたようで完璧な『盾の呪文』でスポンジボールを跳ね返した。
「さぁ、ロン。実技に進んでも大丈夫だろう。大丈夫。君は『まね妖怪』もうまくやった。──次はハリーだ」
「僕──」
もう出来ます、と言おうとしたが、その前にルーピン先生は「あっ」と何かを思い出した顔をした。
「『まね妖怪』のことで君に伝えたいことがあった。吸魂鬼対策のことだよ」
ルーピン先生は声を落とした。それはとても幸いだった。その頃ハリーは、名簿に名前を書く待機列にドラコ・マルフォイといつもの取り巻き二人が並んでいるのを見つけた。
「昨日、ようやく『まね妖怪』が調達できたんだ。フィルチさんの書類棚の中に潜んでいるのを譲ってもらってね。約束通りクリスマス休暇が終わったら吸魂鬼対策の訓練ができるだろう」
「はい」
出来るだけ、とっても嬉しいです、という顔でハリーは返事をした。
「しかし、目下はこの決闘大会だね。君は是非──おっと──先生が誰かを応援するのはいけないね。だが頑張って欲しいものだ」
ハリーは結局、指導を受けた。ルーピン先生の「大丈夫そうだね」という言葉で背中が押された気分になった。
実技の列は、指導の列よりサクサクと進んだ。
ハリーとロンの見ている間で上手く出来なかったのは二年生のスリザリンの生徒と四年生のハッフルパフの生徒だけだった。二人とも呪文の発音が甘く、武装解除を上手く出来ずにネフライトを数歩退かせるのがせいぜいの威力だった。
「まだ早いようだ。来年出直してくれたまえ。──名前、消しておいてくれ」
ガックリと肩を落とす彼らの名前を記録しているのはロンの妹、ジニーだった。
次はスリザリンの一年生だった。
ネフライトは杖を構えず、床に散らばった小枝を呼び寄せ呪文で一斉に集めた。
「アストリア・グリーングラス。君の実力は知っている。私は免除しても構わないと考える」
「決まりは決まりでしょう?」
ならば仕方ないか、とネフライトが杖を置き、小枝を構えた。
「頑張って!」
手帳と羽根ペンを握ったジニーが応援した。ハリーは奇妙なことに自分にも同じ応援をして欲しくなった。
「エクスペリアームス! 武器よ去れ!」
「はいはい。次は『盾の呪文』だ」
ネフライトの手の中から小枝がきりきり舞いをして飛び出し、彼はテーブルの杖を持ち上げた。
「エクスペリアームス! 武器よ去れ」
「プロテゴ 護れ!」
呪文は完璧に発揮された。
ハリーは、実力を見てようやく思い出した。クルックスが言っていた、ジニーと一緒に名前の挙がった人のことだ。スリザリンの一年生、アストリア・グリーングラスだ。
「あの子と組める七年生は強敵だね」
ハリーは何気ない感想を言ってしまった後でロンが気分を急降下させてしまったのではないかと焦った。
しかし、ロンはジニーの手前、やる気が出ているようだった。
「じゃあ次は僕だ」
ハリーの心配は、すっかり杞憂になった。ロンは練習の成果を発揮し、見事ネフライトの持つ小枝を弾き飛ばした。列から離れて見守っていたハーマイオニーは小さく拳を握って「やったわ!」と言ったのが見えた。しかし次の『盾の呪文』は唱えるのがギリギリで、ロンはよろめいた。それを目敏く見つけたネフライトが「うん?」と檻の中で思案顔をした。
「参加には見合わないと私が決めてしまってもよいのだが……まぁいい。採決をしようか。ジニー、グレンジャー。今のはアリかな、ナシかな。私はナシだと思う」
「アリよ」
二人とも声を揃えた。
「杖は飛ばなかったわ。ちょっとだけよろよろしたけど、いつもよろよろしているから誰も気にしないわ」
「もう一回やればハッキリするわ。いつもならもっとうまくやっているんだから」
ジニーとハーマイオニーの発言を受けて、ネフライトは両手を広げた。降参、という感じだった。
「では、私は意見を取り下げよう。参加資格を得たので退室してよろしい」
ロンは晴れやかな顔をして順番を待つハリーを振り返った。
