甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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ネフライトの光画
月の香りの狩人の仔が四人映っている写真。
未来で道が違えようと夢のような日々だけは手に留めようとしたのだろう。
瞬間を切り取ったとして、時が止まるハズもないのだけど。

聖歌隊の後継と隣り合い、メンシスの檻を被る少年が映っており、薄く口を開いている。
いったい何人が気付くだろう。
それが彼の笑みなのだと。



記録写真Ⅱ

 

「大活躍だったな」

 

 ネビルは、誰が誰に話しかけたのだろうと不思議に思ってあたりを見回した。次の教室移動の群れの最後尾近くを歩いているためハリーとロン、ハーマイオニーしかいなかった。その彼らは自分たちの活躍について話している。そこでようやくクルックスから自分宛の賞賛であることに気付いた。

 

「あ、ありがとう。君は、ええと、何だかおっかないものだったね」

 

 ネビルが見たのは、逆さまのバケツを被った青い服を着ている怪人と大きな白いリボンを付けた少女だった。

 

「バケツの人は……んー、何だか威圧的だし……」

 

「バケツの人は俺の長、いいや、地元の職場の上司だ。クビと言ってきた。ここにいるハズがないのに姿を見て動揺するなど恥ずべきことだった」

 

「マグルのホラー映画かと思ったよ。仕事の上司なんだ……大変そうだね……。その後の女の子は……あの……亡くなった人? ああ、ごめん……答えなくてもいいよ……」

 

「健在だ。あの女の子は……知り合いの子供だ。……女の子と俺は、何というか、相性が良くないのだろう。大切だが……怖いのだ」

 

「大切なのに怖いなんて、そんなこともあるんだね」

 

 昨年度、人やゴーストを石にさせる怪物が校内を闊歩──怪物の正体はバジリスクという蛇なので足は無いのだが──していた時でさえ彼は一度も恐れた顔をしなかったのに、とネビルは思う。

 

「そのようだ。俺も初めて知った。もうすこし早く気付いていれば……醜態を晒さずに済んだだろう。己の未熟さは、恥ずべきことだな」

 

 そんな彼が少女に恐れを見せる理由について、ネビルはうっすらと分かったことがあった。

 恐怖とは、必ずしも強い力や恐ろしい生き物によってもたらされるものではない。失うことの恐怖。それをまね妖怪は読み取ったのではないだろうか。

 クルックスは、気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「滑稽な発想は、まだ思い浮かばない。……何か案はあるか?」

 

「バケツの人が出てきたら、また僕のばあちゃんの格好をさせればいいんじゃないかな。ばあちゃんの格好、ちょっとお笑い草だって実は分かっているんだ。あ、内緒だよ。……それから、女の子が出てきたら足元に蛇がいて驚いた顔をさせればいいと思う」

 

「いいな、それを採用したい。蛇か。心当たりがある。ヤー……俺の故郷の蛇は、基本的に四、五匹がグチャッと一体化している。毒がこれまた厄介で人を見かけると吐き出してくるんだ」

 

「なにそれこわい」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 怒濤の平日が終わると週末、最初の休日がやって来た。

 闇を溶かした真っ暗な夜は徐々に薄まり、鳥の鳴き声が夜に満ちていた静寂を破っていく。朝の気配に敏感なのは森の生き物ばかりではなかった。

 

「むぅ……」

 

 のっそり冴えない顔で談話室を起き出したクルックスは、半分ほど開いた目でズボンを履き、シャツを着て狩人服を小脇に抱え、寝室から出てきた。

 顔を洗い、腕を回しながら談話室に辿りつくと間もなくコリン・クリービーが降りてきた。カメラを首からつり下げ、両腕で三脚を抱えていた。

 

「おお……。おはよう。コリン・クリービー」

 

「おはようございます! 眠そうですね!」

 

「ああ、すこし、な」

 

 クルックスは生あくびを噛み殺し、狩人服の衣嚢を探った。眠気覚ましが必要だが、特に食べ物はない。

 

「そうだ。夏休みは楽しかったか?」

 

「ええ! 実は弟も魔法使いなんですけど杖を振りたがるのなんのって。来年の入学まで『待て』って言ってやりました」

 

「杖を振るとダメなのか?」

 

 コリンがキョトンとした目で、冴えないクルックスを見上げた。

 

「マグルの世界で未成年魔法使いは魔法を使ってはいけないことになっているんですよ」

 

「そういえばそういう話もあったか。どうにも神秘の秘匿に俺は鈍感であるらしい……」

 

「あ、家庭に大人の魔法使いがいる場合は『監督者がいる』ということで罪にならないそうです」

 

「ふむ、なるほど。しかし、未成年魔法使いが魔法を行使した場合、魔法省は把握できるのか? どうやって見つけるのだろうか」

 

「それ僕も気になってマクゴナガル先生に伺いに行ったんです。魔法省には分かるそうです。マグルの世界で魔法が使われると発見できて、先生から『もし、使ったらあなたの杖は真っ二つですよ、お気を付けなさい、ミスター・クリービー』と言われました」

 

「そうなのか」

 

