甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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マグル学
非魔法族の文化を広く学ぶ学問。
非魔法族は、古くより魔法族の隣人である。
一人では非力なマグルは、しかし、集団的知性により複雑緻密な文明を作り出す。
とはいえ、今や魔女狩りも過去の物語。非魔法族について関心がある者は少ない。
とあるマグル学の学者は嘆いたという。
「彼らが文明を築く速度に最早我らがついていけないのだ」



授業(上)

 翌朝。

 クルックスは、浅い眠りから這い出てきた。

 自覚はなかったが眠りが浅い時の自分は、とても人相悪く、威圧的であるらしい。

 朝食の席で『カメラ小僧』といろいろな人に呼ばれているコリン・クリービーを見つけた時、その顔で寄ってしまったものなので彼の隣に座っていた二年生の友人達は「ヒッ」と息を呑んで身を強ばらせた。

 

「おはよう」

 

「わっ。ハントさんっ。僕、何もしてませんよ」

 

「ん……? いや、構わないが、食事は摂るべきだろう。俺は、写真のことで話をしたかったのだが」

 

「写真、ああ、今年も撮るんですね!」

 

「週末の予定は空いているか。早朝、湖畔に人を集める。撮影を頼みたい。お礼は……昨年は何を渡したか忘れてしまったな。そもそも渡したのだったか……? 今年は百ガリオンほど用意しておこう」

 

 あまり頭の動きが良くない今朝のクルックスは金銭感覚がヤーナム基準だった。すなわち、ガリオン金貨であろうと路傍に置く光る道標程度の認識だった。そのため、コリンの友人は目の前の皿にオートミールを吹き出し、さらに近くに座っていたロンは噎せた。

 

「そんなに、いりません……」

 

「しかし、お礼をしないというのは俺の信条に悖る。金でも物でも何か礼たりうるものはあるだろうか」

 

「それは……。あっ。そうだ。三年生はホグズミードに行くと聞きました。魔法使いの村なんだって聞きました。ハニーデュークス! お菓子の店もあるとか!」

 

「菓子が欲しいのか。ああ、甘い物はいいよな。それはブルジョア、上層または富裕層の味。分かるとも。では、百ガリオン分買ってこよう」

 

「そんなに、いりません……!」

 

「そうなのか。控えめだな。ふむ。他の三人と相談して報酬を用意する。期待してほしい」

 

 クルックスは、そう述べてすこし離れた席に座り、トーストを手に取った。

 冷たいかぼちゃジュースを一口飲んだところで糖分に思考が冒され、また鈍くなってきた。

 

「あなた、写真が好きなの?」

 

 新しい授業で使う参考書──『初学者のためのルーン文字』──を開いているハーマイオニーが朝の挨拶もそこそこに質問してきた。

 

「その『好き』が『親しむ』という意味ならば違う。慣習だ……」

 

「ひゃ、百ガリオンは?」

 

 やや喉を詰まらせながらロンが訊ねた。

 

「魔法界の金を持っていても仕方ないからな。使えるときに使っておくのがよいのだとテルミが言っていた。心ばかりのお礼だ。……断られてしまったが」

 

「どうしてそんなにお金を持っているの?」

 

 ハリーがまさにロンが聞きたくてたまらないことを訊ねた。

 

「古い財産を換金している。財産は仕事の対価。最近は交換レートが悪くはないらしい……」

 

 目を閉じながら、むにむに、と柔らかいトーストを食べる。

 寝ぼけの一歩手前にいるクルックスは、テルミが背中を突くまでやって来た彼女の存在に気付かなかった。

 ハリーやロン、ハーマイオニーにも彼女は朝の爽やかな挨拶をした。

 

「おはよう、クルックス! まあ、冴えない顔をしているわ。朝が辛いのね」

 

「ん。テルミか。気分はどうだ。昨日よりも顔色は良いようだな……」

 

「おかげさまで。貴方こそ、しゃっきりなさい。ほっぺたにパン屑が付いていますよ」

 

