虚構のウマ娘   作:カイルイ

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第4話:夢

マイティフッド

東京トレーニングセンター学園

 

美浦寮

 

意識が戻ってくる。

最後の記憶はトレーナーの膝の上で目をつむったことだ。

 

いつの間にか自室にいた。

 

「お。眠り姫のお目覚めだね」

ベットに腰を掛けたエクスカリバーは穏やかに微笑む。

 

「あら。いつの間に?」

 

寝落ち特有の記憶喪失になっていた私は、思考停止になる。

 

「トレーナーさんが届けてくれたんだよ」

「それで寮長さん経由で私のもとさ」

 

ほら、急いでシャワーを浴びておいでよ。もうすぐ時間すぎちゃうよ」

 

 時計を確認すると急いで浴場へと向かう。

 

頭から湯を浴びながら今日一日の出来事を整理する。

 

 選抜レースで勝利し、専属のトレーナーが付いた。

 

夢なんじゃあないかと今でも思う。

 

部屋へ戻るとエクスカリバーが食事を用意していてくれた。

この時間では食堂は閉まっているので、買い置きしてくれたようだった。

 

「いやーコンビニめしで悪いねー」

とエクスカリバーは頭を搔きながら言う。

 

サンドイッチとお茶が並んでいた。

「ありがとうカリバー。わざわざ買いに?」

 

「わざわざというほどでもないよ」

「自分の用事のついでさ」

 エクスカリバーはにこやかに言うが、だとしても彼女のやさしさが染みる。

 

私は改めて礼を言い食べ始める。

 

食べ終わったところで、消灯時間が近づく。

布団に入ってもなおなかなか寝付けなかったのだった。

 

 

東京トレーニングセンター学園

マキダテッペイ

 

今日がトレーナーとして彼女とかかわる初日だ。

いろいろと確認事項もある。

 

だが、面倒臭さより気持ちの高ぶりが勝っていた。

 

「入りますわね」

ノックの後、澄ました表情でフッドはやってきた。

 

 

「昨日はいろいろとご迷惑をおかけしたみたいで」

と、気にしているようだった。

 気にしてないよと笑顔で返す。

 

「トレーニング前に確認しておきたいことがあるんだ」

急ではあったが、話題を振る。

 

「何かしら?」

フッドは少し首をかしげる

「自己紹介がまだだったね」

「僕はマキダテッペイ。実は得手不得手がはっきりとある」

そして、

・自分が本来はOP戦などを中心にコツコツと確実な勝利を目指すトレーナーであること。

・G3以上の重賞レースは経験も少なく勝率も悪いこと。

・それが理由でウマ娘達がチームを離れたこと。

を中心として過去のいきさつを説明した。

 

「あら。そうなんですのね」

と不思議そうにしたのち、

「どうして自分が不利になりそうなことを先に?」

とさらに不思議そうにしていた。

 

「こういうのは先に言っておかないとね」

頭を掻きながらそう言われればそうだと感じるのだった。

 

「そういえば何か出たいレースはあるかい?」

「夢のレースとかさ」

 

彼女は少し悩んで、

「特に今は…レースで勝てればそれで…」

言葉を濁しつつ曖昧に答える。

 

「ほんとのところは?12冠?」

とかなり無茶に言う。

 

緊張がほぐれたのか、フフっと笑い

「キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス…」

小さな声で確かにそう呟いた。

 

「わお!」

あまりに突然で純粋に驚いてしまった。

 

「やっぱり難しいですわね」

と遠慮する彼女であった。

 

「いやー。3冠とかと予想していたものだからついね」

KG6&QES。イギリスで開催されるヨーロッパを代表する中距離G1。

 

現在のところ日本のウマ娘で制覇したものはいない。

過去にあのエアシャカールなどの優秀な者たちが挑んだが…。

 

「フッド。そのレースに出たいのか?勝ちたいのか?」

「どっちだい?」

 

彼女の眼はまっすぐこちらを見つめたまま

「勝ちたい」

そう言った。

 

「やれるだけやろうか」

そういうと彼女は静かにうなずいた。

 

「で。なんだけれど」

「いきなりホイホイと出られるものでもないから、直近の目標を決めたいんだけど」

そういうと

 

「それなら今年は3冠路線で攻めたいですわね」

とシリアスな口調からいつもの調子に戻る。

 

「まあ。今からですとダービーと菊花賞かしら」

ちょっと残念そうに言う。

 

これには訳ありなのだ。

そもそもマイティフッドは今だ未勝利なのである。

 

つまるところ

 

未勝利戦に勝利

  ↓

1勝クラスなどの条件戦勝利

  ↓

OP戦勝利

  ↓

重賞挑戦

  ↓

G1挑戦

 

