死の支配者と猫妖精   作:スクゥーマ

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今回は、少々長くなっておりますが、最後まで読んでいただけると幸いです。


第5話 森の中の落とし物

 3人は、太陽が登り始めると同時にモモンガが発見した村のひとつに向けて移動を開始した。うまく行けば、夕刻前には村にたどり着ける計算だ。

 

「それにしてもマジックアイテムというのは凄いでござるな! 体中に力が漲っているでござるよ!」

 

 マジックアイテムを全身に装備したハムスケが、二人に話しかける。ハムスケが装備しているのは、すべて聖遺物(レリック)級のアクセサリーだ。まず精神操作無効のアイテム。これは、精神操作系の魔法に弱い魔獣系のプレイヤー必須の装備である。そこに、筋力などの基礎ステータスを上げるもの。そして、矢などの遠距離攻撃を防ぐもの、魔法の威力を減衰させるものだ。

 本来なら、防具なども装備させてやりたかったが、装備することで動きが鈍るようなので断念した。

 

「そのうち、パワーレベリングもしないといけないな」

 

 パワーレベリング。レベルの低い仲間を連れて強いモンスターを狩りに行くというユグドラシルでは一般的かつ効率的なレベリング作業だった。モモンガもヌコネコもしてもらったし、やってきたものだ。

 

「うんうん。でもハムスケってこの辺じゃ最強の生き物なんだっけか?」

「そうでござるなぁ。それがしより強い生き物には出会ったことがないでござるよ」

 

 そうなるとパワーレベリングはこの森ではできない。少なくともハムスケとのレベル差が10以上はあるところでレベリングをしないと効率が落ちる。

 

「ところでぱわーれべりんぐ・・・・・とはなんでござるか?」

「あぁ、それは・・・・・」

 

 モモンガがハムスケに説明をしようとした瞬間、先頭を歩いていたヌコネコがピタリと動きを止める。

 

「どうしました?」

「あの辺、なんかあるなーって思って」

 

 ヌコネコが、指差す方向の草むらに何かが転がっているのが見える。よく見れば、帯鎧(バンデッドアーマー)のようだ。

 

「鎧? なんでこんなところに?」

「捨ててったとかそういうのは無いっすよねぇ」

 

 ハムスケの話では、森の奥までは人間が入ってくることは無いという。まだ、目的地の村までは随分と距離があるはずだ。何故、文明圏の証でもある鎧が転がっているのはどういうことだろうか?

 モモンガは、先日調べた村の様子を思い出すが、鎧を装備した人間はどの村にもいなかった。洋服をきた農民たちばかりだったはずだ。

 

「ちょっと調べてきますわ」

 

 注意深くあたりを警戒しながら鎧に近づく。近づくにつれ嫌な臭いが鼻をつく。よく見ると鎧の首まわりに蜘蛛の糸のようなものが大量に付着している。

 その糸もかなりの時間が経っているのか、砂や埃に塗れて吹けば飛んでいきそうなほどボロボロだった。

 

(随分と時間が経ってるな。ってあっ)

 

 鎧を覗き込んだ瞬間、人間の胴体、それも中身が食い荒らされ空洞になっているものをもろに覗き込んでしまった。

 骨には、まだ肉がこびりついており、白い小さなものがウネウネと蠢いている。

 

「げぇぇぇっ‼」

「ヌコネコさん⁉ どうしましたか⁉」

「モモンガさん! コッチ来ないほうがいい! グロい! グロい! 鎧の中に腐った胴体だけ詰まってる!」

「いい⁉ そ、それ本当ですか⁉」

「めっちゃキモいっすわ!」

 

 ヌコネコが顔をしかめながら戻ってくる。

 

「あー、キモかったぁ。森の中で死んだ冒険者かな? どう思うハムスケ」

「そうでござるなぁ。このあたりまで入ってくるのは冒険者だと思うのでござるが」

 

 冒険者。ハムスケから聞いたこの世界の職業の一つだ。ハムスケもどんなことをしているのかは詳しくは知らないらしいが、まさにファンタジーものの王道職業だ。ユグドラシルにどっぷりだった自分たちからすれば、なんと夢のある職業だろうか。

 人間の住む都市に行くことができれば、なんとしても冒険者になりたいものだと二人に強く思わせた。

 

