甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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トロール
脳は麻痺していない。
しかし、知性は怪しいものだ。
対峙するならば、用心すべきだろう。



ハロウィーンの夜

 ハロウィーン。

 その当日、クルックスは学業に身が入らなかった。

 理由は二つある。一つは、昨日、父たる狩人に呼び出された際に探索の経過報告をしなかった。いま思えば悔やまれる。二つ目は、校長に接触する方法を知らなかったことを思い出したのだ。

 どうすればよいだろうか。考えた先で取るべき方法は、一つだった。

 変身術の授業の後、教壇に残り羊皮紙をまとめる寮長のマクゴナガル先生へ質問を投げかけた。

 

「先生、私用にて質問することをお許し願いたいのですが」

 

 狩人の一礼をした後でクルックスは魔女を見上げた。

 簡単な説明をすると彼女はクルックスが持つ封筒を確認した。

 

「校長先生へお手紙を?」

 

「はい。我が父からお預かりしているもので、叶うならば直接渡したいのです。我々は、これまで魔法界と隔絶していたヤーナムからこの度、数世紀ぶりに参りました。こちらには礼と今後のヤーナムとイギリス魔法界の関係について書かれているそうです」

 

 厳格な魔女は『イギリス魔法界の関係』という言葉が出た時、わずかに眉を寄せた。

 

「……ヤーナムのことは、私でも詳細を知り得ません。とても信じがたいことですが……イギリス魔法界が見落とした土地だと聞いています。最近、クィレル先生が再発見したとか。……。ええ。取り次ぐのは構いません」

 

「ありがとうございます」

 

「今晩はハロウィーンの食事会があります。その後に時間が作れるか校長先生へかけ合ってみましょう。後で声をかけます」

 

「はい。我が父に代わり、感謝いたします」

 

 マクゴナガル先生はひとつ頷き、退室を促した。

 クルックスは手紙を懐にしまい、一礼すると教室を出た。

 衣嚢に入れている時計を確認する。次は呪文学の授業だった。

 何とか目的までの道筋を立てることができ、彼は安堵の息を漏らす。そんな時。

 

「クルックス。はぁい。調子はどうかしら?」

 

「……まぁまぁだ」

 

 廊下を歩いていると呪文学の近くの教室へ行くというテルミと出会った。

 ネフライトなどはテルミの顔を見ると顔をしかめることを隠さないが、今はすこしだけ彼の気分が分かった気がする。彼女の満面の笑みを見ると気持ちが沈むのだ。特に彼女ならばもっと簡単にやり遂げるだろう、そう思えるような仕事を終えた後では。

 

「うふふ。何だか緊張しているみたい。何かありまして?」

 

「お父様から仕事を頼まれた。俺が適任らしいが……俺には、よく分からない」

 

「それは良いことよ。クルックス。セラフィもそうですけれど、これから知っていけば良いし、成りたいものになればよいのだから! それでお仕事って何かしら?」

 

「……手紙を校長に渡すというものだ。中身はヤーナムはイギリス魔法界に基本的に接触しない、という文言らしい」

 

「へえ。そうなんだあ。お父様がねえ」

 

 テルミが小さく呟いた。

 言葉の裏の裏まで読み取る彼女は、いったい狩人の言葉をどう解釈したのだろう。

 ころころと可愛らしく笑いながら、美しい少女の形をした同胞は目を細めた。

 

「『基本的に』なんて。まるでこれから『例外ができる』みたいな書き方ね」

 

 彼女の指摘でクルックスは初めてその可能性に気付いた。

 けれど、彼女が面白がる事態には成り得ないだろうと思っている。

 

「ヤーナムとイギリス魔法界の諍いなど不毛である。価値が無く、意味も薄い。お父様はご介入なさらない。ヤーナムの内でさえそうだ。メンシス学派と聖歌隊の紛争も放置している。それこそ二〇〇年以上も。止める機会などありふれて余るだろうに。ヤーナム以外のことは知識と技術以外に興味が無いのだろう」

 

「まるでそうあってほしいように言うのね、クルックス。お父様によく似た貴方」

 

 クルックスは、希望的楽観だと自覚があったので彼女の言葉を咎めなかった。常に最悪を想定すべきである狩人らしからぬ言動をしたとも思っていた。

 しかし『今のところ』は、それで問題が無いのだ。事実、ヤーナムとイギリス魔法界の間で不和は起きていない。

 彼でさえ思い至ることだ。テルミが気付いていないハズがなかった。

 

「つまり何だ。何が言いたい。俺は、貴公に『適切な情報伝達を求める』と言った覚えがあるがな」

 

 テルミには何が見えているのか。

 焦れたクルックスは、問いただした。

 

「多くの目を閉じ、多くの耳を塞ぎ、何とか人の形を留めているお父様は、けれど後手に回ることは少ないということよ」

 

 上位者たる狩人の瞳は、特別だ。宇宙的悪夢を得た瞳は『よく視える』のだという。「何が」と問うても彼には理解ができなかった。ビルゲンワースの学長ウィレームが、かつて喝破したように『思考の次元』に大きな隔たりがあったからだ。

 

「まるでこれから嵐が来るようなことを言うのだな、テルミ。お父様から最も遠い可能性の君」

 

「うふふ。わたしはさっぱり何も見えないわ。けれどね。お父様の方針は、とても良いものよ。あの御方はヤーナムの繁栄を望んでいらっしゃるもの。だから、あらゆる可能性を想定して、今のところ差し障りの無い対応をしているのではなくて?」

 

 そういうことだと思っておこう。

 クルックスは、手を振り別れようとした。その矢先である。

 

「あまり気に留めず、病まないことよ。クルックス。それはきっと貴公の役割では無いのでしょう」

 

 別れ際に告げられたことに一度だけ脚を止めた。

 再び歩き出した時、クルックスは彼女の言葉を考えていた。

 

(俺は今『愚かでいろ』と言われたのだろうか)

 

 誰かに彼女の言葉の真意を聞きたいと思った。

 ネフライトならば教えてくれるだろうか。

 

「…………」

 

 頭を振り、切り替えて授業に臨む。

 心的な切り替えはうまくできた。そのため、今日の呪文学の授業は興味深いものであると同時に実用性という観点からも必須に思えた。

 フリットウィック先生は、積み上げた本の上に立ち、呪文と杖の使い方を指示した。生徒は誰も彼もが早く試したくてうずうずしているようだった。

 

 一連の説明を終えた後、最も早く呪文を成功させたのはグリフィンドールの秀才、ハーマイオニー・グレンジャーだった。グリフィンドールに加点する声が高らかに響いた。

 

「ほう。スゴいな。そして面白い」

 

 彼女より上段のテーブルで、その様子を見ていたクルックスは大きく頷いた。

 隣でペアを組んでいるネビルが机上の羽根を振った。

 

「クルックス、感心してないで僕らもやらないと。君はともかく、僕はうまくできるとは思えないけどさ……」

 

「そんなことはない。ネビル・ロングボトム。諦めないことが重要なのだ。何事もそうだ。粘り強くいこう。──羽根よ、浮上したまえ。ウィンガーディアム・レビオーサ

 

 魔法のコツというものをクルックスは感じることがあった。呪文を唱えたら呪文の効果の通り現実が変わるのだと信じ込むこと。ヤーナム外において、人はそれを集中力と呼ぶのだろうか。

