甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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ウィレーム先生は正しい。適切なタグ付けが無い作品など筆者の堕落だ。
【注意】この作品は、ゲーム・書籍・映画を参考に書いていますが、作品の都合上、あったものが無くなったり、無いものがあったりします。『原作死亡キャラ生存』タグを追加したしました。ご了承ください。


悪夢
かつての神秘の探求者は、それを目指した。
上位者が見る夢にこそ神秘があると信じたのだ。
いまや、その在り方は変わってしまったが。


時計塔の諫言

 

 無礼講の乱痴気騒ぎ。

『一年間お疲れさま会』は、そう評するのが適切だった。

 

 一年間の苦労を報う会食はハメを外しまくった結果、血の酒が飛び交い、互いに浴びせるように飲み、そしてほとんどが酔いつぶれた。かつての学徒がそうであったように。

 ソファーでは、睡魔に負けたユリエが酒瓶を抱いて寝ている。その隣ではテルミが彼女に寄り掛かって寝ていた。彼女たちから数人分の距離を取ってネフライトがソファーの上で体を丸くして眠っている。

 まだ起きているうちの一人、クルックスが狩人へ話を切り出したのは、賑やかな騒動がすっかり遠ざかった深夜だった。

 狩人は、そろそろ市街に戻ると言う。

 クルックスは『賢者の石』にまつわる騒動のことをできる限り、彼の耳に早く入れる必要があると思っていたが、言葉を選んでいるうちに今になってしまった。そのことをひとこと断ってから、賢者の石に関する一連の騒動を語った。その最後の段になった頃、静かに話を聞いていた狩人が初めて口を挟んだ。

 

「──クィレル先生が死んだ?」

 

 クルックスは、コッペリアの膝の上で彼の重い頭を肩で支えながら不自由に頷く。

 起きているのは、眠らない上位者である父と血の酒に耐性があったセラフィだけだった。

 狩人は、最後のひとくちを傾けようとしたグラスを置いた。だが驚いた様子はなかった。

 

「視えていたのですか?」

 

「視ようとも思わなかったが、そうか、ずいぶんと痛ましい死に方をしたのだな。クルックス、顔色が悪い」

 

 自分の頬に触れてみる。

 会食中の陽気は、失せている自覚があった。

 

「その後、結果的に、彼を殺したことになったハリー・ポッターに話を聞いたところ。……愛によって、悪はひとまず滅びたのだと」

 

「愛? 愛だと?」

 

 狩人は、まじまじとクルックスを見た。

 居心地が悪かった。

 咄嗟に「いえ、俺は、ただ、そう聞いただけで……」と言い訳してしまった。

 

「いいや、クルックスを疑っているワケではない。気にするな。しかし。はあ。なるほど。愛……愛かぁ……愛ねぇ……」

 

 感心したように何度か頷いて血の酒を呷る彼に、セラフィは視線を送った。

 

「お父様は慈悲深い。その情感は、もはや愛と同義でありましょう。劣るとは思わないですね」

 

「カインハースト仕込みの良いセンスのジョークだ、セラフィ。ヤーナムで真に『慈悲深い』と言えるのは狩人狩りだけだ。慈悲深く、報われないアイリーンさんだけさ」

 

「『過ぎた謙遜だ』と女王様はおっしゃるでしょう」

 

「……セラフィ、別に女王様が慈悲深くないとか、そういう意味はないので気にしないでくれ」

 

「当然です」

 

 ともかく。

 クィレルの野望と闇の魔法使い、ヴォルデモートの成れの果ては、ただの砂に変じたのだ。

 

「あの……お父様……申し訳ございません……」

 

「何が?」

 

「賢者の石のことです。俺は、あの時、誰にも相談せずに判断してしまいましたが、でも、一度、お父様にお伺いすべきでした。ヤーナムの血の医療、その代替になった、かも、しれません……」

 

 あの時の自分は、、自信をもって「不要だ」と断じることができた。

 だが、顛末を話し続けるうちに分からなくなった。

 自分は、とてつもなく貴重な機会を捨ててしまったのではないか。全てが完全に終わった後で今さら怖くなったのだ。

 狩人の銀灰色の瞳が、クルックスを見つめた。 

 

「ああ、そのことか。気にするな」

 

「無茶を……。俺は、やはり、やり返しのつかないことを」

 

「──いいや、構わない」

 

 狩人は断言した。

 

「なぜですか?」

 

「ヤーナムに水は似合わないからだ」

 

 その一言は、あまりに明瞭だった。

 クルックスの抱いた疑問を全て平らげてしまった。

 言うべき言葉を失った彼は、ただ狩人の言葉を聞いていた。

 彼は、グラスを持ち上げてゆらゆらと水面を揺らした。

 

