甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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互助拝領機構
今年になって設立され、許可を得たクラブ活動名。
機構を主宰するのは一見にして怪しげな奇才ネフライト・メンシスである。
ヤーナムの外において聖体は、人の叡智が形を変えたものだ。
ゆえに拝領は時を超え、場所を選ばず続いている。
拝領は人の有意な営みであり、続くべきなのだ。彼はそう信じている。



互助拝領機構

 ヤーナムにおいて『穢れた血』とは。

 一般においてカインハーストの血を引く人々を指す。

 だがカインハーストの狩人であれば目を輝かせる言葉であり、教会の狩人であれば武器を握りしめる言葉でもある。

 

『穢れた血』が意味する『穢れ』について、クルックスが知っていることは多くない。

 

 ──舌に触れた瞬間に甘みを感じた。

 ──そして、熱かった。

 ──女王様もおっしゃったが、穢れた血は熱い。

 ──だからまぁ。

 ──普通、人間の扱うものではないのだろう。

 ──身に留めていて良いものでもない。

 ──普通の人間ならば、という話だが。

 ──神秘を求めるならば欲するべきだ。

 ──啓蒙的智慧と同じように。

 

 

『穢れ』とは啓蒙──世界の真実を理性の範囲で自然に見る力──の形状が変わった物質なのだ。

 啓蒙。

 それはヤーナムの神秘の探求者がこぞって求める瞳だ。

 理性は獣性に勝る。

 神秘の果てにいる異形の何者か。医療教会が『上位者』と呼ぶモノに見えるために。

 

 だからこそ女王は林檎の代わりに甘い血を舐め、神秘の智慧を得る。そして、それだけが一族の末席に最も優れた赤子を迎えるために必要なのだと騎士達を駆り立てている。騎士達も誉れと共に女王の血を啜る。人には熱い血だ。また狩人をも魅惑する甘さを持つ。まさしく魔性と称するに相応しい。血の女王だ。

 

 しかし、女王様お求めの『穢れ』を得るには、大前提がある。──『輸血液の常習者である狩人の死血からしか見つからない』ということだ。狩人曰く「例外は、今はない」

 クルックスは、そのように理解をしていた。

 

 さて。

 

 クルックスにとってセラフィは、最も本質的に近い狩人だと思っている。

 親愛に対する考え方が近いこともその考えを助長させたが、そう考えるようになった大きな原因は先日、聖杯のなかでセラフィの話を聞いたからだ。

 

 ──僕は、この顔をした女性が何なのか知りたいだけだ! レオー様にはエヴェリンに間違われ、鴉羽の騎士様は僕の向こうにマリアを見ている! この顔は、いったい誰で何なのか!?

 

 それを聞いたとき、クルックスは悲しみを覚えた。

 生きているだけで楽しいという感覚は、きょうだいに普遍のものだと思っていたが、セラフィは違う感想を抱いているようだった。彼女の人生は、まだ始まっていないのだ。

 セラフィは自分を憎みきれず、マリアも妬みきれず、父をも恨みきれない。

 クルックスが同じ悩みを持っていたら、きっと同じことを叫ぶだろう。彼は、自分が成長すれば父たる狩人と限りなく近しい容姿になるだろうと思っている。他のきょうだいのなかで、唯一──未来において──苦悩を分かち合えるかもしれない存在だった。

 

 彼女の内心の吐露は、クルックスを惹きつけてやまない甘い秘密になった。以前より力量という点で気になる存在ではあったが、つい目で追ってしまうようになったのは、秘密を預かるようになってからだ。

 

 セラフィをよく見るようになってから気付いたこともある。

 彼女が自覚しているとおり、世の中のたいていのことをどうでもよいと思っているのは本当のことらしい。

 だからこそ、彼女は目の届く範囲の、手の届く場所にある──例えば、カインハーストにまつわることに関しては、一切の妥協をしない性質があった。

 

 クルックスはセラフィの肩をつかまえて集団から引き離した。

 

「セラフィ、違うと思う。違う。絶対、違うと思う。カインは関係無いと思う」

 