ハリーは五秒かからず『武装解除呪文』と『盾の呪文』をやって退けた。
「こちらは問題なし。退室してよろしい」
「ポッター、本番もうまく出来るかな?」
聞き慣れた声がツンと鼓膜を刺した。
見ると実技の列の後方にマルフォイがいてケラケラと笑っていた。
ハリーが言い返そうとしたその時、ネフライトがマルフォイに向けて言った。
「貴公とペアを組むかもしれない相手を挑発するとは理解に苦しむ。それともこれがスリザリン流の『ご挨拶』というものなのかね?」
「ハッ。ポッターと組むことになったら僕は参加を取り消す」
唸るようにマルフォイは言ったが、ネフライトはまるで取り合わなかった。むしろ嘲るように彼は薄く笑った。
「いざとなったら貴公は逃げる? ほう、私の知る限りスリザリンとは『狡猾さ』を大事にする寮だったと思うが、いやはや。策を弄することなく尻尾を巻いて逃げ出すとは、さぞ芸術的で狡知的な撤退方法を見せてくれるのだろうね? ──互助拝領機構杯の目的は寮間の交流だ。理念に納得できないのなら去りたまえよ。時間の無駄だ」
ネフライトの冷え冷えした緑色の瞳がハリーを見た。退室するように、と言っているような気がして「行こう」と二人に声を掛けた。その後、マルフォイが教室を飛び出してくることはなかったので彼は残ったのだろう。
廊下を振り返るとロンがニッコリしていた。
「どうしたの?」
「マルフォイをやっつける自信が出てきた」
「あなたねぇ……。いい? そもそも今回の決闘大会は──」
ハーマイオニーが互助拝領機構杯決闘大会の趣旨を長々と話しはじめたが、ロンは嫌な顔ひとつしなかった。この調子で本番まで過ごして欲しいとハリーは心の底から思った。
■ ■ ■
翌週の週末。
お知らせチラシのとおり『互助拝領機構杯決闘大会』は、昼食後の大広間で開催された。
この週末は本格的な冬の到来となり、歴史的な大雪でホグズミード行の許可が下りなかったせいか、ほとんど全校生徒が集まっているような混み具合だった。
食事用の長いテーブルが取り払われ、見物用の長いすがあちこちに並べられている。大広間の中央にはレイブンクローのシンボルカラーである青を基調とした長方形の舞台が出現していた。大広間の注目を集める舞台を見てロンがちょっとだけ顔を蒼くした。
「見て、ダンブルドア校長がいる」
ハーマイオニーが目をぱちくりさせた。
壇上にある教職テーブルにはダンブルドア校長とマクゴナガル先生が食事を終えた後でも座っていた。手には見開きの羊皮紙を持って、何やら楽しげに話している。
「参加者はこちらへ。こちらへ! 受付で番号札を受け取って」
誘導をしているクルックスのそばを通り過ぎ、受付に行くと再びルーナとセラフィがいた。
「おや、来たのだね。ハリー・ポッターは……赤の六番だ。──ルーナ、渡してくれるかな。──それから、ロン・ウィーズリーは赤の七番。ハーマイオニー・グレンジャーは赤の八番だ。全員が番号札を受け取ったら抽選をするよ。……ちなみに僕は緑の一番だ。ルーナは青の一番だ。もし、ペアになったらよろしくね」
「よろしくね」
夢を見るようなフワフワした顔をしてルーナが言った。
三人は曖昧に頷いて番号札を受け取った。
ハーマイオニーが番号札を握りしめて肩を上げたり下げたりした。
「実戦と練習は違うもの。緊張しないように……深呼吸、深呼吸」
ロンもハーマイオニーの真似をして深呼吸をしたが、息を吸うばかりで過呼吸になりかけてからは、突然肩をぐるぐると回す運動を始めた。
十五分もすると参加者全員に番号札を配り終えたようだった。互いに番号札を見せたり、隠したりしていた。ハリーが大広間全体を見回したところ三年生以上が多いようだった。
「──ネビル!」
ロンが驚いて名前を呼んだ。
人混みのなかに見つけた人物は、とても意外だった。