 魔法界を信用するならば、ヤーナムは魔法使いの杖があったとして場所の把握はできないことになる。夏休みの最中にクィレルの教授を受け、多くの魔法を使ってみたが魔法省から警告がやって来たことはなかった。ネフライトやテルミはそれぞれの居所で魔法を使っているらしいが、彼らのもとに警告がやって来たとは聞かない。やはり、来ていないのだ。

 クルックスは、やや頭の冴えを取り戻した。

 

「そうだ。コリン、君には弟がいるんだな」

 

「はい。来年入学するんです。デニスって言うんですよ!」

 

 二人は校舎を出て数十分前より明るくなった校庭を歩いた。

 鳥の声は遠く、清々しい朝だった。

 

「『きょうだい』とはいいものだ。頼りになる。……それに温かい」

 

「そうかなぁ。悪戯ばかりのやんちゃな弟ですよ」

 

「いつかお互いを頼りにする日がくる。特別な結びつきは固く解けない。そう邪険にしないことだ。……それにしても非魔法族生まれ──世間ではマグルと言うが──その家庭から二人も魔法使いが出るとは珍しいことではないか? 先祖に誰ぞ魔法使いがいるのか。それとも突然変異なのか」

 

「突然変異がいいなぁ。『特別』ってそれだけで素敵ですから!」

 

 コリンはカメラの調節をしつつ、クルックスに先を歩かせた。

 

「クルックスさん」

 

 呼びかけに応じてクルックスは振り返る。バシャリ。明るい閃光が彼を照らした。

 

「なんだ練習か? 俺だけ撮っても仕方ないだろう」

 

「いいえ? そうとも限らないかもですね」

 

 煙に巻くような回答を問いただすことはできなかった。

 クルックス、と名を呼ばれて彼は振り返った。教会の黒服をまとったテルミがやって来た。

 

「おはよう、クルックス。ご機嫌いかが?」

 

「問題は何もない。君は?」

 

「絶好調ですよ。コリンさんもおはよう。今日はよろしくお願いしますね」

 

 朝陽に輝くテルミの笑顔に対し、コリンは小石に躓き、つんのめるように頷いた。

 

「ネフとセラフィには会ったか?」

 

「いいえ、まだ時間が早いもの。わたしと貴方の二人きり。先に一枚、写真を撮ってもらおうかしら」

 

「欲しいのか。構わないが誰に見せるんだ?」

 

「ピグマリオンよ」

 

「ピグ……? 誰だそれは」

 

「あら、お話していなかったかしら」

 

 テルミはクルックスを手招きして耳元で囁いた。

 

「お父様が飼っている医療教会の黒よ。ピグマリオン。医療教会の工房を下りた先にある捨てられた古工房で暮らしているの。貴方に友人として紹介してあげようと思いまして。顔を覚えてもらえば話も早いでしょう」

 

「写真は彼の地に親しみのない物だ。みだりに持ち運ぶことは感心しないな」

 

「ご心配なく。お父様と学徒のお二人にちゃんと話を通してから持ち出します」

 

「む……。ならば構わない。ではどこで撮るのか決めてくれ。城の壁を背にしてもよいだろう。湖でもいいな」

 

 テルミとコリンがあれこれと被写体の場所を決めている間、クルックスは樹に寄りかかり、湖の大イカが悠々と腕を湖面に叩きつける様子を見ていた。朝の心地よい静けさは眠気を誘うが、空腹は無視するのが難しくなってきた。

 

「クルックス、湖を背に撮りますよ。はい、シャンとしてくださいね」

 

「目線の違いが気になる。抱えようか?」

 

「あら」

 

 テルミは目を輝かせたが、クルックスが彼女の脇を両手で掴み上げたので「想像していたのと違います」と不服を申し出た。

 

「普通に並んで撮りましょうか」

 

「君がそれでいいなら、俺も構わない」

 

 立ち方の指導を受け、コリンが満足する結果となった頃。予定していた待ち合わせ時刻に近付いていた。

 校舎から出てくる二人の姿が見えた。

 片や左肩に負ったマントを翻し、片やローブをまといメンシスの檻を被っている。

 

「やあ、おはよう」

 

 昨年より明るい声音で挨拶をしたセラフィが、赤い長手袋に包まれた手を挙げた。

 写真について。

 彼女は自分の姿を映すものを好まないハズだが、この顔色を見るに写真に係わる良い出来事があったのかもしれない。

 ネフライトは相変わらずで挨拶はしたが、セラフィを横目に「さっさと済ませろ」と言いたげな顔をしている。

 

「諸賢、おはよう。予定通りに集合してくれて嬉しい。これよりコリン・クリービーへ助力を乞い撮影を行う。昨年の写真と比較すると成長を感じられることだろう。──ゆえに我々は写真を見る度に思い出すのだ。一年の間に得た遺志と出会いを。また、我々の健勝を認め合う機会として各々大切にすることを望む」

 

 クルックスの言葉に三人は各々深浅はあるものの頷いた。彼にはそれで十分だった。昨年と同じ並び順に立ち、コリンが指示を飛ばし三脚にカメラを置いた。

 

「皆さん、笑顔、笑顔ですよー」

 

