甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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ウィレーム先生は正しい。
時系列の錯誤など筆者の堕落だ……

56話『ネフライトの大切なもの』
ダンブルドア校長の台詞
(修正前)あいわかった。ひと月もせずマンドレイク薬が出来るとは知っておるじゃろう。その時に、ミス・グレンジャーに点を与えるとしよう
(修正後)あいわかった。近いうちにマンドレイク薬が出来るとは知っておるじゃろう。その時に、ミス・グレンジャーに点を与えるとしよう

今後の展開に関わるため上記のとおり修正しました。
「ひと月」と「近いうち」は受ける印象がだいぶ違います。また該当話のなかでクルックスが『マンドレイク薬は、そろそろできるという話もあった』という回想をしているので、やはり単話として見ても齟齬がある部分でした。遡及して修正させていただきます。
赦してくれ……赦して、くれ……


ジニー・ウィーズリー
ウィーズリー家。七人兄妹の末子であり、数代ぶりに生まれた女の子。一族の特徴的な赤毛は彼女の魅力を決して損ないはしない。
自らの魅力に気付くには、彼女はあまりに若すぎた。

「7」という数字は、魔法界において特別な意味を持つ。
かつて偉大な魔法使いを志した男は、それに固執した。
ゆえに若かりし日の彼も、未来と同じ「7」を選んだのだ。



消えた少女

 翌朝。

 

 ──秘密の部屋の怪物が、バジリスクであること。

 ──バジリスクは、討伐された『かも』しれないということ。

 

 この二点は、伏せられたままだった。

 バジリスクの存在証明は、毒に塗れた牙で足りる。

 だが、致命傷を証明するものはヤーナムの狩人達以外にいなかった。

 そして。

 万一、バジリスクが複数体いた場合のことを考えて、情報は秘された。

 

「フフフ、情報統制は、今さらのことですからね」

 

 大広間に入る前にバッタリ出くわしたテルミは、日刊預言者新聞をヒラヒラさせながら言った。

 

「事実をどう扱おうと構わないでしょう。真実は変わらないのですから」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 グリフィンドールの離れた席で眠たげに食事を摂っていたハリーとロンのそばに誰かが座った。

 

「おはよう。体調は万全か?」

 

 クルックスだった。

 三人で適当な料理をつまむ。

 そしてハリーとロンは分かったことを話した。

 

 ──五〇年前に嵌められたハグリッド。

 ──嘆きのマートルの推測まで。

 

「普通に考えるとトム・リドルが怪しく見えるな」

 

「スリザリンだし」

 

 ロンが、ぼそりと言った。

 ハリーにとっては驚くべきことだったが、クルックスは否定しなかった。

 あまりに露骨な顔をしてしまったらしい。

 

「寮とは、仮初めの色づけに過ぎない。ある程度の傾向を読み取り、あの組分け帽子は寮に配するのだろう。そう目くじらを立てるほどではないと思うが」

 

「そのうち君だって分かるさ。闇の魔法使いをバンバン卒業させた寮には、それなりの理由があるんだろうから」

 

「一理あるかもしれない。彼らと関わることがあれば楽しみにしておこう」

 

「楽しみ?」

 

「知らないことを知ることは、楽しいことだろう。さて。そんなスリザリンだが──実際のところ、いかにも怪しげだ。スリザリンの怪物。スリザリンの継承者。サラザール・スリザリンはパーセルマウス。関連付けるなというのが無理な注文だ。……だが、この件についてはマルフォイへの聞き込みで『さっぱり分からない』と議論は決着しているのだろう?」

 

「ああ、だから次はマートルのところに聞き込みにいかないと。五〇年前に開けたのが誰なのか。ヒントくらい知っていないかな? もし、顔を見ていて誰か分かれば、その子供とか孫とか、たどれるかもしれない」

 

 ハリーの言葉にロンが頷く。カボチャジュースでパンを飲み下したあとで言った。

 

「あと手がかりは、秘密の部屋じゃないか? ……どこにあるのか知らないけどさ。継承者は、わざわざ壁にメッセージを残すようなヤツなんだ。もし、秘密の部屋に出入りしていたら堂々と自分の名前を書くようなヤツだとも思わないか?」