ネビルはおどおどして立ちすくんでいたが、知っている人を見つけたようでホッとした顔をした。
「僕、赤の十五番だ。あれからクルックスが付きっきりで練習に付き合ってくれて……実技も何とかパスしたんだ」
ネビルは照れた顔で頭を掻いた。
ロンは大いに勇気づけられた顔をしていた。
「頑張ろう」
──誰と組むことになるんだろうか。
そんな話題で盛り上がっていると壇上に『互助拝領機構』の主宰、ネフライトが登壇した。
「諸君、注目を!」
金属製の筒状の拡声器を持ち、ネフライトは声を張り上げた。
大広間が静かになり始めた。生徒の何人かは、彼の被る檻を指差して友人達に揶揄するような仕草をしている。そんなやりとりが視界のあちこちに見えるだろうに彼は頓着していないようだった。
「静粛に感謝を。互助拝領機構杯決闘大会へようこそ! 開催にあたり、主催たる『互助拝領機構』主宰、私ネフライト・メンシスが短くご挨拶を申し上げる──」
ネフライトは大した緊張もせず、まるで台本を読んでいるかのように淀みなく挨拶を述べた。
内容は、ハーマイオニーが言ったことと大きく変わらなかった。互助利益を目的とする『互助拝領機構』は寮間の積極的な交流を図るため実施する、という内容で締めくくりの言葉は「健闘を祈る」だった。
「では抽選を実施します。──フリットウィック先生、ご登壇を!」
小さな背丈のフリットウィック先生が「よいしょ」と言いたげに壇上に登り、方々に手を振った。
「そーれ!」
フリットウィック先生が杖を振ると番号札の何も書いていなかった裏面に文字が現れた。──黄色の九番。
「僕のペアは黄色、ハッフルパフだ」
「私は青、レイブンクローみたい」
──ロンは?
顔色を悪くしているロンが弱々しい声で言った。
「最悪だ……緑だ……スリザリンだ……」
恐れていたことが起きてしまった。
三分の一の確率をロンは引き当ててしまったらしい。
ハリーとハーマイオニーは素早く視線を交わした。
「えーと、だから、隣の人に呪文をかける必要はないのよ?」
「それくらい、分かるよ……!」
最悪な慰め方をしてしまったハーマイオニーは八つ当たりされる前に「それじゃペアを探すわ」と足早に雑踏の中に紛れていった。
「もし、ペアが上級生だったら勝てる確率が高いってことじゃないか。ラッキーだと思ったら……」
ハリーの慰めはほとんど効果が見られず、ロンは哀れっぽく呻きながら人混みのなかに行った。
ハリーもペアを探しに行かなければならないと思い、辺りを見回した。大広間全体でペア探しが行われているようで右にも左にも行けない。そんな時、どこからか「赤の六」という声が聞こえた。
「赤の六番の人ー? 赤の六、赤の六ーっ!? 君?」
目が合った。やはりハッフルパフの生徒だった。
逞しい五年生の男子生徒。ハリーは珍しく他寮の生徒であっても名前を知っていた。
「セドリック・ディゴリー?」
「ハリー!? 驚いたな。君だったか! クィディッチで君の反射神経は見ている。これはもしかすると、もしかするとだ!」
なぜ他寮の生徒でも名前を知っているのか。
それは彼がハッフルパフのクィディッチのメンバー、そしてハリーと同じポジションのシーカーだったからだ。
彼を見ているとクィディッチで負けたことがチクチクと思い出され、ほんのすこし悔しい思いが胸にこみ上げた。けれどクィディッチ以外でクィディッチの勝負の勝敗を持ち出すのは子供っぽいことだとハリーにも分かる。こちらは今回、敗北側でもある。すすんで口に出したい話題ではなかった。
しかし。
「良い選手だって僕もよく知っている。心強いよ」
ハリーは絞り出すように伝え、二人はガッシリと固い握手を交わした。
彼がどう思っているかは分からないが、ハリーとしてはかなり良いペアを引いたのではないかと思った。少なくともスリザリンではない。その一点だけでハリーはロンに優ってしまったように感じられた。