「うーん、首周りだけに糸着いてたし絞首刑蜘蛛(ハンギング・スパイダー)あたりに殺られたのかな? いればだけど」

 

 絞首刑蜘蛛(ハンギング・スパイダー)。ユグドラシルでは森の中を歩いていると突然降ってくるモンスターだ。ゲームを始めたての森によく出没し不意打ちによって束縛の状態異常や大ダメージを与えてくる初心者にとっては厄介な敵だ。

 

「ここに死体があるってことは、もしかしたら近くに故人のアイテムとか落ちてないかな? モモンガさんは、どう思う?」

「え? 本気ですかヌコネコさん⁉ 死体の周り調べるんですか? そういうの大丈夫なんですか?」

「そういうのって?」

「なんかグロめの死体を見たって言ってたのにすごく平然としてるから平気なのかなって思ったんですけど。俺はちょっとそういうのは・・・・・」

 

 ヌコネコは、モモンガに言われて気がついた。自分が平然としていることに。いや、正確に言うと感じないことはない。道端で車に轢かれて潰れた鳥の死骸をみて「うわぁ、グロいもの見たな」程度の若干の嫌悪感を抱いた程度だった。どちらかと言うと、腐った肉の臭いのほうが不快だった。

 

「モモンガさん、ちょっと待ってて。もっかい見てくる」

「え⁉」

 

 ヌコネコは再び、鎧の元に向かい中身を覗く。やはり軽い嫌悪感しか抱かない。リアルの仕事で死体を見ることなどまず無い。あったとしても死体処理の会社に連絡を入れておしまいだから、耐性がつくということは無い。

それに、どちらかというとホラー映画は苦手な方だ。タブラ・スマラグディナ推薦のホラー映画を恋人と見たことがあるが、あまりのビビリっぷりに恋人に笑われたくらいだ。

 

(マジか・・・・・これって、俺が異形種になったからか? 自分と全く違う種族だから何も感じない? 今の俺にとって人間は家畜とか虫と同じなのか?)

 

 死体をまじまじと観察しながら考え込むヌコネコを見て、モモンガはヌコネコの胆力に驚嘆していた。

 

(すっげぇなぁ。グロ死体なのによくそんなにまじまじと見れるよなぁ。俺だったら卒倒してるよ)

 

 モモンガも元いた世界では稀にストリートチルドレンの死体を見かけることはあるが、まだキチンと人の形をしているし、衣服も着ているのでグロさはない。そもそもそんなにしっかりと見ることはない。

 もしかしたら、今後グロ死体を発見することもあるかもしれない。その時は、申し訳ないけどヌコネコさんに任せよう。そう決意しているとヌコネコがもどってくる。

 

「うーん・・・・・モモンガさん、ヤバイことが分かったかもしれないっす」

「ヤバイって死体トラップですか⁉」

「いや、あれはただのグロ死体っすね」

「じゃぁ・・・・・」

「俺たち、体だけじゃなくて精神も異形種になっちゃったのかもしんないっす」

 

 そんな馬鹿な。ヌコネコの言葉に衝撃を受けるモモンガ。

 

「モモンガさん、ゴブリンを倒したときどう思った?」

「どうって、特にこれといって何も・・・・・」

 

 そう何も感じなかった。ゲームの中で敵を倒すのと同じように。だが、ゴブリンは知性を持ち、命乞いもしていた。そんな人間に近い知性体を殺したのに何も感じなかった。

 

「俺も人間じゃないからだって思ったんすけど多分、違うんすよ。ホントに虫でも潰す程度の感情しか沸かなかったんすよ。同じ言語を喋る生き物を殺してここまで何も感じないって、おかしくないっすか?」

 

 ヌコネコの言うとおりだ。もし、元いた世界だったら何か感じたような気がする。生き物を殺せば強い感情の揺れが起こるはずだ。ヌコネコの推測は正しいのかもしれない。

 しかし、この推測を確かめる方法は一つしか無い。だが、それを選択するのは非常に勇気がいる。

 

「ヌコネコさん、これでめちゃくちゃ気分悪くなったら怒りますからね」

「うん。その時は存分に怒られる」

 

 モモンガは、意を決して鎧に近づいていく。嫌な臭いが鼻につく。ふーっと大きく息を吐き、チラリと中を覗く。

 

「グロォッ‼ ってあれ? 思ったより・・・・・ううん?」

 