「酒さえ俺達を酔わせてはくれない。水が代われる道理がないだろう? 民が、狩人が、どれほど忌避しようとヤーナムには血が相応しい。ヤーナムの歴史は、血に依って築かれている。人々の血の遺志に依ってのみ紡がれるべきなのだ。……だから君が病む必要は何もない」

 

 発作的な笑いが訪れて、クルックスは口の端が震えた。

 狩人には困った時に笑う癖があったが、彼にもまたその癖があったようだった。

 整理しきれない感情のまま、伝えるべきことを思い出したので告げた。 

 

「……テルミの提案で、クィレル先生の、い、遺骸を持って来ました。狩人の夢の収納箱の中にあります。きっと、新しい思索の先触れ……に、して、いただけたら、俺は、とても嬉しいと思います。ヤーナムへの貢献が、俺の誉でも、ありますから……」

 

「テルミが? 君にしては、ずいぶん気が利き過ぎると思ったが……。まったく抜け目がなくて可愛らしいな。聖歌隊は、これだから好ましい。──では、さっそく見てみようかな」

 

 狩人は、一息にグラスの中身を呷ると席を立った。

 セラフィも続いた。

 

「僕もお供しましょう。どんな血晶石が出るか興味がある。『対魔法使いへの攻撃力を高める+14.5%』など出てくるのだろうか……。『対魔法使い』の負荷効果の血晶石であれば、ほぼ無条件と言える。ぜひ、イズ聖杯にふりかけましょう。魔法使いがトゥメルにいる光景は想像しにくいですが、イズならばいてもおかしくなさそうだ」

 

 クルックスも立とうと思ったが、椅子になっているコッペリアがズシリと重い。

 

「あ、コ、コッペリア様……ちょ、どいて、ぐぅ」

 

「寝かしておいてやれ。学徒らしく不摂生なんだ。──ああ、そうだ。クルックス、クィレル先生の最期について、彼からもうすこし聞いたか? ハリー・ポッターと言ったか」

 

「え、ええ、はい。体が崩れる理由が、分からず、ひどく恐れていた」

 

 ──恐怖していた、と。

 クルックスが口を閉じた時。狩人の瞳は彼を見て、そして、薄く口を開いた。

 彼らが初めて見る父の姿だった。

 狩人は、ひどく嬉しそうで楽し気だった。

 

「そうか、そうか! あぁ、そう。そうだ。俺は、ずっと知りたかったことがあった。数百年ぶりに思い出したぞ。セラフィ! 悪いが、探索は後の機会だ」

 

「了解しました。お待ちしております。お父様の疑問が綻びますように。カインハーストの名誉あらんことを」

 

 短く何かを応え、彼は壁にかけてあった外套を肩にかける。

 去り際、扉に一番近いクルックスだけが彼の呟きを聞いた。

 

「『時計塔のマリアは、正しい』──俺も、そう言ってしまいたいのさ」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「釈然としない風だね、君は」

 

「……ハリー・ポッター。校長は、何を見込んでいるのか。俺には、よく分からない」

 

 父たる狩人が去った後で、手持ち無沙汰になったセラフィが問いかけた。

 静かな琥珀色の瞳は、今日の月のように澄んだ光を得ていた。それが眩しいような心地がしてクルックスは落ち着かない。

 

「ヤーナムのように実を結ぶ日を待っているのかもしれない」

 

「どういうことだ?」

 

「お父様が守り続けている、このヤーナムのように。いつか、いつかと、彼も──校長は夢を見ているのかもしれない」

 

「…………」

 

「その果てに何が現れるのか。祝いか呪いか。どちらなのか。どちらも僕は見ていたい」

 

「他人事のように言うのだな」

 

「そうでありたいものだ。しかし……フフ、学校にいる以上は、そうさせてもらえないのかもしれないな。だから、あまり気に病まないように、クルックス。最も親しき枝葉の隣人。僕らの大切なものはヤーナムだけなのだから」

 

「そんなことは、分かっている。だが、目の前の悪意を見逃すことが、俺には、時に……難しいことがある」

 

「ならば、それでもいい。言っただろう? 『優しさが身を滅ぼすならば、滅びてもいいと思う。そのために滅ぶ価値がある』と。僕は、そう信じてやまないのだ。きっとそれが、それだけが、僕らの人間性なのだから。しかし、我が身を愛せよ、君」

 

「……理解に感謝する」

 

 その後で。

 セラフィは「これ以上遅れるとカインハーストの先達が恐いからね。フフ」と冗談か本音か分からないことを言い、去った。

 眠気が訪れず、起きているのはクルックスだけになった。

 

(俺は……正しいことをしたのだろうか……?)