 果たして。羽根は杖の指し示す高さで浮上した。

 

「ふむ。できたな」

 

「すごくあっさりやるね……」

 

 ネビルが気落ちした声を出した。

 別の机から小さな歓声があがった。

 ちらりと見れば、スリザリンの席でセラフィが呪文を成功させたところだった。

 フリットウィック先生がスリザリンへ得点した。

 

「あの人もすごいよね。何でも出来るって感じだ」

 

「……そう見えるか」

 

 クルックスは杖先を逸らし、落ちてきた羽根をつかまえた。

 

「ロングボトム、貴公の番だ。あまり難しく考えないように。まずは羽根を浮かべることだけに集中しよう。……肩と腕に力が入りすぎている。もっと自然に」

 

「あ、ああ、こ、こう? ウィ、ウィンガーディアム・レビオーサ

 

 羽根はピクリとも動かなかった。

 

「ふむ。動かないな。発音は問題が無いだろう。自信を持っていい。だが、動きが硬い」

 

「そう。もっとこう、かな?」

 

 手首の柔軟が足りないのではないか。

 ふたりで試行錯誤している間に授業は終了してしまった。

 結局、最後までピクリともしなかったネビルを励まし、後日談話室で復習することを約束した。クルックスとしてもこの呪文は、ぜひとも習得しておきたい。練習の機会と考えれば良いものだと思う。

 

「何度か練習すればできるようになるだろう。間違いなく魔法使いなのだから。そう気落ちすることはない」

 

「……ありがとう」

 

 ネビルは肩を落としたものの、次の授業に向かう足取りは確かなものだった。

 教科書を抱えたクルックスが中庭に出た時、高く陽が昇っていた。

 

(ああ。空が高い)

 

 日中は夜に備えて寝ることも多い。晴れた青空は、いつ見ても気分が良いものだ。

 ヤーナムの空を思うと夜ばかりが記憶に残っている。

 底抜けに明るく青々とした空のもと、次の授業へ歩いているとやけに不機嫌なロンとなだめるハリーが隣を通り過ぎていった。

 

「──だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなやつさ。いい? レビオーサよ。あなたのはレビオサーだって! あんなだから友達がいないんだ」

 

 ぶつぶつと最悪の機嫌にあるロンが言う。

 クルックスの敏感な感性が「悪夢」という単語に反応した。

 

「ウィーズリー、それは誰のことか」

 

 彼が何か口を開く前に、誰かがハリーとロンにぶつかり追い越していった。ハーマイオニーだ。

 

「いまの、聞こえたみたい」

 

 ハリーが横目でロンを見た。

 

「それがどうした?」

 

 言葉の強さの割に、ばつの悪そうな顔をしたロンは教科書を抱え直した。

 そういえば。クルックスは思い出す。ハーマイオニーのペアはロンだった。

 クルックスにとっては、ささやかな悪口だが、繊細な少女の内心は乱れているのかもしれない。それをなだめる術も知らないが、このままではいけないことだけは分かる。

 ハーマイオニーの背中とロンを交互に見たクルックスは歩き出した。

 

「何があったか分からないが、不満ならば正面から言いたまえよ」

 

「正面から言ったらもっと傷つくと思うけど……」

 

 ハリーは言う。

 クルックスは、そうかもしれない、と頷いて見せた。

 

「たしかに。では、陰でコソコソ言いたまえ。しかし、寮祖グリフィンドールが嘆くのではないかな」

 

 クルックスの言葉は嫌味では無い。ただの感想だった。

 彼女の小さくなった背中を追うクルックスは、建物に入る直前で彼女に追いついた。

 

「待て、ハーマイオニー」

 

「独りにして。あなただって、わ、私が目立ちたがり屋のお節介だと思っているんでしょう!」

 

 ヒステリックに上ずる彼女の声に、クルックスはどうしようもない語彙の少なさを痛感した。

 伸ばした手が熱いものに触れたように空中で跳ねた。

 

「貴公は、いや、君は努力家だ。俺から見える君は、ただのそれだ。優秀であることは良いことだ。それが咎められることなどあってはいけないのだ」

 

「私は、あなたみたいに独りでも平気だって思えないの。あなた、グリフィンドールに友達はいないけれど他の寮の生徒で話せる人はいるでしょう? 私とは違うわ」

 

「あ。い、いいや、あれは」

 

 誤解を解くには時間が足りない。語彙など更に足りなかった。

 しかし。

 振り返った彼女は、目を真っ赤にして泣いていた。それだけで彼に浮かんだ言葉は消えてしまった。何も言えずに、ただ彼女の背を見送った。

 

「きっと、これは俺の役割では無いが──」

 

 伸ばしかけた手を握っては開く。テルミのクスクス笑いが思い起こされた。

『あまり気に留めず、病まないことよ。クルックス。それはきっと貴公の役割では無いのでしょう』

 同胞の忠告を、彼は忘れることにした。

 

「さりとて、口を挟み、手を出して、目をかけずにはいられないのだ」

 

 彼女は、クルックスが思い描く平穏の風景のひとつでもあったから。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 その後、気を取り直してハーマイオニーを追ったクルックスであったが、その間には分厚い性別の壁が立ちはだかった。

 彼女がいるのは女子トイレだったのだ。

 

「……うーん……」

 

 無言で女子トイレの壁を眺めながら思う。

 ──たしかに俺の役割ではない。

 テルミかセラフィに依頼する必要があるだろう。

 

 テルミとセラフィを探している間に次の授業が始まる時刻になってしまい、クルックスは教室へ向かった。やはり、というべきか、当然というべきか、彼女は現れなかった。

 ロンを見れば、少々気がかりと思える顔をしていた。彼とて、ちょっとした愚痴だったのだろう。だが、間が悪かった。クルックスは、どちらにも同情した。

 授業が終わり、夕食の時間になった。

 ハロウィーンの飾り付けがなされた大広間は、いつもより華やかで入学時を思い起こさせた。千匹ものコウモリが壁や天井で羽をばたつかせ、くりぬいたカボチャの中では蝋燭の焔が赤々と燃えていた。

 

 クルックスはグリフィンドールの席に座るが、背を伸ばしてしきりにハッフルパフの席を眺めていた。テルミを探しているのだ。どうやらまだ来ていないらしい。

 

 セラフィは、大広間へ向かう道で見つけた。声をかけようとしたが、よくよく考えてみればセラフィに人を慰めるという高等な交渉ができるだろうか。自分以上の不適当に思えてきた。きっと彼女ならば「何をグズグズしているのか。さっさと生活に戻りたまえ。なに死ぬほどのことではあるまい」と尻を蹴飛ばすなどしそうである。自分以下の存在は、端から価値の頭数にも数えない性格なのだ。カインハーストは古代ギリシアのスパルタの流れを汲んでいるのだろうか。このような繊細な件で彼女に頼るのはやめよう。

 

 しばらく大広間の入り口を見ているとテルミがやって来た。彼女はハンナ・アボットと会話していた。

 近付いてくるクルックスに気付くと「なぁに?」と柔らかい笑みを浮かべた。

 

「話がある。付いてきて欲しいのだが。……すまないが、すこし彼女を借りていく」

 

 クルックスは、ハンナにひとつ断りを入れて大広間を後にした。

 背中に何やら面白がるキャアキャアと小さな声がかかった。

 

「そういえば、きょうだいであることを話したのか? 仲が良さそうに見えたが」

 

