甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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特別な輸血液
人ならざる上位者から採取された血液を精製したもの。
「輸血液」の呼称は便宜上のものであり、果たして悪夢由来の成分が血液と判じられるのか。学徒のなかでも認識が異なる。
とはいえヤーナムでは遺志が宿る液体であれば、血液とする。
……使えれば、それでよい……
狩人ならば、そう考えるべきだろう。たとえ陽に透かせば青ざめて見えたとしても。



没交渉の日々

 ネフライトにとって入学式を兼ねた新学期の歓迎会は、非常に退屈で苛立つものだった。

 

 昨年、学んだことであるが、ネフライトは集団生活に向かない性質だ。

 

 全てを記憶に留める性質を彼は誇りに思っているが、例えば、隣の生徒が話す父と母が喧嘩をして離婚しそうだという家庭事情から今年度入学した一年生の顔と名前と配された寮まで、見聞した全てを記憶してしまうのは無駄なことだと思っている。

 集団生活はメンシス学派にいた頃に送っていて慣れていると思っていた。だから、学校生活に放り込まれた時には本当に驚いた。

 ──なんと幼稚で、無秩序で、無意味な会話の多いことか。

 ヤーナムの組織・団体における子供は小さな大人と見なされる。メンシス学派の学徒集団の末尾にいる彼は、多種多様な人物が名を連ねている連盟よりも──多様性という点では──貧しい環境にいたのだとホグワーツに来て初めて知ったのだ。

 

(……いけない。頭が痛くなってきた……)

 

 人のざわめきに酔ってしまいそうだ。

 眼鏡を外して瞼を押さえる。目を閉じている間は、目に飛び込んでくる情報量が減るためすこしだけ頭が楽だ。

 食事が始まる前に彼は、すでに疲れていた。

 一年生の組分けは順調に進み、なかなかレイブンクローに配される生徒がいないので周囲は雑談をし始めた。教員テーブルにセブルス・スネイプがいないことがちょっとした話題になっていた。

 

(帰れなかったとか?)

 

 まさか、と思う。

 クルックスが見たという獣の皮を被った教会の暗殺者は、結局、仕損じた。死ぬ要因はないハズだ

 

(それにしてもだ。お父様も物騒なことをなさる。普通の人間は一度死んだら終わりだとお忘れなのだろうか?)

 

『うっかり』も多い狩人だが──そうではないとすると、どのようなお考えをしているのか。

 ネフライトは考える。

 

(『死んでも構わなかった』? だが、スネイプ先生はヤーナムの血を受け入れていないのだ。死んだことが夢になることなどないのに……)

 

 不可解だ。

 しかし、情報が不足している。『彼の気分』という平凡な案しか思い浮かばない。これは、いささか乱暴に過ぎる結論だ。

 ネフライトは結論を先延ばしにすることにした。

 

 まさかの話に戻ろう。

 スネイプ先生は、ヤーナムの外に出れば移動する魔法『姿くらまし』ができるのだから、やはり死ぬような目にあうことはないハズだ。そういえば、先ほど「ハリー・ポッターがいない」ということが話題になっていた。

 点と点が繋がる感覚を経て、ネフライトは目を開いた。

 

 

 

■ ■ ■ 

 

 

 

 ホグワーツの教授の間で『ラブ・レター』と呼ばれる物がある。

 差出人はいつもネフライト・メンシスだ。

 一般的に「愛を告白する手紙のこと」を指す語は、ホグワーツ教授陣の間では「果たし状」と同義であった。羊皮紙を開けば、レイブンクローの奇才からの質問がビッシリとしたためられている。迂闊な返事をしたら最後、倍の質問を受けてしまう。

 完全な回答の作成は多忙な教職員にとって大きな負担を強いるものだったが、教授に対し理解の反応が返ってくるのは嬉しいことでもあった。

 あまりに熱心な質問状なので、いつの間にやら、誰かが呼び始めたことをきっかけにそう呼ばれるようになった。

 

 さて、その差出人は問題児であった。

 

 問題児と言ってもさまざま種類がある。

 グリフィンドールのウィーズリー双子のように悪戯に由縁するトラブルを頻繁に起こすのも問題だが、一方で、授業で指名を受けた時以外はほとんど誰とも関わらない没交渉な生活を送る彼も問題であった。

