カインハーストに連なる者は幸いである。
人命を消費し続けるヤーナムにおいて、唯一、次代の何かを生み出す事業に参画できるのだから。
古くはトゥメル。遠くはローラン。
主を得た者は幸いである。
ホグワーツで学生の生活をはじめて、そろそろ一週間を迎えようとしていた。
クルックスはヤーナムが唯一優れているかもしれないものを見つけた。
「昇降機の時間だ」
監督生曰く、ホグワーツには一四二もの階段があるという。
人力で駆け上がりながらクルックスは「ぐぅ」と唸っていた。疲労は苦ではないが、毎度の移動がこれでは辟易するものだ。方向音痴のテルミは目も当てられない事態になってはいないだろうか。クルックスは彼女の厄介な性質がすこしだけ心配だ。
階段にもさまざまある。動く階段など可愛いもので狭く震える階段や特定の曜日には違うところに繋がる階段だ。なぜこんな物の存在を許しているのかクルックスは理解ができそうにない。罠にしては幼稚なのできっと心身を鍛えるための訓練なのだと思うことにしているが、真実はどのようなものだろう。
なぜ存在を許しているのか分からないものと言えば、もうひとつある。
ピーブズというポルターガイストも謎だった。
ヤツが手を出して来た瞬間にクルックスの銃は火を噴くことになるだろう。うるさい存在というものはそれだけで目障りであり、存在の価値がない。けれど周囲を見れば皆迷惑そうにするものの、死を願うほどに煩わしいと思っているのは、自分だけのようだ。こればかりは己の神経質な性質が災いしているのかもしれない。
「──ねえ、クルックス。あなた、変身術の授業で燐寸棒が何に変わったの?」
授業を終えた後、クルックスに話しかけてきたのはハーマイオニー・グレンジャーだった。
「小さいナイフだ」
正確には遺跡鼠の削られた骨だが、似たようなものだった。
「針仕事は家人の仕事だったせいでどうにも見慣れない。だが、君は素晴らしい。針に変えただろう。先生が褒めていたな」
「想像力の問題よ。慣れたらすぐにできるようになるわ」
「そうか。……観察力のなさを露呈してしまった。恥ずべきことである」
「あ、ほらまた」
「む」
生活をしていて、気付いたことはもう一つあった。
クルックスの話し方は、たいそう気難しそうに聞こえるらしい。ハーマイオニーがそう言っていた。
実際、指摘は正しいのだろう。礼節は保っているが、愛想がないためクルックスにはまだ友人らしい友人がいなかった。
ハーマイオニー・グレンジャーは、子供っぽく見えて仕方ない同期の生徒たちのなかで、すこしだけ背伸びした大人っぽさがあった。しかし、クルックスとある程度の話ができるということは彼女もまた周囲から浮いている生徒であることを意味する。クルックスは彼女に誰か友人らしい友人ができればよいのに、と思わずにはいられなかった。彼女は、とても良い人なのだ。
クルックスは、言葉の扱いが上手ではない。
それはヤーナムにいた当時から分かりきっていたことだった。だが、問題にならなかったのはひとえに連盟の中であれ、ビルゲンワースの学徒達であれ、彼の話すべき相手が常に年上だったからだ。連盟の長の命令は、整然として常に命を懸けるに値するものであったし、学徒達の論理は常に明朗さを愛するものだった。1+1が2であるような、因果が明白である事実を話すことはできるのだが、それ以外の情緒を介する話となると難しい。「今日はいい天気だね」と言う挨拶であっても対応に窮する。自分に言葉をかけるのと同義である『きょうだい』達との会話とは勝手が違う。適切な対応は、とても難しい。
そんな言葉の環境から排出された人員が、同じ年代の少年少女達と話せるかと言えば無理だった。
価値観の違いも相互理解を難しくしていた。
『きょうだい』で最もホグワーツに馴染んでいるのはテルミだ。怪物的コミュニケーション力。彼女は数日のうちに同年代から上級生、果ては先生まで怯むことなく話すことができるようになっていた。意思疎通と状況判断能力は比べることが間違っている程度に卓越している。さすがは父たる狩人から最も遠き仔だ。彼が長い夜のなかで失い続け、ついぞ持ち得なかった可能性の塊だ。
「グレンジャー。気にかけてくれてありがとう」
「あら。孤立しているって自覚はあったのね?」
『魔法薬学』の初授業に向かいながら、クルックスは頷く。
「俺は、別に、鈍いワケではない。ただ、どうすればよいのか分からないことが多いから。また、近くに同じ年の子供がいなかった。田舎から出てきたせいで共通の話題もない。話すキッカケがないと仲良くなることも難しい……ということを知りつつある」
「何だっていいでしょう。用事が無ければ話しかけちゃいけないなんてことないもの。……授業中以外はね」
「むぅ。それができるなら苦労していない」
「でも、最近話している人がいるじゃない。レイブンクローの」