「えぇぇ、貴公。本気で言っているワケではないでしょうね? 話していないわ。だってまともに話すと母親が四人も必要になってしまうのよ? わたし達、とっても似ていないのだから。お父様だって、とんでもない人でなしになってしまうでしょう。とっかえひっかえなんて言われてしまうんだわ。可哀想なお父様」

 

 テルミはいつもと同じようにクスクスと小さく笑う。笑うことだろうか? 彼は疑問に思ったが、彼女なりの冗談なのだと思うことにした。聖歌隊のセンスは、悪趣味だということ以外、よく分からない。

 クルックスは大広間から廊下に繋がる二重のアーチを抜ける。

 通行の邪魔にならないところに立つと振り返った。

 

「お話とは? まさか世間話ではないでしょう?」

 

「女子トイレにグレンジャーがいる。慰めてほしい」

 

 端的に依頼を告げるとテルミは美しい金色の髪を耳にかけた。

 

「あの子? 何かあったの?」

 

 彼女は訊ねた。

 

「同じ寮生に悪口を言われて落ち込んでいる。午後の授業は見かけなかった」

 

「できるけれど。あははは。おかしいわ。とってもおかしいわ。貴方もそんなことを気にするのね。お友達だから?」

 

 テルミが面白がるように笑う。美しいが耳障りだった。

 彼は、しつこい猫を追い払うようにシッシと手を振った。

 

「俺は、平穏を望んでいるだけだ。早く行ってくれ。……宴が始まる。食事をすれば心の不調も直るだろう。温かい食事が必要なのだ。連れてきてくれ。後で聖杯のどこなりと付き合ってやる」

 

「その言葉、忘れないでね。イズ聖杯をたくさん調査するんだから!」

 

 テルミはハロウィーンの誰もいない廊下を走り去っていった。

 しかし、三秒後に彼女は戻ってきた。

 

「なんだ。どうした」

 

「わたし、道が分からないの……」

 

「やはり、その性質は致命的だろう」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 今日の諍いは。

 とても些細な事だと思う。普段であれば、何とも思わない──これは少々強がった──あまり気にしないことが、今日はなぜかとても堪えた。

 振り返り思えば、昨日の三頭犬との出会いから溜まりつつあったストレスが、今日、あの時に爆発したのだと言える。

 

 ハーマイオニーは、時計を見る。午後の授業は休んでしまった。もう夕食時だった。

 

 泣いて腫れた目を冷ましたら、せめてデザートはつまもう。ずっと、このままではいられない。

 ──君は優秀だ。

 引き留めるように告げられた言葉を思い出す。灰色の暗い目をした同期生は、ひどく口下手だ。その彼が追いかけて、必死で考えた慰めの言葉も無下にしてしまった。ほんのすこし自己嫌悪する。

 

 女子トイレの個室から出ると誰かの足先があった。足、胴、首とゆっくり辿っていくと金色の艶やかな髪を肩口で切りそろえた、藍の瞳の女子生徒が立っていた。

 

「こんにちは。あら。『こんばんは』だったわ。ご機嫌よう、ハーマイオニー・グレンジャー」

 

「……?」

 

 ハーマイオニーは、もちろん彼女のことを知っていた。

 一度はホグワーツ行きの列車の中で。二度目は授業の中で。

 

 ハッフルパフ生のなかでもひときわ社交的な彼女は、一年生のなかでも指折り秀才と言えた。けれど、そういえば自己紹介をしたことが無かった。

 いつも本に埋もれているハーマイオニーとは異なり、彼女には華があった。彼女の周囲には、いつも誰かが一緒にいる。そういう子なのだ。

 そして、合同授業になった時は驚いた。

 こうして軽やかに話しながら何でも無いことのように優秀な成績を残しているのだ。まるで人脈作りの片手間のように。

 

 何となく苦手意識を持つ子が待ち構えている事実にハーマイオニーは新しい涙が浮かびそうになった。なんでこんなことに。ぐるぐると思考が回る。

 

「わたしはテルミ。テルミ・コーラス=Bよ。グリフィンドールとの合同授業で何度かお見かけしたわね。列車でもお会いしたの、覚えていらっしゃるかしら?」

 

「ええ、もちろん。そう……。わたしはハーマイオニー・グレンジャー……どうして、ここに? 今日はハロウィーンでしょう。みんなパーティに参加しているんじゃない」

 

「クルックスに頼まれたの。貴女のことをとても心配していたわ。けれど、ほら、あの人は言葉が拙いでしょう。それに女子トイレには入れないから、とね」

 

 ハーマイオニーは、彼女の隣を通り過ぎて洗面台まで歩くと蛇口をひねった。

 冷たい水で手を洗いながら、鏡越しに彼女を見た。

 

「……ご心配どうも。でも、もう結構よ」

 

「そう。失礼なことをしてしまったかしら。でも、どうかお許しになってね? わたし、張り切ってしまったの」

 

「え?」

 

 彼女が悲しそうな顔をしたのを見て、ハーマイオニーは振り返った。

 

「『こんな時に何を』と軽蔑してくださる? でも、列車以来、お話しする機会も無かったから。こんな時でさえ落ち着いて話ができるなら、きっと貴女とお友達になれると思ったの……」

 

「あなたは……もういっぱいいるでしょう、友達」

 

 やや棘のある言葉を彼女は正しく理解しているようだった。彼女は、今回の顛末をクルックスから聞いて知っているのだ。

 テルミは、ハーマイオニーの隣の洗面台に立つと鏡を覗き込んだ。

 

「浅く広い交友関係で真実の友達と呼び合える仲がどれほどいるかしら? ハッフルパフは、みんなそんな感じなの。その点、グリフィンドールやスリザリン、ああ、レイブンクローでさえ、わたしは羨ましいわ。きっと人生の友となる交友が結べそうだもの」

 

「……私には、難しいわ」

 

「みんな、貴女の魅力に気付いていないのよ。とっても優秀な魔女になれるわ、貴女。グリフィンドールにいるのが不思議なくらい」

 

 ──あなたが何を知っているの?

 ささくれた言葉を言わなかったのは、単純に泣き疲れてしまったからだ。テルミの声が、優しげであることも強く拒絶することの出来ない理由だった。

 けれど『とっても優秀な魔女になれる』とは、まるで自分はそうならないとでも言いたげな響きがあった。もっと踏み込めば、まるで『違う世界の住人なのよ』とでも言いそうな。そんな色だ。どうして。どんな顔をしてそんなことを言うのか。

 

「ねえ? 勉強を教え合うとか、そういう関係から始めましょう? わたし、もっともっと貴女とお話してみたいの。お互いの損にはならないなら、貴女だってきっとお得だと思うの。どうかしら? どうかしら?」

 

 そう聞きながら、彼女のなかでは決定した事項のようになっているようにハーマイオニーは感じた。

 根負けした気弱な微笑みを彼女は了解としたらしい。

 

「まあ、嬉しい。とっても嬉しいわ。わたしのことはテルミと呼んでね。コールミー、テルミーってね。コーラスもビルゲンワースも、ちょっと他人行儀ですからね」

 

「ビルゲンワース……?」

 

 そうだ。

 ハーマイオニーは列車でクルックスに問いかけられた学舎の名称を思い出していた。その後の組分け儀式が衝撃的すぎて今まで忘れていたが、その名を持つ彼女ならば何か──。

 ハーマイオニーの問いかけは霧散することになった。

 