「しかし、確かめなければ──」

 

 セラフィの琥珀色の瞳に剣呑な光が点った。

 クルックスは、数秒黙っていたら足蹴されそうな危険を感じた。

 

「マルフォイがカインについて知っているハズがない。ハーマイオニーがカインの血筋であるハズがない。彼らが、カインの夜警を自称する君の前でヤーナムの何かを知っている素振りをしたか?」

 

「していない……と思う。だが、僕が気付かなかっただけかもしれない」

 

 クルックスとセラフィの力量は拮抗している。

 しかし、それは殺し合いを目的とした場合だ。

 現状に求められている、相手を無力化する場合は技量で優れたセラフィの圧勝になるだろう。だから素早く制した。

 

「ここで直接質問することはやめてくれ。ヤーナムの情報が逆漏洩する可能性がある。人も多い。分かるだろう。頼む。俺に免じてどうか」

 

 マルフォイとハーマイオニーを見ていた瞳が、ゆっくりクルックスに戻って来た。 

 

「ん、分かった。君の頼みならば……結論をすこしだけ先延ばしにしよう。……すこしだけ。すこしだけね」

 

「それでいい」

 

 その時だ。

 バーンという大きな音が競技場に響き、グリフィンドールの選手達が悲鳴を上げた。

 何事かと振り返ればロンがナメクジを吐き出していた。

 

「……人間、思いがけない特技を持っているのだな」

 

「……僕もビックリしている」

 

 観客席から駆けてきたコリン・クリービーがその光景を激写した。

 

「おわあ! すごい! ハリー、隣に立って! ハイ、撮りますっ!」

 

「撮らないよ!? どいて! どいて!」

 

 ハリーとハーマイオニーがロンの両腕を抱えてピッチを出て行った。

 方角的に森番、ハグリッドの小屋に行くのだろう。

 

「行くぞ、クルックス」

 

「……俺達には、これから大広間に戻ってテルミに内偵を頼むという選択肢がある」

 

「『穢れた血』に心当たりがないか聞けばいいだけだ」

 

「聞くべきは、あちらではないか? ……無論、時と場所を考えて、という前提ではあるが」

 

 クルックスは、スリザリン・チームに囲まれて芝生を叩いて笑い転げるマルフォイを見た。

 

「あちらにはいつでも聞ける。逃げ場も与えない。先にグレンジャー達だ」

 

 セラフィはクルックスの手を引いた。

 ピッチを出るまで聞こえてくるスリザリン・チームの嘲笑だけが耳障りだった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 クルックスは、てっきりセラフィが森番の小屋をノックして「血を出せ」と中にいるハーマイオニーにナイフを向けるのではと内心恐々としていたが、そんなことにはならなかった。

 ふたりでこっそり小屋の軒下に座って、漏れ聞こえる彼らの会話を聞いていた。

 

 ──んで。やっこさん、誰に呪いかけるつもりだったんだ?

 ──マルフォイがハーマイオニーのこと何とかって呼んだんだ。ものすごくひどい悪口で。みんなカンカンだったもの。

 ──『穢れた血』ですって!

 

 クルックスとセラフィは顔を見合わせ、ますます小屋に身を近づけた。

 

 ──そんなこと、本当に言うたのか!?

 ──穢れた血ってどういう意味?

 

 二人の知りたいことは、ハリーがズバリの質問をしてくれた。

 

 ──それは、あー、マグルから生まれたって意味の、ホント最悪の汚らわしい呼び方さ。つまり。おっぇぷ。両親とも魔法使いじゃない人のことだよ。魔法使いのなかには『純血』って呼ばれていて、みんながそう呼ぶものだから、自分たちが誰よりも偉いって思っている連中がいるんだ。マルフォイみたいなね。ムカつくよ。ゲェ。いま時、魔法使いはほとんど混血なんだ。そうでもなきゃ魔法使いなんて絶滅しちゃうよ。みーんな親戚になっちゃってさ。

 