「……彼は、何というか、違うのだ」
ハーマイオニーが言うレイブンクローの生徒とは、ネフライト・メンシスのことだった。
彼の孤立具合とは、クルックスの比ではなかった。こちらも誰かと比べることが間違っている程に図抜けていた。
四寮のなかで最も変わり者が多いと言われているらしいレイブンクロー寮であるが、この数日で『十年の奇人変人を過去にする』とまでに言われた今年の新入生とは誰であろう、ネフライトのことであった。
帽子が長く悩んだ生徒というだけで──もちろん、ハリー・ポッターほどではないが──注目を集めた彼は、話しかける人々の事情を一切考慮しなかった。
クルックスは生徒達との適切な距離と対応に四苦八苦しているが、ネフライトは交渉しないという対応策で問題を問題として取り扱わないことにしたらしい。
彼は読書中と授業中以外は何かをしきりに呟いており、挨拶程度の意思疎通も同じ枝葉の存在であるクルックスらを除いて成立しない状態にある。
また、クルックスだけが知っていることであるが、今後、彼の孤立は深まる予定である。「入学後の一週間はメンシスの檻を被るのを控える」という彼の事前の言葉が確かであり、予定の変更が無ければ、あと数日で生活に支障がない程度に彼は檻中生活をすることになるだろう。
その後、彼と進んで関わりを持とうとする人物がいるかどうか。──彼には悪いが正直なところ、クルックスはかなり興味がある。
ハーマイオニーは、クルックスと話しているネフライトのことを話題に出したものの、ポジティブなことが話せないことに気付いてしまったようだ。彼女の目は宙を泳いでいる。
「何と言うか、彼は、その、とにかく本物だわ」
「ハッキリ言っていいぞ。気狂いだと」
「失礼なことを言うのね」
「一般的にそのような状態であることを理解しているから言うのだ」
大真面目にクルックスは言った。
無論、クルックスはネフライトの奇行が最適化された思考の産物だと知っている。彼から、廊下でのすれ違いざまに分厚い羊皮紙の束を渡されているので知っているのだ。彼から「誤字の有無を確認してほしい」と頼まれて読み込むそれは、父に渡すための資料だった。
彼は医学に始まり、薬学を食み、空を見上げ星を読み、獣の病を解する新しい思索を求めているようだ。彼ほど勉学に向いていないクルックスはナイフを片手に彼の書き損じを訂正することで試みに協力することにしている。
「彼は放っておいたほうがいい。……万が一、話しかけられたら優しくしてほしいが」
「ふたりは友達なの?」
「違うが……」
正しくは『きょうだい』なのだが、ややこしい話なので話すことを避けた。
「ところで。魔法薬学の先生は、スネイプ先生と聞いた。スリザリンの寮監だろう? なぜグリフィンドールとスリザリンは仲が悪いのだろうな」
「自分の実力を重視するグリフィンドールと他人の力でも何でも使ってやろうと考えるスリザリンの考え方が合わないんでしょう」
「はあ。伝統というものかな?」
「あなたはスリザリンの女の子とよく話しているじゃない。価値観の違いがよく感じられると思うけど、どうなの?」
「セラフィのことか? か、価値観……?」
セラフィ・ナイトの価値観と言えば「貴公、我らが女王様のために死にたまえよ」に結実する。その言葉の直後に必殺の『落葉』──刀と短刀に分離する仕込み刀──が振るわれるのだから、交渉の余地がないことで狩人とも意見の一致を得ていた。
テルミ曰く「お父様に最も近しい」とのことだが、それは技量に限った話だとクルックスは考えている。狩人が長い夜のどこかに置いてきてしまった帰属意識を過剰に持ち合わせる彼女は、とうてい一般通行スリザリン生徒の模範にはなり得ないだろう。
そんなセラフィであるが──意外なことに!──友人が何人かできていた。彼女曰くスリザリン特有の団結意識だと言う。けれど「上級生の男子生徒何人かは腹に何か抱えているぞ」とクルックスは見抜いている。彼女と話す時、鼻の下を伸ばす輩がいるのを彼は見抜いていた。
「…………」
音も無く、彼は小さく息を吐き出した。
狩人は、しばしば仔に聞こえていないと思い込んで人形に「俺、赤ちゃんだし……」と言うが、今はクルックスも同じ気分だ。対人戦闘なら悪夢の辺境で身に覚えがあるが、対人関係はよく分からない。──俺も赤ちゃんだし。
クルックスは、半目で地下牢へ入った。時間を確認するとすこし早く到着できたようだ。生徒の姿は、まばらだった。
「生活に慣れれば、きっと大丈夫よ」
「だといいがな」
「あぁ、『魔法薬学』……心配だわ。教科書を暗記した程度で足りるといいんだけど」
「だといいな」
「あなたは……ちょっと気になっていたんだけど、あまり良い成績を残すことに興味がないのね?」
「そう見えるか。好奇心が先走っているのは自覚している。落ちこぼれない程度に頑張る予定だ。期待してくれてもよい」