 想像以上に凄まじいものを見て驚きはしたが、一瞬で気分が元に戻る。ここに来てから自身に起こる現象で、良くも悪くも感情が一定以上に動くと途端にフラットなものに戻る。

 二人であれこれと考えたが、結論としてアンデットの精神作用無効によるものではないかということで納得はした。

 その現象を差し引いても、何も感じない。ただの少し気分を害する程度のものだ。どんなに見つめても感情は動かない。

 

「何も感じないっしょ?」

「確かに何も感じないけど、思った以上にグロくて驚きましたよ! あとむちゃくちゃ臭いじゃないですか!」

「そこは、ごめんて」

 

 二人のやりとりを不思議そうに眺めていたハムスケが二人に尋ねる。

 

「おふた方、死体がそんなに珍しいでござるか?」

 

 当然の疑問だろう。生き物の死体が転がっているというのは、ハムスケからすればあまりにも日常の出来事であり、二人の反応が異質に見えたのだ。

 

「まぁ、そりゃこういうのはちょっと」

「普通に生活してたらこんなグロ死体は見る機会ないですしね」

「そうなのでござるか?」

「そうなのでござるよ」

 

 ヌコネコの答えに素直に納得するハムスケ。ハムスケは素直で単純だ。二人が何者なのかということを説明しても深く疑問を抱かず「不思議な話でござるな」と納得してくれた。ただ、あまりにも素直過ぎて誰かに簡単に騙されるんじゃないか? と若干の不安を覚えたくらいだ。

 

「とりあえず、この近くを少し探索してみねぇっすか?」

「わかりました。でも、何も感じないとはいえ、こういうのは勘弁して欲しいですね」

 

 死体を中心に全員で周囲を調べ始める。ヌコネコは、神経を集中して、注意深く地面や草陰を観察する。森の中での探索は、盗賊系特殊技術を所持するヌコネコにとっても、得意な分野ではない。盗賊系の本領は、ダンジョンなど屋内での探索だ。こういった森などの屋外での探索はレンジャー系のほうが得意とする分野である。

 

「これは? なんか見つけたでござる!」

 

 ハムスケが手にしているのは、紐のついた銀色の板だ。表面と裏には何か文字のようなものがほってあり、おそらくはネックレスのようなものだろう。

 だが、アクセサリーとしてはあまりにも飾り気がない。だからといって何か魔力を感じるものではない。

 

「なんだろうこれ? うーん、マジックアイテムとかじゃ無さそうだけど」

「装飾品ってわけでも無さそうっすね。てか、これアルミ?」

「銀っぽそうですよ? ほら、簡単に傷がつきますし」

 

 モモンガが両手に軽く力を込めると簡単に変形する。

 

「俺たちの今の力でやったら大概の金属は簡単に傷つくっしょ」

 

 モモンガもヌコネコもゲームの数値上では筋力は高い方ではない。だが双方ともLV100ともなればそれなりの数字にはなっている。

 今の二人は、数百キロ超えるハムスケを軽々と持ち上げることができる。その力をもってすれば、ミスリルのようなファンタジー金属はわからないが、鉄など馴染みのある金属くらいなら変形させることも容易い。

 

「ははは。それもそうですね。じゃぁ、この文字の解読といきますか」

 

 そういうとモモンガがインベントリに手を突っ込み、モノクル型のアイテムを取り出す。文字を解読するためのアイテムで、モモンガはこれ一つしか持っていない。その手の魔法の習得は、ユグドラシル時代に嘲笑を浮かべて一蹴した。スクロールがあるから、使いみちの無い魔法はそれで代用するよと。しかし、こんなことになって必要になる時が来るとは思っても見なかった。

 安心すべきは、様々な場所を偵察する探索チームの一員として参加することの多かったヌコネコがこの手の便利アイテムを引退していった仲間から貰ったものを含め数多く所持していることだ。最悪、このアイテムを無くしてもなんとかなるという安心感は非常に大きい。

 

「えーっと、シルバー級? 裏面は・・・・・デバイ・ノードック?」

「シルバー級? 級ってことは、階級ってことだとして、裏面は名前なんすかね?」

「でしょうね。となると、これは認識票の類ってことになるのかな」

「だとしたら、あの死体からそれほど離れてないところにあったわけだから、さっきの死体の認識票じゃないかっすか? だとしたら、冒険者? ハムスケはなんかわかるか?」

「思い出したでござる! 以前、それがしと戦った冒険者たちもこれと同じようなものを装備していた気がするでござる」

 