「はい、撮りますよ。イチ、ニイ、サンっ!」

 

 フラッシュが瞬き、四人は一斉に一息吐いた。

 

「終了ですっ。僕、クィディッチの練習を見てきますねっ!」

 

「ありがとう。お礼は後ほどな」

 

 三脚を担いで大急ぎで駆けていくコリンの背中をすっかり見送った後で。

 

「昨年と今年分について彼への礼をせねばなるまい。ハニーデュークスのお菓子のリクエストを受けているが、それ以外にも何か送りたい。誰か妙案はあるか?」

 

 世間で聞こえるプレゼントの定番とは、チェスやゴブストーンセットらしい。だが、既に持っていることも考えられる。

 

「お菓子のほかに? 筆記用具は、たとえ多くあっても困らないけれど、ありきたりかしら」

 

 テルミが、提案を求めるようにネフライトとセラフィを見た。

 

「本でいいだろう。私が見繕ってもいい」

 

「僕らは彼の好みも分からないのだから謝礼としていくらか渡して、好きなものを買ってもらえばよいのではないかな」

 

「ふむ。提案を求めたが決定の仕方を決めていなかった。どうすべきか」

 

「うーん。けれど今必ず決めなければならないこともないのでしょう。写真の現象には時間がかかるとも聞いていますし、ホグズミードであれこれを品定めしてからでもよいと思います。ただ予算は決めておいた方がよいでしょう。そうですね……。十ガリオンくらいでいかが?」

 

「了解した。では、各々ホグズミードを見回って選んでくれ。俺からまとめてコリンに渡す」

 

 三人がそれぞれ返事をして、この話題は終了となった。

 パチとテルミが小さな手を叩いた。

 

「『きょうだい』会議もしましょうね。授業はいかがかしら?」

 

「俺は『占い学』と『魔法生物飼育学』を取っているが『魔法生物飼育学』でハグリッドは災難だったな。ヒッポグリフは礼を失すると怒ると言われていたのだが、お辞儀をせずに向かった愚か者がいた」

 

「誰か死んだのか?」

 

 ネフライトが妙に期待を込めていったが、彼の望む回答はできない。

 

「マルフォイがかすり傷を負った。セラフィも見ていただろう?」

 

「あれはよくない行動だった。彼が素手で立ち向かうのは準備不足だ。せめて『ガラシャの拳』を装備すべきだった」

 

「そういう問題ではないだろう……。ともかくハグリッドは災難だった。最初の授業で張り切っていた。ヒッポグリフも普通の生き物だったので俺はもう少し勉強していたかったのだが……」

 

「『数占い』は、どうなのかな?」

 

 セラフィが、唯一授業を取っているネフライトへ訊ねた。

 

「論理的なものだ。『占い学』よりは私に向いていると思う。『占い学』は……直接的に言うとインチキに見える。厄災と不吉ばかり紡ぐ予言者は、かつて餓死させられたものだが……いいや、これは英国の話ではなかったな。十六世紀のアステカ帝国だ」

 

 ネフライトの話を黙って聞いていた三人は顔を見合わせた。突然どこにあるのか分からないアステカ帝国の話は、やや突飛なものに思えた。

 

「ネフ、どうした」

 

「朝なので言葉が不足したようだ。いま私は『予言とは慎重に取り扱うべきなのだ』という例え話をしているつもりだ。予言の内容如何によって予言の紡ぎ手たる予言者が不幸に見舞われることは、歴史的に決して珍しくない。そもそも言葉にすることで事象を固定させようという試みは、その後の影響を考えると良し悪しの判定が難しいのだ。茶の葉に何かを見ても教科書で語られる以上のことを述べるべきではない。よいかな?」

 

「なるほど」

 

「本当に分かっているのか? 昨年も聞いたことだが」

 

「完っ全に理解した」

 

「ホントかな?」

 

「理解したとする。したい。茶の葉などふやけた屑以外見えたことがないからな。しかし、トレローニー先生は本当の予言者だと思う」

 

 テルミが驚きのあまりしゃっくりのような声を出し、目を丸くした。その隣ではネフライトが「ああ?」と檻のなかで妙に低い声で呻いた。

 

「クルックス、貴方、大丈夫……? どうしちゃったの……?」

 

「君、怪しい壺を買い込んだり、危ない聖杯文字とか使ったりしていないだろうな? 詐欺とかペテンとか引っかかってしまいそうで、何というか、ハッキリ言って、すごく……ヤバいぞ」

 

「な、なんだ。そんなに言うことか?」

 

 同じ授業を受けているセラフィに助け船を求める。彼女もテルミやネフライトの例に漏れず、不思議そうな顔をしていた。

 

「どうしてクルックスはそう思うのかな?」

 

「トレローニー先生は俺が夏休みの間に死に瀕したことを言い示してみせたのだ。これは予言者の力の一片ではないのか?」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

「なるほどね。僕にもそれらしい予言をしてくれたのならよかったのに」

 

 ネフライトは「ハア~」と長々溜め息を吐いた。

 呆れ果てた彼は早々に匙を投げた。

 

「テルミ、彼を説得してくれ。君の得意分野だろう」

 