 テルミは、そう言ってクルックスの頬を撫でた。

 

「週末の写真の件、わたしの予定は問題ありません。ただ、ネフは例のクラブ活動がありますから彼の予定を先に埋めた方が良いでしょうね」

 

「ああ……──待て、早くないか? クラブ活動とはアレだろう。『互助拝領機構』だろう」

 

 半分ほど寝ていたクルックスの頭は、冷水を浴びせられたかのように冴えた。

 

「ええ。そうです。昨年より精力的に取り組むようですよ。もうチラシが貼ってありましたもの」

 

 テルミは『お知らせ』の心算で来たのではないだろう。

 メンシス学派の徒であるネフライトの応援をする彼女ではない。では何をしに来たのか。決まっている。釘を刺しに来たのだ。

 

「分かった。だが、案じることはないだろう。俺も手伝うことにする」

 

「ええ、お願いね」

 

 テルミは、周囲に微笑みを振りまきながら去って行った。

 彼女が去った後でハーマイオニーが顔を向けた。

 

「ねぇ、クルックス。……あの子、テルミは成長していないわよね?」

 

「そのようだな。本人は気にしていないようだが」

 

「でも、不思議よね? とっても不思議だわ。……病院には?」

 

「彼女の親族に医療者がいるが、所見はない。テルミは、人を外見で判断すべきではないという標本になるだろう。……誰にも迷惑をかけないのだ。気にしないでもらえると助かる」

 

 クルックスは、ハーマイオニーと他の二人が顔を見合わせているのをチラと見たが、彼らはそれ以上追求してくることはなかった。

 そのうちトーストを三枚ほど食べて、かぼちゃジュースを飲んでいるとスリザリンの席からセラフィがやって来た。

 

「やあ、おはよう。昨日の君は、幸運な君。遅れてきたのだね?」

 

「……ああ。すこし。すこし、な」

 

 クルックスは、列車に乗っていなかったことを伏せるため目を細めた。

 セラフィはクルックスの顔をじっくりと眺めた。

 

「む。何か」

 

「お茶会」

 

「え? 何だって? お茶会?」

 

 セラフィが、妙に湿った目をして呟いた単語をクルックスは繰り返した。

 彼女はやがて言い間違えたことに気付き、小さく手を振った。

 

「ああ、気にしないでほしい。僕は君と一緒でも気にしないのだから」

 

「そう。なんだかよく分からないが。ひとまずな……」

 

 追求したいが、周囲の目が気になってしまう。『きょうだい会議』に質問の時間があると思いたい。

 セラフィは、肩をすくめて「昨日の手記のことだ」と話題を変えた。

 

「僕は構わないよ。予定もないからね」

 

「テルミも問題ないそうだ。ネフには俺が伝える。早朝くらい時間は作れるだろう。──そうだ。君は『互助拝領機構』の一員だったな。今年はどうする?」

 

「もちろん参加するよ。ネフのお話は楽しいからね」

 

 本音かどうかクルックスには判断ができなかったが、セラフィはお世辞を使う人ではないのでこれはきっと本心なのだろう。互助拝領機構は活動の内容を知る人にとって、充実度が高い活動になっているらしい。

 セラフィが去ると入れ違いにジョージ、フレッドの双子のウィーズリーがやって来た。

 

「ヒュー、朝からお熱いな」

 

「俺は平熱です。セラフィもたぶん平熱ですよ」

 

 ジョージとフレッドは爆笑したのでクルックスは狼狽えた。

 

「おい、ジョージ。お前の冗談が通じないヤツがグリフィンドールにいたとはな」

 

「ああ、力不足を感じるぜ。去年の期末試験で努力さえしなかったらなぁ」

 

 ジョージとフレッドの漫才にグリフィンドールの席は沸いた。

 クルックスは、何がおかしかったのか分からなかったので曖昧に笑った。

 

「──ほら、マクゴナガルから頼まれた。三年生の時間割だとさ」

 