「あ、ハーマイオニーは……?」
ハーマイオニーのペアは青と言っていた。すなわち、レイブンクローだ。背伸びをしても人混みの中では見つけられなかった。
そのうち人ごみを整理しているクルックスが指示を飛ばし始めた。
「選手はこちらへ。こちらへ! ──おい、押すなと言っているだろうがッ! この糞袋女! 怪我をしたらどうする!?」
怒鳴りつけられた女子生徒──たぶん上級生だ──が「キャッ」と騒いで足早に立ち去った。
「こっちへ移動しよう。作戦会議をしないと」
セドリックに肩を叩かれ、二人は見物用の長いすの前列に座った。長いすの前列は、選手席を兼ねているようで、もう何組かのペアが座って熱心に話し込んでいた。
大方のペア探しが終了した頃合いをはかり、フリットウィック先生が空中に大きな紙を提示した。
大きな文字で『互助拝領機構杯決闘大会』と書いてある。その文字のすぐ下に現れたのはトーナメントの対戦表だった。
「僕らの一戦目は……」
「エロイーズ・ミジョンとグラハム・モンタギューだ」
「ミジョン? ああ、知っている。同じハッフルパフでね。ちょっと、あー、ニキビのある──」
ハリーと同じ学年なので顔だけは知っていた。
しかし、あのニキビ面を『ちょっと』と表現するセドリックはかなり平和を好む性格なのだと感じた。
「うん、まあ、僕の記憶ならそんなに要領の良くない子のハズだ」
セドリックは「君より早くはないと思う」と感想を述べた。
「もう一人のモンタギューはスリザリンのクィディッチ・チームのチェイサーだ。反応は悪くないだろうね」
「こっちも同じ学年だから知っているよ。チェイサーをやっているくらいだ。そう、反応は悪くない。だが、せっかちな性格だ。こっちは『かなり』ね。何か上手くいかないことがあるとすぐ苛立つな。それで魔法薬の授業中はずっと足を揺すっているんだ。でも実技を突破したってことは呪文を使えるってことだから油断できない──」
分析するセドリックをよそにハリーはトーナメント表をじっくり見た。ハーマイオニーの名前の隣に書かれているのは、レイブンクローのアンソニー・ゴールドスタインだ。やったぞ。ハリーは我が事のように嬉しくなった。ハリー達と同学年のレイブンクローの生徒だ。ハリーは、彼が授業中にヘマをしているのは見たことがない。そしてハーマイオニーの性格からもレイブンクローの生徒と組むのは悪くない選択だと思う。
ロンは──。
探して見つけたハリーは、顎が外れそうになった。
「ドラコ・マルフォイ!?」
念のためセドリックにもトーナメント表を見てもらったが、どこからどう見てもロン・ウィーズリーとドラコ・マルフォイはセットだった。
「ロン? いつも一緒にいるウィーズリーの兄弟の下の彼? スリザリンのことが嫌いだろうに……うーん、これは……難しいかもね……」
セドリックは「お気の毒さまに……」と小さな声で言った。もしも、彼が真剣に優勝を目指す人であれば「敵が減るぞ!」と喜ぶ場面だったかもしれない。しかし、そんなことをしない公平な人物であることがとても好印象だった。
壇上のネフライトが再び拡声器を持って「静粛に」と呼びかけた。
「抽選結果はいかがだっただろうか? 各々作戦を立てて最後まで諦めず戦ってほしい。相手の脳を垣間見るように真剣に。けれど礼節を忘れることなかれ。礼節の無い争いなど獣の争いに等しいのだから。──さて、これから場を温める短い模範演技を行い、終了の五分後に第一戦の開始とします。模範演技には『互助拝領機構』の監督を快く引き受けて下さったフリットウィック先生がお相手になって下さいます。諸君、先生に敬意と感謝の拍手を!」
大広間にいる全員が拍手を送り、ダンブルドア校長やマクゴナガル先生も拍手を送った。
拍手が終わると途端に水を打ったように静まりかえり、二人は距離をとって長方形の舞台の端に立った。