「──あら。何か臭うわ。下水の調子が悪いのかしら? 困りますね」

 

 そう言いながら。

 いつの間にかテルミは、銀色の霧吹きのような器物を左手に持っていた。

 それは何と問いかけたいハーマイオニーも異臭に気付いた。洗っていないトイレと汚れた靴下を三日三晩、高温の密閉空間で沸かしたような臭いが漂っていた。

 ドタ、ドタ、と鈍い足音。そして、ずるずると何かを引きずる音が近付いてきた。

 

「ハーマイオニー。そういえば、聞きたいことがあるのだけれど。さっそくいいかしら?」

 

「なっなに?」

 

 異臭はただ事では無い。

 それを理解していながら、普段と同じ調子で話しかけるテルミは左手に握る霧吹きをしきりに調節していた。

 

「クルックスから……うーん……何か聞いているのかしら? ヤーナムのこと」

 

「え? いえ? 谷間の古い街だと」

 

 それだけ……。

 ハーマイオニーの最後の言葉は、小さくかすれた。音はすぐそこまで近付いている。嫌な予感はひしひしと迫り、体が強張った。

 彼女は、ハーマイオニーの腕を引いて女子トイレの戸口から一番遠い場所へ歩き出した。ハーマイオニーは、ぎこちなく動いた。脚を動かす努力が必要になっていた。

 

「……きっとクルックスは残念に思うわ。あの人、お父様に似て潔癖症のようだから」

 

 悲しんだ声色をハーマイオニーは聞き取った。

 けれど、鏡が無かったのでテルミが笑っていることには気付かなかったことだろう。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 ネフライトは、図書館から這い出てきた。

 司書のピンス女史に「ハロウィーンの夜に生徒がいるなんて!」とチクチクと小言を漏らされた経緯も理由のひとつにあるが、第一は、純粋に腹が空いたからだ。せめて夕食のポテトくらいは食べようと思い立った。

 

 メンシスの檻を被る影は、奇妙な生物のようである。

 ぶつぶつと祈りを諳んじていた彼は、不快な臭いを感じて廊下を見回した。

 

 ちょうど長い回廊を挟んだ向こう側に、獣狩りの下男のような大きな生き物を見かけた。

 今日はハロウィーンである。恐らく余興であろう。

 ネフライトは、大広間に向かいかけたが、方向を転換させた。不快な臭いで食欲が失せた。

 夜食までには食欲も回復するだろう。ひとまずサンドウィッチを厨房にもらいに行って、後ほど食べよう。

 なかなか妙案に思えた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 ネフライトが行くのを諦めた先の大広間は、大混乱にあった。

 大広間に駆け込んできたクィレル先生が報告と同時に倒れた。

 その直後からクルックスの周囲は大恐慌もかくやというありさまだ。

 

「『トロールが地下室に』──だからなんだというのか?」

 

 辺りを見回したクルックスは首を傾げた。誰も彼もがワア、キャアと喧しい。

 いつも疑問を答えてくれるハーマイオニーがいないので、食べ物を喉に詰まらせて静かになっているネビルをつかまえて問いただした。

 彼は、喉のつっかえを飲み下した後で答えてくれた。

 

「トロールだよ! トロール! でっかくて! すごく力が強くて……! もうめちゃくちゃなヤツらだ!」

 

「それは危険なのか?」

 

「そりゃそうさ!」

 

「どのように」

 

 クルックスとネビルのトンチンカンな話を聞いていたシェーマスが、顔を引き攣らせながら叫ぶように言った。

 

「話なんか聞きやしない! アイツらが話す言語なんてブァーブァーだ! それにアイツらバカだから人を襲うんだ!」

 

「人を、襲う。なるほど」

 

 つまり獣だ。

 クルックスは、標的を見定めた。

 

 生徒の狂乱は未だ鎮まらない。

 クィレル先生の証言ならば、地下室にいるのだという。彼らの説明は要領を得ないが、危険であることは確かのようだ。先生ともあろう人が思わず気絶する程度に、それは強いのかもしれない。速やかに排除すべきだろう。

 スリザリンの席を見ると一足早くセラフィが生徒の間をかき分けているところだった。レイブンクロー席には最初からネフライトがいないので確認するまでも無い。けれど、彼も異変を察したら行動するだろう。鐘を鳴らすまでもない。

 

 席を立つ。

 その時だった。

 

 教員テーブルに座っていたダンブルドア校長が杖から爆竹のような炸裂音を鳴らした。

 大広間は一転、静かになった。

 

「監督生よ。すぐさま自分の寮の生徒を引率して寮へ帰るように」

 

 重々しく校長は言う。

 弾かれたように監督生は次の行動に映った。特にグリフィンドールの監督生、パーシー・ウィーズリーなど水を得た魚のような活性ぶりだった。

 

「さあ、僕について来て! 一年生は固まって! 僕の言うとおりにしていればトロールなど恐るるに足らず! 道を空けてくれ! 一年生を通してくれ!」

 

 行動の方向性を与えられた生徒はパーシーに従うが、全寮に移動指示を出したことで入り口は押し合いへし合いの大混乱だ。

 

(そうだ。テルミは!? ハーマイオニーは──!?)

 

 まだ、戻ってきていない。ずっと入り口が見える場所で待っていたのだから間違いは無い。

 数秒、迷う。

 

(セラフィは、独りでも大丈夫だ。大丈夫のハズだ。血を狩る狩人が、そうそう……)

 

 敵が複数であってもセラフィが不覚を取るとは思えない。もし、何かあれば鐘を鳴らすだろう。

 だから。

 

(俺は、すこしの間、ここで彼女らを待っていてもいいだろう。この事態だ。何も知らなければ女子トイレから大広間を目指してくる。テルミならば、そうする。どうせ道も分からなくなってしまっているだろうから、ハーマイオニーも一緒に違いない。その時に、事情を伝える者がいたほうが──)

 

 席を立ち、何とか大広間を脱したものの行き先に惑う。

 女子トイレへ繋がる廊下──見つめる先で彼の目は捉えた。

 

 ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーだ。

 慌てた顔で角を曲がって彼らは消えた。

 

 どうして彼らが駆けていくのか。

 推理するよりも早くクルックスの脚は駆けだしていた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「トロールだわ!」

 

 ハーマイオニーが驚いて叫ぶ。

 女子トイレ、戸口に現れた巨人。

 テルミは『死体の巨人よりは小さいのね』と考えていた。足音から体重を推し量ることは、難しい。

 

「トロール?」

 

 テルミは、聞き返しながら決して目を逸らさなかった。

 聖杯に存在する死体の巨人にしては小さいが、人にしては大きすぎる。目測四メートルはある。禿げていて頭の上に申し訳程度の頭髪が生えていた。肌の色は灰色。臭いは更にキツくなった。

 手にした棍棒を見て、背後に庇うハーマイオニーがヒッと引きつけのような声を上げた。

 

「まぁ、何だって構いはしないわ。──さあ、死になさいっ!」

 

 テルミが左手に構えたロスマリヌスを噴射する。

 ロスマリヌス。

 ヤーナムにおける医療教会の上層に拠点を構える『聖歌隊』が用いる特殊銃器だ。血の混じった水銀弾を特殊な触媒として神秘の霧を放射する。

 トロールの呻き声に惑わされず、耳を澄ませば聞こえるだろうか。──神秘の霧が見える時、在りし日の聖歌隊の歌声が。

 

