完全に勝ち目の無くなったクラミーはドサッとその場に膝を着いた。
(ごめんね、クラミーちゃん。俺はもっとつらい体験を五年もしてきたんでね・・・。こんな生半可なことでは負けられないんだ・・・・)
勝負が決したチェスの盤上には、クラミーに使われていた魔法が解けたものか、あるいは他の何かが雪の結晶の様に舞っていた。
「こ、この勝負!シェイナ・ドーラの勝ち!!!」
審判が片手をシェイナの方に向ける。
シェイナはステフの方を向いて、少しだけ笑顔を作る。
ステフはまた、叔父との会話を思い出した。
「爺ちゃんは信じておる、その様な者が現れるのを。最弱ゆえに強さを背負う者、最弱故にに真の強さと渡り合える者。それがイマニティの希望----可能性なのじゃよ」
「可能性・・・」
頬に添えられていた叔父の手が離れていくのを確認すると、ステフはゆっくりと目を開けた。
「ハッハッハッ・・・。良く似合っているよ、ステファニー」
叔父の言葉にステフは頬を赤らめる。そして満面の笑みでその言葉のお返しをした。
「んッ・・・」
突然後ろから何かを押し付けられたステフはハッと我に戻る。
押し付けられたものに視線を向けると、それはあの時の思い出の服だった。
そして直ぐに顔を上げて、いつの間にか自分の後ろにいたシェイナを見上げる。
「これが、爺さんが信じていた可能性だろうな」
「お兄様・・・」
「人類種を信じ続けた爺さんは間違っていなかった。これで罵られずに済む、一段落だ」
シェイナはしゃがんでステフの前に手を差し出した。
ステフはその手にゆっくりと自分の手をかざすと、今にも涙が零れそうな顔で笑った。
「はい!!」
ステフは直ぐに泣き崩れて、両手で目を隠しながら泣いた。
「ありがとうございます・・・・お兄様」
かすれかすれの声でステフは呟いた。
シェイナがゆっくりと頭を撫でると、ステフは体を寄せた。
「・・・一体、どんなペテンを使ったの?」
いつの間にかこっちに来ていたクラミーが兄妹の空気を壊すように靴を鳴らして近づく。
「・・・は?」
シェイナはステフを撫でるのを止めて、クラミーの方を向くと立ち上がった。
シェイナの返事に驚いたクラミーはさらに問い詰めた。
「・・・まさか人類種だけで森精種の魔法を破ったっていうの?」
シェイナは表情一つ崩さず、クラミーの顔を見ていた。
その顔にはシェイナと同じで感情が表れてはいなかったが、目には怒りの色があった。
「・・・よくわかったね。流石クラミーちゃん」
「・・・・!」
クラミーは少し動揺しながらシェイナとステフを交互に見た。
「まあ実際、人類種の為に森精種の力を使うっていう考え方は悪くない」
「だったら・・・!!」
シェイナは鋭い目でクラミーを刺すように見つめる。
「君の考え方が駄目なんだよ・・・」
その言葉はクラミーにグサリと刺さり、彼女自身硬直して身動きが出来なかった。