 ロンが再びナメクジ生産作業に戻るとハリーとハグリッドがハーマイオニーを慰める言葉をかけた。

 クルックスは話の内容を頭の中で噛み砕いた。やはりヤーナムとは全く関係のない話だったのだ。

 ホッとしてセラフィを見る。

 

「そういえば、朝食がまだだ。……今日は輸血液でいいかな」

 

 明後日の方向を向いて彼女は立ち上がった。

 興味を失ってどうでもよくなってしまったようだ。

 

「ちゃんと食べないとダメだ。先達に心配されてしまうぞ」

 

「ん」

 

 仕方ないな、とセラフィが肩をすくめた。

 二人は、小屋の人々に気付かれないように軒下から立ち上がり、校舎への道を戻っていった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 休日なので図書館へ行こう。

 

 授業が始まったとはいえ宿題は、生徒が追い詰められるほど多くない。

 そのため、現在。図書館へ向かおうという人は、急ぎの調べ物がある高学年か凝り性か変人か。たいていこの三種に分類されるだろう。

 朝食を済ませたクルックスは、再び合流したセラフィと共に図書館を目指していた。ネフライトに頼まれた添削を終えたからだ。

 

「ネフは真面目だ。俺は、勉学に向いていないので尊敬している」

 

「堅実の自認は確かなことだ。僕もさほど得意なワケではない。じっとしていられないからね。カインでは生死に関わる。寒いから。勤勉でもテルミとタイプは違うのは不思議だ」

 

「ネフは見たものを二度と忘れないらしい。記憶力がよいのだとか」

 

「ほう。……僕にその能力がないのは、本当に幸いなことだった」

 

 図書館に行き、いつもネフライトがいる奥の席に向かう。

 しかし、彼はいなかった。

 

「珍しいな。まだ寝ているのだろうか」

 

「まさか。もう昼だ」

 

「どうする? 待つか?」

 

「そうしよう。……暇つぶしには困らないからね」

 

 近くの本棚から何冊か本を取り出したセラフィと一緒に座った。

 三十分ほど呪文学の本を読んでいると本を返しに行くタイミングでセラフィが図書館を一巡りしてきた。やはりネフライトはいなかったらしい。

 

「しかし、珍しいな。ネフがここに来ないなんて。書類を渡すのは誰かに頼みたいことでもなし。俺は急ぎの用事もないから夕方まで待っても大丈夫だが……セラフィはどうする?」

 

「んー。僕も宿題は済ませたのだ。……校内探索でもしてみようか? テルミが言っていたんだが『あったりなかったり部屋』というものが存在するらしい」

 

「ほう。面白そうな話だな。隠し部屋か。これだけ広い城なのだからあってもおかしくない」

 

 クルックスが本棚に本を返すのを待っている間、セラフィは床を見ていた。

 

「おかしくない話といえば、スリザリン寮は地下にあるのだが……」

 

 適当な相槌をうちながら首を傾げる。

 ……寮の場所は、本来他寮の生徒に知られてはいけないと聞いたような。

 だが、セラフィは構わずに続けた。

 

「城の地下の入り口は、どこにあるのだろうな」

 

「地下が気になるのか?」

 

「我々ならば特に地下を気にするべきだろう。魔法薬学の授業は地下というか半地下というか、地表の下にはあるが浅い。スリザリン寮も浅層だ。けれど地下に空間を作る技術はあるのだ。どこかに入り口があると思うのだが……どう思う?」

 

「ありそうだな。地下に部屋を作り、緊急時に外へ出る抜け道を作っているのかもしれない。昨年封鎖されていた四階の部屋も地下深くの隠し部屋に繋がっていた」

 

 二人で図書館を出て校内を探索する。

 会話は弾まないが、気心知れた仲にある穏やかな時間を過ごすことができた。

 あれこれと相談しながら羊皮紙に地図を描いていくのは楽しいことだった。聖杯の探索がそうであるように狩人の戦いは孤独になりがちであるが、たまにはこうして二人で歩くことも大切かもしれない。

 