「言われなくてもしますわ。あのー。あのね、クルックス、落ち着いて聞いて欲しいんだけども、トレローニー先生がヤーナムでの貴方の事情を知っているワケがないわよね? 当てずっぽうで話したことだとは思わないかしら?」

 

「では、なぜ俺に話すのか。他にも生徒はいるのに、なぜ俺だったのか」

 

「貴方がいつも暗い顔をしていて、自分に自信が無さそうで、ホラ話でも真に受けそうな真面目に見える生徒っぽいからでしょう」

 

「そうなのか?」

 

「そうなのよ。貴方と同じようなことを言われた人は、各教室で三人はいるわ。『あなたのおばあさんは元気なの?』とか『妹さんが怪我をしますよ』とか『可愛そうに! これまで大変な目にあったでしょう!』とか」

 

 クルックスは「それも聞いたぞ」と思い起こした。

 

「誰にでも死にかけた経験は──ないかもしれないわね──けれど『あわやの大惨事』と言える記憶はありそうよね? そうした誰でも一つは当てはまりそうな経験をふんわりとした表現で大袈裟に伝えるとクルックスみたいな単純な人は」

 

「た、単純?」

 

「わたしも朝なので言葉を間違えたわ。純粋な人は引っかかってしまうのね。お分かりですか?」

 

「そうだったのか……!」

 

 こうした話を聞いて素直に頷いてしまうところが、まさに彼の危うさである。それを知っているテルミとネフライトは互いにサッと視線を交わした。

 

「私は、いつだって君の頭の具合を心配している。なぜロックハートの詐術は見抜けてトレローニーのデタラメは見抜けないんだ?」

 

「『あなたは死ぬような目に何度も遭ったでしょう?』と強い口調で言われたから……勢いに圧されて……」

 

 ヤーナムの夜で培われたクルックスの警戒心はホグワーツに来る途中で落としてしまったようだ。

 ネフライトはこめかみに頭痛を覚えつつ明確に伝えた。

 

「今後、あの女の言うことは全部デタラメと思って聞いてくれ。いいかな?」

 

「で、でも半分くらいは真実かもしれないだろう……」

 

「君には脳を洗う必要があるようだ。これからの予定は? 時間があるかね。私は多忙だが時間を割こう。君のために」

 

「わ、分かった、分かった。デタラメと思う、ことにする」

 

「ホントかな?」

 

「ああ、君の心配すべきことは何もないことを証明しよう。他の授業の話を聞きたい。『マグル学』はどうか? クィレル先生がいらっしゃるから優先順位を低くしてしまったが、面白い話が聞けるのだろう」

 

 少々強引に話題を変える。

 授業を選択しているネフライトとテルミが応えてくれた。

 

「バーベッジ先生ね。とても面白いと思うわ。ヤーナムの外の歴史を学ぶのは良いことよ。彼らが積み上げてきたものが、お父様に結実したのだと考えると温かい気持ちになりますね」

 

「なるのか?」

 

「血生臭さという点では君の心が慰められるほどの歴史だ。私は温かい気持ちにはならないが……過去から学ぶことは多くある」

 

「上位者が世界の実権を握った歴史はあるのか?」

 

 クルックスは、真剣に問いかけた。

 

「ヤーナムのようなことがそうそうあってはたまらない」

 

 ネフライトは、まだクルックスの頭の具合を調べたそうにしていた。質問は慎重にしようと彼は思った。その隣でセラフィが訊ねた。

 

「では血の女王が実権を握った歴史はあるのか?」

 

「知らん。トゥメル人に聞け!」

 

 ネフライトはおざなりな回答をした。

 

「残念だ。女王様ほど慈悲深い御方はいないのだが……」

 

「慈悲というものについて見解の相違がある気がするが、確認する必要が感じないのでそっとしておこう」

 

 ンン、とクルックスは咳払いをした。

 テルミが「今の、お父様に似ていたわ」とクルックスの隣で笑った。

 

「えー。今年度最も期待できそうなのは『闇の魔術に対する防衛術』ではないかと俺は思う。ルーピン先生の授業は面白いものだった。まね妖怪は何に変身したのか聞いてもいいだろうか? 俺の八割は連盟の長だった」

 

「私は、ミコラーシュ主宰だった。『メンシス学派、解散!』と言っていた。私の主宰は絶対にそんなことを言わない。遺憾である。セラフィは?」

 

「僕は僕だよ」

 

「? それは知っているが……まね妖怪が何に変身したのか知りたいんだ」

 

「僕だよ」

 

「……もしかして、自分自身に変身したということか?」

 

 ネフライトが確認するとセラフィは「遺憾だ」と言いつつ首肯した。

 

「僕に恐怖などないけれど、乗りこえるべきは常に自分ということだね。まね妖怪が僕らをきちんと読み取れたことにも驚きだけど。テルミは?」

 

「わたしは……その、海、だったのだけど」

 

「おや。お父様ではなかったのだね。意外だ」

 

 テルミは、いじいじと指を組んだり離したり、視線が落ち着かない。

 クルックスの前に現れたまね妖怪がそうであったように、途中から変化したのだろうか。

 

「なんだ。ただの『海』だけではなかったのか。実は俺も──ん? いや待てよ……?」

 

 そもそも、まね妖怪が『海』を模倣するとはどういうことだろうか。

 クルックスが知っている、テルミが恐れた海とは『大量の水』のことだ。再現できるのだろうか。再現したとすれば、教室は海に沈んでいることまで考えられる。しかし、そんな話は聞いたことがない。するとテルミは回避したのだろう。

 

(いったいどうやって?)