ハーマイオニーは、小さく笑った。
それは、気の抜けた年相応の女の子の笑みだった。
「…………」
クルックスは、それを見ていた。
「なに?」
「いや、別に……」
クルックスが連盟に名を連ねる理由は、単純だ。
いつか獣も虫もいなくなったヤーナムが見たい。ヤーナムで暮らす人々を見たい。そんな未来が来ることを願ってやまない。父が獣狩りの夜を終わらせたように、いつかは人々の獣性は止み、虫のいない時代が来るのだ。そう信じたい。
だから、ハーマイオニーの微笑に幻視を重ねた。
来たるべき普通の時代に普通の人間が浮かべる微笑とは、果たして、このようなものだろうか。
クルックスは「むぅ」と唸ってから、口を曲げるような笑みを浮かべた。困った時の癖だった。
「互助の精神とは素晴らしいものだと……考えていただけだ」
連盟の長、ヴァルトールは正しい。
人間は弱い。だからこそ、目標を同じくする同士だけは協力し合うべきなのだ。そうだ。「よく分からない」など泣き言で幼児退行している場合ではない。遥か遠方、血塗れの同士に報いるため、クルックスは教科書を開き授業に備えることにした。
■ ■ ■
『魔法薬学』の授業を担当するのは、スリザリンの寮監、名をセブルス・スネイプと言った。
スネイプの目は、ヤーナムによくある目の種類であった。鬱屈と不満が色濃い。あれは純粋なストレスであろう。生きていて楽しいのだろうか。そして見ていて心配になる顔色だった。
出欠確認に応対しながらクルックスは、彼の目をよく見ていた。見ていて楽しい目ではないが、蕩けているより何倍もマシなので見ているのは苦ではなかった。もっとも、すぐに逸らされてしまった。
さて、そんな鬱屈したストレスをちらつかせるスネイプ先生であるが、彼はハリー・ポッターに並々ならぬ執着心があるようだった。
出欠確認時に「我らが新しいスター!」と言った際には教室、主にスリザリン席から冷やかし笑いが起きた。この点でクルックスは「ヤーナムではあるまいに。気になる言い方をする先生だな」と思った。決定的だったのは、その後、突然ハリーの名前を呼んだかと思うと執拗な質問を浴びせたことだった。呆れを通り越して「何だコイツは」という感想が発生したのも当然の帰結であった。
その後、彼は口答えしたハリーに対し「無礼な態度でグリフィンドールは一点減点」と言った時は「ひょっとして、これが噂に聞く糞袋野郎なのでは?」と新発見を見出そうとしていた。
授業は、まあまあ、面白かった。というのも杖を振るとか想像力を働かせるといった類の授業ではなかったからだ。
──干イラクサを計り、蛇の牙を砕き、角ナメクジを茹でる。
ほとんどハーマイオニーと共同作成をしていたが、ナメクジには殺意が湧いてしまうのでそれらを茹でる作業だけはハーマイオニーにやってもらった。ナメクジ。その存在だけで、もう、うんざりじゃあないか。頭の中に住み着いた連盟の長の声が聞こえてくるようだ。
「あなたでもダメなものがあるのね」
「まあ、そうらしい。これから頑張って慣れるようにする……たぶん」
今は殺す以外の対応ができないので仕方がない。クルックスは頷いた。
そろそろ完成だろうかと思える頃。事件は発生した。
ネビルが、鍋を溶かしたのだ。
おできを治す薬が石の床を伝わって広がり、近くにいた生徒の靴に焼けこげ跡を作った。穏やかな効能ではない成果物ということは一目で分かった。
ハーマイオニーは素早く椅子の上に避難したが、クルックスは伝わって来た液体を指で掬いあげた。
「バカ者!」
スネイプがネビルを怒鳴りつけた。杖を一振りして、あちこちにこぼれた薬を取り除いている。医務室へ行くように指示するかたわら、椅子から降りたハーマイオニーがクルックスの腕を掴んだ。
「クルックス! 何しているの! あなたも医務室へ──」
「うん、ああ、そのうちな」
クルックスは、おざなりな返事をして指先を見ていた。
溶液が触れたところには、赤い水ぶくれができている。力を入れるとブチと皮膚が割れる音が内側に響いて潰れた。溶液を舐めてみる。舌には痺れる感覚があり、間もなく舌の上に同じような水ぶくれができる感覚があった。味は酸味が強い。口に入れた瞬間、わずかにイラクサらしい植物の香りを感じた。
怪我をする機会がなかったので試していなかったが、これはこれで良い機会だろう。
ヤーナムの外でも輸血液で体の外傷がきちんと治るか試してみたかったのだ。
スネイプ先生がハリーに言いがかりをつけ、グリフィンドールからさらに減点した。クルックスは、ヤーナムの罵詈雑言を思い出す。いよいよ笑えて来た。
(あの男、精神不安定だな。いや、逆に安定しているのか)
そのドタバタの最中、ローブの衣嚢から注射器を出すと太腿に刺した。そして液体を押し込む。
