死の支配者と猫妖精   作:スクゥーマ

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モモンガさんも緊張感も無くなってきて地の部分が出てきています。
亡国の吸血姫の鈴木悟の状態となっております。
可愛いヒロインではなく、可愛い猫(1mサイズ)が同行者ですが。

一人称「オレ」がモモンガ、「俺」がヌコネコとなります。





第4話 森の賢王

 それは二人が、他愛もない会話で盛り上がっている時に起こった。

 

「モモンガさん、何かこっちに向かって来てる」

 

 ヌコネコの耳がピクピクと動き、接近してくる何かを探知しようとしている。彼の耳には、ガサリガサリと木々をかき分けながら真っ直ぐにこちらへ向かってくる大きな何かの音を拾っている。

 

「敵ですか?」

「判別はつかないっスね。まだ敵対行動をとってない・・・・・かな」

 

 ゴブリンたちが仕掛けてきた時に感じた、刃物を肌に当てられるようなヒヤッとした感覚。ヌコネコは、それを敵意や殺気と言われるものではないかとは推測している。おそらくは、常時発動型特殊技術(パッシブスキル)、あるいは職業的な特性に由来するものだろう。

 

「こちらの様子を伺いにきているということでしょうか?」

「隠れる気は無いみたいですよ。木をかき分けながら移動してる。音からしてかなりでかい・・・あと、なんていうのか気配が強い? ゴブリンとは比べ物にならないっスね」

 

 モモンガには、そういった音だの気配だのといった感覚は一切わからない。正直、その感覚は羨ましいと思うし、何より少しカッコよく感じてしまう。

 

(気配とか殺気を感じるとか、普通にカッコイイよなぁ。ファンタジーって感じで。オレも、戦士とか盗賊系の職業にしてればそういうの感じとれたんだろうか?)

 

「レベルは?」

「距離がまだ有るんで、はっきりとはわからないけど、強くて30強」

「30強・・・・・雑魚とはいえ、この世界特有のモンスターかもしれないですからね。私達の知らない特殊技術(スキル)や魔法があった場合・・・・・」

「下手すりゃ、致命的なダメージになるかもですね。距離、30・・・・・20・・・・・」

 

 その時、暗闇の中から何かが凄まじい速度で何かが飛んできた。

 

「きたッ‼」

 

 ヌコネコの声に反応し、二人はバックステップで大きく距離をとる。その瞬間、二人のあいだにあったキャンプファイヤーが、吹き飛ばされあたりが闇に包まれる。

 

 闇に包まれたとしても二人は、種族的特性として闇視(ダークヴィジョン)を所持しているためなんの問題もないが、森の中で、20mもの距離から二人めがけて攻撃を仕掛けてくる相手に二人は警戒感を強める。レベル的には遥かに劣る格下だと分かっているが、未知の脅威の可能性も考慮すれば、警戒を強めても損はない。

 

 モモンガが、後方に下がると同時に、ヌコネコがモモンガへの射線を塞ぐように前衛に移動する。二人がパーティを組んで戦うのは1年ぶりのことだが、そのブランクを感じさせないほど自然に、位置取りを行う。素早く戦闘行動に以降できるのは、それだけ二人が長くユグドラシルをプレイし続けてきた経験、そしてお互いに信頼できる仲間であるからだ。

 

「モモンガさん、見えましたか?」

「えぇ。鱗のついた尻尾でしたね」

 

 射程距離はおおよそ20m。かなりの範囲を攻撃できる長い尻尾を持つモンスターだと推測できる。さらに、地面にぶつかった時の音から、金属とほぼ同等と思われる強度を有しているはずだ。

 

 ヌコネコは、二振りの忍者刀を抜き、モモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン構えいつでも魔法を放つことが出来るように身構える。

 

「フフフ・・・・・それがしの初撃をかわすとは見事でござる・・・・・。こうまで完璧にかわされたのは・・・・・もしかすると初めてかもしれぬな」

 

 闇の中から深みのある静かな声が響いた。

 

「それがし??」

「ござる??」

 

 二人は、妙な「ござる」口調のモンスターに若干の戸惑いを覚えと同時に、緊張感がほんの少し緩む。

 

