甘き夜明けよ、来たれ   作:ノノギギ騎士団

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互助拝領機構(2年目)
機構を主宰するのは一見にして怪しげな奇才、ネフライト・メンシスである。
ヤーナムの外において聖体は、人の叡智が形を変えたものだ。
ゆえに拝領は時を超え、場所を選ばず続いている。

──学び得る。理由は、まぁ、なんでもよい。
──いくら得ても足りはせず、満ちることはない。
──「それでも」を唱え続けた今。
──全ては貴公の糧となり、貴公は私の糧となる。
──知識とは、まったくそれでよいのだ。



互助拝領機構(Ⅱ)

 校庭から大広間に戻り、軽い朝食をつまんでから『呪文学』の教室に向かうとすでにネフライトは教室にいて『互助拝領機構』についてのパンフレットを腕に抱えていた。

 

「ああ、クルックス。セラフィも。……てっきり来ないかと思っていた」

 

「なぜそう思ったんだ? 君との約束を違えたことは、今のところないだろう」

 

「テルミにあれこれと言われたのではないかと今さら心配になっていた。──来てくれたのならば幸いだ。手は多くあるに越したことはない。これは資料だ。来た生徒に渡してほしい。残部は向こうのテーブルにある。時間になったら君達も椅子に座ってくれ。君達の席はあちらだ」

 

 ネフライトはてきぱきと指示を出した。

 休日のクラブ活動がどのように行われているのか。クルックスはクラブや同好会に属していなかったので知らなかったが、誰も彼も「休日にクラブ活動するなんて!」と言わないので活動としては珍しい形態ではないのかもしれない。

 来た生徒は、右も左もまだ分からない一年生が多く、その次に二年生、三年生と四年生は「暇なので来てみた」という顔の数人、五年生と六年生はレイブンクローの生徒が二人来ていた。ホグワーツにおいて最高学年である七年生では意外な人物が来た。

 

「パーシーも。忙しいのではないですか。でも来てくれて幸いです」

 

 クルックスは、ネフライトが作成しルーナが夏休みに刷ったという資料をパーシーに手渡した。

 彼は、冊子状の資料を一瞥した。

 

「ああ、主席監督生だからね。一年生の何人かに聞かれたよ。『このクラブってどうなんですか?』って。昨年度から出来たクラブだとは知っていたが、実態は……監督生として知っておく必要があるだろう?」

 

「ごもっともだと思う。自由席になっている。お好きなところにどうぞ」

 

 彼は教壇から近い最前列に座った。

 主席の監督生の仕事とは、具体的にどのようなことをやっているかクルックスは知らなかったが彼以上にこの仕事に熱心な監督生はいないだろう。

 もう一人、やって来た生徒がいる。ひょろりとした体つきで青白い顔をしたスリザリンの生徒だ。

 

「やあ、セオドール。昨年度の僕の言葉を覚えていてくれたのかな。嬉しいことだ」

 

「そんなところだ」

 

 セオドール・ノットという三年生だ。灰色の髪色、筋張った顔の彼は何度かスリザリンとの合同授業で見たことがある。クルックスは思い出した。

 彼も冊子を受け取った。胡散臭いものを見る目を隠そうともしなかった。

 

「……君がこれに参加しているのは、正直に言うと不思議だ」

 

「そう見えるかい。でも校内を散歩する以外に趣味もない僕には、ちょうどいいのだよ。いろいろ知ることができるからね」

 

 次にやって来たのは、グリフィンドールの三年生。ハリー・ポッターといつも一緒の二人だった。ただし、今日の先頭は肩で風を切るハーマイオニーだ。

 

「むむ、こんにちは。互助拝領機構の説明会はこちらだ。そしてこれは資料」

 

「ありがとう」

 

「自由席になっている。好きなところに座ってほしい」

 

 ハーマイオニーは着席するなり真剣に冊子を読み始めたが、ハリーとロンはパラパラと冊子をめくるだけだった。彼女の付き合いで来たのだろう。彼らはすでに座っていたロンの妹、ジニーの隣に座った。ロンはジニーがいることにショックを受けたようだった。責めるように質問しているのがボソボソと聞こえた。

 最後にやって来たのは、フリットウィック先生だった。

 まさか先生もクラブ活動するのだろうか、と何人かの生徒が怪訝な顔をした。

 

「顧問ですからね」

 

 集まった生徒に聞こえるようにフリットウィック先生は言った。

 教壇に立っていたネフライトが教会式の挨拶をすると彼は小さな体を揺すって頷いた。

 

「君がやる気になってくれて嬉しい。私のことは気にせず活動を続けて」

 

「ご配慮ありがとうございます」

 

 ネフライトは日頃、授業以外は檻を被ってブツブツ独り言を話している怪しい奴なので長椅子に座っている生徒の何人かは丁寧な対応を見て、ささやかな衝撃を受けているようだった。

 フリットウィック先生の後に来たのはルーナだった。

 

「ネフ、あたしが最後尾みたい」

 

 鐘が鳴った。

 ネフライトは自分の時計の時刻を調整をした。

 

「よろしい。君も座ってくれ。クルックス、セラフィ、資料はそこに置いていい。諸君、定刻となった」

 

 クルックスはセラフィと長椅子に座った。

 