傷跡が熱く疼く感覚があり、水ぶくれは治った。舌の違和感も消えている。血の医療はヤーナム外であっても、まったく問題は無いようだ。では『青い秘薬』などはどうだろうか。ヤーナムと同じ効果を発揮するだろうか。
「授業が終わったら、医務室に行ったほうが良いわよ。でも、見るからに失敗している薬をどうして舐めたりしたの?」
「気になることには手を出さずにいられない性質なのだ。ところで、何か宿題を出されたような?」
「え、ええ──」
課題を手帳に走り書きしていると出入口でセラフィと出くわした。
「クルックス、これからの予定は空いているかな?」
何人かのスリザリン生徒が『グリフィンドールの奴らと話すなんて!』という顔をしているのを見た。
逆も然り。伝統とは、実に厄介なものだと思う。
「寮に戻ってから図書館に行く予定だ。ネフの用事がある。何か?」
「それは幸いだ。後ほど僕らも行くだろう」
「構わないだろうが……」
とはいえ「僕ら」とは気になる。
スリザリンの誰かだろうか。
「仲がいいのね。安心したわ」
全ての荷物を片付けたハーマイオニーが大量の本を鞄のなかにパンパンに入れてやって来た。
「……彼女は、何というか、違うのだ」
うまい言い訳が思いつかず、セラフィは友達に分類された。
■ ■ ■
グリフィンドール寮は、とある肖像画の裏にある穴から這い上がった先にある。
螺旋階段のてっぺんには、天蓋つきベッドが五つある。そのうちひとつがクルックスの寝所であり、荷物置き場になっていた。
談話室の自分の荷物の中、ネフライトから預かっている羊皮紙の枚数を数えて全て目を通したことを確認すると寮を出た。
(俺は鞄を買ったほうが良いな。……狩りの間、荷物は全て衣嚢に突っ込めば良いと思っていたが、集団生活だとすこし困る)
せめて書類を入れることができる程度の鞄が必要だ。
衣嚢に突っ込んでいても良いのだが、学用品と狩りの道具が同じ衣嚢にあることにクルックスは耐え難い思いがした。ここでも神経質な性質が災いしている。日常と非日常が交わることが、どうにも慣れない。
この悩みを父たる狩人は解さないだろう。首を傾げられるかもしれない。けれど、とにかく嫌なのだ。
本ならば手に持っていればいい。けれど裸の羊皮紙をテスト期間でもない時期に、しかも大量に持ち歩くのは、見咎められはされないものの怪訝な顔をされることがある。その煩わしい目からも逃れたい。
放課後の廊下を歩きながら、クルックスは思い出すことがあった。
『──狩人にとって重要な性質とは、何だと思うかね』
ある時。
連盟の長、ヴァルトールが唐突に投げかけた問いにクルックスは自分でも平凡だと思う回答をした。
『冷静であること。迷わないこと。つまり、その場に応じた適切な対応ができることだと思います』
長の反応は、いまいちだった。
恐らく、クルックスの回答は四〇点以下だった。
『俺は「鈍感であること」だと思う。知らないことを知らないまま、気付かぬことに気付かぬように。狩人こそ、この性質を持ち合わせることが大切なのではないかと』
これは啓蒙のことをおっしゃっているのか。
それとも、連盟員以外には見えない虫のことを指すのか。
あるいは、脳に瞳を得る意味を重ねたものなのか。
クルックスは聞き返すことができなかった。たった今「鈍感であれ」と言われたばかりだ。言葉の先回りをすべきではないと思ってしまったのだ。
『心がけます』
『過ぎれば、ただの愚か者だが』
バケツを逆さにしたような鉄兜の下、彼と目があったような気がした。
(やはり……)
この人は狩人がもたらしている二〇〇年の安寧を知っているのではないか。そんな予感がクルックスに訪れたが、気付かないフリをした。理由は、分からない。分からないままでよいと思っている。つまりは、こういう気付きのことを彼は言っているのだろう。納得を得て、クルックスは頷いた。
『長、貴方の言葉をよく覚えておきます』
左腕を曲げ、簡易な礼をとりクルックスは彼に敬意を示した。
この時から、クルックスは考え続けている。
神経質な性質は、きっと過ぎれば毒なのだ。ハーマイオニーの「生活に慣れれば、きっと大丈夫よ」という言葉を信じたい。
クルックスは人の気配の少ない廊下を歩き、やっと図書館に着いた。
司書のイルマ・ピンスは、マクゴナガル先生とは異なる厳格性を持ち合わせる人物のようだった。具体的に言えば、人間に対し手厳しい人物であり、本に優しい図書室司書であるようだった。
本の山からネフライトを探さなければならないかと思っていたが、ちょうどよいことに彼がピンス司書と話している場面に出くわした。しかし、ロクな成果を得られぬうちに会話が終了してしまった
どうしたことかとネフライトに聞けば「彼女は生徒に対し、協力的ではない」と呆れる返事をした。
「ホグワーツは獣性が高い」
「そういう真実めいたことを言うのはやめないか。俺のような低啓蒙なヤツは、それを真実だと思ってしまうんだ」