フリットウィック先生が会釈のように軽く頭を下げ、ネフライトは体の前で手を重ねた丁寧なお辞儀をした。
「二年生以上の生徒は昨年の決闘練習で知っていることでしょう。決闘は、まずは礼。そして三つ数えて、最初の術をかけます」
解説を終えたネフライトが、舞台の中央そばの床にひとり立っていたセラフィへ目配せをした。合図を受けた彼女が「一、二」とカウントを始めた。
「三!」
声と同時に二人の杖が、肩より高い位置で素早く動いた。フリットウィック先生の目にもとまらない杖さばきから放たれた『武装解除呪文』がネフライトの『盾の呪文』に弾かれた。
その時だ。ネフライトが左手の袖を振った。左手に隠れていたそれらは彼の頭上でヒラヒラと漂った。魔法ではない。だがフリットウィック先生は、攻撃してもよいものかどうか迷っているのが杖先のブレで分かった。
「模範演技は『派手に』とのご注文、承りましょう。このネフライト・メンシス、ご期待には全力で。しかし、どちらが勝つのか決めていませんでした」
宙を舞う紙切れ──ハリーはようやくその正体が分かった。トランプカードだ。──それを一枚、宙で掴みフリットウィック先生に向かって投げつける。それはたちまち黒い鷲になり、一声鋭く鳴いて飛んでいった。
「ディフィンド 裂けよ!」
鷲は紙の断面を覗かせて真っ二つになったが、裂けた途端、二羽の小さい鷲に変身し、今度はフリットウィック先生の後頭を狙った。
「インセンディオ 燃えよ!」
フリットウィック先生が呪文を唱え杖を頭上で回すと炎に触れた鷲は半分ほど切られたトランプカードになり、燃え尽きた。
「ですから。──私が勝っても構わないのでしょうね?」
ネフライトが檻の中で値踏みするような目でフリットウィック先生を見ていた。
トランプカードは規則正しくネフライトの前に並び、撃ち出される弾丸のように静かに時を待っていた。
大広間では。
──ひょっとすると、かなり珍しいものを見ているのかもしれない。
そのことに気付いた生徒が戸惑いのざわめきの後で応援の歓声をあげ始めた。
開催を宣言する!
始まりました。第一回互助拝領機構杯決闘大会。長い。決闘大会。
ネフライトは模範演技にかこつけて、ルール違反を取り繕うことなく全力でフリットウィック先生に勝ちにいっています。
なぜ?
──だって知りたいじゃないか。これまで学んだことでどこまで先生に通用するか。
気になってしまったらネフライトの思考は病みつきになり『きょうだい』のなかで最も過激な手段を取ってしまうことがあります。
全て費やしてしまえる。かつて彼がクルックスに伝えたのは、自分の抱える真実の一側面であるのでしょう。
そんな彼に付き合ってくれるフリットウィック先生は、彼の危うさにトコトン付き合うことで昇華を図っているのかもしれません。
名前あり生徒がいそうでいない問題
出来る限り、名前がある生徒で本イベントを構成しました。この話を書くためにさまざま原作やウィキを駆使した結果、ハリー達の2学年上、つまりウィーズリー双子やセドリック世代のことですが、ハッフルパフの名前あり生徒がいないということに初めて気付きました。そ、そういえば特にハリー達に絡まなかった、か……。
先生達がニコニコしている理由
教職員用にペアとトーナメント表が先に配られていました。
ダンブルドア校長とマクゴナガル先生は「この生徒は、どうかの」、「こっちの生徒も負けてはいませんよ」、「ホホ」、「フフ」、と最近の生徒の状況をお話ししています。そのうち寮監の先生達が賑やかな声に惹かれてやって来るかもしれません。マクゴナガル先生「どんどん実っていきますね」
インセンディオとかいう炎魔法
人体に向けて撃つ魔法じゃないよな、とゲームのPVを見て思いました。人体ボンバーダとかどうなっちゃうの。やはり人道的配慮からアバダ採用を検討するべきじゃないかと(ろくろを回す)
ご感想お待ちしています(交信ポーズ)