「互助拝領機構へようこそ。本日は『互助拝領機構』の初回の活動のため簡単なガイダンスを行う。私は『互助拝領機構』の主宰、ネフライト・メンシスだ。この檻は、私の信条で、また、宗教上の理由だ。己を客観視するためのもの。導き。そして実績でもある」

 

 ネフライトは両手を広げた。

 

「さて。『互助拝領機構』は招待制であるが年度初回の本日に限り、参加希望者を受け入れることにしている。詳細の規約は二ページに書いているので後ほど見ておくように」

 

 次いで「資料をお開きください」とネフライトは言った。

 教壇の上でネフライトは、背筋を正した。

 ひとつ呼吸をして、それから話し始めた。

 

「私の目的は、魔法界に利益をもたらす人材を作り出すことにある。参加する人々にとっては『生活を豊かにするため』、『名誉を得るため』、『自分の力を試すため』。理由は何でもよい。我らは──いいえ──人間は、人間の持ちうる手段と思想により進化の階梯を昇らなければならない。私は期待する。魔法界がこれから直面する危機に際したとしても速やかに対応し、危機さえも跳躍の機会へ変えることを。そして人間の不可能とは、深き彼方の果てにあるのだと信じていたいのだ」

 

 ハリーの見るところ、集まった生徒のうち八割くらいの生徒は、ポカンと口を開いていた。

 頷いているのは高学年の一部とフリットウィックだけだった。

 彼は反応が少ないことに気付いたようだ。咳払いをひとつ。

 

「──というのが私の個人的な最終的な目標だ。しかし、賛同していただけたら嬉しい。この信条のもとささやかながら『互助拝領機構』を作った。ゆえに『互助拝領機構』は、参加する同志の学びの一助となるだろう。どんな目的があったとして、それは高ければ高いほど、独りで学ぶことは難しい」

 

 そして、こうも言った。

 

「『互助拝領機構』は、授業ではない。個々が取り組みたいものに取り組む機会を提供し、互いに成果を発表する。自分の知っていることが誰かの助けになるのならば、人々はそれを伝えるべきなのだ。知り、学び、考えることは孤立した営みではない。……昨年、私はほとんど唯一の会員だったルーナ・ラブグッドの宿題の助言を行っていた。そして、彼女から私は魔法界の常識について学ぶ。これはあくまで一例だが、互助そして他者への利に理解ある人々による自学自習の会とも言える」

 

 彼は言葉を切った。

 

「ここまで私の説明を聞いて『それくらいならばもうやっている』と言える人もいるだろう。素晴らしい。しかし、高い才知に基準を合わせることの意味は少ない。限られた知恵を限られた者だけが持つ。構造の歪さは、獣ならばよい。だが社会的生活を営む人間ならば、その状態に甘んじるべきではないのだ」

 

 ネフライトは、杖を振った。彼の背後にある黒板で数本のチョークが音を立てて絵図と文字を書いていく。

『マズローの欲求五段階説』と書かれた言葉と共にピラミッドを書いていく。それは下から順に「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」となり、さらに五段階を積み上げた。

 

「君達がマグルと呼ぶ人の哲学には学びが多い。だから私も引用する。他者の不幸に罪悪感を抱き、創造的で謙虚で聡明、多視点的な思考力を持ち合わせ、また批判を受け止めることができる──そういう人間の晩年は幸せだ。持てる知恵を授けることを厭う者がいるとすれば、哀れなことだ。彼らは知恵柄の美しい毛皮をまとったつもりだろう。しかし、時を経れば色褪せ、毛艶は凝り固まり抜け落ちる。知識さえ古びるのだ。……例えば天動説は、この頃すっかり廃れているらしい。私がこのことを知ったのは三年前のことだ。私にとって常に最新の学説ではあるのだが──話が逸れてしまった。修正。協調性ある人々であるホグワーツの生徒であれば、概ね同意いただけると思う」

 

 役目を終えたチョークが元の位置に戻った。

 

「──計画から実行と評価そして改善まで、独りでやり遂げられる者は少ない。寮の隔たりなく『互助拝領機構』を活用してほしい。貴公の学びは、皆の学びとなる。互いを助け、拝領を得るといい。皆にとって善い仕組みであることを私は願っている」

 

 両手を祈るように組み、ネフライトは説明を終了した。

 

「さて、活動の説明は以上となる。活動に同意する者は、このまま。興味のない者は離席して構わない」

 

 クルックスは、それとなく首を回すフリをして振り返る。友人の付き添いできていた生徒──ハリーやロンなど──と興味半分で来た生徒が席を立った。パーシーは着席したまま規約のページを読んでいた。

 ネフライトは教室中を見回して誰も立たなくなったことを確認した。女性の割合がやや高いようだった。

 そして。

 

「諸君、『互助拝領機構』は新たな同志を歓迎するだろう。早速、クリスマスまでに取り組む課題を各々決めて欲しい」

 

 そう言って、テーブルに置いてあった紙に向かって彼は杖を振った。

 目の前に来たそれを手に取ると『課題設定』と書いてある。

 

「目標は低くても高くてもいけない。探索は自由でなければならない。個人的興味で結構。高学年の諸兄はどうかな。授業に関することや進路に係わることでもよいだろう。自分の興味のあること……己の知るべきこと……」