本日、めでたくない糞袋野郎一号予定者を見つけてしまったクルックスは言った。
鼻を鳴らしたネフライトが、ピンス女史の背中を睨んだ。
「嗚呼、お父様は嘆かれる。ヤーナムに非ずとも人は己の獣性を知らず、肥え太らせるばかり。獣になっていないだけの人でなしのなんと多いことか。彼らは、偶然にここが狂気と月に溢れていないから、獣になっていないだけなのだ。ヤーナムよりすこしばかり可愛い疑心と嘲笑が満ちている。思考の次元を高める方法を彼らは知らないか、忘れているか、失くしてしまったのだ。失伝。──恥知らず。嘆かわしいことだ」
「そ、そこまで感じていないが……」
ネフライトは極端な物言いをすることがある。そして、彼の受ける印象の多くは、奇行で人を寄せ付けない彼自身の性質が災いしていると思う。あとはレイブンクロー寮の特色だろうか。
ネフライトは、世界で最も不幸な者は自分だと言いたげに嘆き、頭を振った。
若干の被害妄想こそ見受けられたが、眼鏡の硝子の向こう、彼の涼し気な緑色の瞳に浮かぶ憂いは本物だ。
「本当に嘆かわしいことだよ。ヤーナムの解放は遠い。思考の次元が低すぎるのだ。この事態は予想外。魔法族は幸運だ。魔法と言う神秘にまみえたのだから。けれど、肉体が頑強でありながら、いや、であるからこそ? 精神が幼い。あぁ、ここは狭窄症的思想者の巣窟だ。ミコラーシュ主宰が瞳を得るほうが早いかもしれない。いいえ、絶対、早いぞ」
「主宰のことは知らないが……幼い……うーん? ここの人々こそ年相応なんだと思うが……」
図書室の奥の奥、埃ひとつ落ちていないが人の気配が遠い場所でクルックスとネフライトはひそひそと会話を交わした。
クルックスは衣嚢に突っ込んだ羊皮紙を取り出した。
「そうそう。君の資料を見終わったので渡しに来たのだ。問題無いと思う。お父様への提出はいつを予定しているんだ?」
「これから毎週だ。授業の程度が分かったので、今後、文量が倍増する予定だ。査読の時間を確保したまえ」
「……ぉ、おう……。というか、貴公、授業を聞いているのか?」
ネフライトの授業態度は薬草学で見かけた程度だが、いつも視線を右斜め上に飛ばしており、辛うじて作業をしている状態だった。彼は傍目において「夢遊病患者です」と紹介されたほうが、納得できる所作が多い。しかし。
「聞いているとも。我らは生粋の狩人であるが、今は学徒。学業こそが本分だろう。──貴公、燐寸棒は針に変えたか?」
「ナイフに変わった」
正確にはネズミの骨だが、絶対に言うまいとクルックスは心に決めた。
「裁縫を学びたまえ。私は数分で作業を終了させた」
「すごいな。グリフィンドールで成功したのは、ひとりだけだった」
「そうか。秀才でなくともマシな存在がいるだけで心が慰められる。今回は運が良かった。ああ、私はヤハグルで学徒の正装を繕うのが仕事のひとつであったから特に……誰か来た」
二人は手近な本棚から適当な本を引っこ抜いて読むフリをして、すぐにやめた。
現れたのは、ピンズ司書ではなくセラフィとテルミだったからだ。
「──待たせてしまったかな」
「──はぁい。みなさま、お元気かしら?」
元気いっぱいのテルミが輝くような笑みを浮かべた。
クルックスの陰に隠れながら、ネフライトは嫌な顔をした。
「元気だ。なんだテルミも一緒だったか」
「……何の用だ? 私を笑いに来たのか?」
テルミは「違いますよ」と小さなクスクス笑いをこぼして言った。
「聖歌隊はメンシス学派のことを総じて日陰の黴臭い檻頭野郎だと思っていますが、わたしは違うわ。お父様は貴方に期待なさっているもの。そうツンツンしないでね。けれど、孤立し過ぎるのは良くないわ。──ところで魔女裁判は面白い歴史よ。ぜひ調べてみることをおススメするわ。人はいつでも羊を探しているの。だから森に棲む老婆は皆、魔女になってしまったのですね」
「……同胞の言葉を無下にはできない。気に留めておこう」
ネフライトなりの誠意ある言葉だった。
テルミは、相変わらず中身の薄い笑みを浮かべていた。
「セラフィ、俺に用事があるのでは?」
「皆、ホグワーツの探索は進んでいるのかな? それを聞きたくてね。ついでに皆の進捗を確認し合うというのも良いだろうとも」
──ふむ。それは良い提案だ。
唇に人差し指を立てて、声をひそめるよう指示をする。
レディ・ファーストだ。テルミに手を差し向けると彼女は、悲しそうに眉を寄せた。
「ごめんなさい。わたし、人脈作りが忙しくてほとんど探索できていないわ。でも、学校で話せない人はほとんどいなくなったからお許しになってね?」
「貴公にしかできないことだ。まったく問題にならないことを俺が保証しよう」
クルックスの言葉にセラフィは微笑を浮かべ、ネフライトでさえ何度か頷いた。
次はセラフィだった。