 ハムスケの言うことが正しい場合、この認識票は冒険者が所持しているものだ。となると、こういった認識票を配布する組織が存在するということになる。それが国家の運営する組織なのか、互助組織として民間が運営するものかだ。どちらにせよ、冒険者のための組織が存在するようだ。

 その考えに至った瞬間、二人のテンションがおおいに上がる。まさにファンタジー世界のド定番組織。仲間と力を合わせ困難を乗り越える。夢とロマンを求め未知の世界を切り拓くユグドラシルそのものだ。

 

「うわ、やべぇ! テンションあがってきた!」

「冒険者かぁ。フフフッ・・・・・面倒くさいクレーム処理も残業もない! さいっこうの仕事じゃないですか!」

「それな! ついでに、上司のご機嫌伺わなくていい! アホな部下にやきもきしないでいい!」

「ストレスフリー! 夢しかない!  やっほーい!」

 

 上がったテンションは即座に沈静化されるが、それでも次から次へと湧き上がってくる期待は、モモンガの心を満たしていく。

 ヌコネコもこのファンタジー世界にしか無い夢の職業に就ける思うと子供のように胸を高まらせる。

 

「とりあえず、認識票は持って行きましょう。もしかしたら、あの人の仲間とか家族とか喜ぶかもですし」

 

 二人は、その後も冒険者の痕跡を求め、周囲を探索すると、破れた革鞄や鞘に収まったままの剣を発見した。

 剣は、特に魔力のかかっていない鉄製の剣。鞘から引き抜くと細かいキズが見てとれ使い込まれた武器だということがわかった。鞄の中には、毛布、水袋、コップ、皿、お椀、小型のナイフ、ふるとカチャカチャと金属音のなる小さな革袋が二つ、おがくずの入った袋、瓶に入った青い液体。

 モモンガが、青い液体の入った小瓶を指先でつまんで軽く振ると、底にうっすらと溜まった沈殿物がふわっと動く。

 

「なんだこれ? でも微かに魔力の反応があるなぁ」

 

 青い小瓶にアイテムの効果を鑑定する魔法、<上位道具鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)>をかける。するとモモンガの脳内にアイテムの情報が流れ込んでくる。即座に、道具にかかっている魔法的効果を探る魔法<上位付与魔法探知(オール・ディテクト・エンチャント)>をかける。

 

「これはポーションですね。効果としては、第一位階魔法の小傷治癒(キュア・ウーンズ)

「え? それポーションなんすか? 色が青いっすね」

「この世界のポーションは色が違うんですかね? 薬草を使った溶液と魔法で作られているようですけど」

「んんん? ポーションって錬金術師が魔法で作るものじゃなかったっけ?」

 

 二人がよく知るポーションの製造方法は、錬金溶液と素材アイテムを組み合わせ、そこに魔法をかけて製造する方法。二人は、生産職ではなかったので詳しい話は覚えていないが、組み合わせが多すぎて試すのが楽しいと錬金術師のクラスを保有していたギルドメンバーの誰かが言っていたのを思い出す。

 

「ユグドラシルとは全く違う製法ってことか? それに回復効果も低い。下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)よりもさらに下だし」

 

 モモンガは、初めての異世界アイテムを手に感動を覚えていた。これからどれほどの未知のアイテムを入手できるのだろうと。

 

「じゃぁ、こっちの音のなる袋なにが入ってんすかね?」

 

 軽い方の袋を開けると三角形の鉄の板、石ころが入っている。二人はそれを見て、首を傾げる。

 

「ナニコレ? なんに使うのコレ」

「鉄の板に石ころですよね・・・・・」

 

 袋に入れられていることから大事なもののようだが、マジックアイテムでもないようだ。とりあえず、<上位道具鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)>を使って何なのかを判定する。

 

「火打金と火打ち石?」

「おお! なんかアニメとか時代劇で見たことある‼」

 

 二人は、子供のように目をキラキラさせながら、火打ち石と火打金をぶつけて火花を出す。

 

「火花! 火花でた!」

「すげぇ! 本物だ!」

 

