「昔のことは、あまり情報がないんだな・・」
二時間に及んだステフへの撫での後、図書室へ向かった。
360度見渡す限り本しかないこの部屋はイチャイチャ気味だった兄妹のテンションを元に戻すのには丁度良かった。
古臭い匂いが鼻を刺激するが、その匂いを嫌とは感じずシェイナは本を読み続ける。
「五年前のことでも、書籍化が追いつかないものもあるらしいです」
「へー。前はそんなこと無かったのに五年の間にこの国は随分廃れたな」
シェイナはエルキアに関する歴史の本を片っ端から見ている。
五年間不在だったエルキアに一体何があったのか、祖父である先王が領土を奪われながらもどのようにしていたのかそれを知るために。
「ぼんやりとしか書いてないな」
シェイナは手に持っていた厚い本を閉じて、元の本棚に戻す。
「ですね・・・せいぜい新聞くらいです」
「そっかあ・・・」
兄妹揃って体の力を抜いて、ゆっくりと椅子にもたれ掛かる。
祖父を罵っている人が多いから書き残してないのか、それとも国力的に追いついてないのかーーーー。
「・・・・」
「お兄様?」
窓から見える空をぼーっと見ていると不思議に思ったのかステフに声を掛けられた。
「ステフ、どっか他のとこ行こう。何か居心地悪くなってきた」
「わかりました、行きましょうお兄様」
シェイナとステフは図書室を後にした。
(ステフから直接聴いたけど、客観的意見も気になるなあ・・・)
長い道をステフと歩きながらシェイナは思った。
祖父が愚王と国民に罵られたことには妹と同じく怒りが沸いてくるが、そこまでの詳しい経緯や意見をシェイナは不在だったためわからないから、しっくりこない。
(・・・もし、ステフが言ってたクラミーちゃんって娘が王になったら多分国家崩壊するな)
兄妹は無言で廊下を歩いていると向かいに三つの人影が見えた。
真ん中に少女が一人、後ろの二人は少女の従者だろうか片方の人は王冠を持っていた。
(この娘がクラミーちゃんか・・・)
シェイナはゆっくりとこちらへ向けて歩いてくるクラミーらしき少女を見る。
「ク、クラミー・・・。いよいよ、戴冠式ですのね・・・」
ステフが残念そうな悔しそうな口調でこちらに向けて歩いてくるクラミーに言った。
(戴冠式?この娘はそんなに勝ったのか・・・)
ステフの言葉を聞いたクラミーは従者二人をその場で静止させて一人コツコツ、と足音を立てて歩いてくる。
「ステファニー・ドーラ・・・貴女、私に負けてからずっとそんな格好で暮らしてんの?」
クラミーは透き通るような冷たい声でそう言いながら一人、こちらへと歩み寄る。その右手にはシェイナも見覚えのあるドレスを持っていた。
(・・・あれを取られたのか。そりゃ悔しいわな)
「この服、貴女の素敵な御爺様から贈られた物なんですってね。返してあげるわ」
クラミーはそう言うと手に持っていたドレスをステフに差し出した。
ステフは悔しそうな顔をして言い返そうとするもそれを必死に抑えて黙って受け取ろうとする。するとーーー
バサッ
ステフが受け取ろうとした瞬間、クラミーはドレスを持っている腕の力を抜いて床に落とした。
その瞬間ステフの目には涙が出ていた。
(・・・やってくれるねえ、この娘)
ステフの後ろでじっとクラミーの行動を見ていたシェイナは間近で見る妹の侮辱に怒りを覚える。
クラミーはステフの表情も確認せず彼女の隣まで歩き耳打ちする。
「いい?貴女はま・け・た・の。その服をくれた愚王と同じ過ちは、繰り返さないことね」
クラミーの言葉に反論もできず、ステフは静かに涙を流す。
「そこでドレスをとったら、また罵られるぞ、ステフ」
「・・・ッ!」
シェイナの言葉にステフとクラミーが同時に彼の方向を向く。
「駆け引きほとっくに始まってるぜ・・・」
シェイナはステフの近くに来ると、クラミーがわざと落としたドレスを拾い上げる。
「お兄様・・・」
拾い上げたドレスを持ちながら、シェイナはクラミーの方へ歩く。
シェイナはクラミーの前まで来ると彼女にドレスを差し出す。
「盟約忘れた?クラミーちゃん。盟約その六、゛盟約に誓って゛行われた賭けは、絶対遵守されるって」
「・・・!」
「ってことでこのドレスは君の物だ。とりあえずは・・・ね」
すこしだけ笑みを作ってシェイナはクラミーに言った。
(ここでマジギレしたら、まんま子供だからなあ・・・)
するとクラミーも笑みを返してシェイナが持っていたドレスを引っ手繰って言った。
「愚王の妹が妹なら、その兄もまた兄ですわね・・・」
シェイナにそういい残すとクラミーは再び従者を引き連れろうかを進んでいった。
「ステフ、その服でそんなに座ってると風引くぞ」
「え・・・」
床にぺたりと座り込んでいたステフは涙浮かべた目をシェイナに向けながら返事をした。
「爺さんから貰ったドレス、取り返したいんだろ?早く行くぞ」
「行く?って・・・何処へ?」
シェイナはしゃがむとステフの頭を撫でながら言った。
「爺さんが間違っちゃいなかったってことを証明しに行くぞ」
(お兄様・・・!)
シェイナの言葉に目を潤ませながら笑顔を作った。
「ほら、立て」
「はい!」
差し出された手をゆっくりと掴んでステフは立ち上がった。
「あ、そうそう」
「?」
歩きながらシェイナはステフの方を向いて言った。
「昔のようにトランプ型のクッキー焼いてくれるか?俺はお前の作るクッキーが一番すきなんだ、頼むぜ」
「・・・ッ、もちろんですわ!お兄様!!」
(お兄様、大好きですッ!)
ステフは負けじとシェイナの隣まで歩くと腕を絡ませて頬擦りをした。
「よしよし」
「お兄様~♪」
(とりあえず・・・・・)
腕をがっしり絡ませて離さないステフにいつもの様に頭を撫でてあげながら、シェイナは思いついた。
(あの娘を倒そう、うん)