 

 三頭犬を越えること。賢者の石を欲さなかったこと。ダンブルドア校長の思惑に乗せられた──ように感じられた──こと。

 考えれば考えるほど分からなくなり、クルックスは頭がシクシクと痛む気がした。

 

「お悩みなのだね。僕の可愛い子」

 

「わっ……コッペリア様……」

 

 ずっとクルックスを抱き枕にしていたコッペリアが、のっそりと頭を上げる。

 ようやく肩を解放された彼は、何度か肩を上げたり下げたりした。

 コッペリアは、寝ていたにしては輪郭のある発声だった。

 

「はあ。実は起きていたのですね?」

 

「いいや、話の半分は寝ていたよ。……しかし、困ったことだ。ヤーナムの外の世界は、ここほど君の心を悩ませることはないだろうと思っていたのだが、そうではないらしいねぇ」

 

 半分どころか九割は聞いていた。

 ならば話は早かった。

 

「……ええ。ヤーナムとは別の困りごとがあります。それさえ、ヤーナムでは贅沢な悩みなのでしょうけれど」

 

 黒い長手袋が、ゆるりとクルックスの瞼を押さえた。

 視界が塞がれる。コッペリアの穏やかな呼気が聞こえた。

 

「ユリエも言っただろう。比べてはいけないのだよ。僕の可愛い子。……悩みに軽重はなく、貴賤もない。苦悩は祈りの苗床だ。尊びなさい。自分の感情を君自身が軽んじてはいけないよ」

 

「……俺は鈍感であるべきだと思うのです。目の前で何が死のうが、殺そうが、動じずに……そう在りたいのです。狩人とは、そういうものでしょう……」

 

 クルックスの言葉は、次第にかすれ消えていった。

 彼自身が信じていなかったからだ。

 

「恐れるものを正しく恐れなさい。痛みを忘れずにいなさい。そして、辛い時は泣くといい。──君のお父様が夜明けを迎えた時のようにね」

 

 ここは、ビルゲンワースの一室。

 二人の他は誰もが眠り静まっていた。

 

「あぁぁ……俺は、俺は…………」

 

 クィリナス・クィレルは、クルックスにとって特別に仲が良い先生ではなかった。

 それでも、喪失は彼に初めての傷をもたらした。

 目を塞ぐコッペリアの手に、自らの震える手を重ねた。

 情けない顔を、恐れている顔を、誰にも見てほしくなかった。何も見たくはなかった。

 次の朝が来れば、クルックスは元通りに生活を始めるだろう。

 月の香りの狩人に連なる者として。連盟員として。そして再び時が来ればホグワーツの生徒として。

 だからこそ。

 

「これは、今だけ、ですから……」

 

 わずかにコッペリアの手袋は濡れた。

 

「分かっているとも。僕の可愛い子」

 

 半月が、二人を照らす。

 嗚咽は、しばらくの間、寝息だけの空間に聞こえていた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

『悪夢』とは何か。

 ヤーナムには、地上で最も多様な答えがある土地に違いない。

 例えば、医療者は『上位者が見る夢だ』と言い、狩人は『我が身を捕らえる忌々しいもの』と語り出すだろう。

 ヤーナム外と共通した価値観を得ようとするならば『夢としか思えないような、思い出すのも恐ろしいこと』──という一点のみが普遍的な感覚として人々に受け入れられるかもしれない。

 そして、今夜。

 かつてヤーナム外に存在し、いま古都ヤーナムに触れた彼にとっては『夢と思いたい、ありえないこと』も加わることだろう。

 

 

「──やあ、旦那さん。ヤーナムは二度目だな?」

 

 クィリナス・クィレルが意識を取り戻した時。

 途方が暮れてしまうほど広い洞窟にいた。

 目の前には──見間違えでなければ──最悪の旅となったアルバニアへの道中、ヤーナムで出会った青年が立っていた。

 

「あ……?」

 

「待て。動くな。話すな。辺りを見回すな。今度は命を保証できないぞ」

 

 彼はスッと左手を挙げて、クィレルの動きを制した。

『命の保証はできない』

 平時であれば大袈裟と思える言葉だったが、クィレルはピタリと動きを止めて食い入るように彼を見た。

 眼球を動かすことも憚られた。なぜなら背後では、巨大で湿った何かが這いずる音が聞こえていたからだ。

 

「久しぶりだな。ずいぶんと自業自得で痛ましい死を遂げたらしい。このような形で再会になって、とても残念に思う」

 

 青年──名は、そう。

 

「私は、月の香りの狩人。覚えているだろうか?」

 

 声を出してはいけないのでクィレルは何度か必死に頷いた。

 汗が顎を伝って落ちた。

 

 汗。

 

 肌に乗る水滴の感覚を、彼は信じられない思いで感じていた。

 ──なんということだ!