 

 高学年のほとんどの生徒は、ちょっと悩んだもののそれぞれ目標を書き付け、目標設定の次の項目である研究過程の予定まで書いている。

 クルックスは『虫を探す方法』と書いたところでチラリと隣のセラフィの研究予定表を見た。彼女は『スネイプ先生の髪について』と書いていた。

 

「それはダメだろう」

 

 つい口をついた言葉は、ごく小さいものだった。セラフィが身を傾けて「ん?」と小さく鼻を鳴らす。クルックスは、次の言葉と彼女を説得させる方法が思いつかないことに困ってしまい眉をギュッと寄せた。

 

「何というか……研究しちゃいけない研究だろう。近年の概念の、プ、プラ……? あ、プライバシーとか何とかで」

 

 二人は額を付き合わせヒソヒソと互いの書類を見た。

 

「僕なんか水で洗っていてもこれなんだ。どうしてかの先生がいつもベルベットの黒いカーテンのような光沢なのか気になるだろう?」

 

 セラフィはそう言い、対照的な細くサラサラした髪を手で梳いた。

 

「──君の課題こそどうなんだ。カレル文字以外で虫を探す方法があるとして信用するのか?」

 

「うーん。……しないな」

 

 クルックスは二重線で消した。

 

「ではお互いに研究設定として適切ではないのだろう。授業に関わることにしよう」

 

「それが無難だな。では、何か。……俺は思いつかない。例えば?」

 

「むーぅ。僕も思いつかない……」

 

 手が止まってしまった生徒を見やり、ネフライトが一度手を叩いた。

 

「さて。一度ここで解散とする。来週の同じ時間に再会できることを祈っている。次回は、課題の発表と進捗について報告してもらう。助言できる人がいれば、話に耳を傾けることもよい刺激になるだろう。それから、まだ何も思いつかない人は、これから私やルーナが付き合おう。図書室の使い方と共に勉強の手ほどきをしていく」

 

 とてもありがたい申し出だとクルックスは思う。隣に座るセラフィは「助かるね」と言って筆記用具を片付け始めた。

 高学年のパーシー含む何人かとジニーとハーマイオニーは「また来週」とネフライトに声を掛けて教室を去って行く。残った学生もインクやペンを鞄に片付けて教壇に立つネフライトの前に集まった。

 

「前提の知識について説明が必要かどうか判断するために聞くのだが、非魔法族の家の出身の者は手を挙げてほしい」

 

 クルックスとセラフィを除き、残った学生は男子生徒一名と女性生徒三名の計四名だ。そのうち二人が手を挙げた。どちらも女の子だった。

 

「了解した。これからさまざまなことについて説明するが、魔法族の家族がいる人にとっては退屈な時間であるかもしれない。そういう時は、私のあら探しでもしているといい。私は魔法族の出身ではないのでたくさん修正することがあるだろう」

 

「えっ。マグル出身なの?」

 

 ──そんなおかしな檻を被っているのに!

 疑問が飛んできてもおかしくない驚きようをしたハッフルパフの男子生徒にネフライトは平坦な声で答えた。

 

「信条や宗教上の理由と言っただろう。世界にはいろいろあるのだ。魔法界のいろいろも私は知っていきたい。……諸君、忘れ物はないかな? では、図書室に行こうか」

 

 教室を出る段になり、これまで見守っていたフリットウィック先生がネフライトに声を掛けた。

 

「では、この後もしっかり頼みましたよ」

 

 ネフライトがお辞儀をするとフリットウィック先生は教室を去って行った。

 

「ついてきて、図書室はこっちだよ!」

 

 ルーナがブンブンと手を振る。ネフライトの機嫌はいつもどおりに見えるが、彼女は『互助拝領機構』の活動が楽しくて仕方がないらしく先を行く足取りは軽いものだった。

 

「動く階段があることは、もう知っている? 目的地は、一階だよ。あの階段を渡ることができれば早いけど、うーん、いつも気まぐれみたい。次に動くのに五分以上かかる場合があるンだ。すこし遠回りになるけど、こちらの道のりの方がいい──」

 

 へえへえ。ふむふむ。

 低学年の三人が話すなか、一年生の女の子がそろりそろりとセラフィのところにやって来た。クルックスが資料を渡した生徒の一人でネフライトの質問に手を挙げなかった生徒の一人でもあった。つまり、魔法族出身の家柄だ。

 セラフィが気付いた。それから「おや」と小さく声を出した。

 

「こんにちは。ア、アストリアよ」

 

 小綺麗な天鵞絨のワンピース。絹の靴下。歩幅の小さな歩き方からして気品を感じる。そして華奢な骨格であるせいだろう。クルックスは、か弱い少女である印象を受けた。テルミより細い手足は、小枝のようで見ていて心配になるものだ。

 セラフィは、図書館までの道のりを彼女の隣で歩いた。

 

「ダフネの妹君。こんなところで会うとは嬉しいものだ。可愛い君」

 

 セラフィは、もう『可愛い』という感情を理解しているのだ。クルックスは、聞き慣れない言葉にやや目を見張った。

 

「クルックス、こちらは同学年のスリザリンのダフネ・グリーングラスの妹君でアストリアと言う」

 