といった流れが現実的であろう。

しかしその目標とする皐月賞までにはこの条件はクリアできない。

 

「そうだな…さすがに難しいな…」

と肩をすくめる。

 

「よし。なら直近の目標は青葉賞だ」

「そこで1~2着入りしてダービー出走を狙おう!」

 

「そのためには今週末の未勝利戦に挑戦といこう」

「なかなかハードだけどな」

 

彼女を見るとサムズアップをしていた。

「よっし!それでいきますわよ」

「では」

張りきった彼女はなぜか唐突に服に手をかける。

 

「こら」

恐らく暴走したであろう彼女にストップを呼びかける。

 

「大丈夫ですわ!制服の下にすでに着ていましてよ」と胸を張る。

が、「モラルとしてよくないから更衣室で着替えてきなさい」

と注意する。

「Oh」

謎のネイティブ発音に困惑しながら彼女を見送る。

 

「しかし…」

正直KG6&QESというのは驚いた。

海外G1の経験なんて自分にはないのだ。

国内だってそれほどだ。

 

かなり気合を入れる必要があること感じ、若干震えていた。

 

20秒くらいして

 

「さあ。マキダさん。どんなトレーニングですの」

 

「今日からはとにかく体力とパワーメインでやっていこうと思う」

「現時点で十分なスピードはあるからね」

 

そしてトレーニング内容を伝える。

彼女はターフに入ると別人のようになる。

以前の競技の癖か、一礼をしてからターフに入るさまを見るとウマ娘としての威厳を感じる。

 

芝をダートを駆けてゆくその様は美しいの一言であった。

少しカールのかかった栗毛をなびかせ一歩一歩をしっかりと。

まるで地面をつかむように走る。

 

今まで担当したウマ娘には失礼であるが、目を離せない話したくない魅力を感じた。

そんなフッドを日が暮れ、トレーニング終わるまで見ていた。

 

「終わりましたわよ」

 

ちょっと息を切らしたフッドがやってくる。

 

「よし!今日は終わり!」

その後、1時間ほどミーティングと反省を行って解散となった。

 

「いいかいフッド。これが僕のトレーニングのルーティーンになるからよろしくね」

 

「ええ。わかりましたわ」

 

彼女は荷物をまとめると一礼してトコトコと小走りに去っていった。

 

自分も反省記録をつけレース記録などの調査を行った。教員室には同僚がまだ残っていた。

 

以前私にフッドの担当はやめておいた方がよい言った奴だった。

 

「おお。まだ残っていたのか」

そう声をかけると書類とにらめっこしていた。

 

「ああ。マキダか。ちょっとな終わりそうにねえや」

諦めの笑顔を見せる。

 

「定時ダービー組のお前が珍しいな。トラブルか?」

定時になると一斉に帰宅する者たちのことを一部ではそう呼んでいる。

悪いわけではないのだが、中にはやりっ放しや部下に押し付けての出走者が多いのも事実で嫌味でそう呼ばれている。

 

ちなみに彼はいい加減に帰る。

トレーニングもちょっと真剣さがたりないやつだった

「いやそうじゃないよ。今度担当するウマ娘の娘のデータだよ」

 

「お?この前の注目株か?」

グランドツアラーやヒノモトサムライかと思ったが、全く予想外のウマ娘だった。

 

「そんな出来上がったのはうちには来ないよ」

「このランフェティバルって娘はなかなか厄介なんだよ」

肩をすくめる。

 

データ上は確かに優秀とはいいがたいものだった。

「だけどよ。何の疑いもない目でよG1走りたいなんて言われたら断れねえんだよこっちは…」

 

顔は見えないがなんだか悲しみを感じる。

いつになく真剣だった。

 

「デビューできるかすら怪しいのによ…」

かみ殺すような小さい声だった。

 

「俺よ。まだまじめな心が残っていたみてえだわ」

同僚はそう言いうと、同クラスのウマ娘の過去の勝利記録などを調べ始めていた。

 

「ほどほどにな」

そういって部屋を出るのだが、彼だけでなく自分のフッドについても不安に思うのだった。

 

今思えば大層な約束をしてしまったものだ。

「叶わない夢は追わない」それをモットーとして生きてきた。

だからこそ、「夢ではなく目標にする」努力をしてきたし、させてきた。

 

しかし、夢のまた夢は経験がない。

絵に描いた餅を本物の持ちにする力は誰も持っていない。

後は彼女を信じるほかないのも事実だった。

 

私たちトレーナーは人一人の人生を握っている。

いい加減なトレーニングやレーススケジュールは組む訳に行かないのだ。

 

だからこそ…

 

まずは眼前の未勝利戦を確実に勝ち上がらなければならないのだ

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