 時間割が手渡され、クルックスは眺めた。

『占い学』、これは新しい学科だ。次は『変身術』、寮監であるマクゴナガル先生の授業だ。その次は『魔法生物飼育学』、ハグリッドの授業だ。他にも『闇の魔術に対する防衛術』、『魔法薬学』、『呪文学』──見慣れた文字が並ぶ。

 

「僕たちも行ったほうがいい。『占い学』は北塔のてっぺんでやるんだ」

 

 ロンの声にグリフィンドールの三年生は時計を確認しながら椅子から腰を上げ始めた。

 

「忙しくなるな」

 

 かぼちゃジュースの瓶を置くとクルックスは時間割をローブのポケットに突っ込み、歩き出した。『占い学』の授業は北塔のてっぺんで行われる程度は知っている。

 途中、ネビルの背を叩いた。力は思いがけず強かったらしい。彼は「モッ」と喉から妙な音を出した。

 

「あ、すまない。……実は道中は俺も自信がない。急いだ方がよいだろう」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 クルックスが北塔のてっぺんに向かい階段を上ったり下りたりしている頃。

 ネフライトは『マグル学』の授業に向かっていた。クルックスへ手記を送ったので彼がグリフィンドールの談話室に戻った頃、回答に気付くだろう。

 階段を登り教室へ向かう途中、踊り場で足を止めた。

 やや視点が高くなった場所からは、新しい学科へ向かう生徒達で混雑する様子がよく見える。同じ寮のカラーを見つけて群れを作る一年生。慣れてきた二年生も久しぶりのホグワーツで感覚が鈍っているのだろう、指差しで教室の方向を確認しながら歩いて行く。教科書の束を片手に角を曲がったと思ったら、慌てて戻ってきて逆方向へ駆けていくのは三年生だ。

 いつもならば頭痛を覚えて目を逸らす場面だったが、今日ばかりは異なった。

 

「あなた、『マグル学』を取ることにしたのね」

 

「ああ。時間の許す限りだが」

 

 ネフライトは、階段を上ってやって来たハーマイオニーを見て歩き出した。

 自然と並んで歩く形になったが、彼は歩調を合わせなかった。

 

「『マグル学』ってとても面白いと思うの。でも、グリフィンドールの三年生で選ぶ人は少ないみたいね」

 

「そのようだな。多角的な視点を得るべきだと人々は知らないか、分からないか、忘れているようだ。けれど君はマグル出身だろう。マグルのことは『ご存じ』と言える」

 

「マグルのことを魔法的視点から勉強するのってとってもおもしろいと思うわ。そう思わない?」

 

「理解を武器にするという発想は知っている」

 

「……。あなたは違う動機みたいね」

 

「『占い学』よりは事実について学べそうなのでこちらを選んだ。君は『占い学』に出たんだろう。感想を聞きたい」

 

 ハーマイオニーは視線をサッと周囲に配った。誰も彼も次の授業で忙しくしているのでネフライトの発言の矛盾を聞く者は誰もいなかった。

 ネフライトの矛盾。

 それは『占い学』と『マグル学』が午前九時の同じ時間に行われる授業であるということだ。

 

「さぁ? 控え目に言えば『不確か』で、大胆に言えば『インチキ』ってところかしら」

 

 ネフライトは、今年度学校に着いてから初めて声を上げて笑い、歩調を合わせた。

『マグル学』の教室に着くと人はまばらだった。ネフライトは一番後ろの席に座ろうとしたが、ハーマイオニーが颯爽と教室の一番前の席に座ったため、前に進んだ。

 隣に座ったのは、事情がある。

 

「──先ほど踊り場にいたが、階段と廊下で君を見た。ちょうど『占い学』に向かうところだったのだろう。……ギリギリの移動時間だ。もう少し時間をズラしたほうがよいだろう」

 

「ご忠告ありがとう」

 

 大して感謝の念は感じられない。

 ネフライトも期待はおろか返事も期待していなかった。

 しかし。

 