「クルックス・ハントだ。俺は、セラフィの親友だと思う」

 

 クルックスは自分の顔は表情が硬いせいで威圧感を与えることを思い出し、ニコリと笑ってみた。とってつけたような笑みになってしまったので効果のほどは怪しい。

 異邦の狩人服を着ているクルックスのつま先から頭のてっぺんまで見て、アストリアは「ふぅん。田舎者みたいね」と言った。

 

「でも、セラフィ、あなた……友達がいたのね」

 

 とてもさりげないものだったが、ほんのすこし傷ついた心から出る言葉だとクルックスには感じられた。しかし、セラフィは気付かなかったようだ。

 

「親友だが、遠い親戚でもある。君にとっても善い隣人となるだろう」

 

「……でも、グリフィンドールだわ」

 

 ぽそぽそと呟かれた言葉を聞き取ってしまったのは、クルックスが特別に耳がよいからだ。

 それとなく親しみやすいと感じられるような言葉を選ばなければいけない。──クルックスの脳みそは、ヤーナムの地では使わなかった箇所を稼働させた。

 

「たかが組分けと色の違いだ。それでもこだわるならば……そうだな……狡知のスリザリンならば、利用する付き合いもできるだろう」

 

「それは、冷たい付き合いだわ」

 

 内心でクルックスはテルミの名前を叫んだ。少女の心情を理解できるほどクルックスは柔軟な思想を持っていなかったからだ。テルミならば、これから会話をどんどん広げていけるだろう。けれどクルックスは分からないので「そ、そうかもな」と肯定するのがやっとだった。

 ホグワーツにおいて、口重でぶっきらぼうな物言いをしてしまいがちなクルックスは同じ寮以外の生徒と話す機会が少ない。経験不足を痛感した。今後、『互助拝領機構』の活動を通して普通に会話ができる程度に親しみたい。目標が一つ出来た。

 

「彼は善い人だ。口も堅い」

 

 セラフィの評価を聞くアストリアは「フーン」と小さな鼻を鳴らして値踏みするようにクルックスを見上げた。気付いていないフリをすべきか、気付いたフリをすべきかどうか迷いに迷い、意を決して彼女を見つめた時、ちょうど図書室へ到着してしまった。

 図書館は人がまばらだった。それもそのハズ。新学期が始まって最初の休日であるし、宿題で喘ぐ生徒は高学年であってもまだ少ないせいだろう。

 ネフライトはついてきた生徒に向かって指示を出した。

 

「気になった本を三冊選びたまえ。タイトルが気になった本。挿絵が気になった本。内容を知りたいもの。何でも構わない。それらを持って奥のテーブル席に来ること。それから課題設定について私と小声で話をしよう。時間は十分だ。──ああ、図書室内は走ってはいけないことに注意。話す言葉は少なく、小さい声ですること。さぁ諸君、気を付けて歩きたまえ」

 

 時間を確認し、四人の生徒はパッと散っていった。

 クルックスとセラフィが、どの棚から当たろうかと小声で話をしているとネフライトに呼び止められた。

 

「君達は、最初から私と話した方が簡単だろう。けれど何事か書いていたようだな。紙を提出したまえ」

 

「いや、その」

 

「請われては仕方がないな」

 

 裏紙を使おうと思って持っていた紙は、セラフィにヒョイと取り上げられてしまった。彼女の分と二枚合わせて、それらはネフライトの手に渡った。そして、彼は見てしまった。彼は見てしまったことを心底後悔した顔をして奥のテーブルへ誘った。

 

「何も言うまい。君達は『互助拝領機構』に相応ではないことを自覚しているようだから。では、私と楽しいお話をしよう」

 

「そのとおり。君は分かっているな。俺達は考え直す心算でここで来たんだ」

 

「当然だ。胸を張って言う言葉ではない」

 

「そ、そのとおりだ……」

 

 ネフライトが指差す席に二人は座った。

 彼は学徒のローブの衣嚢から羊皮紙を出した。

 

「さて、君達の興味のあるものを選んでいい。私が課題を渡してもいい。どちらでも私は構わない。『ヤ』の字の地名も『メ』の字の学派も、当然『連』の字も『カ』の字もない」

 

「興味のあるものか。うーん……。昨年の決闘の訓練は、とても勉強になるものがあったが……」

 

「ああ、楽しかったね。僕の優位性が揺らぐことがないところは、特に良い」

 

 セラフィの言葉には気になることがあったが、クルックスは聞き逃すことにした。ネフライトが口を開くところだったからだ。

 

「ふむ。なるほど。実践的なものはよいだろうね。特に君達は座学が難しい──」

 

「エッ?」

 

 クルックスは耳を疑った。ネフライトは、平日に二人がホグワーツで授業を受けていることを知らないのではないだろうか。彼は手に抱えた羊皮紙を無意味にテーブルに叩き付けて角を揃えた。

 

「おっと。失言。得意ではないだろう? そこで二人で共同研究としたらどうだろうか? 一人より捗るだろう。ああ、けれど場所の問題があるな……」

 

「どうか、セラフィ。俺は共同研究となっても構わないが」

 