 しかし、生徒の交友関係にとやかく口出しすることは──校則に触れない限り──先生から行うことはない。

 

 そのせいでしばしば学校を卒業してからも続く確執が生まれているが、要因は指導不足に加えて、寮対立の苛烈さにも求められることだろう。

 

 自己研鑽にしか興味がないかのようにネフライトは周囲に無頓着だ。

 普通の才人であれば気に病むであろう、後ろ指や聞こえよがしの悪口も彼は気にしない。これは『悪意に屈しない孤高な精神を持っている』と評しても間違いではないと思われたが、まったく意にも介さないので『感性の欠如が見られる』とも言えそうな生活態度でもあった。

 

 問題児の烙印が押されたままの原因は、質問の傾向にある。

 

 そこはかとなく感じられるのは「ネフライト・メンシスの倫理観は、とても緩いのではないか?」ということだ。

 

 彼の興味とは、人体に帰結することが多い。

 無論、学術的な興味に収まれば何の問題にもならない。

 しかし、一線を違えれば『闇の魔術』にどっぷりハマるのではないか、という想像が容易にできた。そして、想像を否定するだけの信用が彼には存在しなかったのである。

 

 学校とは単なる集団生活の場ではない。

 小さな社会であり、社会に出る前の訓練場でもある。

 ──彼には是非とも『人並み』に相互理解努力をする姿勢をみせてほしい。

 これは教授陣の間にある密かな願いであり、寮監であるフィリウス・フリットウィックのちょっとした悩みの種だった。

 

 九月二日。

 教員室の扉が開かれた。

 予告どおりの午後四時。

 現れたのはネフライト・メンシスだ。

 

 話す用件も決まっている。

 来年の授業選択についてだ。

 

 本来であれば復活祭の休暇に話すべき内容だったが、ネフライトからの要望でこうして特別な機会を設けた。

 だが話すべき内容は今日も復活祭の休暇でも変わりはない。

 だから「後で」と先延ばしにしても問題がないと思われたが、フリットウィック先生は『あること』を思いつき、今日話すことに決めたのだ。

 

 

■ ■ ■

 

 

「ネフライト・メンシス。まかり越してございます。……フリットウィック先生、ご多忙のところお時間をいただきありがとうございます」

 

「君はこの後も用事があるだろう。手早く済ませるとも」

 

 フリットウィック先生に椅子を勧められ、ネフライトは丸椅子に座った。

 呪文学の担当であるフリットウィック先生の部屋には、古今東西さまざまな本が置いてあった。

 彼の緑色の目が、ちらりと本へ移ったが──やがてまっすぐにフリットウィック先生を見た。

 

「先んじて送らせていただいた手紙のとおり。三年次からの選択授業について、私は全科目を選択したいと考えています。同時に開催する授業もあるため、出席数は半々となるのでしょうか?」

 

「そうする生徒もいる。あとは自学自習で試験を受ける生徒もいるが……」

 

「……?」

 

 ネフライトが探る目でフリットウィック先生を見た。

 

「特別な措置を講じる場合もある」

 

「はあ。なるほど。どのような場合か、伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 フリットウィック先生は、この質問をしたいがためにネフライトがここにやって来たことを悟ったようだった。特別な措置とは「どのような措置か」ではなく「どのような場合」かを聞いたからだ。

 だからこそ、言い聞かせるように言葉を重ねた。

 

「検討要素は、さまざまあるのだよ。公平のために、その全てを生徒に教えるワケにはいかない。だが、多くの場合、生徒には求められる素質がある」

 

「素質……ですか。それは?」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

(協調性!)