 自分は、いま、生きていた。

 クィレルは、信じられない心地でいた。驚きのあまり、ほかの感情が浮かんでこないのだ。

 

 闇の魔法使い、ヴォルデモートに唆され、乗っ取られて、強行した。

 ハリー・ポッターに触れ、焼け爛れ、膨れ、砕けていく手を見た時に、死ぬほどの後悔をした。

 何を投げ出しても勇気を振り絞り、闇の帝王を、ヴォルデモートを拒むべきだった。

 死の間際になってから、そう痛感したのだ。

 おもわず、後頭部に触れる。

 恐れていた感覚は、二度と指先に触れることはない。

 震える指は、ただのつるりとした頭皮に触れるだけだった。

 しかし。

 クィレルは困惑する。そして恐怖した。

 自意識では、間違いなく死んだ。死んでいたと思う。 

 それでも、死んでいなかった。

 けれど、自分は今日ここで死ぬかもしれない。

 それが容易く信じられるほど、背中に感じる威圧は尋常なものではない。

 得体の知れない何かが背後の、それもすぐそばまで這い寄っているに違いなかった。

 枯れた羽のようなトリコーンをかぶり、黒い血除けのマスクで顔を隠した彼は言った。

 

「幸運は二度で打ち止めだ。悲しいかな。ヤーナムに来て、三度も目覚めることはできない。夢を見る狩人でない限りはな。──だが、望むのならば」

 

 そう言って、狩人はゆっくりと薄ぼんやりと明るい洞窟の向こう、出入口らしい穴を指さした。

 

「二度目の幸運でモノにできることがあるだろう」

 

 彼はクィレルの黒いローブの胸を突く。

 命を指差しているのだ。

 

「ついて来てくれ。決して、振り返らずに」

 

 ぎこちなく、鉛でも詰め込まれたかのような二本の脚で、思うように進まない道なき道を歩く。

 永遠のような、長い道のりに感じられた。最愛の人の手を握りながら、最後に振り返ってしまった希臘の吟遊詩人もまた似た気持ちになっただろうか。非現実的な空想だけが許されていた。

 やがて。

 背中から圧し掛かるように感じられた威圧から放たれても彼は振り返ることはしなかった。

 洞窟のような空間を抜ける。途端に人工物が現れ、これまた古めかしい昇降機が現れた。

 

「足元のスイッチには触れないように」

 

 先に乗るように促され、クィレルは昇降機に踏み入った。それは体重が乗るとギィという、嫌な音を立てた。

 狩人は乗り込むと足下のスイッチを踏んだ。

 服があおられるほどの勢いで、それは上昇し始めた。整備を怠っているのか時おり、ガタゴトと激しく揺れるのが堪らなく恐ろしかった。

 

 停止すると驚くべきことに建物のなかにいた。

 照明もなく暗い、板張りの廊下が続いている。

 なんと広大な洞窟の上には、これまた大きな建物が建っていることが分かった。

 横目で狩人を見る。今度は彼が先に降りた。

 そして、いつかクルックスがそうしたように左手を曲げて一礼をした。

 

「ようこそ、病の街、呪われた古都ヤーナムへ。月の香りの狩人が歓迎しよう。──あなたは賢く、そして幸運だ。ヤーナムに来て、どうやら生きて帰れるらしい」

 

 何も言うことができなかった。

 生きていることを確認するようにクィレルは自分の頬を撫でた。

 その仕草が面白かったのだろうか。

 瑞々しい果実が弾けるように。狩人の嬉々とした笑い声が空間に響く。

 クィレルは、最後まで振り返ることはなかった。

 恐怖で強張った顔のまま、しっかりと狩人を見つめていた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 かつて。

 星幽、時計塔の貴婦人マリアは言った。

 

 ──だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ。

 ──愚かな好奇を、忘れるようなね。

 

 狩人はクィレルの姿から多くの学びを得ていた。

『命が得られるのなら、他の何を手放しても惜しくはない』

 彼は、そんな恐ろしい死を知っているようだった。

 

(外か。外。ヤーナムの外。外来の神秘。魔法界。ホグワーツ。そうか。そこにはあるのか。──好奇を殺す、恐ろしい死が)

 

 それは。

 狩人が見る、宇宙悪夢的死相とは異なるものだろうか。

 どのようにもたらされ、そして、愛により滅ぼされたのだろうか。

 