「僕も構わない。ネフ、場所については少々アテがある。僕は行ったことがないが、君の迷惑にならないところだ」

 

「うん? まあ、アテがあるのならばいいだろう。私は箒置き場を提案しようと思っていたが。目標が定まったところで、研究の予定は書けそうか?」

 

「埋めることはできると思う。クィレル先生と行った自習の知識が役に立つだろう」

 

「よろしい。期待する。……だが、その名前は気を付けたまえよ、外では、特に」

 

 最後に忠告を添えたネフライトは、羊皮紙に何事か書き付けると退室を促した。

 来た道を戻っていると本を抱えたアストリアに出会った。まだ十分も経っていないが、奥のテーブルに行ってもよいか迷っているようだった。セラフィが「ネフは、きちんとお話を聞いてくれるよ」と小さな背を押した。

 

「それとも僕が隣にいた方がよいかな?」

 

「アストリアは、ひ、ひとりでもお話できるわ……!」

 

「そう。ご機嫌だね」

 

 セラフィは言葉の使い方を間違っていると思ったが、当のアストリアは問題にする注意力も割けないようだったので問題にはならなかった。

 アストリアは緊張した足取りでネフライトの待っている席に向かって歩いて行った。

 

「……君が誰かに気を配ることは珍しい。彼女は特別なのか?」

 

「特別ではない。けれど姉のダフネと共に僕に話しかけてくれる人だ。無下に扱いたくない」

 

 なるほど。クルックスは頷いた。

 スリザリン寮における彼女の人間関係を垣間見た気分だった。

 

「あれくらいの女性は、とても脆そうだ。見ていると不安になる。同じ年の頃に見えるテルミの手足でさえ、俺は時に心配になるのだ」

 

「そうだね。僕らに比べるとあらゆるものは脆く見える。僕らも死が遙か遠くあるだけで、心身が頑強であるワケではないが。そういえば一年生の時、ネフは僕らと先生以外の誰ともほとんど話をしなかったそうだが、あれは力加減の分からないうちに限っては正解だったのかもしれない。今はだいぶ理解が進んだので言動に気を配ることができる。僕らは、かなり自然な振る舞いをしている自信がある。……ネフの心境の変化は先生からの助言もあるだろうが、擬態するために必要な知識が集まったからなのだろうね」

 

「ふむ。そうかもな。彼は心配症だから。──ところで、どこを目指して歩いているんだ?」

 

「僕たちの共同研究室となる場所だ。おや。そう怪訝な顔をするものではないよ。君が見つけた場所だろう?」

 

 はて、何のことだったか。

 クルックスが階段を昇りつつ、昨年度の帰りの列車内でテルミに聞いたことを思い出したのは八階にやって来た後だった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 互助拝領機構が解散した後で。

 ハーマイオニーとジニー、そしてパーシーは、グリフィンドール談話室に向かい歩いていた。途中でパーシーはガールフレンドでレイブンクローのペネロピー・クリアウォーターを見かけたので別れた。

 談話室に戻ると先に戻ったハリーとロンがソファーに腰掛けて話をしていた。

 

「──君達、本当に、最後までいたの?」

 

 ロンが残念そうに訊ねた。

 

「ええ。要するに自学自習の会なのよ。途中で進捗の発表会があるだけのね」

 

 ハーマイオニーが勉強好きなことは周知の事実だったのでハリーは正直なところ『互助拝領機構』とやらに参加するのは、珍しいとは思わなかったがジニーまで参加していることは驚いた。

 

「檻を被ったヤツがまともに見える?」

 

「檻のことは言わないで。あの人、本当に親切で物知りなんだから。教え方も丁寧なのよ」

 

「二人だけで勉強した方がずっとマシだろうよ」

 

 ジニーがネフライトを庇うようなことを言ったのでロンは気を害したようだった。

 

「檻はともかく。理念には共感できるわ。『知り、学び、考えることは孤立した営みではない』ってところは特にね」

 

「それらしいことを言っているだけに聞こえたけどな」

 

 ロンは、すっかり飽きて彼の口述の後半は、ノートに落書きをしていた。

 ハリーの時間の過ごし方も似たようなものだったが、耳を通り過ぎていく言葉ばかりではなかった。

 

「──『魔法界がこれから直面する危機』って何?」

 

 マグルのなかで育ったハリーにとって知らないだけで魔法界には彼の言う危機に関する常識があるのだろうか。

 そう思って訊ねたが、マグル生まれのハーマイオニーは勿論、ロンもハッキリしたことは分からないようだった。

 

「危機なんて考えつかないけどなぁ。ママとパパが言うには、あの時代が一番最悪だったって。でも今はほら、『例のあの人』は、その、いなくなっただろ」

 

 ロンが言いにくそうにした言葉にハリーは素直に頷くことができなかった。そのために両親は死に、自分は額の傷を受けたのだ。

 不安を抱かせる話をするのは、トレローニー先生と同じだが──あの先生は率直に死の予言をするが──彼女とは違う種類の不安の掛け方に思える。

 ハリーは、ネフライトのことがどうにも好きになれなかった。彼とほとんど面と向かって話したことがないせいかもしれないが、この印象が変わる日が来るとは到底思えなかった。

 