 呪文学の教室を通りがかったところ、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「──整文の過程で失われる情報であっても価値がある。知識とは、これまで見て・聞き・考えたもの上澄みだ。自学者にとって整文は、さほど重要ではない。綺麗なノートは無価値であるし、その作成のために時間を費やすのはまったくの無駄である。優れた発想は、新しい奇想は、一見雑然とした書き込みのなかの異質の組み合わせによって導かれる──」

 

 扉を開けて教室を見るといつもフリットウィック先生が立っている教壇にネフライトが立っていた。

 真面目っぽく訥々と語っていた彼は、被っているメンシスの檻のなかで目を動かした。

 

「おや。クルックス。……セラフィまで。珍しいことだ」

 

「ここで、何を?」

 

 教室のなかには、一人のレイブンクローの女子生徒がいた。

 濁った金髪の小柄な生徒だ。今年入学したばかりの一年生のように見えた。

 

「互助拝領機構の活動中だ」

 

 聞き慣れない言葉のなかに聞き慣れた単語があった。

 

「ご? 互助? 拝領、き?」

 

「互助拝領機構。M.W.M.B──Mechanism of worship for mutual benefit(相互利益のための礼拝の仕組み)だ。……もっと分かりやすく言うと『自学自習の会』だ」

 

 クルックスとセラフィが無言になってしまったのでネフライトは最後に付け足した。

 

「じゃあ『自学自習の会(Self-study group)』でいいだろう。なんだその長い名前」

 

「互助拝領機構だ。これは、ホグワーツの意識改革の試みの一石なのだ」

 

「学者先生は志が高くて困る。意識改革とは? 具体的な活動内容によっては介入せねばならない」

 

「連盟員は血の気が多くて困るな。『ヤ』の字の地名も『メ』の字の学派も出てこないので安心してほしい。そも、私は学派のイメージアップを諦めている」

 

「殊勝なことだ」

 

 セラフィが「そのほうがいいと思う」と頷いた。ネフライトは檻の編み目に爪を立てた。

 

「単純に手遅れだからな、うん。それで何か用か? ……見てのとおり、活動中なので出て行ってほしいのだが」

 

 クルックスは添削が終了した書類を置き、退室しようとした。

 しかし。

 

「貴公の取り組みは、すこし面白い。その互助拝領機構とやらはレイブンクローの生徒でなければ加入できないのか?」

 

「拝領は求める者に与えられる。また互助の精神があれば、寮を問わない。──私は、君の信仰の邪魔をするつもりはない。けれど、ご賛同いただけるのであれば幸いに思うよ」

 

 やや含みのある話し方である。「君の信仰の邪魔をするつもりはない」は特に気になる。

 クルックスは、ネフライトがなぜ積極的に人と関わるようになったのか分からないうちは加わらないつもりだったが、セラフィは気にしないようだった。レイブンクローの一年生の隣に座った。

 

「俺は、セラフィの付き添いということで」

 

「そういうことにしよう。君は特別だからな。──座りたまえ」

 

 いったい何を話しているのかと警戒して聞いていたが、講義の内容は確かにヤーナムも医療教会も関係のない、それどころか魔法にも関わらない話だった。

 黒板には白いチョークで『初学者のための自学の方法』と書かれている。

『なぜ勉強をするのか』の疑問提起から始まり、ノートの取り方、メモの重要性、記憶することの意義と続く。

 今回は『分からないことが何なのか分からない』や『勉強の仕方が分からない』という生徒に対する学習回のようだ。

 彼の話は難しいが、内容の数割は理解できた。

 

 非魔法族の学校に通っていない場合、多くの魔法族が最初で最後に通う学校がホグワーツだ。

 そして、ホグワーツで行われる授業では授業の受け方など学ばない。家庭教育の範疇と考えられているのだろう。けれど、家庭学習で学ぶ機会のない人もいる。非魔法族の出身でホグワーツがどのようなものか知らない人は大いに困ったことだろう。