 扉をくぐり現れる存在が何であれ、ロスマリヌスで攻撃すると決めていた。殴る、斬る、潰す、燃やすより時間はかかる。けれど、ハーマイオニーに悍ましい光景を見せたくない。ゆえに確実な手段をテルミは選んだ。

 しかし。

 

「死になさいよっ!」

 

 ──あぁ、手応えが無い。

 テルミの額に初めて汗が浮かんだ。

 トロールは呻き、嫌々をするように手を振るがじりじりと距離を詰められている。テルミの想像を超えて皮膚が分厚いらしい。

 仕込み杖で削り取ったほうがよかったのかもしれない。けれど、ホグワーツで狩人の戦いをしたくないのだ。

 テルミは自分の築き上げた人脈に欠けができることを恐れていた。

 

 不意に同胞達を思い出す。

 どうやら忠告を真に受けるべきだったのは自分のようだ。

 せせこましい考えの時に限ってこうだ。今まさに窮地に陥りかけている。

 

「……ハーマイオニー。貴女、走れる? トロールの脇を通って扉まで走れる?」

 

 テルミの右手を握る彼女の手は、哀れになるほど震えていた。言葉を待つまでもない。無理だ。トロールという怪物は間抜けそうだが、狙うに容易い獲物ができたら、そちらへ向かう程度の判断力はあるかもしれない。彼女の命を賭けることは憚られた。

 

(今から火炎放射器に変えて──)

 

 テルミの金糸の髪に影が落ちた。

 トロールが棍棒を振り上げたのだ。

 

「っ!」

 

 テルミはハーマイオニーを抱えて横っ飛びに跳んだ。

 振り下ろされた棍棒はテルミが、先ほどまで立っていた場所に直撃した。これを体に受ければ粉砕は免れまい。トロールは相変わらず扉を背にしている。

 嫌がらせのようにロスマリヌスの噴射を続けながら、震えるハーマイオニーを支える。

 

「月の香りに瑕疵ができたら困りますもの。守ります」

 

「ううん。テ、ルミ……わ、私、走るわ」

 

 それは恐怖ゆえか。いいや、違う。テルミは握られた右手に意志を感じた。

 彼女がどうしてグリフィンドールに選ばれたのか。──その理由を、すこしだけ知ることができた。

 一瞬だけ、獲物から目を離した。

 そしてハーマイオニーを見る。彼女はしっかりと光を宿した目で扉を見据えていた。

 

「ええ、良い考えね。……わたしがトロールの気を引く。だから振り返らずに走って、先生を呼んで──さあ、行って!」

 

 ハーマイオニーの背を押す。彼女は一瞬だけよろめいたが、走り出した。

 テルミはロスマリヌスをトロールの顔面に浴びせかけた。

 空になった右手に衣嚢から仕込み杖を取り出し、トロールの腹に突き立てた。

 ハーマイオニーは見ていない。始末できるものならば、先生と戻ってくる前に処理したかった。

 

「死ね! 大人しくしろ!」

 

 手応えは硬い。分厚い肉だ。人喰い豚より筋肉質で硬い。歯噛みする。仕込み杖の貫通力とテルミの筋力では、胸に突き立てても心臓まで届かない。

 低音の呻き声を上げ、怯んだトロールの後方を見る。

 ハーマイオニーは扉まで辿りついていた。

 開いたままの扉に駆け込もうとした直前、女子トイレに入ろうとした二人組とぶつかりそうになった。

 

「なっ!? に、逃げなさいっ! 早く──」

 

 守るべき対象が増え、テルミはハッと目を見開いた。

 目の前でトロールが暴れ出した。

 めちゃくちゃに振り下ろされた棍棒を咄嗟のバックステップで避ける。最後の一歩は退くことができなかった。壁に背をついたのだ。

 

 あッ。

 思いがけず、小さい声が出た。

 狩人の業が右手を操る。トロールの脳天をめがけ、杖を構えた。

 しかし、振り下ろされる棍棒とどちらが速いだろう。──四仔のなかで最も父から遠い自分は、戦闘の才に恵まれなかった。

 

「お父様──」

 

 祈るように呼ぶ。

 夢の月の主たる狩人の加護は、遠方の地であっても有効だろうか。──あぁ、わたしは、まだ夢を見ることを許されるだろうか。

 トロールが吠える。だから、彼の呪文が聞こえなかった。

 カウンターを狙うテルミは、機会を逸した。棍棒が空中で釘付けになったのだ。

 

「逃げろ!」

 

 ロンが浮遊呪文を使い、棍棒が宙に浮いているようだ。

 ハリーとハーマイオニーが必死の形相で手招きしている。

 

 トロールが棍棒が手の中に無いことに気付き、頭上を見上げた。

 その時だ。

 呪文を使っているロンの集中が途切れ、棍棒は鈍い音を立ててトロールの頭に直撃した。

 

「っ!」

 

 テルミは素早くトロールの巨体を避けて、下敷きを免れた。

 このトロールは脳震盪でも起こして気絶したのだろう。

 

「はあぁぁぁぁ……。ありがとう、と言わなければならないわね……?」

 

 テルミは、いつものように穏やかに笑う。

 ロンが得意げに笑い返したが、テルミの内心は腸が煮えくりかえるようだった。獣性の高まりを感じずにはいられない。

 

 ──この場にいたのが、テルミひとりだけならば。

 ──ハーマイオニーがもっと速く走っていれば。

 ──自分が、獣狩りの下男にも劣る、醜悪な怪物に負けそうになることなどなかったのだ。

 

 テルミだから言葉を飲み込むことができた。セラフィやネフライトであれば無理だった。すでに分かたれた可能性ばかりが眩しい。

 ロスマリヌスと仕込み杖を衣嚢に収納した。

 その直後のことだ。女子トイレにクルックスが飛びこんできた。

 

「クルック──」

 

「この先、我らが使命あり! 同士よ、照覧あれ!」

 

 彼はテルミをはじめ、ハリー達に目もくれなかった。

 クルックスはうつぶせに倒れているトロールの頭部に目がけて、衣嚢から取り出した右手のパイルハンマーを射出した。

 くぐもった断末魔と共にトロールの脳髄が床一面にぶちまけられた。

 

 その光景を見ているとテルミのなかでスーッと獣性が鎮まるのを感じた。

 やはり敵性存在が沈黙する様は、いつ見ても気分が良いものだ。

 けれど。彼は間が悪い。

 ハリーとロン、ハーマイオニーは、突然の猟奇的光景を目の当たりにして声も出せずにいる。

 

「……おやめなさいよ、クルックス。ここで腑分けするつもりかしら」

 

 杭打ち機構を持つパイルハンマーが絶えず変形を繰り返してやかましい。こんな時でもガッション、ガッションと過剰に火花を散らして変形する。

 クルックスは、使命を宿した目でパイルを振り下ろしていた。

 

「コイツは、汚らしい糞のような糞袋だ! ああ、灰色の肌の下には虫がわんさか涌いているに違いない! 糞がッ! 虫がいるというのに! 生きていやがって!」

 

「……?」

 

 テルミは、ひとまずパイルハンマーを振り回すクルックスを止めなければならないと思う。

 しかし、テルミはトロールを知らなかった。トロールとは、果たして獣なのだろうか。どういう生物なのだろう。

 