 

 クルックスの疑問はそれを察したテルミが答えてくれた。

 

「どのクラスでも冒頭で先生が説明したと思うけれど、模写の対象が複数いる場合、まね妖怪の模写が失敗することがあるの、例えば」

 

 テルミが例として挙げた話は、クルックスにも聞き覚えがあった。

 二人を驚かそうとしたまね妖怪の話だ。

 首のない死体に変身すべきか、人肉を食らうナメクジに変身すべきか、悩んだまね妖怪はどちらも驚かそうとして半身ナメクジに変身してしまい、対抗呪文を使うことなく、二人の失笑を買ったことがあるらしい。

 

「わたし一人だと大海が出来てしまうでしょう。それは良くないと思って、先生に飛びついたの。そうしたら、大量の月が出てきたのです」

 

「月? あれは天体の月だったのか……? 白くて丸いから水晶かと思っていた」

 

「切れた雲間から顔を覗かせた満月でした。月が恐い人がいるなんて不思議ですね」

 

 クルックスは「そんなこともあるのか」とルーピンに興味が沸いた。彼は月に関して、恐い思いをしたことがあるのだろう。その内容を訊ねたい気持ちはある。

 ただし、真正面から聞いたとしても答えてくれないだろうと思った。

 

「ハリー・ポッターがまね妖怪と対峙した時、あれは吸魂鬼となったのだが……先生は対決を止めたな。そのあと、ポッターの追求を躱した」

 

「月のこと調べてみましょうか」

 

 どうする、とネフライトの意見を伺うと彼は檻の目を爪で掻きながら言った。

 

「急ぐものではない。それにヤーナムとは関わりのないことの可能性が高い。だからこそ、私達には心掛かりにしてしまうものなのだが……ふむ……いつもよりいっそう君が慎み深く探ってくれるのならば任せたい」

 

「ええ、素直にお話ししてくれそうな先生ではありませんからね」

 

「それもある。だが、最も私達が恐れるべきは……月への執着を他人に悟られることだ。変人の私やメンシス(月)の私ならばともかく、君まで執心していると悟られるのは、あまり良いことではない。お父様がとっくに『月の香りの狩人』と名乗っているとしてもだ」

 

「はぁい。注文が多いのですね」

 

「ついでに俺の疑問も解いてほしい。……ルーピン先生は何かペットを飼っている気がする。何だろうか」

 

「どうしてペットを飼っていると思ったの?」

 

「先日、廊下ですれ違う時に……そこはかとなく獣の匂いがした……気がする。自信がない。連盟の長の姿を見た後だったので過敏になっていただけなのかもしれない。虫の気配はなかったが……」

 

 落ち着きなく檻の目を掻いていたネフライトが指を止めた。

 彼は何かを考え込む目で虚空を見上げ、やがて首を横に振った。

 

「それは……? いや、まだ確証がないな。数ヶ月様子を見よう。──テルミ、君はルーピンに関して探らなくてよくなった。私がやる」

 

「何か分かったのなら教えて欲しいのだけど」

 

「まだ確証がない話だ。それに付随して話すべき事柄が多くある。朝から歴史の勉強をしたいか? クルックスの腹は『したくない』と言っているようだ」

 

 クルックスは腹を押さえて咄嗟に「いや、これは、違うのだ」と釈明したが、くぅ-、と音を鳴らす空腹の方が雄弁だった。

 

「あらあら。お腹が空いてしまったのね。軽食を持ってくるべきでしたわ」

 

「有益な情報交換は以上だ。私は準備があるので先に戻るよ。クルックスとセラフィ、私を手伝ってくれるのなら朝食後に『呪文学』の教室へ来てくれ」

 

「了解した」

 

「分かったよ」

 

「ネフ、わたしの名前が聞こえなかった気がしたわ」

 

「見たければ一般席に座りたまえよ」

 

「お父様にチクッてやります。メンシス学派の支部を作ろうとしていまーすって」

 

「テルミ、前々から言いたいことを敢えて言わずに留めていたんだがね。そういえば君は生まれた時から姿形が変わらないが、もう進歩をやめてしまったのか?」

 

 彼女がほんの一瞬、呼吸を止めた。

 

「……。お父様が創りたもうた完璧な肉体ですもの。お父様の許可なく成長している人に咎められる謂われは見当たらないようですけれどね」

 

「そうか。私には寵愛を失って久しいように見える。拝領を請うてみてはどうかな? 君の言葉ならば取り沙汰されることもないだろうが。では、失礼するよ。私は忙しいのだ」

 

 ネフライトはローブを翻し、去って行った。

 残された三人は珍しく抱く感情が一致した。

 

「どうしたのだろうか。ネフはイライラしているようだね。何か気に触るようなことがあったのかな」

 

