扉の向こうは高台のようになっており、向かいの同じ場所にはクラミー、間には審判らしき男が立っている。
下を見てみると大きいボード上の床に駒が置いてあった。
(・・・チェス、ね)
「・・・見ての通り、チェスよ。でもただのチェスじゃない。駒それぞれが意思を持っているチェスよ。命じれば駒は思いのままに動く、命じれば・・・」
クラミーはこちらに向けて不敵な笑みを浮かべていた。
(何か裏があるな。この娘のことだから・・・)
「お兄様、大丈夫ですの・・・?」
クラミーの不敵な笑みを感じ取ったのか、ステフはシェイナの背中にくっつきながら呟いた。
「ああ、心配すんな」
シェイナは振り返ってポン、とステフの頭に手を置くと直ぐに向き直って、一歩前に出る。
「話は終わったかしら、お二人さん」
「ん、ああ」
「先手は貴方からでいいわ」
クラミーが言い終わったのを確認した真ん中にいる審判は、両手を広げて言った。
「ではこれより時期王を決める勝負を始める!!」
「
シェイナとクラミー、互いの声が部屋に響き渡った。
「んーと・・・」
「どうしましたの?貴方の番ですのよ」
「あ、ああ・・・」
シェイナは自分の白い駒たち、に眼をやりながらもあせあせとしている。
(チェスは・・・わからん!!!でも今これを口に出したら終わりだ!)
クラミーに気づかれないようにシェイナは感情を表に出していないが、頭の中で必死に考えてやがてポロっと言った。
「で、D2のポーン、D・・・4へ」
シェイナが言うとその位置にいた白色のポーンは、ザザッと重い音を立てながらゆっくりと前に出た。
(ポーンで合ってたか。・・・そういえばチェスは先手有利なゲームって聞いたことがある。でもそれをあの娘が知らないはずもないし・・・)
「G7、前へ」
クラミーは内心焦っているシェイナの事など気にも留めずに、自分の黒のポーンに命令した。
「「!!!」」
クラミーが命令した黒のポーンが一気に3マス動いたことに、二人は驚いた。
「3マスも動くなんてそんな・・・ルール違反ですわ!」
ステフの指摘にクラミーはそれを待っていたかのように誇らしげに言った。
「最初に言ったでしょ?駒自体が意思を持っているって」
「・・・なーるほどね」
クラミーの言葉でシェイナはようやくこのチェスを理解したかのようだった。
「?」
ステフにはシェイナの言葉の意味がわからずただ疑問を持つだけだった。
「この駒達は、プレイヤーの全てを反映させて動いてるって事ね」
「その通り。だからこそ、エルキア国王ーーーー王者を決めるにはふさわしいゲームだと思わない?」
「・・・そうかもな」
(いまいちしっくりこないなあ・・・)
シェイナは意図はわかってもチェスのルールがまだ完全にわかってなかったので、少し不安な気持ちを胸に抱えながら、ゆっくりと駒を進めた。
「ナイト?、B3」
間髪いれずに直ぐにクラミーが動く。
「F7、前へ」
先ほどと同じようにクラミーが命令した駒は、1マス以上進んでいく。
「何なんですの?あの命令の出し方!」
ステフはクラミーの自由なチェスの進め方に野次を飛ばす。
「まあまあ、落ち着けステフ」
ぷくっと頬を膨らませているステフをつつきながら、シェイナも駒を進めた。
「E2、E4へ・・・」
互いに次々と手を打っていき、その通りに駒がゆっくり動いて陣形が少しずつ変わっていく。
「クイーン・・・えーと、H5」
「凄いですわ、お兄様!チェックですわよ!!」
シェイナがチェスのルールをあまり知らないことを知らないステフは大いに喜んだ。
(これでチェックなんだ・・・適当にやってたのにラッキー)
意外とステフの方がルールを知っていたので、最初から任しとけばよかったと思いながらも、妹ならおそらく前の二の舞になるだろうと思ってシェイナはその考えを捨てた。
「じゃあF2、F4へ」
・・・・・・。シェイナが命令した駒は言うことを聞かず、ただその場に留まっていた。
「あれ?F2、F4へ」
シェイナは駒に声が届いてないのかともう一回言ったが、やはり駒は動かない。
動かそうとしていたマスの前にはクラミーの黒色のナイトが眼を赤く光らせていた。
「な、何で動かないんですの?」
不安の表情のステフはシェイナが命令しても動かない白のポーンをじっと見ていた。
「やっぱりそうなのか・・・」
「え?」
「もしかしたらこのチェスは、駒が動かないことがあるんじゃないか?」
「・・・!」
「自分が死ぬとわかってる場所に、はいわかりましたと素直に行く兵士はいない。エルキアの書物にある古代の帝国の軍隊か狂気レベルの指揮がないと無理だ!」
(彼女はそれを何も感じずにやってのけてるが・・・)
「ってことは・・・!」
「ああ。玉砕・・・捨て駒なんて使えない!」
(ってもルールも完璧にわからねえのに、どうすれば・・・)
シェイナは口を隠すように手を当てて、思考をフル回転させて考える。
「早くしないと時間無くなりますわよ?」
(これ以上前には動いてくれないか・・・)
シェイナは渋々あきらめて他の駒に命令する。
「A2、A3へ・・・」
「ビショップ前へ、相手のナイトを討ち取りなさい」
さっきとは違う少し力の無いシェイナの声を押し通すようにクラミーは黒のビジョッブに命令した。
命令を聞いたビジョッブはその手に握っている槍状の様な物を振った。
振り下ろされた瞬間、目の前にいた白のナイトが粉々に砕け散る。
「・・・!」
(動かせない・・・ッ!!!)
「お兄様・・・」
始めて見る兄のその姿に、ステフもうまく声を掛けられない。
(どうすれば・・・・)
シェイナは石のように身動きをせずにじっと考えているとひとつだけ思い浮かんだことがあった。
それを確認するために顔を上げて、現時点でのチェスの陣形をじっと見る。
(これは・・・昔戦術書で見た陣形と似ている・・・!)
シェイナがテトの所へ行く前、たまたま本を探していたときに隣にあった本。
タイトルは「大戦戦術書」。
人類種の本なのか、はたまた他の種族が書いたものかはわからないが手にとって熱心に読んだのを覚えている。
その本に書いてあった図が、まさに今のチェスの陣形とほぼ同じ・・・!
(こいつらには俺の声が届くって事は・・・いけるかもしれないな)
シェイナは完全とはいえないものの、確信を持った。