「あなたも『時計』を持っていると思っていたわ」

 

「私は幸いなことに君ほど先生方から信用されていないのだ。……それに時間が常より進む時計ならば、もう持っている」

 

 銀の細い鎖を手繰りネフライトは常に身につけている懐中時計を開いた。手回し式の懐中時計が差す時刻は狂っている。彼は教室の壁に立つ時計を見て正確な時刻に合わせた。

 

「時間は大切なものだ。これは金の問題ではない。概ね取り返しのつかないものであるから、という意味だが。今年は君の方が授業が充実する。私の方こそ教えを請いたいものだな。ついでに『互助拝領機構』にも参加していただければ幸いだ」

 

「会員は増えたの? レイブンクローの不思議ちゃんだけだったように見えるけど」

 

「ウィーズリーの妹が参加している。なので私を含めて三人だな。だが、フリットウィック先生の支援を得られた。これまでは招待制だったが初回限定で門戸を解放し、広く参加者を募る予定だ。開催予定は最初の休日だ。……これはチラシ」

 

「ありがとう。……。カリキュラムまで作ってあるのね。フリットウィック先生は、どこまで関わっているの?」

 

「求めれば答えてくれるだろうが、今のところ助言は受けていない。私と外部講師で作成したカリキュラムだ。作るのはとても──」

 

 ネフライトは言葉を切った。

 彼が費やした作成時間は、実のところ少ない。

 なぜならば。

 

 ──クィレル先生、クラブ活動用のカリキュラムの作成をお願いします。活動は一ヶ月週二回です。昨年度の活動実績と活動理念は、こちらの資料にまとめてあります。

 ──締め切り? 先生は仕事がないのですから三日あればできるでしょう。

 ──期待していますよ、先生。

 

 そうして出来上がったものをクィレルに返却したこと三度。

 

 ──先生ならば、もっと良いものができるハズです。

 ──頑張ってください。

 ──進捗はいかがですか?

 

 問うこと四度。

 最終稿を受け取った時の彼のホッとした顔は記憶に新しい。

 よって、ネフライトはしみじみと言った。

 

「時間と労力をかけた」

 

「あ、実技もあるのね」

 

「昨年度はラブグッドが『決闘してみたいな』と言ったのでそんな機会を設けた。今年も会員からの希望があれば内容は変わるだろう。皆の興味がないものを取り上げても仕方がないからな……。ともかく、初回限定だ。最初の休日ならば宿題もさほど出ないだろう」

 

「気が向いたらね」

 

 気のない返事だが、目はしっかりとチラシに細々とした文字で書かれたカリキュラムを見つめていた。

 参加の是非は彼女の気分ではなく、いつも一緒にいる男子生徒二人の問題になるだろう。ネフライトはきっと参加しないだろうな、と算段をつけて会話を終了した。

 ちょうど先生がやって来たからだ。彼女は自分をチャリティ・バーベッジと名乗った。

 

(時計。時計ね……。そんなものなくとも、私は──)

 

 不思議な魔法道具『逆転時計』のことを思い、ネフライトは教科書を開き、目を細めた。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 時は一週間ほど遡る。

 ダイアゴン横丁にて月の香りの狩人とダンブルドアが不運にも出くわした頃。

 ネフライトは、『呪文学』の教師であり、レイブンクローの寮監であるフリットウィックと面談していた。

 内容は、恐らく三年次の授業に関してのことだろう。

 時候の挨拶を終え、生活のことへ話題が移るにあわせてネフライトの視点はフリットウィックから微妙に外れ、彼の後方にいる狩人達を見ていた。

 しかし、ハッと気を取り直したようにネフライトは目を瞬かせた。

 

「い、え、何でもありません」 

 

 先ほどまで視線の先では、父たる狩人とダンブルドアが何事か話をしていた。

 自分を呼び出したフリットウィックを放って、まさか狩人のもとに馳せ参じるワケにはいかず、見守るしかない状態だった。

 彼らは一体何の話を。どうしていつも嫌なタイミングで最悪の出来事は起きてしまうのか。そんなことを思考の端で考えたりもした。

 