 心当たりのないクルックスは「分からない」と言った。

 そして。

 

「何かしているとしたらテルミだが……本当に心当たりはないのか?」

 

「ありませんわ。わたしはヤーナムの時間のほとんどを孤児院にいましたし、ネフは隠し街のヤハグルで学派の使用人をしていたことでしょう。ヤーナムにいる時間のわたし達には、そもそも接点がないのです。考えられるとすればお父様に難しい宿題を出された、とか?」

 

「お父様絡みの悩み事ではないと思うよ」

 

 セラフィがキッパリと断言したのでクルックスは理由を訊ねた。

 

「僕の勘だ」

 

「ああ、そうか、勘か……勘なぁ……」

 

「勘で納得してくれるのは僕の先達だけかもしれない。理由を考えてみようか。……お父様は僕らに情報を伝えるために聖杯を求めるような狩人だ。不完全な情報しかない今、彼に対し特別難しい宿題を課すとは思えない。『遊んでおいで』と僕らに旅行を勧めるようなお父様だ。それに慕う夢の主からの宿題だったのならば、彼はもっと楽しげにやるだろう。……あんなに思い詰めた顔をするとは思えない。だからお父様の頼み事の線は消える。だから学派に関することではないかと思うのだが、どうかな?」

 

 消去法により導かれた結論を後押しする証拠は、特にない。

 テルミは顎に手を当てて小首を傾げた。小首を傾げる仕草にクルックスは流血鴉のことを思い出してしまい、死に至る傷を受けた胸の辺りがしくしくと痛む気がした。

 

「二大会派の一翼とはいえ、実のところ、メンシス学派のことには明るくないわ。聖歌隊の兄様や姉様は皆、小馬鹿にする時しかメンシス学派のことを話さないので……」

 

「俺も詳しくないな。まれに市街で人攫いの狩人を見かけるが、それ以外は特に……」

 

「僕も詳しくない。人攫いは『穢れ』を落とす確率が低いらしい。先達が積極的に狩っていないから僕の情報もクルックスと大差ない。カインハーストは、神秘研究には興味がないからね。手がかりがない。ちなみにネフには直接聞いてみたことは?」

 

「いいや、ヤーナムにいた時は特に聞かなかったが……。本当に悩み事があるならば誰かに相談するだろう。彼は賢い」

 

「賢いからこそ、愚かに見える僕らに相談しないのかもしれないね」

 

「……まぁ小生意気ですこと」

 

「僕も本気で思っているワケではないよ、テルミ。愛しい妹君、時間が解決することかもしれないからね。今年はネフを刺激し過ぎないことだ」

 

「はぁい。今日の勉強会に行こうかと思いましたが、精神状態があまりよくないようですからね。無用な刺激は避けるとしましょう。……本当はね、ちょっぴり楽しみにしていたの。ネフが他の生徒と関わってみようと心変わりしたのは良いことだと思うわ。あの人にとっては、ほんのすこしも楽しくない、煩わしいことでしょうに」

 

 テルミは礼儀正しく両手を体の前に重ね、シュンと肩を落とした。

 

「それがよいだろう。何かあれば俺が君やお父様に伝える。よいかな?」

 

「ええ。そうしましょう。では、先に戻っていますね。そろそろ約束の時間なの」

 

 テルミが手を振って去って行く。

 残ったクルックスとセラフィは、しばし見つめ合った。

 ここに残ると言うことは、セラフィには話したいことがあり、それは他の二人に聞かれたくない話なのだろう。

 彼女の秘密を預かっているクルックスにとって、彼女の話は自分の空腹よりも優先すべきことだった。

 

「陽が高くなってきたな。一緒に、すこし歩かないか」

 

 クルックスは、手を差し伸べた。

 セラフィは手を取らなかったが、彼の手を見つめた。

 それから静かに告げた。

 

「ありがとう」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 朝の風は水と深緑の匂いを運んでいる。

 湖の輪郭を辿るように二人は歩いた。

 湖を離れれば校庭の端にハグリッドの小屋があり、校舎に辿りつく。二人がややゆっくりと歩めば約三十分の道のりだった。

 来年もこうして歩く機会を作ろうと思う。その時は、厨房に軽食を頼もうとクルックスは考えていた。

 一歩だけ先に歩むセラフィが、ぽつりと言った。

 

「僕は、医療教会の射手に会った。話した。時計塔のマリアのことを」

 

 彼女の話す内容は、予想はできた。

 ヤーナムのとある夜、射手の居場所を話したのはクルックスだったからだ。

 

「会ったのか。それは……良かった、と言ってもいいのだろうか……」

 

 ──では俺は無駄死にではなかったのだな。

 彼は戸惑った。仕事を果たした達成感とは異なる気持ちの充足が起きたからだ。これまでの夜、あるいは聖杯のなかにおいて『死に甲斐がある』と思ったことはなかった。死んでも果たせることがあることを彼はひとつの学びとした。

 そして。

 

「君の知りたいことは、知り得たのか?」

 

「まだだ。けれど彼はマリアについて本当に知っていると思える。満月の夜、僕は一度ヤーナムに戻るつもりだ」

 