 

 ハリーの感想は「ありうる」だった。そして秘密の部屋──内装はサッパリ分からないのでスリザリンの談話室を想像した──そこに継承者の銅像がいくつも並んでいる想像をした。そんなものがなくとも部屋には歴代の継承者の署名があってもおかしくないだろうと思った。

 

「あれば幸運。一網打尽だな」

 

 マートルのトイレに行く計画を立てていると職員テーブルでマクゴナガル先生が立ち上がった。

 ダンブルドア校長の代理として現在はマクゴナガル先生が校長代理という立場にいる。

 その彼女が決然と立ち上がったので周囲は静まりかえった。

 

「皆さんによい知らせがあります」

 

 静寂は勢いのよい喝采で破られた。

 

「──ダンブルドアが戻ってくるんですね!」

 

 どこかの寮の生徒が嬉しそうに言った。

 しかし、マクゴナガル先生は首を横に振った。

 

「──では、継承者を捕まえたんですね!」

 

 レイブンクローの女子生徒が声をあげた。

 また、マクゴナガル先生は首を横に振った。

 

「──クィディッチが再開するのですね!?」

 

 これはグリフィンドールのウッドが諸手を挙げて喜んだ。

 

「私もダンブルドアが戻り、継承者を捕まえたあとでそのように告げたかったですよ、ウッド。本当です。──さて、残念ながら違います」

 

 再び静寂が戻った大広間を一度見回してマクゴナガル先生は告げた。

 

「スプラウト先生のお話では、とうとうマンドレイクが収穫できるとのことです。今夜、石にされた人たちを蘇生させることができるでしょう。言うまでもありませんが、そのうち誰か一人が、誰に襲われたのか話してくれるかもしれません。私は、この恐ろしい一年が、犯人逮捕で終わりを迎えることができるのではないかと期待しています」

 

 爆発的な歓声が起こった。

 唯一、面白くなさそうにしているのはスリザリン寮のマルフォイを筆頭とするいくつかのグループだけだった。

 

 ハリーはマルフォイを見てしまう目をなんとか動かし、できるだけ背伸びしてスリザリン寮を見回した。

 何名かは明らかにホッとした顔をしている。

 

 そのなかで妙な顔をしている者がいた。──セラフィ・ナイトだ。

 

 目が合ってしまった。

 宝石のような琥珀色の瞳が、明確に震えた。彼女は素早く席を立った。

 

「ハント、ナイトが来るよ」

 

「む? 何だろうな」

 

 クルックスはパンをいくつかつかむと無造作にポケットに入れた。

 ハンドサインを出して彼らはそれぞれに大広間を出て行った。

 

「ロン、行こう」

 

 反射的にハリーは言った。

 

「えぇっ」

 

 ちょうどオートミールをお代わりしたあとだったが、ロンはしぶしぶ立ち上がった。

 大広間を出て最初の廊下を曲がったところで彼らが話し込んでいるのを見た。

 

 ──例の、聖杯の件だ。

 ──お父様の? ……それが今、何の関係がある。

 ──コッペリア様がお求めの品をマルフォイが持っていたらしい。

 ──君と外出した時に? ええと、何だったか。聖杯探索のおりに……?

 ──ああ。でも確証はない。僕は現物を見ていない。コッペリア様も肉眼では見ていなかったハズだ。それにマルフォイは「無い」と答えた。

 ──……分からない。君の不安は何だ? 俺に分かるよう教えてくれ。

 

 クルックスは、間が悪い時がある。

 暗号かと思える不可解な単語の羅列に困っていたハリーとロンが、まさに聞きたかったことを聞いてくれた。

 息を殺して、次にセラフィが口を開くのを待った。

 

 ──コッペリア様がお求めだったモノは、記憶を留め、その上、再生するような代物だ。そして『閉じた瞳』が正しかったとすれば、時系列が前後していたとしても本当にそこに『あった』のではないかと思えてきたんだ。僕は、うまく言えないのだが……それに、魔法界の神秘は僕たちには計り知れないから……昨日、ルシウス・マルフォイがダンブルドアの停職命令を持って現れたのは偶然なのだろうか? 過去を高度に保存する何かを彼は、いつかどこかで持っていた。それが学校に持ち込まれたとしたら……。現状の原因とは、それなのではないか? 僕は昨日からずっと考えている。

 ──一応聞くが、証拠は無いな?