 彼女の疑問は、おそらくこの場で最も賢い魔女が答えてくれるだろう。

 パタパタという足音が聞こえ、四人はトイレの入り口を見た。間もなくマクゴナガル先生が飛びこんできた。

 

「──ああっ!」

 

 ショックを受けた顔をしたマクゴナガル先生が胸を押さえた。その後から、スネイプ、クィレル、その他の先生が続いた。クィレル先生はトロールを見るとヒィと弱々しい声を上げて、腰が抜けたように座り込んだ。

 クルックスは、トロールの絶命を確認したものの相変わらずパイルハンマーを片手に血だまりをうろついている。

 

「これは、いったいどういうことですっ!」

 

 マクゴナガル先生の動揺とは、わずかに声が震えるだけだった。

 これは素晴らしい。テルミは感心する。肝が据わっている。

 ハリーとロンが顔を見合わせて事情を説明しようと中途半端に手を挙げた。

 

「──先生、トロールとは人間なのですか?」

 

 今は授業中だっただろうか。

 クィレル先生に質問したテルミは、回答を急かすように爪先で何度も床を踏んだ。

 

「トロールは、山野に住む魔法生物です。見ての通り、人間ではありません! ミス・コーラス=B、なぜあなたがここにいるのです? 寮に戻るように校長は言いましたよ」

 

 マクゴナガル先生から逆質問を受けてしまい、テルミは眉を下げた。

 

「あらら。そのような指示が出ていたのですね。知りませんでした。わたし、パーティーの前から──お恥ずかしいことにお腹を壊してしまって。けれど、こんなパーティーの日に大広間から近いトイレで誰かに出くわすのが、恥ずかしかったのです……。そんな時に、あの方、ええと、トロール? が来て、さらにはハリー・ポッターとロン・ウィーズリーが助けに来てくれたのです」

 

「そうです! 私はトロールを探しに来たんです……本をたくさん読んでトロールについて知っていたので……倒せると思って。でも、ダメでした。ハリーとロンが来てくれなければ、きっと死んでいました」

 

 ハーマイオニーが加勢した。ハリーとロンも頷いた。

 最後のひとりがやって来た。

 ぴちゃり。

 湿った足音を立ててやって来たクルックスは、いつものように暗い瞳をしていた。

 

「……おかしなことだと思ったのだ。カレルが反応しない」

 

「クルックス。トロールは人間ではないらしいわ。貴公の探しものは無くてよ」

 

「そのようだ。魔法界は分からんな。あのような穢れた存在に虫が見いだせんなど」

 

「啓蒙が低いのでは?」

 

 トロールの頭部を惜しみなく潰していたクルックスは、血みどろだった。

 しかし。

 スッと背筋をただすと左腕を曲げ、緩く腰を曲げた。狩人の一礼だ。

 

「トロールの駆除が終わりました。残りはどこにもいないのですか?」

 

「あなたは、何をしているのですか!? トロールを」

 

 マクゴナガル先生は、唇を戦慄かせて問いただした。

 クルックスの心が揺れることはない。

 

「危険な生き物です。そして駆除しました。先生、何を咎めるというのか。俺──私は、学徒である以前に狩人です。私は、夜に蠢く汚物すべてを根絶やしにする使命を帯び、狩りと殺しのため存在します。しかし、今は血塗れの同士に報いるため、学業に邁進しなければなりません。トロールは学業の邪魔です。だから駆除しました。何か問題が、ひょっとして、あの汚物はハロウィーンの余興だったのですか?」

 

 それは失礼をば。

 言いかけたクルックスにかぶせるようにクィレル先生が、震える足で壁を伝って立ち上がった。

 

「ト、トト、トロールは、ちち地下から入ってきた、だけです。余興など、ああああ、ありえませんっ」

 

「そのとおりです。ミスター・ハント。トロールを倒したことは、あぁ、そもそも危険な目に合う必要はありませんでした。トロールを発見し我々に報告する、という手段を選ばなかったことを──あなたを含め、ここにいる全員に強く失望したと言わせていただきます」

 

「なるほど。そのような処置が必要だったのですね。では、次回から人命に障りの無い場合に限り、そのようにいたしましょう」

 

「突然のことで思いも付きませんでした。わたしも反省いたしますね……」

 

 クルックスは右腕のパイルハンマーを外した。

 テルミもしおしおと表情を沈ませて頭を下げる。

 

「特にミス・グレンジャー。グリフィンドールから五点減点です。判断力が欠けています。未成年がトロールに立ち向かうなど……。命があったのですから、これからの授業で取り返すことを期待しますよ」

 

 手厳しい物言いに、萎縮するようにハーマイオニーは肩を丸めた。

 次は、ハリーとロンに矛先が向かった。

 

「あなた方の幸運と駆けつけた勇気にそれぞれ五点ずつあげましょう。くれぐれも! これを己の実力のように過信しないことです。怪我が無いのならば皆、寮へお戻りなさい」

 

 マクゴナガル先生が、それぞれの寮に帰るように指示を出した。

 テルミと共に女子トイレを出た。彼女は、普段よりいくぶん低い声で言った。

 

「クルックス、トロールを殺したことで加点を求めてみたら?」

 

「あまり侮辱してくれるな。テルミ、親しき同胞。俺は、永く君と付き合いたいと思っている。できる限りな。だから、医療者である君には、特別な敬意を払っている。察してくれないか。──俺の狩りは、同士に報い、汚物を根絶やしにするために殺すのだ。たかが寮の、ただの点数稼ぎで穢されてなるものか。二度と言うな。不愉快だ」

 

「獣性を鎮めるためのジョークよ。『ヘイ、貴公、血に酔ってる~?』のほうが良かったかしら?」

 

「高まりつつあるが?」

 

「連盟の人とは、分かり合えないわ。──それよりも。ねぇ、気付いた? ああ、貴公は、いま鼻が利かないのね」

 

 何の話か。目で問う。

 

「スリザリンの寮監、脚に怪我をしていたわ。そうね。鋭い何かに切り裂かれたように。……ねぇ。彼、何をしたのかしらね? 何と戦ったのかしらね?」

 

 目敏いテルミは、クルックスの知らないものを見ていた。

 トロールは、一体だけだ。

 では、彼はどこで何と戦って怪我をしたというのだろう。

 さらに問うクルックスに、彼女は笑うだけだった。

 

「ふふふ。まるで獣に襲われたよう。ここは、ホグワーツなのに。ねぇ? これって、とっても不思議で奇妙で可笑しな話よね?」

 

 耳に残る小さな笑い声をあげて、彼女は去って行った。

 一方のクルックスは、呼び止められていた。

 

「ミスター・ハント。校長室へ行きますよ」

 

「あ。ああ、お手紙の件ですか」

 

 きちんと服の内側に収納されていることを確認したクルックスは、普段の倍増しに厳しい顔をしたマクゴナガル先生を見て認識をあらためた。心の機微を読むことが得意ではない彼であっても「これは違うな」と察することができた。

 

 

「この件は校長、そして親御さんへ報告させていただきます。トロールを殺したことは──結果として──損害が最小に抑えられたかもしれません。けれど、ヤーナム、そして、狩人……私を含めホグワーツは、あなた方の『伝統』を知りません。事情の聴取が必要です。分かりますね?」

 