「僕は森へ行ってみた。構内は授業でも歩く場所も多いから『まずは外を』と思ってね。珍しい動植物が多いようだ。そういえば、毒がある蜘蛛がいた。こんな大きなモノがね、うじゃうじゃと。丸薬を持って歩くべきだろうね」
「素晴らしい知見を得た」
クルックスは、蛇玉の謎を解くべく数か月以内には森へ入ることを決意した。
ネフライトがごそごそと羊皮紙を探しながら報告した。
「厨房らしき場所を見つけた。だが、合言葉が分からない。情報を求める。場所はここだ」
回覧された羊皮紙には、地図と絵画のスケッチが精緻に描かれていた。
クルックスとセラフィは首を横に振ったが、最後に紙を受け取ったテルミはメモを見ると目を見開いた。
「ああ、わたし知っていますよ。寮の近くなのです。果物が盛ってある器の絵の裏に隠し戸があるの。梨を優しくくすぐってくださいね」
「そうだったのか。私、夜食がどうしても食べたくなってしまって……。あぁ、私……私……狩人が真っ先に厨房を探すなんて……恥ずかしいことだな」
疑問が氷解すると共に、ネフライトはわずかに顔を赤らめた。
彼の気弱な態度を初めて見たクルックスは、慰めの言葉が思いつかなかった。
言葉に迷う彼らだったが、テルミは彼を励ますように肩を小さく叩いこうとして彼に避けられた。
「食べることは大切なことですよ、ネフ。貴方が食事に興味を持ってくれて嬉しいわ。バタービール、とっても美味しかったわ。きっと、ネフも気に入ると思いますよ」
「なるほど……ふーん……バタービール……」
「最高の発見だな。ありがとう」
クルックスは糖蜜パイをホールで食べる夢が叶いそうだと思えてきた。
さて、自分の番である。
衣嚢から羊皮紙を引っ張り出し、隣のネフライトへ渡した。
「俺は校外へ出る抜け道をいくつか。今のところ使い道はないが、いざという時には大切だろう? 手記を使者に頼んである。行けば分かるはずだ」
「素晴らしい探索」
回覧後にセラフィが呟いた。
それが他二人の意見でもあるようだった。
探索結果を報告し合うのは互いの利益になりそうだ。
クルックスは提案した。
「定期的に集まることは良いことだ。互助の精神は大切だとも。今後もこのような集会を持ちたい。諸賢、いかがか?」
「賛成だが、集会場所は狩人の夢で良いのでは?」
聞こえる限界でのひそひそ声でネフライトは言う。
四人は顔を寄せ合っている。毎度これではたまらない、という気持ちは同感であった。
「お父様は我々がヤーナム外での知見、ひいては学業に専念することを望まれているでしょう。死んだワケでもないのに夢に帰るのも……その……気が引けるというか、子供っぽくて嫌ですよね?」
「は」
クルックスは、テルミの言うことが分からなかった。
思わずセラフィを見るが彼女は悟った顔をしている。ひとりで悟っていないで解説してほしい。訴えは通じた。
「分かる。分かるぞ、テルミ。僕もカインハーストに登城しない時間が長いから。鴉羽の騎士様に顔を忘れられていないか心配になることが、ごく稀にある」
「は」
何も通じていなかったし共感の言葉ほど話題の関連性もなかったので謎は深まり、さらには別な疑問の呼び水になってしまった。今度はテルミが不可解そうな顔をしている。
「──鴉羽の? どなたですって?」
「まぁまぁ、ええと」
収拾の付かない話題になる前にクルックスは二人の間に割って入った。
「このような意見もあることだ。場所と時間は後で考えるとして一か月に一度は顔を合わせたいところだ。場所は、そうだな、授業後の空き教室とか、考えればいろいろあるだろう。諸賢も情報収集してくれ。ひとまず、今日は解散だ。解散。はいはい、さっさと行くぞ」
三人は頷いて了解を示した。
ネフライトは引き続き図書室にいるようだ。軽く手を振りながら言った。
「私は、放課後と休日は図書室にいる。用があるとは思わないが、何かあれば来ると良い。互助の精神は大切、なのだろう?」
「では、後で授業ノートを見せてくれ」
「考えておこう」
ネフライトは、同胞に対しては真心から優しい少年であった。
別れ際には、目を細めて薄く口を開いた。それが彼の微笑であることをクルックスは知っている。
■ ■ ■
毎週水曜日の夜中は、天文学の時間である。
夜中という時間帯は、ヤーナムにおけるクルックスにとって仕事時間にあたる。体調が最も上向く時間帯であった。
天文塔の外で夜風に当たることもできるこの授業を、彼は気に入っていた。
シニストラ先生による講義を受けながら、星の名前や惑星の動きについて観察を続けていく。天文学という分野において、一時間程度で分かることは、タカがしれている。そのため、継続した観察の重要性をクルックスは言外の学びで得ていた。
まこと、継続は力なりである。
