僕と君と償う過去と   作:近衛龍一

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再び隣に立つ時

明久はAクラス前でうろうろしていた。

雄二にお膳立てされ、Aクラス教室にやってきたはいいものの、一体千春に何を話せばいいのか分からず考えているのだ。

唸りながら立ち往生している明久に、一人の人物が近づく。

 

「男なら何も考えずに行きなさい!」

「ゆ、優子!? っておわっ!?」

 

その人物は優子だった。

優子は教室の扉を開けて明久を無理矢理押し込む。

突然の力に対抗できず、明久は優子の思い通りにAクラス教室に入ってしまった。

 

「あ……明君……!」

 

当然の如く中には千春がいた。

ずっと待っていてくれたのか、一人ポツンと椅子に座っていた千春は、明久が入ってくるとすぐに立ち上がった。

 

窓から照らす夕陽。

そんな黄金の光を受けた千春はとても綺麗で、久々に近くでみた明久は、少ししか考えていなかった言葉ですら、あっという間に飛んでしまった。

 

誰もいない教室。

静かな空間。

言葉が出ない明久に追い打ちをかけるかのように繋ぎのない時間が過ぎる。

 

「千春……」

 

ようやくポツリと発した明久は千春の前に立つとその頭を深々と下げた。

 

「ごめんなさい……」

「…ふぇ…?」

 

突然の再会に突然の謝罪。

千春には謝罪の意味が全く分からなかった。

明久はゆっくりと顔を上げるとその顔はとても悲しそうで、同時に千春の心も締め付けられた。

 

「僕が…護ってあげるって言ったのに……。千春の近くに居られなくても、必ず護るって決めたのしさ……僕は護ることが出来なかった…。だから……ごめんなさい」

 

震える明久の手は跡がつきそうなくらいキツく握りしめられている。

その言葉、様子に、千春の目から涙が零れた。

ただ、嬉しさからではない。

そして、辛さからでも、悲しさからでもなかった。

その涙は怒りからきたものだった。

 

「何それ……」

「え…?」

「明君は……明君はずっとそんなこと気にしてたの!?」

「そ、そんなことって……!」

「そんな昔の事を気にして私の近くにいてくれなかったの!?」

 

雄二の言った通りだった。

千春は明久が大好きだった。

立ち直れたのも、また明久と一緒に毎日を送りたかったから。

明久が自分を避けているのは分かっていた。

でも、それはまだ自分が完全に立ち直ってないことを明久が悟っていたからだと思っていたのだ。

 

「私は……明君に遠くから見守ってなんて頼んだ覚えはないっ!!」

 

そんな彼女の怒りに明久は驚いた。

いつも優しかった彼女が、こんなに感情露わに怒るなんて。

 

「私は……っ! 私は……明君に近くにいてほしかったんだよ……!」

 

心の支えが欠けた毎日は辛い。

でも、いつかまた明久が自分の隣に立ってくれることを信じて、千春は毎日を過ごした。

それなのに……

 

「護ってなんか……ほしくない……!」

 

ギュッと目の前の明久に抱きついて、昔とは違う、大きくなった明久の胸板に顔を埋める。

 

「護ってくれるくらいなら……私の近くにいてよ……! ただ……それだけでいいから……!」

 

まさか雄二の言った言葉がここまで当たっているとは。

千春がここまで自分という存在を求めていてくれたとは。

千春を救う答えがここまで簡単で、難しいものだったとは。

おそらく雄二に何も言われなければ一生気がつかなかったであろう。

そして気がつかなければ一生千春を苦しめ続けていただろう。

 

それでも雄二が気がつかせてくれたからこそ、明久はそっと千春を抱きしめかえした。

鼻腔を擽る甘い香りは中学の頃にポッカリと空いた明久の心を一瞬にして満たす。

 

「そう…っだよ明君……。そんな風に…っ…もっと抱きしめてよ……。もう…っ…離さないでよっ……」

 

懇願するかのように自分の胸で呟く千春が愛おしく、望み通りもっと強く抱きしめる。

 

「ずっと千春から逃げて……過去を気にしすぎたのは僕の方だったんだね……?」

 

気にしないで。

そう言われたとしても簡単には出来ない過去。

だとしても、いち早く明久と共に居たかった。

千春はそう言ったが本当は違ったのかもしれない。

明久が隣に居ることが、千春にとって最大の良薬だったのだろう。

 

「ごめんね……? もっと早くこうしてあげればよかったのに……」

「う…うん…っ。明…君は…っ…悪くなんか……っ…ないよ……? 私こそ……強く言いすぎた……っ。当然だよね……っ? 明君が…心配するのは……。でもね……? でもね……? 不安だったんだよ……? 明君が…汚れた私には…っ….用はないっていいそうで……」

 

霧島が雄二に抱いた不安と似たようなものだった。

そんなことを明久が言うはずがない。

頭で分かっていても、心は不安で一杯だった。

今日も話があると言われた時にどれほどドキドキしたことか。

 

「そうだよね……。不安だったよね……」

 

泣きじゃくり、捨てられそうな猫のような声を出す千春の耳に明久は顔を近づけてそっと呟いた。

 

「でももうずっと隣にいるからね? 絶対に離したりなんかしないよ? 二度と不安になんてさせないからね?」

「うんっ……」

 

決して消えない過去だけれども、その傷は薄めることは出来る。

だったら、自分に出来ることをしよう。

だから、今自分が彼女に出来る最大限の事は彼女の隣に立ち、空いた時間を埋めることーー

 

そう明久は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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