「ははぁ。事件の対処方法がマズかったのですね。ゆえに、聴取が必要と……。……。ちょっと待ってください。テルミを呼んでください。テルミを」

 

 ヤーナムと狩人の説明。

 言葉の取り扱いが上手くない自分が、しっかりと発言できるだろうか。

 父たる狩人から適任と言われているが、クルックスには全く自信が無かった。

 

「トロールを殺したのは、あなたでしょう。事件の当事者としてあなたがいれば充分と考えます。手紙を渡し、聞かれたことに答えればよいのですよ」

 

 難しいことではないでしょう。そう言われると彼も「そうですね」としか言えなかった。トロールを倒すことよりは簡単には違いない。

 マクゴナガル先生が杖を振ると臭い血糊が消えた。

 

「……ありがとうございます。便利ですね。これがあれば洗濯が楽になるのですが」

 

「まさかヤーナムでは手洗いを?」

 

「ええ。薬湯に漬けなければ再利用も難しいのです。布ではなく革を中心とした専用の装束ですが……はぁ……」

 

 これまでの労力とはいったい……。

 クルックスは徒労に思いを馳せた。

 ちょっとした逃避であった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 辿りついた先は、大きな鳥の石像があった。

 聞けば、ガーゴイルと呼ばれるものだという。

 

「レモンキャンディー」

 

 マクゴナガル先生が突然何を言うのかと思えば、合言葉だった。

 ガーゴイル像が道を譲り、壁が割け、奥に続く階段が現れた。

 

「こちらへ」

 

「失礼します」

 

 螺旋状の階段を昇ると奥には扉があった。

 中からは人が動く気配がする。校長先生だろう。

 

(人の匂い……)

 

 夜は感覚が研ぎ澄まされる。嗅覚もそのひとつだった。人間の匂い。この空間を出入りした過去、さまざまな人の匂いだ。

 父たる狩人が、そしてクルックス達が、ヤーナムの狩人達が、持ち得ない歴史の香りが、この空間には満たされている。

 

「校長、ハントを連れて参りました」

 

 その香りは、校長室を開けるとさらに強くなる。

 円形状の校長室の奥に老人が座っていた。

 ダンブルドア校長だ。礼儀として一礼した。

 

「ご苦労。マクゴナガル先生」

 

 校長はこのままマクゴナガル先生から、事の一部始終を聞き取るのだろう。そんなクルックスの予想に反し、彼は先生を下がらせた。

 クルックスは視線を斜め上に飛ばした。──ああ、これは一から十まで俺が説明しなきゃならないらしいぞ。

 しかし。

 

「事の概要は聞き及んでおるよ。君がトロールを殺したと」

 

「そうです」

 

 ──おや。耳が早い。

 トロールの後始末をクィレル先生に任せ、事件が起きた女子トイレからは直後とも言える時間に校長室にやって来た。それにも関わらず話が通っているとは。スネイプ先生などが話を通していたのだろうか。

 

「トロールは学生にとって、あまりに手の余る生き物じゃ。それを排除したことは、ひとつ礼を。ありがとう。本来であれば、わしをはじめとして先生が対処すべきことであった」

 

「トロールは初報の地下室から離れた場所で見つかりました。先生方が見つけるのは時間の問題とはいえ、力ある者が行うべきことであったでしょう。偶然対処できる私がいただけです。友人の命がかかっていたとはいえ出過ぎたことをいたしました」

 

 ──いかん。さっそく喋りすぎた。

 クルックスは、いつでも話題を逸らせるように手紙を取り出す準備をした。

 ダンブルドア校長は「ふむ」と鼻を鳴らし、青い瞳でジッとクルックスを見た。

 クルックスは何度かの瞬きの後、ちょうど彼の顎髭をみるようにした。

 彼と争っているワケでは無い。これはただの聴取なのだ。そう自分に言い聞かせているが、何故かとても『分が悪い』。そう痛感している。心の底まで詳らかにされてしまいそうな心地になっている。こうした直感はたいてい正しいことを知っていた。

 

(慎重に……慎重に……)

 

『言葉の扱いに長ける者には、注意することだ』。クルックスの脳裏に忠告が蘇る。

 それは連盟の最古参、ヘンリックの言葉だった。静かな古狩人と呼ばれる同士は、古狩人と呼ばれるだけあってよく物事を知っている。ではなぜ、現在の長、ヴァルトールが連盟の長として在るか。それは、ひとえにヴァルトールが言葉の扱いに長けているからだ。長の存在は、連盟の継続のために必要だ。担い手である狩人を勧誘する時に、言葉の扱いに長けていて困ることは何も無い。

 ゆえにヘンリックは若輩の同士に対し、丁寧に釘を刺した。クルックスがヴァルトールに対し「この人についていこう」と心に誓っていることを見透かしているのだ。たかが言葉の、ただの狂熱に煽られて、くたばった輩を彼は何人も知っているだろうから。

 

 クルックスは、静かに深呼吸をした。

 己を律し、熱量だけを糧としなければ獣と同じだった。

 

「謙遜することはない。君は素晴らしいことをした」

 

「どうも」

 

 穏やかな老人の声は、しかし、妙な障りを持っていた。

 ゆえに会釈のような礼をしたクルックスの言葉は短くなる。

 

 褒められたくて戦っているワケではない。ただ、綺麗で清潔で清浄なヤーナムを見たい。そこに暮らす人々を見たい。そして、願うならそこで穏やかな眠りにつきたいだけなのだ。トロールなどその道程の石ころに過ぎない。誰かが廊下のゴミを拾ったら、彼は同じ台詞を生徒に言うべきだ。クルックスはそう考える。

 

「さて。どこから話すべきかの。クィレル先生が、偶然に見つけたヤーナムというマグルの街。そこで、君のお父様が魔法使いであることが分かり、その子供たちが急遽ホグワーツ入学という運びになった。……しかし、何か特別な技能があるようじゃの」

 

「ヤーナムは病の街であります。そのため、非力な者、無力な者は命を落とす。ゆえに訓練を受けております」

 

「ミス・コーラス=ビルゲンワースは、君のように振舞わなかったようじゃが」

 

「彼女は争いを望まず、皆の退避を優先いたしました。道義的判断であると思います」

 

 ダンブルドア校長は、生徒を見つめた。

 クルックスは、部屋の天井の隅を見つめていた。

 

(焦れる……)

 

 校長が何を言いたいのか。何を言わせたいのか。意図がつかめずに苛立つ。しかし、短い会話の積み重ねで、ひとつだけ分かったことがある。

 告白にしろ、質問にしろ、校長は自分が言い出すのを待っているのだ。

 それを察知したからと言って駆け引きがうまくないクルックスが、この場で出来る事は実に大したことが無かった。身の回りにいる大人の真似をするだけだ。

 

「──校長先生の憂慮とは何でしょう? 私には分かりかねます。ただ、魔法も護身もほとんどできぬ子のなかに特異な異邦人が混ざっていることが不都合なご様子に見えます。ヤーナムのことを聞きたいのであれば、私だけでは情報が偏るでしょう。我が同胞を召喚することをお薦めいたします」

 

「わしは君も、君の同胞のことも大切な生徒じゃと思っている。しかし、力があるからといって矢面に立つ必要は、この学校では無いとも思っておる」

 

「なるほど。勇敢な生徒がいて優秀な先生方がいらっしゃる。なにより警備にも手が回っていないようですからね」

 

「これは耳が痛い」

 