 ──勘だ。

 ──記憶を保存するモノ。それを見た者に影響を与える。そんな神秘がないとは言えないだろう。

 

 ハリーは、マートルの女子トイレでロンが言ったことを思い出した。

 

『「魔法使いのソネット(十四行詩)」を読んだ人はみんな、死ぬまでバカバカしい詩の口調でしか喋れなくなったり、それにバース市の魔法使いの老人が持っていた本は、読み出すと絶対やめられないって。もう本を開いたらそれっきりさ……』

 

 これは本によって読者の行動を制限してしまう魔法がある、という証明になる。

 そして不思議な力を持ち──特に記憶を保存する──本について。

 ハリーには思い当たりがあった。

 

 ──つまり、お茶会でテルミやネフが言った『読み』は正しかった。「自分が犯人ではないことを知らないか、分からないか、忘れているのだろう」とネフは言った。そして、僕がノットから聞いた証言も正しかった。「この学校に継承者の血を引く者はいない」と。そう物理的、肉体的には存在しない。存在する必要がないのだ。その『何か』さえあれば──コッペリア様は他に何かおっしゃっていなかったか? いや、直接聞いてきた方が早いか……?

 ──そう思って僕も今朝、お伺いをしてきた。けれど今日のコッペリア様は、頭のご都合が悪い日だ。とても話せる状態ではない……。だが、思い出したよ。たしか『日記帳』とおっしゃった。

 

「あ」

 

 クルックスが思わず漏らした声。ハリーとロンも重なった。

 あまりにタイミングがぴったりだったので互いに悟ることはなかった。

 ハリーの思い当たること、それこそがまさに日記だったからだ。

 

 日記。

 

 トム・M・リドルの日記だ。

 そして、クルックスも日記の存在を知っている。しかも彼は何らかの異変を見抜いていた。

 

 ──クックッ、ハハハハッ! ……ハハハハ!

 

 耳を疑う笑い声は、どうあっても聞き間違えができない。

 クルックスのものだった。

 もし、大広間から出てくる人がいれば不審に思うほど、大きな声であり長々と続いた。

 

 ──ハハハ……! セラフィ、ありがとう。ああ、日記。黒革の日記帳。ああ、ああ、知っている、知っているぞ。クククッ、本でさえ淀むのだ。人血が、人心が、人の世が、淀まぬハズがないだろう。やはり、そうだ。淀んでいる。淀まずにはいられないのだ。ヤーナムが汚れているワケではないのだ。そうだ。お父様が……ユリエ様が……コッペリア様が……穢れているなど……そんなことは──。

 ──誓約は続いている。僕達は誰も傷つけてはいけない。

 ──死ぬ者はいない。日記は生き物ではないだろう? 何を躊躇うことがある。俺は連盟員。血塗れの同士にならい、使命を果たすまでだ。

 ──忘れ、違うことなかれ。……お父様が悲しまれる。

 

 

 二人の会話は、続いていたがハリーはロンの腕を取って大広間に戻った。

 何でもない顔でオートミールをすくいながらハリーは言った。

 

「日記だ。日記だよ、ロン。日記がどうにかして誰かを操っているんだ」

 

「でも、どうやって見つける? あれは盗まれたじゃないか、グリフィンドールの誰かに。それに……今夜にでもハーマイオニーが、戻ってくるよ。バジリスクの他に誰かを見なかったか聞けばいい。そして、名前が挙がった人の荷物を調べて日記を取り押さえる。日記を暖炉にぶち込んだら、ダンブルドアも復職して、ついでにハグリッドも帰ってくる。これで解決だ。どう?」

 

 ロンの言葉は「そうであってほしい」と思いたがっているように聞こえた。

 ハリーもできれば同意したい言葉だった。

 賛同しないハリーにロンは、声をひそめた。

 

「バジリスクはもういないんだ……たぶん。今さら継承者一人で何ができると思う?」

 

「そう、だけど」

 