 火花が出る度に大人二人が声を出して大はしゃぎしている。こんな小さな火花からどうやって火を得るのだろう。 そして、誰がこの方法を発見し、多くの人が使うようになっていったのか? 二人は人類の知恵というものにロマンを感じていた。

 

「こんなんでよく火なんて起こせますよね。どうやってやるんですかね?」

「ほんと、魔法でボンってやれば一瞬なのに。この世界の人間って魔法使えないとかじゃないっすか?」

「いや、ハムスケも使えるんだし、それはないでしょ」

「人間も魔法は使うでござるよ」

「マジかー。じゃぁさ、こっちの重い方は何が入ってるんすかね?」

 

 ヌコネコが袋を開けるとたくさんの銅のコインの中に銀のコインが十数枚、一枚だけ金のコインが入っていた。

 ヌコネコがコインをつまみ上げじっくりと眺める。丸い・・・・・といっても、どれもが不格好で真円というわけではない。丸めた金属を伸ばし棒で伸ばしたような不格好なものだ。コインは、鳥や男性の顔、紋章のようなもの、それに文字のらしきものが描かれている。表面には細かいキズが多数あり、ものによっては多少変形している。どのコインも薄汚れており、輝きは鈍い。

 

「これ、この世界のカネじゃね?」

「だとしたら金貨だけじゃなくて、銀貨と銅貨もあるんですね」

 

 ユグドラシルのゲーム内通貨は、新旧の2種類があり、両方とも金貨のみで綺麗な装飾が施されていた。目の前のものと比較すれば、もはや芸術品といっていいぐらいだ。

 

「現地マニーゲット! でも、これどのくらいの金銭的価値あるんすかね?」

 

 この世界の物価がどのくらいかわからない以上、手に入れた現地通貨がどのくらいの価値をもつのか。結構な額を所持しているのか、それとも大した額ではないのか。ヌコネコがそれについて考えていると、モモンガが明るく話しかける。

 

「それを調べるのもちょっと楽しみじゃないですか? 未知を既知にするのが冒険でしょ?」

「確かに。村に行ったときに確認しましょうか。でもさぁ、互助組織みたいなとこに認識票を返したらさ、金も含めて遺品を全部返せって言われないっすかね?」

「まぁ、そこは認識票を回収してきた対価ってことでいいんじゃないですか?」

「そりゃそうっすね。それに黙ってりゃバレんわな」

「じゃぁ、使えそうなものだけ回収してあとは捨てていきましょうか」

 

 モモンガは、現地通貨と青いポーション、鉄の剣をインベントリに放り込む。剣は一応の遺品として、特に追求されなければ売り払うつもりだ。青いポーションも二人にとって価値は無いが、剣と同様、後で売れば金になるだろうという判断でだ。

 

「ところで、この人なんでおがくずなんて袋に入れて持ってたんだろ?」

「あれじゃね? なんかいい香りするから持ってたとか」

「えーっ、それは無いでしょ」

「でも昔、かぜっちが木のアロマでストレスが和らぐとか言ってたし」

「かぜっち・・・・・あぁ、ぶくぶく茶釜さんかぁ」

 

 かぜっち、声優であるぶくぶく茶釜が昔使っていた芸名のあだ名だったはずだ。一部のメンバーが彼女をそう呼んでいた。

 

「ストレスかぁ・・・・・」

 

 いつどこでモンスターとエンカウントするかわからない森の中では、常時強いストレスにさらされているだろう。なら、そういうストレスを低減するアイテムを所持しているというのは納得のいく話だ。

 

「火打ち石と火打金どうする?」

「うーん、楽しませてもらってなんですけど、オレたちには必要無いものですし、何より使い方もわからないですからね。捨ててきましょう」

「おけおっけ」

 

 二人は、故人に形だけ手を合わせると、再び村に向かって歩き始めた。

 周辺探索を優先したため、太陽は頂点を過ぎ、時間はすでに15時を回っていた。ハムスケの感覚が確かなら、1時間もかからず森を抜けることができる。そこからおそらく20分ほど歩けばモモンガが発見した村の一つにつくはずだ。

 森を抜けると、どこまでも続く青空と何もない平野。しかし、村があるはずの方向の空に黒煙がいくつも立ち上っているのが見える。

 

「なぁ、モモンガさん、あれ絶対夕飯の支度してるわけじゃないっすよね」

「え、えぇ、そう・・・・・ですね」

 