 周囲の見よう見まねで勉強を始めたクルックスのように、それで知識が身につけば問題がない。だが、勉強の心構えや基礎を学ぶ機会があれば不安も少なくなるだろう。

 

(今でも十分役に立つが、去年受けたかった)

 

 三十分程度で講義は終わった。

 パチパチと三人分の拍手が起きた。

 

「面白かった」

 

「タメになった」

 

「良かった」

 

 クルックス、セラフィ、レイブンクローの一年生が感想を述べた。

 突然、あちこちが痒くなったようにネフライトはそわそわ体を揺らした。

 

「私は。……おだてても何も出ないぞ」

 

「想像していたより退屈しなかった。しかし、話し方はいただけないな。もうすこし抑揚が必要では?」

 

「いいや、要らない」

 

 竿でも入れたみたいに背筋を伸ばしたネフライトがセラフィの助言を却下した。

 

「押しつけがましい教授は理解の妨げになる。良い教育とは、導きに留まるものだ。先回って答えを指し示すのは給餌的教授と言える。これは良くない。学習とは、結局のところ、個人の納得だ。個人の努力によって理解に辿り着かなければならない。だからこれで良いのだと私は考えている」

 

「失礼。そこまで考えがあるとは思わなかった。僕が口出しすべきことではなかったね。気を悪くしないでくれたまえよ」

 

「問題ない。私は、本を開いて十秒で見つかる答えであっても質問を受け付けている。君の疑問は皆の疑問でもある。……百回も同じことを聞かれたらさすがに対応を考えるが」

 

 クルックスは、実際に平坦に話し続けることについて──それでも魔法史のビンズよりはマシだが──なぜだろうと思っていた。

 納得を得て何度か頷いた。

 

「この話、皆も聞くべきだと思うなぁ。羊皮紙と羽ペンだけで最初から勉強できる人は少ないもン」

 

「ルーナ・ラブグッド、機会があれば誰か誘うといい。私が同じ話をしてもよいし、今度は君が教壇に立ってもよいだろう。互助拝領機構はそういうものにしていきたい」

 

 ネフライトはクルックスが添削した書類の束を鞄に入れた。

 

「では、また次の機会に会おう」

 

 檻を扉にぶつけないように体を傾げて彼は呪文学の教室を出て行った。

 レイブンクローの一年生、ルーナ・ラブグッドが去ろうとするところをクルックスが引き留めた。

 

「ルーナ・ラブグッドと言ったか。俺は、クルックス・ハントだ。ネフが生徒と話すのは珍しい。君は……特別なのだろうか?」

 

「運が良かったみたい。たまたま廊下を歩いていたらバッタリ会ったんだ。あんたのこと知ってるよ。ネフの知り合い」

 

 ルーナがまとう雰囲気は、なんとも形容しがたい。

 彼女が口を開くと捉えどころのない不思議な空気になる。

 この種の人には初めて会うクルックスは面食らった。

 

「知り合い……まあ、知り合いといえば知り合いだ。ネフと君のことは、よく分からんが『巡り合わせ』というものなのだろう。彼は賢いので良い学びの機会を作ってくれる。互助拝領機構に関わらずな。俺から頼むことでもないが、悪いヤツではないので仲良くしてくれたら嬉しいことだ」

 

「いいよ。面白いから。じゃあね。これから『チラシ』作らなきゃ。また来週」

 

「楽しみにしている」

 

 セラフィがヒラヒラと手を振ってルーナも教室を出て行った。

 

 

 次の日のことだ。

 

 

 クルックスは、授業の合間の移動時間に校内のあちこちでルーナを見かけた。

 決まって掲示板に向かい、何やら書類を貼り付けているのだ。

 とある廊下にある掲示板に真新しい広告を見つけた。

 

 ふと見れば『互助拝領機構』の開催日が書かれている。

 開催場所は……無い。

 書き忘れたのだろうか。

 気がかりに思って近付いた。

 よく見ると「場所:要相談」と書いてある。その隣には矢印が引かれ、六角柱の檻が描かれていた。

 