「さて、それがしの縄張りへの侵入者よ。いま逃走するのであれば、先の見事な動きに免じ、それがしは追わないでおくが・・・・・どうするでござるか?」

 

 ゲームであれば、死んでもいいやと戦闘を始めても問題はなかった。だが、いまは現実だ。死んで蘇ることが出来るかどうかはわからない。特に、死亡によるレベルダウンのデメリットがどう作用するのかが全くわからない状況だ。

 

 慎重にいくのなら、ここは素直に相手の言うことを聞いておくべきだろう。ただ、相手がその約束を守ると言う保証はない。

 

 二人は、構えを解かない。正体不明の敵が現れたときはどう対応するかはすでに決めている。ヌコネコの特殊技術(スキル)による探知で、敵が自分たちよりも遥かに劣る場合ならまずは戦うと決めている。

 

「ほう・・・・・戦う姿勢を崩さぬということはそれがしと戦うということでござるかな?」

「とっとと姿を見せたらどうだ? それとも、自分の姿に自信が無いのか? まさかの恥ずかしがり屋か?」

「言うではござらぬか、侵入者よ! ではそれがしの威容に瞠目し、畏怖するがよい!」

 

 モモンガの挑発に乗る形で、声の主が茂みを踏み分けその姿を二人の前に現す。

 

 その姿に二人は大きく目を見開いた。

 

 馬ほどはある大きな体は白銀の体毛に包まれ、奇怪な文字にも似た模様が浮かび上がっている。しかし、体高は低い。横に広く薄べったいという形状だ。そして、鱗に覆われた長い尻尾。ユグドラシルでは、見たことの無いモンスター。二人の心は形容しがたい動きに襲われる。

 

 特にモモンガは、ユグドラシル時代を含めても、モンスターを見てこういった感情に襲われたのは久方ぶりだった。

 

「ふふふ・・・・・お前たちの顔から驚愕と恐れが・・・・・」

 

 正体不明のモンスターの視線が、ヌコネコから後方にてスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを構えるモモンガに移る。

 

「ゲェェェーーー! なんかよく見たら凄い化け物がいるでござるーーー!」

 

 未知のモンスターは、腹をみせひっくり返り、ブルブルとヒゲを震わせている。先程までの威風堂々とした姿は消え失せていた。

 

「お、お願いでござる~~~。どうか、どうか食べないで欲しいでござる~~~」

 

怯えきった声で命乞いを始めるモンスターに二人の戦意が急速に萎えていく。

 

「戦う前に降伏って・・・・・」

「こいつ、モモンガさんにビビったんじゃないっスか?」

「えっ? オレ?」

 

 ヌコネコは、じっとモモンガの顔を見つめる。モモンガの外見は、邪悪な化け物そのものだ。だが、見慣れているからなのか、特に深くそういう感覚を覚えはしなかった。なにより、モモンガがどういった人間かを知っていれば怖いという思いは抱かない。しかし、見ず知らずの第三者は、そうは思わないようだ。

 

 モモンガが、近づく素振りを見せると、ビクッと体を強張らせる。明らかにモモンガに対して恐怖を抱いているようであった。

 

「オレ、そんなに怖いかなぁ? 怖がるなら、見た目が猫のヌコネコさんだろ・・・・・」

 

 モモンガは、目の前で腹をむけてブルブルと震えている獣を見ながら深い溜息をつく。同時に、戦意が完全に消え失せていった。

 

「ヌコネコさん、この見た目、ジャンガリアンハムスターどうします?」

「どうするっていうと?」

 

 二人は武器を収めると、巨大ジャンガリアンに近づいていく。

 

「殺して特殊技術でアンデッドにするとか?」

 

 殺すという言葉を聞いて、大きな体を縮こませて震えるジャンガリアンハムスター。黒い瞳は涙で潤んでいる。

 

「いや、流石に可愛そうじゃないですか? よく見たら可愛い顔してますよコイツ。見逃しても害は無さそうですし」

「ユグドラシルにいなかったモンスターをアンデッドにするのは興味あるけど見逃してもいいか」

 