 嫌な予感しかしない。昨日確認した時は、異変らしきものはなかったはずだ。モモンガは、対情報系魔法から身を守る魔法を複数発動させると、<千里眼(クレアボヤンス)>そして、モモンガが得た視覚情報を共有するために<水晶の画面(クリスタル・モニター)>を発動させる。

 

「昨日確認した時は無事だったのに・・・・・」

 

 二人の目に飛び込んできたのは、多くの建物が焼き尽くされ、焦土と化した村。どの家も崩壊し、そこかしこに村人の死体が無残にも打ち捨てられている。

 

「ひでぇな」

「老若男女お構いなしみたいですね」

 

 やはり異形種になったからなのか、この凄惨な光景を映画のワンシーンのように冷静にみていられる。

 

「でも、なんでこんなことに? 戦争っすかね?」

 

 昨日まで無事だった村が一夜にして滅ぼされる。異常な事態ではあるが、戦争などであれば納得はいく。また、他に考えられる可能性としては、疫病、犯罪、見せしめなどだ。

 しばらく村を観察していると、数名だが生きている人間を発見する。しかし、どの村人も泣くでもなく、怒るでもなく力なく座り込み、呆然としているだけだった。

 

「生き残りの人を助けにいきましょう」

 

ヌコネコがそう言ったとき、モモンガはヌコネコらしいなと思った。元々、たっち・みーと特撮系SNSで親しく、彼の紹介でギルドに入ってきた。そのため、たっち・みーとよく似た趣味嗜好を持ち困っているものを放ってはおけない性分だというのもよく理解している。

 

「俺だってメリットとか無いってのはわかっているんすけど、やっぱさ」

「困っている人がいれば助けるのは当たり前・・・・・でしょ?」

「モモンガさん・・・・・そうっすね!」

 

 モモンガは、フッと笑う。異形種の肉体となり精神もそれに近くなってきている。だが、人間の残滓のようなものを少しは大事にしてもいいと思っている。

 

「行きますよ!」

 

 モモンガが、転移門(ゲート)を発動する。下半分を切り取ったような漆黒の楕円が地面から浮かび上がる。

2人と1匹が転移門の中をくぐると、廃墟となった村の近くに転移する。転移阻害は無い。ヌコネコがすかさず周囲の気配を探るがこちらも特に何も感じ無い。それでも周囲に気をくばりながら村へと急ぐ。

 村に近づくほどに、焼け焦げた木の臭いと、何か嗅いだことのない薬品のような臭いがする。燃え尽きた家の前で呆然としていた男が足音に気づいたのかモモンガたちの方を見る。

 

「大丈夫ですか?」

「ひっ! ひあぁぁぁぁ!?」

 

 モモンガたちを見るなり、男は顔を引きつらせ声を上げる。真っ青な顔が更に青くなり、全身をガクガク震わせ尻もちをついたまま後ずさる。

 

「あっ・・・・・アンデッド・・・・・」

 

 男の目がモモンガと後ろにいるハムスケ、そしてヌコネコへと目まぐるしく動く。

 

「えぇ・・・・・」

 

 モモンガの精神が沈静化する。ハムスケに続いて人間にもか。そんなにこの外見怖いのかよと。

 

「いや、大丈夫ですよ! こいつ、ちょっと見た目怖いけどいいヤツなんですよ! 俺たちさ、みなさんを助けにきたんですよ! な?」

「そっ、そうです。オレ達は、たまたま通りかかったもので・・・・・」

 

 全力で、優しい声を出して近づこうとするが、その度に「ヒッ」と声を上げて男が後ずさる。やがて、異変に気づいた何人かの村人がノロノロとこちらにやってくるが、モモンガを見るなり腰を抜かして尻もちをつく。

 

「このままじゃ埒が明かないっすね。よし!」

 

 ヌコネコが背中に背負っていた忍者刀をモモンガに手渡すと、両手を上げて村人の方に向かって歩いていく。

 

「みなさん、大丈夫ですよー! 俺たちはただの旅人です! どうか話しを聞いてもらえますか?」

「ほっ、本当なのか?」

 

 わざわざ武器を置いて両手を上げ、近づくヌコネコに村人は若干警戒を緩めたのか、返事をする。

 

「えぇ。俺たちが皆さんを安全な場所にお連れしますよ」

 