 継承者が使えて、ハリー達が使えないものがある。

 その危険性について話すことはできなかった。

 クルックスが戻ってきたのだ。

 

「失礼、中座した。──ところでウィーズリー、妹はどこにいる? 今すぐ会いたいのだが、寮か?」

 

 スプーンを取り落としたロンの顔は、そばかすまで白くなった。

 クルックスがなぜ今、ジニーのことを話題に出すのか。

 ロンも気付いてしまったのだ。

 

 彼らの会話は、ハリーとロンが辿り着いた解答に迫っていた。

 だからこそ。

 ロンは、ほとんど口を動かさず曖昧に言った。

 

「……ジニー? ジニーが……ジニーが、嘘だ、何だって……?」

 

 クルックスの目は、何かに魅入られたように輝いていた。

 いつもの気怠げで薄暗い雰囲気を消し飛ばす、清々しい笑顔だった。

 

「ネフがはじめた事業は、俺が正しく引き継ごう。生徒のため、ホグワーツのため、積み上げた全てのために。だから、問おう。ジニー・ウィーズリー。先日起きた物盗りの犯人は、彼女なのだろう。問いたださねばならない。──淀む日記の持ち主は、どこにいる?」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 ロンは答えなかった。

 答えられなかったのかもしれない。

 

 どちらでもよかった。

 すでに目的は定まった。

 

 クルックスは、足早に寮を目指す。

 その矢先のことだった。

 声をかけられて振り返る。手を振りながら駆け寄ってきたのは、ルーナ・ラブグッドだった。

 

「おはよう」

 

 短い挨拶を交わした。

 

「今日の夜にでもネフは戻ってくるだろう。テストも近い。互助拝領機構が君の助けになれば幸いだ」

 

「ううん。助けにならなくてもいいんだ。友達だから嬉しいよ」

 

 ルーナ・ラブグッド。

 いつも彼女の周囲だけ時間の流れが異なるように感じられる。

 彼女のもつ不思議な雰囲気に少々調子を乱されながら、クルックスは「そうか」と言ってみた。

 

「……ネフにも伝えてくれ。喜ぶ、かも、しれないからな」

 

「ネフが石になったとき、あんたも近くにいたの?」

 

「ああ、すぐそばにいた」

 

「どうして戦ったの?」

 

 なぜ、そのことを知っているのだろうか。

 クルックスが尋ねると彼女は「あの日、図書館に一緒にいたんだ」と答えた。

 

「ネフがマダム・ピンスに『外から声がかかるまで誰も図書館から出ないように』って言ったんだ。それから、あの人はすぐに廊下に行っちゃった。戦うのが分かっていて、決まっていたみたいだった」

 

「守りたいからだ。そして、戦えるからだ」

 

「互助拝領機構を作った理由もそれなのかな?」

 

 ──この人は。

 クルックスは、初めてしっかりと彼女と目を合わせた。

 ネフライト以外のレイブンクローの生徒と関わり合いのなかった彼は、かの寮の叡智を垣間見た気分になった。

 

「……。俺にネフの動機は計り知れない。俺とは見ているものが違うのだ。だが、皆のためを思う気持ちは真実だろう。彼は……きっと、沈んだ天秤を持ち上げてしまいたいのだ」

 

「沈んだ天秤?」

 

「彼は、どうやらまともであることは、くだらないことでもあると思っているらしいからな」

 

 キョトリとした目でルーナが見返した。

 それが、あるとき緩んだ。

 

「あの人。コーラスが来たとき、まっすぐマダム・ピンスに言いに行けばよかったのに。あたしを見つけて足を止めたんだ。『君はここにいてくれ』って」

 

「…………そうか」

 

「ネフによろしく」

 

 出会ったときと同じように手を振って別れた。

 その右手を握りしめた。

 

 熱に浮かされていた頭は、いまや平熱に戻っていた。

 気分がいい。手足に力がみなぎった。

 

(ネフは、きっと認めないだろう。けれど、そうか。守りたかったのか。あの子を。だから青ざめた弾丸を使えと……。急ごう。ネフが起きるまでに日記を破壊しなければ)

 