 二人の話をじっと聞いていた巨大ジャンガリアンが、か細い声で二人に声を書ける。

 

「そ、それがしを見逃してくれるでござるか?」

「あぁ。もう行っていいぞ。今度から相手をよく見て喧嘩を売るんだぞ」

 

 ヌコネコができる限り優しい口調で巨大ジャンガリアンハムスターに話しかけると、のそのそと体を起こし、二人に向き直る。

 

「あのお二人に、一つお聞きしたいことがあるのでござるが・・・・・」

「なんだ?」

「先程、貴殿たちは、拙者の種族を知っているような話をしていたでござるが、もし知っているのであれば教えて欲しいのでござる」

「まぁ、知ってると言っていいか・・・・・かつての仲間に、お前に似た生き物を飼っている人がいたが・・・・・誰でしたっけ?」

「あぁ、あれはまい・・・・・やまいこさんですね」

「あー、そうだったそうだった。やまいこさんだったかぁ」

 

 二人は、あの時一週間ログインしてこなかった彼女の姿を思い浮かべる。普段は万年樹のように動じない彼女であっても愛情を注いだペットとの別れは相当にこたえたのだろう。

 

「なんと! それがしと似たものをペットにするとは! できればその話を詳しく聞かせて欲しいのでござるが」

「まぁ、いいけど。参考にならないかもよ?」

「それがしは一人で生きてきたでござるが、やはり生物として種族を維持しなければならないのでござる。もし、同族がいるのであれば、子孫を作らねば生物として失格でござるがゆえに」

 

 この理屈でいえば、自分は生物失格では? と二人は考える。ヌコネコは、過去に一度はチャンスがあった。しかし、この猫妖精となった今、同じ種族に欲情できそうな気がしない。かと言って、他種族と交配できるのだろうか? と考えてしまう。

 モモンガは、もう既にアンデッドだしもう生物ではないからこの理屈の外にいると自身に言い訳をしていた。

 

「お前ほど大きくもなかったしなぁ」

「そうでござるか・・・・・もしや幼子でござるか?」

「いや。大人でも手のひらに乗るくらいだ」

 

 巨大ジャンガリアンのヒゲがしょんぼりとしたように垂れる。

 

「それはちょっと無理でござるなぁ・・・・・。やはりそれがしは、ずっと一人なのでござるかなぁ・・・・・」

 

ずっと一人なのかとそう言った巨大ジャンガリアンにモモンガは強い同情の感情を覚える。かつて、たった一人でナザリック地下大墳墓を維持するためにただひたすらに金貨を宝物庫に放り込むだけだった日々。仲間に会いたい。あの日々をもう一度と何度願ったことだろうか。

 

「仲間・・・・・か」

 

 ポツリとモモンガが呟く。

 

「それでは、それがしは失礼するでござるよ。これからは、よく相手をみて勝負をしかけるでござる」

 

 巨大ジャンガリアンが立ち去ろうとしたその時、モモンガが声をかける。

 

「なぁ、お前。仲間に会いたいって言ったな?」

「そうでござるが・・・・・」

「なら、この森の外に探しに行かないか?」

 

 ヌコネコは、、少し驚いたような表情で、巨大ジャンガリアンは丸い瞳をさらに丸くしてモモンガを見つめる。

 

「この森にどれだけいるかわからないけど、今の今まで出会えていないということは、ここにお前の同族はいないという可能性の方が高い。なら、外に探しにでるほうがいいんじゃないか?」

 

 モモンガは、なぜこういう提案をしたのだろうと自分でも驚いていた。アンデッドの身体になって人間であった時の感覚といったものが多く失われているような気がする。それでも、仲間に会いたいと強く願う一人ぼっちの存在を放っておけなかった。

 

「たしかにそうでござるが、良いのでござるか?」

 

 モモンガがチラリとヌコネコを見る。重要なことは話し合って決めるのがアインズ・ウール・ゴウンのルールだ。それに、仲間が見つかるまでの間とはいえ、アインズ・ウール・ゴウンの加入ということになる。

 

