トウショウボーイのその後
例年より早い桜が満開のさなか3月7日の葬儀以降現実を感情が受け付けていない。
カレンダーや時計は進んでいくだけで何も癒してはくれないそればかりか喪失感を加速させていく周りは前を向いて自分の道を進んでいるのにトウショウボーイの心だけあの日に取り残されてしまった。
トレーニングコースのダートをふとしたときにみると探してしまうこの世界にいるはずのないライバルで生涯の友達姿を。
「くっそー!あの有馬記念にもし俺が出てれば2人ともまくって上がってやったってのによぉ!」
「束になってかかってきたとしてもあのダービー以来お前に引けを取ってやるつもりなんぞない。なあ、テンちゃん。」
「あ…」
「はは、いなくなったなんて嘘じゃないかこれじゃ」
「トウショウ…」
「情けないところをみせてしまうな」
「そんなこと、そんなことねえ!」
「自分の何か大きなものがごっそりなくなったみたいだ」
グリーングラスやクライムカイザーと話していても不意にテンポイントへ呼びかけ現実は喪失感に拍車をかけた。
トウショウボーイの忘れもしない全力で挑んだ宝塚記念ばかりがつい昨日のことのように夢に見る
パドックでお互いに負けないと言葉を交わしてゲートに入った
うるさいほどの大歓声なのに何も聞こえないゲートが開くのを悠々と待つのみ
ゲートが開くと同時に自分のペースを保って馬場を確かめながら着実に進める後ろから追ってくるテンポイントの足音だけを聴く
残り1000m戦うのは今しかないとペースを上げる、後ろから自分だけをマークするテンポイントと勝負がしたい一心だった。
ゴール板を駆け抜けた瞬間の大歓声、優勝レイをかけて自分に敗れたテンポイントが笑ってステージまで手を引いて…
そこで目が覚める
もう二度と戻ってこない愛しい時間に浸って抜け出せない
願わくばずっと続いて欲しかった
吸い寄せられるように4人で集まって遊んだ中庭へ来てしまう
ずっと勝敗のつかないテンポイントとのダブルダッチ対決
必ずクライムカイザーが負ける睨めっこ
ヨーヨーが上手くいろんな技を繰り出すグリーングラス
あの日々にどれだけ浸っていたのだろう、グリーングラスに声をかけられて現実に戻った。
「トウショウさん?」
「ああ、グリさんかぼうっとしてて気付かなかった」
「無理もないね、テンちゃんがもういないなんて」
「あの日のまんま、私は何かを置き去りにされた感覚がする」
「…私ねトウショウに言おうかどうかずっと迷ってたことがあるけど、やっぱり話すことにするね」
グリーングラスの言葉になんとなくトウショウボーイも勘付くテンポイント関連の話だろうと
「トウショウはずっとライバルであえて生きてるうちにあえてよかった大事な友達だって」
トウショウは置き去りにされた何かが塞がっていくような感覚で言葉が出ない。
「みんなといた時間がなにより愛しくて大切だって」
グリーングラスは泣いていた、葬儀では必死に堪えていたけれどいざトウショウボーイに伝えると最後に会いに行った日に枯れ果てたはずの涙は溢れ続けて溢れ自分も愛されていたことをまざまざと思い知らされるテンポイントの残した優しい言葉。
「テンちゃんっっ…」
ようやくトウショウボーイの感情が現実に追いついた一歩
「私ももう先へ進まないと…」
もう少しでトレセン学園を卒業する2人は生涯忘れる事のない存在を胸に自分の人生を歩くべく顔を上げた、もう二度と戻ってこない幸せで愛しい時間のためにも。