「それで、ええ、お話とは?」

 

「君は今年度、全ての科目を履修する予定だね? そのことで君に注意と……誤解をしないよう話をしたいと思っているのだよ」

 

「ハァ、なるほど。注意とは?」

 

「君と同じく全科目を履修する生徒は、ホグワーツの近年を見渡しても珍しいことであるが、ないワケではなくてね。例えば、グリフィンドールのパーシー・ウィーズリー。今年度の首席の彼だが、そうした生徒の一人だ。やや遡ればバーテミウス・クラウチ。私が知るのはジュニアの方だがね。普通魔法レベルいわゆるO.W.L──学生や先生の間では広く『ふくろう』と呼ばれているものだ。それを十二『優』でパスした秀才だった。……私の知る限り、並々ならぬ努力をした結果の人々だよ」

 

「覚悟はしています。持ちうる限りの全てを傾けることでしょう」

 

「よろしい。期待するよ。さて、今年の話をしよう。そして注意の話を。全科目履修生は君の他にもう一人いる」

 

「グリフィンドールのグレンジャーですね。昨年話したので知っています」

 

「それは話が早い。新しく始まる学期から、彼女には『逆転時計』が付与されることになった」

 

「逆転時計……?」

 

 単語の意味を理解した時、ネフライトはとても驚いた。「ほう」と「ハァ」を交互に言い、明敏な頭脳から記憶を取り出していた。

 

 逆転時計。

 それは、文字のとおり時間を逆転させる代物である。厳密には『魔法の対象となる人物を過去に送る』魔法が掛けられた代物というべきだが、もし、ネフライトがクルックスに理解させるために説明する場合は『限度はあるが、時間を遡ることができる代物』と言葉を選ぶことだろう。

 存在は知っていたが、やすやすと手が出せる場所にはない。金を積んだとしても無理だろう。製造から使用まで全て魔法省が管理しているのだ。合法的に手に入れる手段とは限られている。非合法であれば、収集家が規制が始まる以前の物品を隠し持っている場合か、天才的発明家が自分で逆転時計を作ってしまった場合に限られるだろう。どちらの場合でも使用にあたっては何かが起きても起きなくとも危険な代物となりうる。

 そのため、ネフライトは入手をほとんど諦めていたものだ。それが。

 

「正直、驚きました。厳重に管理されるべき魔法の物品の一つでしょう。それを学生の手に渡すなど……よくそんなことができましたね? マクゴナガル先生はずいぶんと奔走したのではないですか」

 

「昨年度末から先週にかけて夏休みを返上するほど精力的に働いていたようだね」

 

 沈黙があった。

 ネフライトは感想を述べた後、会話が進まないことに首を傾げそうになった。

 

「どう話を切り出すか、迷っていたのだがね……学年トップの君を差し置いて二位の彼女に『逆転時計』が渡されることに、君が……気を悪くしないかと私はすこしだけ心配だったのだよ」

 

「ああ、そういうことですか。……『逆転時計』は実に魅力的です。私の手元にあれば、今年は充実した時間を過ごすことができるでしょう。しかし、便利すぎるのも考えものです。定められた時間。有限の資源のなかで人間は生きるものです。そのため『逆転時計』は私の信条的に使えない代物です。もし、選択肢があったとしてもお断りしたでしょう」

 

「要らない物としてくれるのであれば、私も安心だ。ああ、もちろん、この話は内密に。君は優れた記憶力を持っている。もし、あの学年でグレンジャーが複数いることに気付くとしたら君だろう。くれぐれも内密に」

 

「注意と誤解の話はこのことでしたか。全て承りました」

 

 会話は終了した。

 そして、二人は別れたが『逆転時計』のことは、ぐるぐると思考の外周を巡った。

 