 

 ネフライトは、鼻で嗤った。

 フリットウィック先生の授業準備室から出た後のことである。

 独りで嗤うのは良くないと分かっているが、廊下に誰もいないことをいいことに彼は薄く嗤った。どうにもこらえきれなかったのだ。

 

 協調とは、互いに協力し合うことである。

 時に自分の不利を飲みこみ、他利をもたらす姿勢のことだ。

 

 だが、ネフライトの見るところホグワーツの協調性は、ごく限られた交友関係にのみ存在している。

 ネフライトは「協調性」の言葉をフリットウィック先生から聞いたとき、心の底から『自分に求める前に他の生徒を指導せよ』と思ったが、言ったところで自分の立場を不利にするだけであるため控えた。

 生徒の多くができていないことなのに、まったくできていない自分に求めるのは、図々しいというか──的外れであると感じる。

 とはいえ、自分は彼らの信用を得るような行いをほとんどしていないことについては自覚がある。

 

(……分からないな。私ほど真面目に勉強している生徒など上級生でもいないだろうに。それではダメなのか。これだけではダメなのか)

 

 学校という仕組みをネフライトは理解している。

 一個人に多面的な成長を求めすぎると感じている。

 

(とはいえ、多くは己の才の在処を知らず、凡夫のまま一生を終えると聞く。とりあえず汎用な人間を作るために合理的ではある。私にとって不合理なだけだ)

 

 ヤーナムでは、このようなことはなかった。

 ネフライトは考えたが、暗澹たるヤーナムの暗澹の由縁である現状を再確認するだけに終わった。

 

 ヤーナムの組織・団体では、即戦力が求められている。これは子の成長を待つ時間と人員の余裕が無いことを意味する。──異常事態が長く続くヤーナムで大きな問題になっていないだけだが──もし、ヤーナムが夢から醒めて通常の時間が流れることがあるならば、人口の先細りは免れないだろう。最も権力が強く、人が多い医療教会でさえも獣性を抑制する画期的な手法が見つからない限り、百年は保たないように思えた。

 

 ヤーナムが夢を見始めた時点の西暦は不明だが、夢の中で二世紀ほど足踏みをしている。

 魔法界が迎えた二十世紀が、いまだ来ていないのだ。

 

 さて、困った。

 

 獣性の高いホグワーツ──とネフライトは思っている──において誰と交友を深めるべきか。

 同学年と上級生の名前と顔を思い浮かべて、これはダメ、あれはダメと思案した結果。誰もいなくなってしまった。

 

(私に瑕疵があるワケではない。そもそも、レイブンクローの生徒がダメなのだ)

 

 試験で競うために己の知を開示せず、あろうことか嘘を教え合うとまで言われるレイブンクローの特性は、ネフライトにとって本当に度し難いものだった。

 探求者が頼りにする知恵は、人間の善悪とは異なる次元になければならない。

 全ての患者が真実を話すという性善説によってのみ、医療者は正しい治療をすることができるのだ。──もっともヤーナムでは、必ずしも患者の口から聞くことを重要視していない。体は正直だし、病巣は誠実だ。それだけでよかったのだ。

 

 魔法使いとは、他人の知恵を拝領する慎ましさもないクセに自分だけが賢いと思っている節がある。

 思い上がり甚だしい。彼らと同類と思われることはネフライトにとって耐えがたい屈辱だった。

 

 これからの問題は、ホグワーツでどのように過ごすか。

 ネフライトは、数秒考え込むために立ち止まり、歩き出した。

 

 卒業後はどうせ魔法界との関わりがなくなるからと避け続けていたツケが今になってやってきた。

 だが、あえて問題ないと言ってみよう。

 

(私に都合の良い生徒がいないのであれば、作ればいい)

 

 ネフライトは、抱えていたメンシスの檻を被った。

 そして。

 

「そこな、君。どこへ行く。夕食の時間だ」

 

 声をかけた。

 濁った金髪の少女が、ふらりと廊下を歩いていたのだ。

 辺りを見回した横顔をネフライトは覚えている。

 

「君に話しているのだ。ルーナ・ラブグッド」

 

「こんにちは。素敵な檻だね」

 

 ルーナ・ラブグッドは振り返った。

 バラバラと広がるブロンドの髪が揺れる。夢を見るような銀灰の瞳がネフライトを見つめた。

 その色に一瞬だけドキリとした。

 瞳が父と同じ色なのは、クルックスと同じだというのに少々、心が揺らいだ。ネフライトは彼らの色が苦手なのだ。

 

「……ここで何を?」

 

 しかし、表情を変えるほど動揺していなかったハズだ。

 自分の頬に触れようとして檻に阻まれる。ごまかすように鉄の編み目を爪先で掻いた。

 

「散歩していたんだ。あんたこそ何しているの」

 