「でも問題を起こそうとすれば、何でも問題になるよ。この前、穴が空いたんでとうとう買い替えた鍋があるんだけど、輸入品のせいか薄いってママがぼやいてて──」

 

「あの人が言っている危機は、たぶんそういうものじゃないわ。『魔法界に利益をもたらす人材を作り出すこと』が目的なんだから、魔法界の存続と発展を心配しているんでしょう。ああいう人ほど魔法省に入るべきなのよ」

 

 魔法省に関するハリーの思い出は、良いものとはいえない。

 一年生の時、ハグリッドに訊ねたことがある。魔法省は何をするところなのか。その質問に対し彼は「一番の仕事は魔法使いや魔女があちこちにいるんだってことを、マグルに秘密にしておくことだ」と答えてくれた。だから当然、マグルのニュースキャスターは「シリウス・ブラックが魔法界の刑務所、アズカバンから脱獄しました。アズカバン始まって以来、初めてのことです」なんて報道しない。ハグリッドがハリーの十一歳の誕生日を祝いに来るまで魔法について知らなかったのは、魔法省がそうして隠していたからなのだ。

 二年生の時はダーズリーの家にやって来たドビー──マルフォイ家の屋敷しもべ妖精で現在は自由の身になっている──が魔法を使ったせいで退学勧告処分を受けたことは記憶に新しい。そして、今年はあろうことか自分が魔法を使ってしまい、犯罪者になる寸前で魔法大臣に会ってしまった。次はもう考えたくない。

 

「アイツ、パーシーみたいに魔法省に入るのかもな」

 

「パーシー、魔法省を目指しているの? ウィーズリーおじさんと同じ」

 

「将来は魔法大臣じゃないかな。フレッドやジョージと比べてさ、わかるだろ」

 

 ハリーにとって監督生のパーシーは規則に厳格な人だと思っているが、弟のロンに言わせてみれば「野心家」なのだと言う。

 

「今日は参加してよかったわ。魔法界の存続と発展は、重大な問題でしょう。それに対して彼の解決策は個人の知識や経験を高めるということよ。志を同じにする人達がその力を高めるために集まって勉強するのが、あの『互助拝領機構』ということね」

 

「ええっ、君、まさか来週も参加しようなんて考えていないだろうな。君の時間割を見て! 飲んだり食べたり寝たりする時間もないのにクラブ活動なんて無茶苦茶だよ! 宿題だけでもうパンパンだっていうのに!」

 

 ロンの言うことはもっともだった。

 三年生になり高度な知識が要求される場面が増えてきた。三人はそれぞれ宿題で手一杯になりつつある。ハーマイオニーはたくさん授業を受けているし、ハリーはクィディッチの練習が始まった。私生活が忙しすぎて、三人はまだハグリッドにも会いに行けていないのだ。

 

「週に一度、休日にあるクラブ活動よ。それくらいの時間なら作れるわ。それに、自学自習会なんだから好きなことを勉強していていいの。マグル学に関連するものを課題設定したから、授業の内容を深く掘り下げるだけでとってもタメになる時間になると思うわ。それに上級生の話を聞けるいい機会だと思う」

 

 鞄から筆記用具や羊皮紙を広げ始めたハーマイオニーを見て、ロンは「付き合いきれない」と言いたげに口角を下げた。その時、オレンジ色の毛玉──ハーマイオニーの飼い猫のクルックシャンクスが四人のそばにやって来た。匂いを嗅ぐように鼻をひくつかせて、誰かが声をかけたり、手を伸ばして撫でる前にクルックシャンクスは再びピョンと跳ねて談話室のどこかに行ってしまった。

 

「君の猫、どこかに閉じ込めてくれよ。ここのところスキャバーズが骨と皮ばっかりになっているんだ。ストレスで!」

 

「ね、猫はネズミを追いかけるもんだわ!」

 

 強い口調でハーマイオニーは言い返した。

 しかし、彼女の目はクルックシャンクスを探して談話室のあちこちを泳いでいるようだった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「ふぅ……」

 

『互助拝領機構』の第一回の会合が終了した後。

 ネフライトはルーナと一緒にレイブンクローの談話室に帰ってきた。

 レイブンクローの談話室はホグワーツ城の西側にあるレイブンクロー塔にあり、最上階は学校を一望できる窓があちこちにある。

 円形ドーム状の青を基調とした落ち着いた談話室の一角。とある窓の近くの席はネフライトとルーナのお気に入りだった。

 

「どうだったかな、今年度初の『互助拝領機構』は」

 

 檻を外して首を回し、ネフライトは収納していたタイプライターを取り出した。

 今年度から狩人への報告はこれで書くことにした。昨年、文章量が多くなりすぎて手首を痛めてしまったのが原因だった。

 

「よかったと思うよ」

 

 インクリボンの状態を確認してネフライトは頭の中にある文章を打ち込んでいく。その度に「ピシ、パシ」と特徴的な打音が人気のない談話室に響いた。彼は天井を見上げた。音が響くのはドーム状の形状のせいだろうか。それとも天井までの高さが原因だろうか。勉強する人々でごった返す時は迷惑な音になるかもしれないと思う。

 ルーナは窓の外を眺めていた。昼に近い外は、まだまだ夏の気配が色濃い。

 