 それから彼女が語ったことは部分的に既知の事柄もあったが、未知の情報もあった。

 例えば。

 

「シモン? 本当に彼はそう名乗ったのか?」

 

「ああ、たしかに。それが何か」

 

「お父様が時々口にする古狩人の名前だ。お父様と共に狩人の悪夢を探り、そして果てた古狩人だと。医療教会の設立初期に存在した狩人でもあるらしい」

 

「古狩人のなかでも『古い』狩人ということかな。……レオー様とどちらが古いだろう?」

 

「くれぐれも質問なんてしようと思わないでくれ。レオー様なら、きっと勘付くぞ」

 

 そして彼は排除するだろう。前々回は、不意打ちを受けて後手に回った。前回は、処刑隊の横やりを受けた。そして次回があるとすれば、残酷に殺すだろう。『穢れ』の有無など関係なく、ただ、セラフィの興味を奪うために。

 クルックスの想像だったが、彼やカインハーストの先達は、セラフィのマリア探索を歓迎することはないだろう、と考えていた。

 セラフィは、好奇心に揺らいだ顔をしていたが、すぐに改めた。

 

「控える。控えるとも。でも、医療教会の設立が何年なのか分からないけれど……よほど『古い』狩人なのだろうな。だって……そうだろう?」

 

「それは、まあ、そうなるな。たぶんだが。……しかし、マリアも古い狩人だとすると『古さ』とは、どこまで遡るのだろう? まさかカインハーストとビルゲンワースが仲良くしていた時代まで遡ってしまうのか? ではシモンは、学徒であり墓暴きを経て、その後に成立した医療教会の設立時点で存在した人物ということだろうか?」

 

「医療教会の最初期の狩人は、ビルゲンワースの学徒だったと?」

 

「……分からないが、ビルゲンワースの学徒だったローレンスが興した医療教会だ。排他的なヤーナムの権威主義の医療教会で、教会設立後にひょっこりやって来た病み人が──初期とはいえ──表沙汰にしたくないことを夜に紛れてコソコソ処理する狩人に抜擢されるとは思えない」

 

「彼に聞いてみようか?」

 

 この誘いにはクルックスも心揺らいだ。

 しかし。結局は頭を振った。

 

「必要ない。君が彼に深入りする必要はないだろう。お父様の聖杯作成が上手くいけば情報は揃うのだから……。君はマリアのことだけ聞けばいい」

 

「分かった。分かっている」

 

「彼との話はそれだけか? 怪我につけ込んだとはいえ、互いに取引めいたことをしている。……彼が口を開く気にさせるために何を条件にした?」

 

 セラフィは、クルックスの数歩前で立ち止まり振り返った。

 風が彼女のマントや長い髪を揺り動かす以外に時間を感じさせるものは何もなかった。

 やがて。

 

「彼は『獣狩りの夜』を調べているようだ。僕が現れた時、月の香りがすると言った。そして『夢を見る狩人がいるということは、今夜は獣狩りの夜なのか?』と」

 

「…………」

 

 シモンがしたという、この質問にはおかしな点がいくつかある。

 まず、父たる狩人が彼と出会っていれば質問しない類いのものだ。なぜなら今や彼の探し人である『夢を見る狩人』は上位者と等しい。彼自身が現在のヤーナムの異常、繰り返す年の原因の一つなのだ。また、窶しの狩人が『夢を見る狩人』を探しているという状況に首を傾げざるをえない。彼の本来の仕事は医療教会の黒服と同じ任務をいただく予防の狩人でもある。市井に潜む獣を探し出す任を負った狩人が『夢を見る狩人』を追う理由は仕事柄存在しないハズだった。

 

「なぜだ? 死んだ時の記憶が欠けているのか? それとも、死んだ時のことを覚えている? ……もともと悪夢を探っていたような人物だから、お父様を追うのはさほどおかしなことではないのか? ──いや待てそんなことより。やっぱりお父様はシモンさんのことを把握していないんじゃないか!?」

 

「さあ? お父様も距離を測りかねているのかもしれない。悪夢を探ることは果たして彼の意志なのかな? 医療教会からの刺客ということも考えられる。なんにせよ、誰にせよ。お父様を害せるとは思えない。今は、まだ。……お父様はお忙しそうだ。悪夢の階層が何とか。だから獣の皮を被った医療教会側の彼と十分に話せていないのだろうね」

 

「それについて控えめな進言はした。もうそろそろ気付く頃だろう。獣の皮で思い出したが……セラフィ、シモンさんの身のまわりは危険だ。接触時間はできるだけ短い方がいい。気を付けてくれ」

 

「身のまわりの危険とは?」

 

「獣の皮を被った男、ブラドーがシモンさんを追っている。なぜ、とか、どうやって、とか、分からないが……」

 

「それは僥倖だ。情報を引き出したらブラドーに通報しようかな。誰かの狩りの獲物ならば、僕は喜んで譲る」

 

 ──どこにいるか知らないけれど。

 セラフィは、提案に共感を求めるようにクルックスを見た。この意見に同意は出来なかった。

 

「感心しないな。古狩人には敬意を払うべきだろう。使い捨てることを前提に付き合うものではない」

 

「いくら敬意を払ったとて相対する両者を立てることはできないのだ。ならば僕は利を取るよ。それに医療教会の人間なのだから彼も同じことを考えているだろう。最後の密会の後で教会の黒が大挙してやって来ても僕は驚かない」

 

 クルックスは、言うべき言葉をなくした。

 夏休みのビルゲンワースでレオーに問われたことがある。

 ──人間が獣になったり狩人が正気を失ったりしたら、そいつらを哀れんで殺されてやるつもりか?