 アインズ・ウール・ゴウン加入条件は、異形種かつ社会人であること。これは問題ないだろう。だが、隠し条件であるメンバーの過半数の同意を満たしていない。今はいないメンバーの同意は得られないので考えないとしても、ヌコネコという今いるメンバーの同意なく勝手に話をすすめている。

 

「俺は別に構わないと思うよ」

 

 表情はイマイチわからないが、ヌコネコは微笑んでいるような気がする。ヌコネコの同意の言葉を聞くと、モモンガは巨大ジャンガリアンに向き直る。

 

「ならば、おふた方! 是非ともよろしく頼むでござる!」

 

 巨大ジャンガリアンが、大きな頭を地面につけるようにお辞儀をする。

 

「これからよろしくな。オレは、モモンガ」

「俺は、ヌコネコだ」

「ところで、お前名前とかあるのか?」

 

 モモンガが、巨大ジャンガリアンに尋ねる。

 

「人間たちは、それがしのことを森の賢王と呼んでいるでござるな」

 

 森の賢王。その名前を聞いて二人は、同じことを考えた。

 

((名前に偽りありにもほどがあるのでは?))

 

 ゴブリン以上に流暢に人語を解す獣という意味では、賢王と呼んでもいいのかもしれないが、相手の力量差も見抜けず、ましてや、モモンガの外見に恐怖して即降伏するようなものに賢王とは大仰なようにも思う。

 

 それに、森の賢王は、どちらかと言うと、名前と言うよりは肩書のように思える。それに、何か起こった時、呼びやすい名前などがあったほうが今後、一緒に行動する上でメリットが多い。

 

「なぁ、森の賢王。これは提案なんだが、名前をつけてみたらどうだ?」

「名前があったほうが何かと便利だしな」

「ふむ・・・・・名前でござるか? そうでござるなぁ・・・・・イマイチ思いつかないでござるなぁ。そうでござる! お二人にそれがしの名前をつけてほしいでござる!」

 

 思いがけない森の賢王の提案に二人は口を閉じる。かつてネーミングセンスがないと仲間たちから言われていたモモンガ。そんな彼ほどでも無いにしても大概なセンスのヌコネコ。

 

 今後、森の賢王が名乗っていくであろう名前を決めるのは二人には少し重圧を感じるものであった。センスゼロの名前をつけた結果、多くの人に森の賢王が笑われるのは可愛そうだ。

 

「名前って結構重要なモンだけど、他人にまかせていいのか?」

「構わないでござるよ」

 

 ヌコネコの言葉に即答する森の賢王。どうも完全に任せるつもりのようだ。

 

「うーん・・・・・名前名前・・・・・」

 

 ヌコネコは必死に頭を回転させる。ペットを飼っていた仲間たちの言葉が頭をグルグル回る。だが、今後対等な付き合いをしていく仲間につける名前だ。ペットにつけるような名前ではいけない。やはりここは、人名をつけるべきだろう。森の賢王、賢王といえば誰だ? ダメだ出てこない。なら、王様の名前でいいのではないか?

 

「ネロ、シャルル、ノブナガとかどうよ?」

「おお! どれもカッコイイ名前でござるな!」

 

 ヌコネコの案を聞きながらモモンガも必死に頭を悩ませる。ヌコネコの案はどれも歴史上の王の名前であったはずだ。ならば自分は、森の賢王にどのような提案をすべきだろうか? ヌコネコは、森の賢王という呼称に重点を置いた名を提案した。ならば、自分は森の賢王の見た目の特徴を重視するべきだろう。

 

「ハムスケというのはどうだろう?」

「えぇ・・・・・モモンガさん、さすがにそれはちょっと」

「ハムスケ! いい名前でござる! これからそれがしはハムスケと名乗るでござる!」

「いいのかよ⁉」

 

 完全にペット感覚の名前ではあるが、森の賢王本人が気に入ったというならそれでいいのだろう。だが、ヌコネコは、アインズ・ウール・ゴウンのネーミングセンス無い王に負けた気がして軽いダメージを受けていた。

 