そういえば、似たことを父たる狩人も言っていた。聖杯の中で、自分がいったい何をされたか理解もしないうちに死んでしまい、せっかく溜めていた血の遺志をどこかに落とした際にクルックスに放った「だから君、鎌貯金をしたまえよ」は至言である。この日より、クルックスは宵越しの血の遺志を持たなくなった。そろそろ、葬送の刃の収納場所に困るようになってきた。
今日は、天文学において何か珍しい現象を見ることができる日だという。そのため、グリフィンドールとレイブンクロー、そしてスリザリンの三寮での合同授業となっていた。雲のない静かな夜だ。火星の明るさを確認したところで授業は終了した。
生徒がぞろぞろと天文塔から出ていく間、流れを逆行する者がいた。ネフライトだった。
「シニストラ先生、お願いがあります。これから十分程度、この屋上で作業する許可をいただけませんか」
ゆっくりと丁寧な言葉でネフライトはシニストラ先生に声をかけた。
彼女は、生徒が望遠鏡の間違った収納をしていないか見守っているところだった。
「ええ、まあ、十分程度でしたら。けれど、何を?」
シニストラ先生は、三寮の生徒が狭い階段を降りる時間を考慮したのだろう。とりあえずの許可を出した。
今日は満月である。ネフライトが張り切るのも仕方が無い。
クルックスは、収納し終えた望遠鏡を担いだ。
「ハーマイオニー、先に寮に戻ったほうが良い」
「え、ちょっ……」
クルックスは、彼女の背を控えめに押し、戻ることができずに人混みへ流されていく彼女を見送った。
「今日は満月であり、交信の成功確率は欠月より比較的高いと学派において結論付けられております。──交信します」
ネフライトがガチャと音を立てて取り出したのは、メンシスの檻だった。
メンシスの檻。
それは、頭がすっぽり覆われる六角柱の檻である。だが、その正体は上位的存在と交信するための触覚であり、さらに驚くべきことに──狩人曰く「実績がある」らしい。
先生は「ワケが分からない」という顔をして檻をかぶったネフライトを見ていた。
彼は、許可を得た以上は先生に興味をなくしたらしい。
塔の上で最も月に近い場所に立ち、両手を伸ばしている。
クルックスが、ネフライトの動向を見守ることに決めたのは、成功した場合に現れる──まさか、あり得ないことだ──上位者を狩るためだ。それがたとえアメンドーズであってもホグワーツに野放しにすることはできない。同じ方針を決めたらしいセラフィも望遠鏡をゆっくりたたみながら、目を細めて様子を見ている。
そのほかに残った生徒達が失笑を隠しもしないで彼を見ている。
滑稽に見えるのだろう。
たしかに。ヤーナム民から見ても、あれは奇妙である。
「貴公ら、あれを見たことがないのか?」
セラフィが尋ねた。
相手は暗くてよく見えないが、恐らくは、スリザリンの生徒だろう。
「見たことがあるワケがないだろ。なんだい、あれ。傘立て?」
「家にある屑カゴがあんな感じだよ」
それは、上位者との交信が檻を通して行われていないことを意味する。
魔法族の一般的知識に、やはり上位者の影は見受けられないようだ。
「見たことがないのか。幸いと思うことだ。儀式とは秘匿で異常であれば、それは平常ではないのだから」
まったく同意見だ。
クルックスは、セラフィに内心で頷いた。
「──ゴース、あるいはゴスム、我らに瞳を授けたまえ。我らメンシスの徒に瞳を与えたまえ。脳に瞳を与え、獣の愚かを克させたまえ。我らの祈りが聞こえてはおられぬのですか。ああ、ゴース、あるいはゴスム──」
祈りの言葉は繰り返し続く。
はじめはゲラゲラと笑ってみていた観衆も次第に声が小さくなった。虚空に祈りを捧げ続ける生徒が、まったくの平常ではないと気付いたのだろう。ほとんどの生徒は気味悪がって足早に去った。
セラフィがちらりと視線を寄こした。成功するかどうか。気になっているのだろう。
クルックスは肩を竦めた。恐らく、失敗するだろう。
ビルゲンワースから医療教会──聖歌隊、そしてメンシス学派に至るまで、上位者との交信はクルックスの知る限り、成功していない。
最後の周回以来、父たる狩人が上位者狩りに出動したことがないとは人形が証言している。
一〇分間に渡る交信が終わった。
ネフライトが肩を落とした。どうやら成功しなかったようだ。
「戻るぞ」
クルックスの声に、ネフライトは軽く右手を挙げて振り返った。
「あとひとつ。試したい思索がある。座標跳躍的試行だが、上手くいけば新しい思索の先触れとなるだろう」
「手早く済ませてくれ」
ネフライトが右腕を伸ばし、頭上に掲げた。そして左腕を地面と水平に伸ばす。
触覚たるメンシスの檻があるため、交信のポーズとは、ただのジェスチャー以上の意味を持たない。けれど、そのポーズは、父たる狩人から授けられたポーズだ。
つまり、彼が交信しようとしている者は──。
「お父様……お父様……月の香りの狩人様……月の香りの狩人様……」
クルックスは「これだけは無理だろう」と心の底から思った。