 心は痛めないのだな、とクルックスは妙な関心を抱いた。

 

「──お父様から手紙を預かっております。お渡ししてもよろしいでしょうか」

 

 クルックスは、彼のテーブルに手紙を置いた。

 逆さ吊りのルーンが刻印された封書には『遥か遠きヤーナムより──月の香りの狩人』と署名があった。

 手紙は、封書のなかに二通あった。

 長い文書ではないとクルックスは見たが、しかし、校長の瞳は半月眼鏡の奥で長い時間をかけて読んだ。

 

「君は、これらを読んだかね?」

 

「いいえ。しかし、内容はうかがっております。入学についての礼とヤーナムは今後とも魔法界に基本的に接触しない、と」

 

「それは一枚目の手紙の内容じゃの。もうひとつは、狩人のことが書かれておる」

 

 いったいどこまで書いてあるのか。

 ヒヤリ。クルックスは、内心で慌てる。だが、テルミの言葉を信用すれば父たる狩人が後手に回ることは少ないハズだと思い直す。

 校長の、眼鏡のむこうで探る青い瞳と目が合った。

 

「『我らは狩人。狩人の業ゆえに学舎を血塗ることを許したまえ』」

 

「至言であります」

 

 校長にとって、これは『学校から父への報告は不要である』と宣言された事態に等しい。

 クルックスは、肩をすくめた。

 さすがは、我らのお父様。仔がやらかすことまで把握済みであるらしい。心強いことである。

 

「我らは狩人。しかし、狩るべきものがいなければ、ただの学徒。引き続き、在籍することをお許し願いたいものですが」

 

 軽く両手を広げてクルックスは言った。

 校長は、頷いた。

 

「もちろんじゃ。遥か遠きヤーナムの民。ホグワーツは助けを求める者には、常に助けが与えられる。君が学究を求めるのならば、きっとそれが与えられるじゃろうて」

 

「広き御心に感謝いたします」

 

「ヤーナムの興味深い話は、また後日うかがおうかの。クィレル先生から話を聞いた時から、ぜひ話をと思っていた。……ただ、今は寮へおかえり。まだ寮のパーティーには間に合うじゃろう」

 

「失礼します」

 

「ああ、最後にひとつ。狩人とは、何を狩る者なのかね」

 

 手紙の一文が気になったのだろう。彼は、テーブルに広がる手紙を見つめている。

 そして、退室しかけたクルックスへ疑問を投げた。

 

 クルックスは、目を細める。

 脳裏のカレルは沈黙を保ったままだ。

 どこにも虫の気配はしない。──今は、まだ。

 

 連盟が見出す虫もヤーナムの奇妙な風土病も、きっとヤーナム外の人々には理解はされないだろう。

 いいや。理解されてはいけないのだ。

 理解しないことが彼らにとってこの上ない幸いなのだから、月の香りの狩人の仔である自分は、彼らの無理解を祝福すべきだった。

 露悪的趣味も無いため、クルックスの説明とは簡略なものだった。

 

「ただの獣であります」

 

 嘘ではないから、この言葉も真実だった。

 事実の上辺を濾し取った、歪な一側面ではあったが。




【解説】
 減点について。
 偶然居合わせた(旨のことを言った)テルミの減点をどうするか。すこし悩みの種でしたが、マクゴナガル先生は、不運にまで杓子定規で点数を差っ引かないだろう──と考えたため、スルーされました。
 ハリー&ロンのトロールの対処は映画を準拠しました。原作は、閉じ込めた先が女子トイレだと気付かず、閉じ込めて鍵をした後に悲鳴で女子トイレだったと気付いた……というのがざっくりした流れです。つまりトロール君が素早くワンキルしていればハーマイオニーは気付かれずに嘆きのマトルっていたのかもしれません。危なかったですね。
 みんな大好きトロール。通称3デブである『残酷な守り人』よりは背が高いかなと思いますが、死体の巨人よりは小さいように見えます。ちなみに原作では4Mの記述があります。映画を見る限りでは、かなり分厚い体をしていますね。テルミの仕込み杖の貫通力では、突破しきれませんでした。

狩人「だから導きの刺突血晶を拝領したまえよ」
(訳:突き攻撃を強くするアイテムを装備したまえ)
クルックス「もう教会の杭で良いのでは?」
(訳:同じ教会武器ならば、リーチがあり同じ突き攻撃がある武器がよいのでは)
狩人「いーや、あれは様式美が足りないからな」
クルックス「壁に愛されるのも様式美なのですか」
(訳:仕込み杖は攻撃範囲が広いせいか壁や墓石などの障害物にやたら弾かれる傾向にある)
狩人「アメ腕が異常なんだ」
(訳:とある武器は、なぜか障害物に弾かれにくい。比べてはいけないのだ)


【あとがき】
 パイルハンマーです。皆さんは覚えていらっしゃるだろうか。
「狩らせてもらうぞ!」と言いつつバックステップで落下していった某旧市街の先達の姿を。直前の手記に「散弾銃が有効」と書いてあって何でだろう?と思った記憶があります。あと、言われるほどバックステップしないので筆者は普通に殺されました。


【登場人物のビルド関連について】
 感想でご質問を受けたので、こちらで開示いたします。

クルックス・ハント
ビルドはいわゆる、筋力の偏重
得意武器:獣狩りの短銃、ノコギリ鉈、獣狩りの斧、爆発金鎚、回転ノコギリ
「殺される前に殺せばいいのだと気付くまでに、時間がかかった」
そのため、微妙に技術にも血の遺志を費やした。また蓄え過ぎた鎌貯金のため最近は神秘にも振っている。
「血の遺志に換えればいいのだが……その……なんだ……」
番号を割り振って管理している間に愛着がわいてしまった。

ネフライト・メンシス
ビルドはいわゆる、技神
得意武器:教会の杭、慈悲の刃、葬送の刃、彼方への呼びかけ、ルドウイークの長銃、教会の連装銃
「ヤハグルでは、人攫い──いえ、狩人やダミアーンさんもいらっしゃるので、私が出張るべき場面など無いのだが」
ヤハグルをうろつくアメンドーズは、実のところ好きではない。
だから、彼の地では教会の杭を手放したくないと思っている。

テルミ・コーラス=ビルゲンワース
ビルドはいわゆる、神秘
得意武器:ルドウイークの聖剣、仕込み杖、ロスマリヌス、彼方への呼びかけ、ルドウイークの長銃、教会の連装銃
「偏重? 一点特化といってちょうだいな」
神秘は好きだし極めたいとも思っているが、カレル文字『苗床』でもたらされる苗床頭だけは苦手意識が拭えない。
狩人がそれを装備している時は、いつもより遠くから話しかける。

セラフィ・ナイト
ビルドはいわゆる、技血
得意武器:落葉、レイテルパラッシュ、エヴァリン
「しかし、レオー様。血質を誇るのであれば、もっと別な仕掛け武器があると思うのです。そう、自らの血で殴る──そんな武器が」
先輩騎士らが猛反発したので彼女は市街で瀉血の槌を振り回すことはしない。血を狩る騎士達は礼儀を重んじる。
「『そもそも血族に流れる血に、悪い血があるワケがない。ゆえに瀉血は不要』――なるほど、もっともなお言葉です」
彼らはヤーナムの狩人よりも、礼節にはとりわけ熱心なのだ。病の隣人であったがゆえに。

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