「第二回では決定したテーマについてお互いに意見交換するが……先に君のテーマを聞かせてくれ。手直しできることがあれば直しておきたい」

 

 ネフライトは思考のいくつかをルーナの会話に裂くことにした。 

 

「あたし、レイブンクローの髪飾りを調べようと思っているンだ。──レイブンクローの髪飾り」

 

「あれは失われて久しいと聞く。どのように?」

 

 ネフライトは、談話室に佇む女性の彫像を見た。いつの間にかルーナも同じものを見ていた。

 談話室に鎮座する冠を被った女性像こそホグワーツ魔法魔術学校の創始者のひとり、ロウェナ・レイブンクローだ。

 

「パパがレイブンクローの髪飾りの複製を作ろうとしているんだ。知ってる? 被ると知力を高めるんだ。パパの役に立つかも」

 

「複製は夢のある話だ。とはいえ私見だが『頭冴え薬』の風呂に入った方が効果的だと思ってやまない。しかし……私は君の意志を尊重したいので『テーマを考え直さないか』とは言わない。どのような調査をするつもりか。考えているだろうね?」

 

 パチパチとタイプライターを叩きながらネフライトは話を促した。

 

「あの彫像とレイブンクローの絵画から身長を割り出して、髪飾りのデザインを模型として作ろうと思うんだ」

 

「それは面白い考えだ」

 

 ネフライトは、自分でも驚くほど素直な感想を表明した。

 想像上の何かを作り出すのであれば止めようと思っていたが、存在する資料から探してみる手段ならば止める必要はないだろう。

 

「工作は得意なのか?」

 

 ネフライトの言葉に応えず、彼女は突然立ち上がると女子寮へ駆けていった。ルーナにはよくあることだったのでネフライトは気に留めなかった。彼女を待つ間、夏休みに使用した聖杯文字と聖杯ダンジョンの階層ごとの特徴について打ち込み続けた。

 

「──得意かどうか分からないけど、パパがいろいろ作るのを見てたから作れるよ」

 

 テーブルにドンと置かれた物にネフライトはチラと見て、タイプライターに差し込んだ紙に視線を戻した。直後、ルーナの成果物に目を奪われた。

 

「…………」

 

 それは一見にして『メンシスの檻』だった。しかし、細部が違う。

 

「檻だと面白くないからチェスのルーク」

 

 格子構造だが、チェスのルークすなわち城を模した物だった。

 ネフライトは、ショックを受けてタイプライターを打ち込む手が止まった。

 

 ネフライトには苦手なことがある。

 あらゆることを記憶することが出来る能力を彼は誇りに思っているが、その蓄積を新しい発想として生み出すことが上手く出来ないのだ。彼のやること、なすことは全て得た知識の応用に過ぎず、それを超越することは今のところ出来ていない。

 彼女と出会ってから初めて得た敗北感を彼は真新しく覚えている。それはチラシにおいてネフライトが私用で被っている『メンシスの檻』を『互助拝領機構』のシンボルとして活用するという発想だった。

 二度目の敗北は、あまりに軽快で何の気なしにやって来た。

 

「チェス、の、ルーク」

 

 呆けた声でネフライトは呟く。自らの被る檻の目に爪を立てた。

 ──なるほど。見る者が見れば、そう見えるかもしれない。

 この思考を奔らせるのは二度目だ。いままさに敗北感に襲われている。接地している床が消えるような敗北感だ。ネフライトは立てなくなっていた。立つ用事がないことは幸いなことだった。

 ──コロンブスの卵という言葉がある。

 ネフライトの思考はあらぬ方向に発展した。言葉の由来となった例え話そのものが身の上に起こるとは想定していなかった。

 コロンブスの卵とは、どんなに素晴らしいアイデアや発見も、こうして一度触れた後には単純で簡単に見えるという成句だ。

 彼女がネフライトにもたらす敗北感とはまさにこれだった。

 ──得てしまえば何のことはない発想、いいや、むしろ陳腐だ!

 だからこそ、思いつかなかった自分が恨めしい。

 

(ぶっ壊してしまいたい!)

 

 強烈な破壊衝動を抑えるためネフライトは目を塞いだ。指は檻に阻まれてうまく届かない。

 

「うん。並べてみると、うまく出来ていると思うな」

 

「あ、あ、あ……そ、そう、だ……な。……そ、それで、ぇ、それは……」

 

 ──何のための工作なのか。

 そう訊ねるのは早くも三度目の敗北を招くことになる。

 ──後先考えずに話し始めた我が身よ、いっそ死ね。

 彼は自分を呪った。そして必死に考えた。チェスのルーク。しかし、形状は檻。一見にして頭を通す穴はない。そして重量から置物だと判断した。

 

「傘立て?」

 

「これはトロフィーだよ」

 

 ネフライトは三度目の敗北に「ぐうっ」と唸り、口の内側を強く噛んだ。たった今、嫉妬しないためならば彼はどんな自傷行為もやっただろう。眼球に指が届かないことは幸いだった。

 

「そうか。トロフィーか。トロフィー。トロフィーなのかぁ」

 

「昨年度やった決闘の練習を、ちゃんとやりたいんだ」

 

「ハァ。やるのは構わないが、昨年度のように差し迫った脅威は何も無いように見えるがね。シリウス・ブラックのことで心配なのか?」

 