「フリットウィック先生と話していた。今は夕食の時間だ。大広間へ行くのならば同行しよう」

 

「……お腹すいていないんだ」

 

「では、談話室へ戻るべきだ。軽食がある。食事を欠かすことは良くない。来たまえ」

 

 ネフライトは、しばしば大広間の夕食の席を辞退している。

 その代わり、談話室でよく使っているテーブルの上に夕食時間になったら簡単な食事を置いておくように厨房と話を付けていた。

 ネフライトは、早足で歩く癖がある。

 ヤーナムの大人に追いつくためのものだったが、声をかけられた時に彼女が思いがけないほど遠くにいることに気付き、立ち止まった。

 

「あんたのこと知ってる。ネフライト・メンシスだ」

 

「いかにも。私こそがネフライト・メンシスである。気軽にネフと呼ぶといい」

 

「友達がいないって聞いたけど、本当?」

 

「一般的にそう言われる状態であることは理解している」

 

 まるで他人事のようにネフライトは言った。

 数瞬、クルックスを友として呼んでよいのではないかと思えたが、彼と了承の取れていないことだったので明言を避けた。

 

「あんた、友達いなくても大丈夫?」

 

「何も問題はない。……しかし君は、何か心配事があるらしい」

 

 ルーナの友人についての質問は、多くの人がそうであるように嘲りによるものではなかった。

 だからこそネフライトから踏み入った。

 

「うぅん……今日は、誰とも話していないんだ」

 

「それは」

 

 こうして話すことができるから彼女のコミュニケーション能力に難がある風には見えない。クィリナス・クィレルよりは上手に思える。

 では、なぜ話していないのか。

 

「ああ、なるほど。君には、変人の気味があるからな」

 

 彼女のふわふわとした口調は、相手に大きな戸惑いを与えるものだ。

 キョロリとした目がネフライトを見た。

 

「あんたに言われたくないな。私、檻を被っている人なんて初めて見たもンね」

 

「そうだろう。そうだろう。この素晴らしい檻が、外の世界にあってたまるものか。クッフハハ」

 

 ネフライトは、彼女が追いつくとゆっくりと歩いて西側の塔へ向かった。

 

「あんた、なんで私のことを知っていたの? ひょっとして十一年前の『ザ・クィブラー』を見たの? パパが編集長なんだけど、私が生まれたときに編集後記に写真を載せたんだ。……赤ちゃんの時の写真だけど」

 

「ザ・クィブラーとやらは知らないが、組分けを見ていた」

 

「レイブンクローの新入生はたくさんいたでしょ?」

 

「私は一度見たものを忘れない。例えば、君が組分け帽子を被っていた椅子から最初に歩き出したのは右足からだ。覚えているとも」

 

 ルーナは自分の足を見た。

 

「どっちから歩いたかなんて忘れちゃった」

 

「普通はそうだ」

 

 ネフライトは、ふと足を止めた。

 西側の塔。

 天文学を行う塔には敵わないが、ここでも星空がよく見えた。

 

「人は嘘を吐くまでもなく、そうして忘れてしまうものだ。なぜ神秘の探求を最も志さなければならないレイブンクローが疑心暗鬼の個人主義に陥っているのか。私は理解に苦しむ。君はどう思う?」

 

「よく分からないな。だって、ホグワーツ二日目だもン」

 

「それもそうだ。話す相手を……私は、間違える癖があるらしい」

 

 西の塔の扉をノックするとノッカーの鷲の嘴が開いた。

 多くの寮がそうであるように入寮には合言葉が必要だった。

 ただし、レイブンクローはちょっとしたクイズが出題される。

 

「不死鳥はどこから来る?」

 

 嘴が囀った。

 

「血だけが全てを定義し、そこから全てが生まれる」

 

「……貴方の答えは、いつも他の生徒とは違いますね。だからこそ、レイブンクローに相応しいのでしょう」

 

 ノッカーはパッと扉を開いた。

 

「適当に座って」

 

 談話室は、広い円形の部屋だ。

 壁のところどころに優雅なアーチ形の窓があり、天井はドーム型、夜なので描かれた星が煌めいていた。

 いつもの席にはサンドウィッチが置かれていた。ポットを沸かして適当なお茶を入れた。

 