 大広間を出る。

 目指すは、グリフィンドール寮だった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「なんでハントは、ジニーが日記を持っているなんて知っていたんだ!?」

 

「わからないよ! でも、確信しているって感じだった。……何か信じるものがあったんだろう」

 

 朝食後、生徒はすみやかに寮に戻り、教員が迎えにいくまで教科書を準備して待っていることになっている。

 当然のようにクルックスはいなかった。

 そして。

 

「ジニーがいない──!」

 

 まだ誰も気付いていないようだった。

 けれど点呼をしたら分かるだろう。時間の問題だった。

 たまらずロンがガヤガヤとうるさい談話室を抜け出した。ハリーもそれを追って飛び出したのだ。

 

 だが、二人ともどこに行ったのか分からない。

 状況を確認するように廊下を見回していると階段を昇ってきたマクゴナガル先生と出くわしてしまった。

 

「先生──」

 

「ポッター! ウィーズリー! ここで何をしているのですか」

 

 これ以上ない厳しい顔をしたマクゴナガル先生を前に二人は顔を引きつらせた。

 ロンが隣で喘ぐように息をした。ジニーのことを言うべきか、クルックスのことを言うべきか。迷っているのだとハリーには分かった。

 

「僕たち、僕たち──あの──」

 

「ハーマイオニーの様子を見にいこうと思って!」

 

「そうです! もうずっと見てないし……あの、マンドレイク薬ができることを伝えたくて……!」

 

 マクゴナガル先生は、小さく息を吐いた。それが緊張をほどいた音だと気付くのには、時間がかかった。

 

「襲われた人の友達が、辛い思いをしてきたことでしょう。ビンズ先生には私から、あなた達の欠席のことをお知らせしておきます。マダム・ポンフリーには私から許可が出たと言いなさい。……他の生徒には、バジリスクのことは伏せていますが注意し過ぎることはありません。気を付けてお行きなさい……」

 

 罰則覚悟の言い訳は、通じてしまった。

 ハリーとロンは、もつれそうになる足を動かしてその場を立ち去った。

 

「どうしよう……ハーマイオニーのところに行かなきゃいけなくなっちゃった」

 

「とりあえず行こう。それから二人のことを探そう。それからマートルのところにも……」

 

 医務室に行くとマダム・ポンフリーが渋々といった様子で中に入れてくれた。

 

「石になった人に話しかけても何にもならないでしょう」

 

 まったくもってそのとおりだった。

 ベッドに横たわる石になったハーマイオニーは冷たく、固いままだ。

 

「これからどうする?」

 

「ジニーやハントを探すなら、マントを持ってくるんだった……」

 

 ハリーは、ハーマイオニーの硬直した横顔を見つめたまま呟いた。

 その目は次第に彼女の右手に移った。何かを握りしめていた。

 

「ロン」

 

 握っていたのは紙切れだ。

 ロンがマダム・ポンフリーをいないことを確認しつつ、ハリーはそれを引っ張り出した。

 図書館の、古い本のページがちぎり取られていた。

 

 その内容を見ようとしたときだった。

 まるで計ったようにハーマイオニーのベッドとの薄い仕切りであった隣のカーテンが、小さな音を立てて開かれた。

 

「──あら? いけない子がいるわ」

 

 小柄で華奢なハッフルパフの生徒がそこにいた。

 切りそろえられた金色の髪は、病室の照明に当たるとキラキラ輝き天使の輪のようにも見えた。

 

 しかし。

 

「待っていましたわ! クルックスやセラフィのように歩き回るのは性に合わないもの。張っていて正解ね?」

 

 場違いに明るく彼女は言い、笑った。

 なぜ、マダム・ポンフリーは彼女に気付かなかったのか。

 きっとテルミ・コーラス=Bが見えなかったからだ。

 

 閉ざされたカーテンのなか、石になったネフライトの上に腰掛けた彼女が。

 

「──ご機嫌よう。ご存じ、テルミ・コーラス=ビルゲンワースですわ」

 

「ひっ!」

 

「ヒドいわ。可愛い女の子の顔を見て、怯えた顔をするなんて。ミスター・ウィーズリー、イジめたくなってしまうでしょう? あぁ、イジめられたいのなら別ですけれどね?」

 

