「さて、このクラミー・ツェルが戦いを最後まで勝ち抜いたのだが・・・」
広場のような王室で大勢の人が男の話を黙って聞いている。
男の横にはこのまま何もなければエルキアの王になるであろうクラミー立っていた。
「彼女に挑む者は、もうおらぬか?」
男は響く声で部屋にいる観衆に言ったが、観衆たちはその声をただ聞くのみで挑もうと声を上げる者は誰一人としていなかった。
「お、お兄様!?本気ですの!?戴冠式に乗り込むなんて・・・!」
長い廊下を歩きながら、ステフはシェイナに問いかける。
「もちろん。だって俺がまた帝位に就くしか、方法がないんだから」
「・・・ッ!でも!」
ステフは続けて言おうとしたがその時には目の前に戴冠式を行っている扉があった。
「心配するな、大丈夫だって」
シェイナは心配な顔で見つめてくるステフの頭にぽん、と軽く手を置いた。
「さ~て、新たな時代の始まりだ!」
シェイナは両手で戴冠式へ通じる部屋の扉を開ける。
差し込んでくる光で、ステフは一瞬目を瞑った。
「・・・では、前国王の遺言通り、クラミー・ツェルをエルキア新国王に戴冠させる。異議のあるものはいるか!」
男は確認のためもう一度同じことを言った。
だがさっきと同じで返事を返す人は誰一人としていなく、静まり返っている。
「では、ク「ちょっと待った!」
突然聞こえた声に観衆や男、クラミーまでもがドアの方向を見る。
その先には凛々しく立っている青年とその背中に少し体を隠している少女の姿があった。
愚王の血を受け継いでいる二人の兄妹だ。
「・・・このタイミングで俺が介入するのはアリ?」
シェイナはこの重い空気が嫌だったので出来るだけ軽い口調で言ったのだが、それを聞いた男は驚いた表情をしていた。
「か、介入するというのは、彼女に挑むと?」
「ああ、その通り」
「・・・ッ」
シェイナの返事を聞いたクラミーは小さく舌打ちする。
クラミーは舌打ちした表情を直ぐに無表情に戻して、こちらに歩いてくる
「自分が負けたからって、今度は自分の兄を連れてくるなんて。ここは兄妹仲良く来ていい場所じゃないわよ?ステファニー・ドーラ」
クラミーのその発言に観衆たちはどよめき始める。
先王の孫娘の隣にいる黒髪の青年が五年も行方不明だったその兄だと言うからだ。
(ざわざわしすぎじゃない?俺ってそんなに面影無くなった?)
シェイナは目だけをキョロキョロさせて、あたりのどよめきを確認すると視線をクラミーに戻した。
「・・・ッ!」
シェイナがそんなことを思っていると隣にいるステフはクラミーの言葉が刺さったのか、目を逸らして体を小さくしていた。
「かといって・・・」
シェイナはしょんぼりしているステフの肩に手を置いてその手でクラミーを指差した。
「こっそり他国の力を使ってる人も駄目でしょ?」
「・・・ッ!!」
シェイナの発言が当たったのか、クラミーはさっきよりも大きく舌打ちして目を逸らした。
同時に観衆たちが再び騒ぎ始める。
「ステフ、俺がさっき指定した場所に行ってくれ」
「わかりました・・・」
周りにできるだけ気づかれないようにシェイナはステフに耳打ちする。
来る前に打ち合わせしたので、短い言葉で全てを理解したステフは直ぐに壇上を降りて、目的の場所を確認しながら駆け足で歩く。
「それは・・・どういう意味かしら?」
クラミーは落ち着いた口調で腰に手を当てて言った。
「しらばっくれないでよ、クラミーちゃん。君が森精種と結託して国王選定戦をやっていたのはお見通し。そんな人が王になっちゃったらこの国もう終わりじゃん?」
!!??
シェイナの思いもよらない言葉に観衆は再びざわめくが、今までより明らかに疑念が大きい。
「ど、どういうことですかな?」
観衆と同じ意見の男が、代表するようにクラミーに問う。
しかしクラミーは男の質問を無視して、シェイナとの話を続ける。
「・・・つまり、私がイカサマして選定戦を勝ったとでも言いたいわけ?」
「んー、そこまでは言ってないけど?」
シェイナとクラミー、互いに感情を込めずに会話しているが目は鋭く相手を見ていた。
「ま、いいわ。異議があるなら勝負ではっきりさせてあげる」
「良かった。君は話がわかる人と思っていたよ、でも・・・」
シェイナはステフが行った場所を向いて、そこにいるフードを被っている何者かを指差した。
直ぐにクラミーもシェイナの指差す場所を見る。
「勝負のときはそこにいる人を追い出しといてね?」
フードの後ろにくっついているステフは周りの観衆に迷惑をかけないよう、出来るだけ隙間の多い場所に来る。
「失礼いたしますわ・・・」
ステフはそう言うとフードに手を掛け、ゆっくりとそれを持ち上げる。
持ち上げた先には、長い耳をした女性の姿があった。
「「「!!!!」」」
(まさか、本当に森精種だったとは・・・)
クラミーにすこしずつ疑いの目を向けたり、ひそひそと会話している観衆達を見ながら、シェイナは顔をクラミーの方へ戻す。
「・・・あの子、助けないの?」
ボソッと、シェイナは言うとクラミーは一度目を瞑って、何事も無かったかのように笑みを浮かべた。
「なるほど。森精種と結託して私をエルキアの「敵」に仕立て上げるつもりね?」
「機転が利くねえ、クラミーちゃん」
(黒い考えだなあ・・・)
シェイナがそう思っていると、クラミーは目だけを森精種の女性に向けて言った。
「とっとと出て行きなさい、森精種さん」
「あ、ちょっ・・・」
それを聞いた森精種の女性はステフの手を体で振り払って、奥のほうへと走って行った。
「さ、これで邪魔者はいなくなったでしょ?」
「ん、どうも」
クラミーは再び腰に軽く手を当てて、余裕とも受け取れる笑みを浮かべた。
「盟約に従って、何のゲームをやるかは私が決めさせてもらうわ。イカサマなんて絶対にできないようなゲームをね」
「ご自由に、どうぞ。君が何を選ぶかはすっごい興味があるからむしろ楽しみなんだけどね」
「勝負は場所を変えてやりましょう。準備ができたら呼びに行くわ・・・」
「オッケー。じゃ、俺らはそこら辺でくつろいでるから」
慌てて壇上に戻ってきたステフの手を握り、シェイナは部屋を後にした。