「食べれる分、食べるといい」

 

 檻を外して眼鏡をかける。

 勧めながらネフライトもサンドウィッチに手を伸ばした。

 

「レイブンクローの人は、誰も手助けをしないのかと思っていた。眼鏡、似合うね」

 

 分厚いベーコンを噛み切ろうとして失敗したルーナは言った。

 

「皆、自分のことで頭一杯みたいだもン。でも、何人かはラックスパートが入り込んでいるんだと思う……」

 

「ラックスパート?」

 

「目に見えない、ふわふわした生き物だよ。耳から入って頭をぼ~っとさせるンだ」

 

「……?」

 

 目に見えない。

 それは啓蒙的な視座のことだろうか。

 

「次に見かけたら私にも教えてくれ。──話の続きだが、レイブンクローらしく私は奇特な人格ということになる。……とは私なりの冗談だが、打算あってのことだ」

 

「打算って?」

 

「私はホグワーツに互助的な学習の機会を作りたいと考えている」

 

「あんたが教えるの?」

 

「互助的なものだ。つまりは誰しも等しく教え、教わる関係になるというものだが」

 

 構想を話しているとルーナが、パチリと手を叩いた。

 

「あんたが話すなら面白そう」

 

「私が? 私が……いや、私は……目立ちたくない」

 

 ネフライトは、少人数であれ志す者が集まればよいと考えていた。

 しかし。

 

「もう一年生であんたのこと知らない人なんていないよ。ハッフルパフのコーラス=Bが『檻頭野郎』だって」

 

 ネフライトには、許しがたいことがいくつかある。

 その一つは、テルミによるメンシスの檻の侮辱だった。

 檻頭野郎とは、聖歌隊がメンシス学派を揶揄する時に使われる言葉だ。

 反射的にネフライトはテーブルを叩いた。メンシス学派らしくキレるときは速かった。

 

「聖歌隊! 聖歌隊はいつもそうだ! 陰険! 陰湿! 孤児院では『イジメはダメ絶対』と教わらなかったのか!? 裏工作ならばお手の物だな。なにが教会の剣だ。潮錆びだらけのメスで病巣の何が啓けると言うのか」

 

 そして、立ち上がった。

 お茶の入ったカップがぐらりと揺れた。  

 

「ああ、決めたぞ。ルーナ・ラブグッド。君は幸運だ。私が導いてみせるとも。暗澹の知が、ホグワーツにおいて燦然たる知となることを証明しよう!」

 

 ミコラーシュ主宰がそうするように、ネフライトは両手を広げる。大いなる使命感が湧き上がった。

 知識とは、人間が時を超えて積み上げるものだ。

 メンシス学派の主宰ミコラーシュが、学派を広げたのもきっとこうした考えだったからに違いない。

 

「なに教えてくれるの?」

 

 スンと鼻を鳴らす。

 現実に戻ってきたネフライトは着席して考えた。

 

「まずは……そうだな。図書館の使い方から始めよう。無知を知ることの一歩でもある。最近、イルマ・ピンス司書を『検索のため』に働かせる術を確立させたところだから」




没交渉の日々
ネフライト:
……もし、月の香りの狩人の仔らに寿命があるならば、活動限界が最も早く訪れるのは私だろう……
 ネフライトが急ぐ理由は彼にとって切実で、しかもどうしようもないものです。これが杞憂であればよい。大人になったら、現在のヤーナムで生活する人々のように、体の時が止まる──ならばよい。でも、そうはならなかったら? そもそも仔は狩人の奇行で偶然に生み出されたもの。狩人も学徒達も初めての試みのため、知見はゼロ。実のところいつ死んでもまったく不思議ではないことをネフは自覚して行動しています。
 サンドイッチはアボガドが好き。

ルーナ・ラブグッド:
 入学二日目。さっそく迷った。サンドイッチは卵が好き。



 2年生編は、たくさんネフとセラフィのことが書けて楽しい時間でした。
 作業環境が戻ったのでご感想の返信を始めます。
(ところでフロムテキスト風感想を書いてくださっている方がいらっしゃるのですが、その出来に筆者は嫉妬しています。……ギィ、ギィイイイ!(訳:ナメクジ、くらえ!)
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