互助拝領機構

穢れた血:
 大前提なのですが、筆者の英語は「生まれるべきではなかった」「君には何もない。低能力者だ」レベルなので、引っ張り出した英語辞典と『※個人の感想です』でお送りします。
 魔法界の場合、穢れた血は英語だと「mudblood」と記述されています。「dirty blood」とも表記される場合もありますが、主としては「mudblood」のようですね。「mud」名詞だと「泥」。悪口や中傷の意味もあるようです。「(悪い評判を流して)……の名を汚す」とか、そういう場面で使われるようです。物理的な汚れではなく、名声を下げる意味でも使われることが分かります。この印象と合わせて考えてみますと。映画の日本語台詞だとカットされていますが「穢れた血め!」の前に「生まれ損ないの」という言葉が付くことを考えて、受ける印象とは『汚損された血を持つ者め』とか『お前たちの血って、泥みたいじゃないか?』というものになるのではないかと思います。
 続いてヤーナムの場合、穢れた血は英語表記「vileblood」です。DeepLで直訳すると、例えばカインハーストの血族=The Vilebloods of Cainhurstは「カインハーストの卑劣な血」となります。レオー先輩が「は?」と言いそうです。心外なんだが? 単語としての「vileblood」でようやく「汚れた血」の訳となりますが「vile」の単語自体は「不快」「下劣」「卑劣」の意味を含みます。
 カインハーストの穢れた血がそうなのか、人をたぶらかせるほどに顔がいいのか、はたまた医療教会の立場から敵を指した言葉だからなのか、作中でも売女呼ばわりされていたので、Bloodborneを知る人でも英語字幕やボイスに触れていない人であれば「あ、やっぱりそういう意味の『穢れ』なのね」という感想になりそうです。
 なお、ヤーナムの場合の穢れた血という言葉には上記の他にも『不浄な血』という印象を受ける人も多いのではないでしょうか。

 ここまでつらつら書きましたが、要するに同じ『穢れた血』でも元々の単語を知っている人であれば、同じ言葉の違う意味だということがお察しだった事と思うので、ちょっとクスッとできるというネタでした。

 カインハーストの女王様ことアンナリーゼ様は、いつでも謎めいて可愛く優しい女王様なのですが、自分の血のことを「祖先よりの尊い血」とか決して言わない女王様です。女王様自身が「穢れた我が血を啜るがよい」と言います。
 ゲーム作中で同じモノを指す言葉(この場合は「穢れた血」)を複数登場させることが避けられたから、と言ってしまえばそれまでなのですが、医療教会の立場であるアルフレートが敵に対し「穢れた血」を言う背景とカインハーストの女王様が自らの血について「穢れた血」と言う内心が同一だとは思えないため、実のところヤーナムにおいての「穢れた血」とは、単純な学名(学術的な呼称)に等しいものであるのかもしれません。
 本作においても適用するかどうか不明な考察ですが、現時点での筆者の考えとして置いておきたいものです。また皆さんの神秘探究の肥やしになれば幸いですね。脳液がほしいの……ピチャピチャ……。


互助拝領機構:
 イメージとしては、独学者が勉強するにあたり必要な心構えやコツを教える勉強会です。
「(点数は)このように稼ぐのだ」
 昨年、かなり真面目に授業に取り組んで点数稼ぎをしたネフライトだが、賢者の石騒動でひっくり返された心境になったのはスリザリンだけではない。今年は、ほどほどに控えている。そんなことより互助拝領機構に注力して協調性アピールをした方がお得に思えてきた。
……あとはラブグッドが参加者を連れてきてくれたらよいのだが……私? この私がなぜ頭を下げねばならんのだ?……
 ところで最近、互助拝領機構のことを聞き付けたテルミは「ネズミ」と「無限連鎖講」のことを誰かに話したくて堪らない。
……可哀想なものは可愛いからいじめたくなっちゃうの。抵抗してくれていいのよ。いじめられたいなら別ですけどね?……

「傲慢さ」はヤーナム医療者(神秘探求者)必須科目並の精神なので二人のなかにも息づいています。可愛いですね。

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