 

 

 

 

 生き残った村人は6名。内訳は、男1、女2、子供3。下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を使って傷を治療しようとした時、人間の血を使った呪物じゃないのかと疑われもしたが回復薬だとわかると手のひらを返したように感謝された。村人の傷を癒すと、多少怯えの色はあるものの、とりあえずは落ち着いてくれた。

 

「私の名前はモモンガと言います」

「自分は、ヌコネコです」

「それがしは、森の賢王ハムスケでござる」

 

 森の賢王と名乗ったハムスケに村人たちは心底驚いた表情を浮かべる。ハムスケはこの近隣では名のしれた魔獣のようだ。

 そして、生き残りからことの経緯を聞くことが出来た。この村は、ペルデン村といい、どこにでもある平凡な村だという。

早朝いきなり鎧騎士の集団に襲われ村は焼き払われたという。鎧についていた紋章から、この村が属するリ・エスティーゼ王国と毎年戦争をしているバハルス帝国の騎士ではないかという話だ。

毎年、戦争をしているとはいえ王国の領内に侵入し村を焼き払うといったこと今まではなかったらしい。

 

「なんでまた急にそんなこと始めたんすかねぇ?」

「戦略を練り直したのかはたまた別の理由か・・・・・」

 

 なぜ、村が襲われることになったのかは、情報が足りず判断はつかない。だが、同じことをするつもりなら周辺に軍を展開している可能性が高い。

 うまく帝国軍をやり過ごしつつ、村人たちを安全な場所に連れて行かないといけない。安全な場所となると村よりは街、街よりは都市だ。

 

「ここから一番近い街か都市はどこになりますか?」

「一番近い都市ですとエ・ランテルになります」

「では、エ・ランテルまであなた達を連れていきましょう」

 

 その言葉に、生き残りたちがおおっと声をあげる。

 

「お、お願いがあります! どうか、エ・ランテルに行く前に一度カルネ村に、この近くの村に寄っていただくことはできませんか!?」

 

 生き残りの女の一人が声をあげる。

 

「おい! お前何を言ってるんだ!」

「そ、そうだぞ! エ・ランテルまで連れて行ってくれるだけでもありがたいってのに!」

「カルネ村には嫁いでいった姉がいるのよ⁉ それに小さい姪たちも」

「この方たちの気が変わったらどうするの⁉」

「差し上げられるものはこれしかありませんが、どうか、どうかお願いします!」

 

 女性がモモンガたちに頭を下げ懇願する。そして、彼女が差し出した手には鈍い銀色の指輪が乗っかっている。おそらくは結婚指輪か何かだろう。夫との思い出となるような品物を差し出してまでもカルネ村に一度寄りたいということか。夫を亡くしたであろう彼女にとっては、血の繋がる姉と姪たちが唯一の親族だ。安全を確認したいのだろう。

 しかし、寄り道は敵との遭遇のリスクを大きく上げてしまう。それに、カルネ村が無事かどうかの保証もない。場合によっては彼女にはより辛い結果になる可能性もある。ヌコネコをチラリと見ると目があった。彼が言いたいことはわかる。

 

「その指輪は受け取れません」

 

 モモンガの言葉に女の顔が絶望に歪む。

 

「それは、奥さんにとって大事なものでしょう? そんなものを受け取るわけにはいきません」

「で、ですが」

「カルネ村によりましょう。ですが、覚悟はしておいてください。この村のようになっている可能性も十分にありえますので」

「ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」

 

 その言葉を聞き、地面に額を擦り付けて礼を言う女性。ヌコネコの方を見るとグッと親指を立てる。

 

(あんな頼み方されたら断れるわけなないよな。それに、こうなったら最後まで面倒をみてやろうじゃないか)

 

 モモンガたちは、村人たちとともにカルネ村に向かう準備を急ぐのだった。

 




 オール電化があまりにも一般的でガスも話でしか聞いたことのない世界の人なら火打ち石と火打金を使った火起こしはわからないかなと。
 迷推理するヌコネコも大概ポンコツです。

 仲間と一緒かつナザリックが無い状況ならモモンガも鈴木悟として人間味あふれる行動をとるんじゃないかなと思っています。
 なので、わりと善人な行動をしますが二人ともメンタルは異形種なのでやる時は・・・・・ね?


次回は、カルネ村に到着します。
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