「ところで、ハムスケ。お前の能力を把握したいんだが構わないか?」

「能力でござるか?」

「得意不得意を知っておけば、連携を取る際とかに便利だからな」

「わかったでござるよ。モモンガ殿。でも、具体的にそれがしは何をすればいいでござるか?」

「そうだなぁ・・・・・」

「じゃぁ、俺と模擬戦でもするか?」

「ヌコネコ殿とでござるか?」

魔法詠唱者(マジックキャスター)のモモンガさんよりは、俺との方がハムスケもやりやすいだろ?」

 

 ハムスケが、ヌコネコを見下ろしながら何か心配そうに口を開く。

 

「その失礼かと思うのでござるが、大丈夫でござるか? モモンガ殿よりその・・・・・」

 

 ハムスケの言いたいことはわかる。ヌコネコの身長は、人間で言えば6才程度の子供くらいの身長しかない。体格面だけで見るなら圧倒的に不利だ。ハムスケは、それを心配しているのだろう。

 

「ハムスケ、相手を見た目で判断していると痛い目をみるぞ」

「ムムム。では、遠慮はしないでござるよ!」

 

 ヌコネコとハムスケが距離を開けて向かい合う。

 

 ハムスケに怪我をさせないように低位の武器を取り出そうとインベントリに手を突っ込んだ瞬間、ハムスケが素っ頓狂な声を上げる。

 

「ややや⁉ ヌコネコ殿の手が消えたでござる! もしやヌコネコ殿も魔法を使うのでござるか⁉」

「これは魔法ってわけじゃなくてそのなんだ。あー、まぁ特殊技術(スキル)みたいなモンだよ。モモンガさんもできるよ」

「おぉぉぉ・・・・・なんと! すごいでござるなー! では、本気でいかせてもらうでござるよ!」

「おう! かかってこい!」

 

 ヌコネコが、ショートソードを構え戦闘態勢にはいる。ハムスケも尻尾をくねらせながら姿勢を低くし、いつでも飛びかかれるように体勢になる。

 

 先に仕掛けたのは、ヌコネコだった。突然、ハムスケの視界いっぱいにヌコネコが肉薄していた。ハムスケからすれば瞬間移動したかのように錯覚するほどの速度。

 

 思わず両前足で顔を防御するハムスケ。次の瞬間、信じられないほどの衝撃が両前足に響く。

 

「うわぇぇぁぁぁぁ⁉」

 

 その衝撃で大きくバランスを崩してしまうハムスケ。とてもではないが、あの小さな体のヌコネコの一撃がこれほど重いとは微塵も思ってはいなかった。生まれて初めて経験する衝撃。モモンガの見た目で判断するなという言葉が胸に刺さる。

 

「驚いたでござるよ! それがしは、これほどの一撃を放つものと戦ったことはなかったでござる!」

 

 驚いたのは、ハムスケだけでなかった。ヌコネコ、モモンガも驚いていた。

 

((あいつの毛フワフワじゃないのか))

 

 若干裏切られた気持ちになる二人。しかし、ヌコネコの本気ではないとはいえ、一撃を弾き返したハムスケの毛皮の硬度は驚嘆に値するものであった。

 

「では、それがしの番でござる!」

 

 ずんぐりとした体型に似つかわしくないほどの速度でハムスケが飛びかかってくる。以外に鋭い爪が空気を切り裂きヌコネコに振り下ろされる。かぎ爪が空を切り地面を深く抉る。攻撃が回避されたとわかるとさらに連続して両前足のかぎ爪を連続して繰り出す。

 

「むぅぅぅ! なんという素早さでござる! ではこれはどうでござるか! <盲目化(ブラインドネス)>」

 

 視界を封じることで機動力を削ごうとするハムスケ。しかし、魔法詠唱者(マジックキャスター)ではないハムスケの使う低位の魔法を、ヌコネコは簡単にレジストしてしまう。

 

「ハムスケ! こっちだ!」

 

 素早い動きでハムスケを翻弄しながら、的確に攻撃を当てていくヌコネコ。緩急をつけた変幻自在の攻撃は、ハムスケが一度も体験したことのない身体能力だけに頼った野性のものではない訓練と経験からくる技術によるものだった。

 

「それがしの攻撃が全く当たらないのは初めてでござる! ならば!」

 