 ネフライトは捨て鉢に言った。今回ルーナが提示したメンシスの檻を模したトロフィーを視界に入れずに済むならば、七年間の『闇の魔術に対する防衛術』の呪文を全て完璧に履修することなど大した価値にないと思えてしまったからだ。

 

「杖を構えて皆が同じことを考えているのは、とっても面白いと思うんだ」

 

 彼女の言葉の意味が分からない。

 ──早すぎる。

 ネフライトは四度目の敗北の予感に震えた。

 

「それは……ぁ……どういう意味かな」

 

 ルーナは「なぜわからないのか」と言いたげにキョトンとした。

 

「決闘じゃ杖を構えて皆が『相手をどうやって打ち負かそうか』って考える。いつも皆バラバラのことを考えているのに。じっと相手のことを見つめて考えているンだ。ホグワーツにはもっとそういう時間が必要だと思うな」

 

「相互理解のための決闘……?」

 

 全ての思考資源を使ったネフライトはようやくルーナの発言の意図を自分なりに解釈した。彼女は『お互いにどういう人間なのかを知るために決闘という手段を使えばいい』と言いたいのだろう。

 

「ふむ……」

 

 片方の眉を上げてネフライトは考える。

 決闘の舞台を整えることはやぶさかではない。運営として労力をケチることもしないだろう。実技を取り入れるのは『互助拝領機構』で活動する人々の団結力が深まるので、よい考えだ。どのみち『闇の魔術に対する防衛術』で学ぶことだとしても誰かと真剣に決闘する経験は得がたいものだろう。勝敗はどうあれ、参加する生徒は勿論、見ている生徒、そしてどの学年の生徒にとってもよい経験になる。

 

「では、次回の『互助拝領機構』で検討してみようか。フリットウィック先生に相談して場所の確保と許可を得て、ルーピン先生に監督をしてもらうとして……昨年と同じクリスマス前の休日がよいだろうな。ついでに満月の日を指定日にして……ああ、いい考えかもしれない……私にはルーピンの様子を探る口実になる……」

 

 ネフライトは衣嚢から手記を出し日程を確認した。

 

「今回は『互助拝領機構』の人達だけじゃないよ」

 

 ネフライトは立ち上がる気力さえあれば『メンシスの檻』を振り上げて展望窓を破壊していたことだろう。

 

「なに。え。なに。なん、何だって?」

 

「ううん。『互助拝領機構』の名前でもいいンだ。『第一回互助拝領機構杯決闘大会』なんて、どうかな?」

 

「……いいだろう。ああ、最高だ。それで決まりだよ」

 

 ネフライトは、それによってルーナからメンシスの檻トロフィーを奪えるのならば、全力を賭すことを決めた。

 メンシス学派がようやく辿り着いた狂気の思索の果てに生まれた檻──それを模した物であれ──衆目の目に晒され自分ではない者の手に渡ることがどうしても耐えられそうになかったからだ。

 というのは表向きの感情の話だ。

 本音のところは。

 

(私の物にしてからぶっ壊そう!)

 

 彼は決意した。

 幼い彼にとって、発想の違いとは自分の敗北をまざまざと見せつけられているようで辛かったのだ。

 




ネフのクラブ活動
『互助拝領機構』は仰々しい名前ですが、その実態は途中進捗発表がある自学自習クラブとなっています。個人の質を高めて、生産力を上げて、全体として豊かに。そんなビジョンを思い描いているのでしょう。
 少なくともネフライトは、その予定でときどき実技を挟みつつ通年の活動をする予定でしたが、メンシスの檻トロフィーを合法的に奪取するため冬休み前に決闘大会イベントを主催する立場となりました。──ぶっ壊してやる!
 自分が持ち得ない感性を目の当たりにしたとき、情緒の発達が未熟なネフライトは爆発しがちという傾向があるのかもしれません。
 彼とテルミのプロフィールは別の機会に公開いたします。彼らの夢についての展開はもう少しだけ先なので……。


魔法界がこれから直面する危機
 ネフライトは、魔法界の存続と発展に関わる危機を想定しているようです。
 魔法界の存続と発展。
「やっぱり成熟した社会、生き物は人口の先細りという困難にぶち当たるんだな」と考えているネフライトは乳母車DIYのお父様を見たり見なかったりしています。
 ところで、マルフォイ家の二次創作を拝見させていただいた時によく考えるのですが、原作での彼の家はもっときょうだいがいてもいいのに、とかつい考えてしまいます。「優秀さ」を保つにはマルフォイ家レベルでも一人が限界ということか、あるいはポッター家のジェームズがそうであったように遅くに授かった子なのか……むむ。
 金持ちの一人息子属性そのものに魅力を感じます。ロンとの対比もあるのでしょうが、そのものズバリなキャラクターであるドラコは好ましいですね。


追記
本日(令和4年12月9日)フロム・ソフトウェア最新作のELDENRING(エルデンリング)が「The Game Awards 2022」ゲーム・オブ・ザ・イヤーに選ばれるというめでたいことがありました。めでたいですね。血の女王はいませんが血の君主はいるエルデンリング。ビームが出せるエルデンリング。楽しいですよ……!

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