 彼がフリットウィックに対し『逆転時計』は信条的に使えない代物であると述べた。それは真実だった。考え続けても自分の信条を曲げてまで欲しいと思う代物ではなかったが、その存在はネフライトにある種の夢を見させた。

 

(時間と空間は密接に繋がっているものだ。『逆転時計』。今ではない時間。ここではない場所。グレンジャーが持っているのは、ただの小さな時間の塊に過ぎない。だが、もっと大きなものならば、巨大なものならば、魔法族は作り出せるのかもしれない。悪夢とは異なる領域、理想の世界を)

 

 だが、往々にして夢とは叶わないから甘いものだ。

『マグル学』のはじめ。

 

「初学者となる三年生は、マグルについてまずは生活に関する授業から行います。マグルの衣食住、自然環境というところね。それから来年度の四年生はより深く専門的に取り組みます。マグルの秀でたところ、すなわち『なぜ魔法がなくとも生活できるのか』という視点から工業について広くを学びます。五年生は歴史を。これはイギリスにこだわらず人類史を俯瞰した観点からね。そして六年生は──」

 

 冴え渡る頭脳は、彼女の言葉を一語とて聞き違えることなく追っていたが、魔法界とヤーナムの格差ばかりではなく非魔法族とヤーナムにある隔絶を感じてしまい、彼の精神は次第に繊細なものに変わっていた。また、落ち込む理由は、孤立感だけではなかった。吸魂鬼の精神汚染からまだ完全に復帰できていなかったことを自覚するのは、今の彼にとって苦しいことだった。




写真撮影を行います
 クルックスの提案する写真撮影は、これで2回目となります。
 昨年より成長が見られる写真となることでしょう。──三人にとっては。
 昨年度の写真は、成長の記録として各々の私室に飾ったり仕舞い込まれたりしています。クルックスの分の写真は狩人の夢に飾られています。ネフライトとクルックスは所属団体の面々に写真を見せていませんが、テルミはピグマリオンとブラドーに見せていますし、セラフィはカインハーストの先達に見せています。今のところ問題はないそうです。今のところは。


12科目の受講
 原作では、パーシーとビルがO.W.L(ふくろう)で12ふくろうを取った、ということが語られています。(秘密の部屋)
『ホグワーツの不完全&非確実』において、逆転時計は「初めてホグワーツで使用された唯一の『逆転時計』」とされています。ということは、これまで12ふくろうを取った生徒は、通常の時間割で科目を受講していたということになります。
 たとえば「週3回開かれる授業のうち1回は別の授業と被っていて行けないが、残り2回は出席する」という形でも日々の授業の受講が認められていたのかもしれません。あるいは、O.W.L試験は日頃その科目を受講していない生徒でも受験で出来るということでしょう。その場合、受験する生徒は完全な独学となるのでかなりハードな学生生活になりそうです。
 もっとも、受講とO.W.L及びN.E.W.Tの受験は必ずしもイコールではないかもしれません。
 もし、イコールの場合、転職時に「在学中の五年前のN.E.W.Tで『魔法薬学』の優が必要だった!」という取り返しが付かないことになるかもしれませんので。
 このあたり設定が明言されていない(ハズな)ので、本作においてはそういう取り扱いなんだな、と見ていただければ幸いです。
(でもパーシーがハリーに選択科目の助言をしているときに『魔法生物飼育学』について自分の体験ではなくチャーリーの例を出しているんだよな……。将来どっちに進みたいかを話の前提としているから、おかしな話の流れではないけど……もしかして授業を取ってなかったのか……?)
 個人的にパーフェクト・パーシーを信じて全科目履修していた説を推しています。


ネフライトとクィレル先生
 容赦ないノルマを課すネフライト。それに応えるクィレル先生。クィレル先生にとって、久しぶりに使う頭の箇所なのでカリキュラム作成には戸惑いましたが、最後にはやってくれました。
 今回は話の流れ的にダイジェストとなってしまいましたが、彼らの物語については『四年生まで』章で掘り下げたいです。

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