クラミーの声と同時に、黒の駒達は一気に前進し始める。
白の駒と向かい合った所では直ぐに戦いが起こるが、あっという間に黒色にされてしまう。
(これはホントに不味いかもな・・・・)
クラミーの反撃と同時に勢いを失ってしまった白い駒達を見ながら、シェイナは焦りの表情を浮かべる。
「敵の王の首を取りなさい、クイーン。これでチェックメイトよ」
焦っているシェイナをさらに追い詰めるように、クラミーは冷たい声で言った。
前線で堂々立っている黒のクイーンは持っている剣を片手で大きく振り上げて、地に足を着いて絶望の状況の白のキングに向ける。
剣が勢い良く振り下ろされ、キングに当たるか当たらないかまできたその時ーーー、
「ま、待った!!」
このままでは確実に負けると判断したシェイナは高台から出来るだけ手を伸ばして、剣を振り下ろしたクイーンに向かって叫んだ。
「お、お兄様!?」
今まで聴いたことのない兄の叫びに隣のステフも驚く。
「女王よ、良く考えて欲しい」
シェイナはそう言うと、隣の階段を一段ずつ下りながら続けていった。
「貴女の王は貴女が仕えるに値する人なのか?我らの兵を洗脳し、自分の兵を道具としか見ていない王に貴女の剣は本当に相応しいのか?」
シェイナが熱心に語っていると、いつの間にか盤上ではなく、広大な砂漠で互いに睨み合っている白と黒の駒達の風景がここにいる皆に見えてきた。
その砂漠の真ん中で黒のクイーンは自分達とも敵とも違う、まるで異国の将校の様な格好のシェイナの話を驚きの表情で聞いている。
「もう一度考えて欲しい!貴女の本当に守るべき人は一体どこにいるのか!?」
それを聞き、大きく眼を見開いたクイーンは手に持っていた剣をゆっくりと離した。
カチャンと砕けるような音を出しながら、剣は盤上に落ちた。
同時に己の過ちに気づいたクイーンは自らの体の色を白に変えた。
(これはチェスでもなんでもないな)
シェイナはクイーンが白色になったのを確認すると、少し勝ち誇った顔でゆっくりと階段を上った。
「敵のクイーンを仲間にしましたわ!!これで、形勢逆転ですわ!!!」
事を上から見ていたステフは喜びの声で言った。
「いや、まだだ」
「え?」
階段を上り終え、自分の隣に戻ってきた兄にステフは疑問の声を上げる。
「相手は触れただけで洗脳できる。俺等の駒が一つ増えたところで、状況は同じさ」
「ど、どうすれば・・・」
シェイナの冷静な言葉にステフの心にも再び不安が現れる。
(どうしような・・・。まだ方法があるっちゃあるが
表情からはあまりわからないが心の中ではシェイナは予想以上に焦っていた。
「お兄様」
「!!」
何かにとりつかれたように考えていたシェイナの手を、ステフはゆっくりと握った。
それにハッと気づいたシェイナはゆっくりと顔をステフに向けると、「安心してください」と言う様な笑顔を作っていた。
「安心してください、お兄様。私が付いてますわ」
「ああ。顔に出てるよ」
シェイナはそう言うとステフの手をぎゅっと握って、俯きかけていた顔を上げて盤上を見た。
その時の一瞬の圧力でクラミーは少し怯む。
(駄目よ、ひるんでは・・・!)
「ナイト!敵に寝返ったクイーンを斬りなさい!!」
クラミーは人差し指でクイーンを指しながら、堂々と言った。
「「!!!」」
黒のナイトは目の前の白になった黒のクイーンの前にいるが、クラミーの命令通り斬りつけようとはしなかった。
「どうしたの、ナイト!早くクイーンを斬りなさい!!」
ナイトはクラミーの命令が聞こえているようだったが、実行に移すことが出来ないらしい。
ナイトが少し震えながら固まっていると、目の前のクイーンは体を反対に向けてナイトと向かい合った。
そのまま地面に倒れこんだナイトはどこか泣いているように見えた。同時にないとの体が黒から白に変化する。
「な・・・ッ!!」
クラミーはまたまた予想外の出来事に言葉を失う。
(これだ!これならイケる!!あとは本の最後に書いてあったあれで・・・)
シェイナは左手で小さくガッツポーズをして口元を緩めた後、再びステフを抱き寄せた。
「お兄様!?」
「ステフ、
「・・・!はい!!」
シェイナの反撃が始まる・・・かも。