「ここで何をしているんだ」

 

 大きな声を出してしまわないようにハリーはできるだけ感情を抑えて尋ねた。

 テルミはネフライトの着るローブのボタンを指でいじりながら答えた。

 

「クルックスに頼まれてジニー・ウィーズリーを探しているの。でも、ご存じではなさそうね?」

 

「僕らも知りたいところだよ」

 

「ええ。残念。わたしはハズレを引いちゃったみたい。もう行きますね。他を探してみます」

 

 テルミは、ネフライトの上から降りるとバイバイと手を振った。

 しかし。

 あるとき、ふと足を止めた。

 

「ジニーって可愛い子。ええ、可愛い子よね。クリスマス・カードをプレゼントしたの。小さなことを気にして可哀想な子だったけれど……最近は、ちょっと違って見えていたのに。残念ですわ」

 

「どういう意味? どこかでジニーと話したことがあった? ハッフルパフの君が……」

 

 ロンが聞いた。

 

「わたし、交友関係が広いの。それに女の子の社会ってフクザツなのよ。おさがりのローブ。中古本。継ぎ接ぎの鍋。新しい物は数えられるほどしか持っていない。あぁ、わたしは気にしませんよ。人間に大切なのは、いつも中身ですからね。けれど、普通の子は違います。とても素直で単純すぎて残酷です。他人と違うことが何でも目に付くわ。──えぇ、ハッキリ言ってしまうとジニーって集団のなかでは見劣りするのよね」

 

 テルミが述べたのは、現実の問題であり、明確な区別であり、具体的な差別だった。

 ロンは呼吸を忘れたようにテルミを見つめていた。

 目を細めた彼女は、ネフライトを一瞥した。

 

「誰が悪いという話ではないわ。誤解しないでくださいね? 悪意であげつらう人なんて、一握りです。皆、ただの好奇心で、ただの悪戯で、ただの冗談のつもりみたいですから。わたし達のネフが『バカげたヤツだ』と悪口を言われているように。最初から最後まで全部が悪いのですから、周りに期待することが間違っているのでしょう。けれど一番残酷なことは、ジニーが一番それを分かって恥じていることでしょうね。可哀想な子。だから、次に生きて会うことがあれば、たくさん優しくしてくださいね。『生きている』ってとっても楽しいことだもの。──世界が優しければ、もっと楽しいわ!」

 

 テルミは笑顔で去り、マダム・ポンフリーは彼女の存在に気付いていないように目の前の素通りを許した。

 ネフライトが横たわるベッドのカーテンを閉ざそうとしたハリーは、ネフライトの左腕に切り傷があることに気付いた。

 

 腕には、鋭い刃物の傷があった。

 

 たった今斬られたように見えるが、恐らく違う。

 触れずに観察した。血ごと石に変わってしまったのだ。

 

 傷口は語る。──秘密は地下。

 

 ハリーは、ハーマイオニーが図書からちぎった情報を開いた。

 それに全て目を通したハリーの頭のなかでは、誰かが蝋燭を付けていくような閃きが起こっていた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 ハリーが恐れていたことが起こった、そのとき。

 全てを告白するため先生方を待っていたハリーとロンは、咄嗟に飛込んだ職員室の洋服掛けにいた。

 

 彼の危惧は的中した。

 継承者が使えて、ハリー達が使えないもの。

 それは、秘密の部屋だ。

 

「──生徒が一人、連れ去られました。『秘密の部屋』そのもののなかに」

 

 ほとんどの先生が集まったとき、マクゴナガル先生が苦しげに、しかし輪郭のある声音で告げた。

 

「『スリザリンの継承者』がまた伝言を書き残しました。最初の文のすぐ下にです。『彼女の白骨は永遠に「秘密の部屋」に横たわるであろう』と」

 

「誰です? どの子ですか?」

 

 最も勇気が必要な質問は、マダム・フーチから寄せられた。

 フリットウィック先生はすでに泣き出していた。

 表情は変えていなかったが、スネイプ先生でさえ椅子の背を強く握りしめていた。

 

「ジニー・ウィーズリー」

 

 隣でロンが息を飲み込んだ。

 