 クルックスは質問の後ただちに「いいえ」と答えることができなかった。けれどセラフィは言えるのだろう。どちらが優れていて善い判断とされるのか考えたくなかった。

 そのため。

 

「いつでも決して礼を失することのないようにするべきだ」

 

 ありきたりなことを言い、柔らかに諫めることしかできなかった。

 

「君の言葉を無下にはしない。──市街の船渠跡について知っているか?」

 

「ああ、下水道に繋がる船渠だな。知っている。鼠狩りをするからな」

 

「僕は彼と一人で会うことになっている。君が同席する必要はない。……でも君だけには、会合場所を知っていてほしい」

 

「分かった。……俺からも細々したことを聞くが、カインハーストの先達には知られていないんだな?」

 

「ああ。知らない」

 

「本当に?」

 

「ああ。……どうして重ねて聞くのかな?」

 

「君はカインハーストの従僕だ。先達に問いかけられたら、君は嘘をつけないだろう。悟られていないのならばいい。今後も言動には用心することだ」

 

「ありがとう。射手を探し出せたのは君のお陰だ。いつかきちんとした礼をしたい」

 

「君の苦悩が消えるのなら、それが何よりの礼になる。俺のことは構わない。油断なく事を運ぶことだ。……もし、誰かにバレたら快く思われないだろう」

 

 セラフィは「そうだね」と同感を告げて黙った。

 満月まで、あと数日だ。

 クルックスが言えることは多くない。

 

「シモンさんと君がよい関係を築けることを願う。お父様と彼の付き合いもある……のだと思う。顔見知りの古狩人が増えることは、お父様にとって善いことだ。……うまく言えないが……」

 

「そうだね。……珍しいものには仲間がいたほうがよいだろう」

 

 彼女にしては不思議な言い回しだ。

 どうしたのかと問うと彼女は、どこかを遠くを見る目をして微笑んだ。

 

「鴉羽の騎士様が、そうおっしゃっていた。僕もそう思う。お父様にも誰か秘密を分け合える人が増えればいい。君と話すと、よくそれが感じられる。……秘密を全て抱え、独りでやり遂げるのは、とても難しい。今日は、お喋りに誘ってくれてありがとう。僕は君と話せることが、とても嬉しい」

 

 生まれてからこれまでの間、時間は等しく過ぎた。

 陽が差した。セラフィの白い肌を日差しが柔らかく照らした。

 クルックスは、今日小さな変化を見つけた。それは、道ばたに生えている草花には実は名前があり、しかもクローバーであることを初めて知った時のような、本当に小さな小さな変化だった。

 

「……君」

 

 セラフィは、よく笑うようになった。

 思えば、誰かと話す時の彼女は笑うようになっていた──気がする。

 いつの間にかセラフィは呼吸をすることと同じくらい自然に笑えるようになっていた。

 

「帰ろうか。ネフを手伝わなければ」

 

 クルックスは頷いた。

 どちらも手を差し伸べることはなかったが、並んで歩くことが何より互いの為になると感じられた。

 




プロフィールが更新されました
名前:セラフィ・ナイト
性別:女性
所属:カインハースト
一人称:僕
得意武器:レイテルパラッシュ、落葉、千景
苦手武器:教会武器全般、寄生虫
趣味:先達のお世話、生態観察、睡眠、読書
好きなもの:カインハースト、家族、果物
嫌いなもの:ぬるぬる、横暴、整理整頓
夢:優れた狩人になること/女王様を幸せにすること。

まね妖怪:乗りこえるべき自分
みぞの鏡:騎士として列せられた自分


クルックスがテルミを持つイラスト

【挿絵表示】

テルミ「……あのねぇ。ネコちゃんではないのだから……」


セラフィとクルックス
 セラフィは、クルックスにとって(損得勘定をあまり考えずに)同じ目線で話すことが出来る数少ない『きょうだい』です。セラフィもクルックスのことを親身な存在として見ています。
 テルミは『きょうだい』関係の外の話となるとすぐに人を弄ぼうとする悪癖があります。クルックスは正直なところ、このモードのテルミは話していて疲れるので苦手です。また、ネフライトも厳密な損得と賃借勘定ゆえに嫌がります。彼自身、付けいる隙を見せませんし、クルックスにも見せてほしくないからです。……どちらも本当に困っているときは、助けになってくれるのですが。

ご感想お待ちしています(交信ポーズ)


ファンアートをいただきました!
attoクロスオーバー様からファンアートをいただきました!
ありがとうございます!
テルミ「おはよう、クルックス。ご機嫌いかが?」

【挿絵表示】
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