 時計塔の番人は狩人に対し、恐ろしい死をもたらしてはくれなかった。

 しかし。

 彼女の遺した傷は、狩人の好奇を殺す恐ろしい死に『最も近かった』と証明したい。

 それは彼女が美しく、鮮やかで、何より強くあったことの証明にもなるだろう。

 

「あぁ、いいぞ、いいぞ! 悪くない。いいや、良い。とても良いぞ!」

 

 大きな独り言と共にクィレルの手を掴んだ。

 聖堂街上層にまで届く市街の銃声は、少なくなっていた。今日の朝が、もう近いのだ。

 ビルゲンワースの学舎、禁域の森は遠い。

 狩人は、引きずるように彼を連れて歩く。

 

「今日も悪夢は廻る! さぁ、目が眩むほどの悪夢を続けよう!」

 

 悪夢の主は、笑った。

 まだ。まだまだ。

 何も足りはしないのだ。

 ヤーナムの歴史とは、血に依って作られる。

 だからこそ、彼は集めなければならなかった。

 

「人の営みを歴史とするならば、人を規定する血より作られた歴史は、やはり人類史と相違ない。だから、クルックス。君は正しい選択をした。水など似合わないし、そぐわないし、舌にも肌にも合わないだろう! ──ヤーナムには! 狩人には! 俺には! 血こそが相応しい!」

 

 空が白む。

 夜明けが迫っていた。

 




【タグ】
 後付けになってしまいました。申し訳ないです。

【解説】
 星の娘が祈っている場所──嘆きの祭壇には、不思議な機能があります。『時間を巻き戻す』なんて機能があります。ヤーナム七不思議のひとつですね。
 個人的な考察として、あれはロマ死骸の持つ固有の能力だったんじゃないかな、と思います。
 根拠はあまり無いんですけど、強いて言うならば、星の娘が持っている能力として戦闘にも見せなかったものが舞台装置として現れたのだとしたら、唐突すぎるんじゃないかな、と。……「まあ、相手は上位者なんだからそういうこともあるでしょ」と言われたらグゥの音も出ないんですが、それをひとまず置いておいてですね。星の娘戦でジョジョ3部のDIO戦のようなナイフのノリでメテオされたらたまらないです。
 ロマがテキストと戦闘で見せる能力には、まず『隠す』、『隠れる』、『移動(テレポート)』、『ロマ子蜘蛛の召喚』があります。「時間に関係する能力はどちらかといえばどっちにありそう?」と問われたら「まだ、ロマのほうかなぁ」という消去法でロマ(死骸)固有能力説を考えています。
 しかし、これにも問題があって、そうだとすると「時間を巻き戻す能力は湖にいる方のロマ(生身)もできるのか?」という論まで考え付きます。すると「ロマちゃん多才問題」が発生してしまい、これもちょっと似合わない感じもするのですが、そもそも『白痴』という言葉は、人間の杓子での話。ひょっとしたらロマちゃんは多才なのかもしれない。ということを書きながら思いつきました。
 あとは、瞳を得た人間が変態する形状として、よく見られるのがロマ=タイプ(仮称)であり、個々に能力を獲得する──という程度の話なのかもしれません。イーブイかな。もっと瞳を植えて確認しないといけませんね。もっともっと人間は結果にコミットしてほしいです。
 さて、本話においてはクィレルの砂っぽい身体を元に戻すために使われましたが、実際、ゲーム本編においては「不死の女王だから成功したんじゃないかな」という気がします。なんせ不死だしね。多少体がどうにか(肉片)なっても治るんでしょ、たぶん。そうでなきゃ、ヨセフカ医院の青キノコ(ヤーナムの少女)を上層まで護送しますよ。有識者血族の方、その辺どうなんですか。ご情報をお願いします。

【あとがき】
 筆者は、蛇に足を書いて靴まで履かせてから酒を飲みたいと思うタイプなので、賢者の石(後日談)が、あとすこしだけあります。
 本作は、〇年生まで(ヤーナム)、〇年生(ホグワーツ)構成なので、今後は、仔ら視点を中心としたヤーナムでの話が、約10話くらい続きます。
 筆者の書く1話が約1万字なので、10話(10万字)くらいはヤーナムの話が続くワケですね。そしてホグワーツが15~20話(15~20万字)の計算なので、しめやかに発狂。ちなみに現在は「2年生まで」の2話目を書いています。今後は、2年生(ホグワーツ、秘密の部屋編)が書き終わったら投稿する予定ですので、速やかに発狂。
 鎮静剤(感想)または輸血液(感想)お待ちしています。
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