狩人にとって満月の夜は特に忙しい。晴天ならば特にもその傾向がある。人間も獣も月光のおかげで視界は良好だ。狩人の夢でのんびりしている時分ならば交信が通じそうなものだが、今日は無理だろう。聞こえていたとしても狩りの邪魔になりそうだ。そのような考え事をしていた、その時。
交信のポーズを保っていたネフライトが、耳を抑えようとして檻を掻いた。
「あぁっ! 声、声が!? ああ、ああっ!」
彼にしては珍しい嬉しそうな声に、クルックスは目を丸くした。
「え」
クルックスは、思わず声を漏らした。そしてセラフィと顔を見合わせた。まさか成功したのだろうか。ワケが分からない顔で立ちすくむシニストラ先生は、とても健全な反応だ。
「あ! いいえ! 私はホグワーツに……! ちょっと超次元的思索のために……あ、はい……失礼しました……あの……その……では……また……血の加護のあらんことを……」
もしも、ここに非魔法族の文化に精通した者がいるとしたら『相手の間の悪い時に電話かけてしまい謝っている人』という喩えをしたかもしれない。けれど、実際にはいなかったので彼は虚空に向かってぺこぺこ頭を下げている人になった。
交信のポーズを解き、メンシスの檻を外したネフライトが振り返った。
とてもしまりのない、どうにもこらえきれなかった笑みを浮かべている。
セラフィはもちろんクルックスも、彼がこれほど喜んでいるのを見たことが無かった。
「ひひっ、ふふふ……。やはりミコラーシュ主宰は正しい。メンシスの檻の有効性は証明され、お父様の瞳は我々の存在を通してホグワーツを捕捉した」
彼は腕のなかの檻を大切そうに撫でた。
これが手持ち人形であれば、まだマシな光景であったが、これも実際には檻なので彼の事情を知らなければ、余人は奇妙な印象を抱かずにはいられないだろう。
「あなたは、いったい何をしていたのですか」
シニストラ先生が、やや怒ったように尋ねた。
熱に浮かされた顔をしているネフライトは、首を傾けた。
「シニストラ先生、夜空の瞳に見えたことが無いのですか? 宇宙に続く深淵の向こうから覗く瞳を見たことがないのですか?」
「瞳? 宙にあるものは星であり光であり熱です。何を言っているのか……」
「その通りです、先生。それらを理解するには、我々の思考の次元が低すぎるのです。だから我らには探求が必要なのです。ああ、聡明なるシニストラ先生。ご協力に感謝いたします。来週も同じようにお時間いただければ幸いと考えますが……今日のところは失礼いたします」
ネフライトはテルミを彷彿させる流暢な言葉を操り、狩人式の礼をすると星見の塔を後にした。
「おやすみなさい、先生」
クルックスとセラフィはそう言って同じように塔を後にした。
階段を下っているとセラフィが窓を見上げていた。
「本当にお父様に通じたらしい。ネフがあんなに喜ぶなんて」
「満月の夜に繋がるなんてお父様の気まぐれだろう。……それとも俺達のことを考えていたのかな」
「もっと簡単なことだ僕は思う。『呼ばれたから応えた』程度のものではないかな。お父様の耳は、よく助けを求める声を聞く」
「それこそ、まさかの話だ」
二人の姿は橙の明かりを灯す城内に吸い込まれていった。
【解説】
メンシスの檻──送信する物であり、受信する物であり、正しく伝わるように補正する物です。そして、上位者へのコンタクトに成功し、ヤーナム終末時計の針を23時59分59秒まで進めました。ゲーム内、主人公狩人が巻き込まれる獣狩り夜の直接的な引き金を弾いたと言っても過言ではないでしょう。
そんなメンシス学派の徒であるネフライトですが、彼なりの愛着をメンシス学派に抱いています。ヤーナムにおいて「獣の病をどうにかしよう!」と考えて積極的に動いている唯一(かもしれない)の組織ですから、そこに置かれた自分は父から期待されているのだと自負していることも一因です。ホグワーツを捕捉できていない狩人にコールしたのは、外への興味を持ち始めた彼が気軽に覗き込めるようにするためです。……間は悪かったようですが。
【解説2】
「シニストラ先生って誰?」となった方も多いかもしれません。
天文学の女性の先生です。原作本において女史個人の記述も少なく、また、天文学についての描写がそもそも少ないため、二次作品ではさまざま盛られている先生でもありますね。まともに描写されたのが『炎のゴブレット』にてムーディ先生(偽物)とダンスを踊っている旨の記述があった程度でしょうか。ショート・ストーリー集でも姿を見せない先生ですね。ポッターモアの方では何かあるのかしら。うーん。この辺りの検索は、また別の機会に……。
【あとがき】
自分で書いておきながら何ですが、個人的に声に出して読みたい日本語の上位にランクインしました。
「聖歌隊は、メンシス学派のことを総じて日陰の黴臭い檻頭野郎だと思っているけれど(略)」