「バジリスクがいなくなったとしても、このような事態が起きるようでは……全校生徒を明日、帰宅させなければなりません。我々は、ついに誰か分からなかった! ホグワーツはこれでおしまいです。あぁ、ダンブルドアはいつもおっしゃっていた……!」

 

 職員室の扉が再び開いた。

 誰もが、すわダンブルドアかと思い顔を上げたに違いない。フリットウィック先生でさえ泣き止んだ。ハリーも期待して洋服掛けの隙間から見つめた。

 

「失礼しました! ついウトウトとね! あー、何か聞き逃してしまいましたかね?」

 

 ハリーは、これ以上の憎しみのこもった沈黙を知らない。

 そろそろ殺意へ変じてしまいそうな息苦しさがあった。

 洋服掛けのなかでさえ、ピリピリと感じる。

 

 最悪のタイミングで現れたのは、ギルデロイ・ロックハートだった。




消えた少女
時系列:
 ハリー・ポッター原作小説をお読みの方であれば「おや」と思ったことでしょう。
 原作において、ハーマイオニーが石になってから森へ行くまでは数日内に行われたイベントですが、本作では(午後)石化事件(深夜)森へ突撃(翌日)本話、という過密スケジュールになっています。
「トム・リドルの日記が誰に関連するものか?」を知っているだけでショトカができてしまった例です。
 ──こんな感じでショトカができるので、さらにマンドレイクに栄養満点肥料を与える等の描写をすれば、収穫までの期間を前倒しに出来るでしょう。ぜひハリー・ポッターRTAを書く際の参考にしてください。
 え? 真の走者は図書館攻防戦で転がす? それは、まぁそうね……。


ジニーは7番目のこども:
 ビル→チャーリー→パーシー→フレッド・ジョージ→ロンときてジニー。たしかに。7番目です。
 そんな7という数字は、特別な数字だそうですね。さまざまな文化圏で7は、他とは違う数字として扱われることがあります。
 理由は諸説ありますが、個人的には天体に関連するものが7の倍数に多いから、という説を推したいところです。そうでもなきゃあちこちの文化で7が特別にならないだろうと考えたり……いいえ、いいえ。このあたりは、専門家に任せたいところです。
 さておき。
 ジニーが優秀であるという描写は、単純に才女である、というだけではなく、そうした背景もある「7」番目で特別な人間だから──という考察をどこかで見かけた覚えがあります。

 原作では7が特別という話が出てくるのは『謎のプリンス』の分霊箱に関わるところが最初だったかな、と記憶していますが、7という数字に注目すると遡ってこのように考えられるので面白いですよね。


スリザリンは怪しい:
 ヤーナムという真っ暗で右も左も分からず、ふくろう便も思わず発狂する場所から来たクルックスは、闇の魔法使いがなぜ毛嫌いされているのか、その歴史的背景に疎いです。知らないことを知る歓びは知っていますが、このことについては真面目に勉強したいような。したくないような。どうせ落ち込むことは確定しているのでせめて精神状態が良いときに学びたいものです。
……これが闇で悪ならば、ヤーナムはいったいぜんたい何だと言うのだ。……

 ところで使命を得たクルックスは、ニッコニコしています。いつもは不機嫌ではないのに「機嫌悪いの?」とネビルにビクビクしながら聞かれますが、今日ばかりはニッコニコです。やはり本に虫を感じたのは間違いではなかった! よかった!


テルミonネフライト:
 今回、仔らの大義名分はネフが言い出したことが大きな看板となりました。
……昏き人々は、正しい使命を与え教え導く医療教会を信仰するべきだということがよく分かりますね? フフフ……

 テルミがネフの上に座っているのは、近くに椅子が無かったので腰掛けただけで他意はありません。
 でも彼が起きたときに必ず目に入る場所に聖歌隊が辿り着いた真理である「宙は空にある」と書かれた手記を置くために来た理由が、待ち伏せの3割くらいを占めます。彼女なりに心配しているのです。見つけて二秒でキレる手記を準備しておこうと思うのも彼女なりの心配なのでしょう。お世話好きなので。



展開は、2年生終盤にさしかかりました。
もうちょっとだけお楽しみいただければ幸いです。

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