 ハムスケが飛び跳ねるように大きく体をひねった。凄まじい勢いで尻尾が伸び、ヌコネコに迫る。

バックステップで回避。

 

胴の前を凄まじい風切り音とともに尻尾が通過したその瞬間、ぐにゃりと軌道が変化した。ヌコネコの両足は未だ地面に着いていない。全力で体をねじり強引に攻撃を回避する。

 

「まじか! あんな変化するのか⁉」

「この攻撃までかわすとは‼ すごいでござるなぁ!」

 

 モモンガは、ヌコネコの動きを見て驚嘆した。自分ならいきなりの軌道変化に対応できただろうかと。おそらく、一撃は貰ってしまうのではないだろうか? 動きそのものは目で追える。だが、体が動くかどうかは別問題だ。

 

(オレもこのLV100の肉体能力を完璧に使いこなせるようにならないといけないな。ゲームみたいなやり方じゃダメだ。ヌコネコさんに近接戦闘の訓練を積むのを手伝ってもらうか)

 

 ハムスケは、次々と繰り出されるヌコネコの攻撃をなんとか両手の爪で弾き返しているが、威力を殺しきれずに防御が間に合っていない。

 

「<麻痺(パラライズ)>」

 

 ハムスケが別の魔法を使い状況を打開しようと試みるが、猫妖精(ケット・シー)は基本的に麻痺を無効化する特徴を持つ。そのため、麻痺(パラライズ)は効果を発揮せずに不発に終わる。

 

(ハムスケの体の紋様がまた光った。あの紋様の数だけ魔法が使えるのか?)

 

 ユグドラシルでは、魔法を行使するモンスターの使える魔法の数は、レベルや種類によって大きく変動するが、八つくらいが基本とされている。ハムスケの紋様の数もそれぐらいだ。戦っているヌコネコも、そして観戦しているモモンガもまるでユグドラシルのモンスターと戦っているような感覚を覚えていた。

 

 火花が飛び散るほどの剣と爪の激突が続く。やがて、疲労とダメージにより、徐々にハムスケの動きが鈍り始める。ハムスケが全力で放った尻尾の一撃に合わせてヌコネコは一気にハムスケの懐に飛び込む。ガゴン! という鈍い音が夜の森に響く。真下から頭を蹴り上げられたハムスケが目を回して仰向けに倒れた。

 

「はぇぇぇぇぇ・・・・・それがしの負けでござるぅ~~~」

「すまん。ハムスケ。ちょっと強く蹴りすぎた。モモンガさん、ポーションあります?」

「昔使ってたのが結構残ってたはずですよ」

 

 モモンガが、インベントリから背負い袋を取り出す。無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)――名前と違い、総重量500キロまでの制限のあるものだ。この袋の中のアイテムは、コンソールのショートカットに登録することができるため、瞬時に使いたいものを入れるのは、ユグドラシルプレイヤーの基本である。

 

 複数所持している無限の背負い袋の一つから、赤い色のポーションを探り当てる。

 

 下級治癒薬。HPを50回復させるゲーム最初期に何度となくお世話になるアイテムだ。しかし、アンデッドであるモモンガは、正のエネルギーでダメージを受けるため不要なものである。こういったアイテムは、ヌコネコのようにアンデッド以外の種族の仲間の回復に使っていたその名残である。

 

 赤いポーションをハムスケの口の中に注いでやると、力なく垂れていたヒゲがピンと張り、のそりと体を起こした。

 

「おお! 体の傷みが引いたでござる!」

「うーむ、流石に一本で全回復とはいかないか。なかなかHPはある方なんだな」

「えいちぴー? というのはわからぬでござるが、体力には自信があるでござるよ」

 

 二人は、焚き火を起すと新たにハムスケを輪に加え、新しい今後のプラン、主にハムスケの育成計画を練りながら夜を明かすのであった

 




早々にハムスケと合流させました。
亡国のときと似たようなメンタルなら仲間にしそうな気もする。
ここでは、立場上は同列なので「殿」ではなく「モモンガ殿」になっています。
多分、同列であったもハムスケは相手に「~殿」とつけそうな気がする。

そのうち、きちんとした猫妖精の種族的特徴を書かないといけないなと思っています。
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