甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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旧市街
現在のヤーナム市街は、旧市街の上に築かれた街である。
かつて旧市街は、獣が蔓延し医療教会は炎による治療を強行した。
それは多くの民、そして狩人の心が離れるきっかけにもなった。

焼き捨てられた旧市街には夜に必ず一本の煙が立ちのぼる。
古狩人ならば、旧市街の狩人を思い出すだろうか。
誰よりも優しく、そして愚かでもあった火薬庫の残り香をまとう狩人を。




最も新しき獣狩りの夜(狩人の悪夢─市街)

 狩人の悪夢は、血で塗れている。

 その多くは医療教会の傾いた大聖堂から溢れ出たものだ。

 流れ出した血は河となり、場所によっては濁る毒ともなって時おり現れる哀れな狩人を苦しめるのだ。

 

 これは表のヤーナム、現実世界のヤーナムと変わらない。

 ──狩人の悪夢は『血の医療』の結末を明示しているのだ。

 月の香りの狩人がそう気付いたのは、狩人の悪夢に入り浸るようになってからしばらく経った頃だった。

 流れ出した血は医療教会が『医療』と称して輸血する血であり、濁る毒は病み人の身の内に起こることだ。

 

 河を越え、血だまりの聖堂を経て、やがて海に辿り着く。

 罪の源流を遡ってもヤーナムの民が、街が受けた呪いは解けることがなかった。

 結局のところ、狩人が何をしても右回りの変態──獣と変じる人々を止めることはできないのだ。

 ガスコイン神父しかり、エミーリア教区長しかり、重病者のギルバートしかり。

 

 だが、今回からは違う。

 これが最も新しく、最後の獣狩りの夜となるだろう。

 狩人の決意は硬く、殺意も同じように鋭いものだった。

 

 血の河を這いずる血舐め──やせ細った長躯で腹ばかりが肥大化した悪夢の生き物──を見かけた端から手足をもいで首を落としていく。囲まれなければ負けることはなかった。

 そして辿り着いたのは、洞窟だ。洞窟内は行き止まりだと知っている。

 彼と戦うのも何十回か、何百回ぶりだった。

 

 洞窟の入り口に立つ。

 敵には、存在が悟られただろう。

 

「貴公、デュラの仲間だろう! デュラ、旧市街のデュラだ! ガトリングのデュラだ! それから火薬庫の、たぶん友人だったんだろう。……そうだろう!」

 

 答えは無かった。

 しかし、代わりだろうか。ガトリングの掃射があり、狩人は近くの岩場に飛込んでかわした。

 

「ダメか。……まぁいい。気を取り直してやろう」

 

 体勢を立て直し、爆発金鎚の撃鉄を背に当てて起こした。

 赤々とした火が灯る。これが敵を打ち据えるとき、敵は火薬の威力を知ることになるだろう。

 

 敵。

 

 洞窟にいるのは、三人いるというデュラの仲間のうちの一人だ。

 デュラ曰く最も年若いという彼は、ある日、突然姿を消した。

 狩人が消えるのは、珍しい出来事ではない。特に我を無くした血に酔った狩人が消えるのは、ヤーナムにおいて自然の道理なのだ。

 

 ここは狩人の悪夢。

 祈りを知らぬ狩人が囚われる世界。血に酔った狩人が流れ着く、最後の世界だ。

 

「だいぶ痛いが、我慢してくれよ。……ははは。デュラさんに恨まれるだろうか」

 

 自らを奮い立たせるため、自分の太股を叩き、彼は立ち上がる。

 そして。

 

「貴公、火薬庫の男だろう! 炎と爆発に関して、きっと私より思い出すこともあるだろうなッ!」

 

 洞窟に踏みいる。

 標的を定めたガトリングが赤と白の火花を散らした。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 男は、目を覚ました。

『我に返った』という表現が適切かもしれない。

 

 旧市街の時計塔は、強い風が吹く。

 

 瞬きしたところ目が乾いて痛かった。

 どうやら瞬きもできないほど真剣に虚空を見つめていたらしい。

 

 呻きながら何度か瞬きをした。

 頭が炎と爆発で満たされる夢を見ていた気がする。

 具体的には、自分の頭蓋が叩き割られる夢だ。

 夢の感想は、数分も抱いていられなかった。

 

 ──自分は、何かすべきことがあった。

 

 喉が渇く。

 頭の奥がひどく痛む。

 

 額に手を当てていると地上が見えた。

 薄汚れた襤褸の布を被った獣が歩いている。 

 

 ああ、そうだ。

 ようやく使命を思い出した男は、ガトリングを持ち直した。

 

「デュラさんは優しいから、獣を守らないと──オレがやらないと──オレが、ちゃんとしないと──そうだ。教会の奴らが来るかもしれないし──でも大丈夫。見ててくださいよ、デュラさん! オレが、皆を守りますから!」

 

 思っていたよりも大きな声が出た。

 頭痛が気にならないほど気分が良かった。

 

 彼は気付いていなかった。

 

 存在する場所が血と毒に塗れた洞窟ではなく、明るい夜空の下であることに。

 洞窟に長く居座り過ぎた彼は、空を忘れていたのだ。




最も新しき獣狩りの夜(狩人の悪夢─市街)

旧市街の狩人:
『N年生まで』章は、ヤーナム編となります。
 さて。2話『幼年期の揺籃』に出てきた古狩人、デュラ。
『3年生まで』章では、深く関わる登場人物になります。
 筆者としては、誰が行くのかお楽しみにしていただきたいですし、テルミに性癖を殴られている人は今のうちに脳の瞳を保護していただくか邪視を得てもらいたいと思っています。


素晴らしい読者:
 1年生章までで約23万字。(約22メロス)
 2年生章までで約39万字。(約35メロス)
 たくさん書いてしまいましたが、たくさんお読みいただけて筆者はとても嬉しいです。(ジェスチャー 簡易拝謁)


次回予告:
台詞をそのまま使えるか分かりませんが、大筋はこんな話になる予定です。

【挿絵表示】

使用したサイト:SS名刺メーカー(https://sscard.monokakitools.net/)様


進捗報告について:
 進捗ノート(https://shinchoku.net/notes/64609)様を使い、だいたい一日に一回、報告しています。
 下の挿絵は、筆者がTwitterで呟いた内容を4件ほどまとめた画像です。
 こんな感じで見ることが出来ます(例)として作ってみました。

【挿絵表示】

 報告自体は、筆者のTwitter(https://twitter.com/NONOGIGInights)からも見ることができます。しかし、Bloodborneゲームのスクショや呟きは、ノノギギ騎士団(@NONOGIGInights)のプロフィールページに別アカウントページの案内があるので、そこをご覧ください。最近はエルデンリングについて(主に嘆きを)呟いています。──皆も褪せ人になって狭間の地の王になろうぜ!

『進捗ノート』にだけおいている文章や設定集等特にありません。
 進捗を追いかけるにはTwitterフォローをしていただくのが簡単だと思います。
 Twitterでは進捗報告・マシュマロのご返信、創作全般、イラストの掲載、たまにポケモンについて呟いています。
 
 たくさんのご感想ありがとうございます(ジェスチャー 交信)
 刺激になりすぎて書き溜めていた話を毎回約2,000字ほど加筆して投稿していました。ご返信が追いついていないのは本当に申し訳ないです。でも、嬉しいのでたくさんご感想いただけると筆者は幸せです。
 また、アンケートのご回答ありがとうございました。結果は真摯に受け取らせていただきます。

 それでは『3年生まで』章で会いましょう。
 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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