僕と君と償う過去と   作:近衛龍一

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失われた時間を

「ただいま〜、って誰もいないんだけどね。入っていいよ」

 

明久宅。

一度千春の家に行って必要なものを諸々取り、二人は明久の家にやってきた。

明久の家は元々4人家族で住むものなので、千春が来たとしてもまだまだ広い。

 

「誰もいない…? 何で…?」

「父さんと母さんは仕事の関係で家にはいないんだ。姉さんも、アメリカの大学に留学中」

 

明久が一人暮らしになったのは高校生に入ってからなので、それ以降殆ど接触していない千春はそのことを知らなかったのだ。

 

「じゃ、じゃあ私と明君の二人きりってこと……!?///」

 

一つ屋根の下に男女二人きり。

しかも二人が恋人となれば……

そんなことを考えた千春は顔を真っ赤にする。

 

「だ、大丈夫だよ。僕は何もしないから」

 

僕の理性が保ってくれたらだけど……、と心の中で付け加える明久。

ここからは戦いだ。

いくら千春が彼女とはいえ、何としてでも紳士モードを崩さないようにしないといけない。

帰り際、自分の腕に手を絡め、身を寄せてきながら歩く千春を見ながら明久は決意していた。

と、なればもしものことが起きないように片っ端からその芽を潰さなければいけない。

危険なイベントを避けるべく、明久は行動を開始する。

 

「じゃあさ、千春は先にお風呂に入ってきなよ。その間に僕がご飯作ってるから」

「え……? それだと悪いよ…。私が泊めてもらうのに……」

「いいからいいから。今日は僕に任せて」

 

千春の背中を押して洗面所へとやる。

明久の中で最も危ないと思ったのがこのお風呂イベント。

千春が中で産まれたままの姿という誘惑に心が負けてしまう可能性が最も高いこのイベントを回避することが目下の目標だった。

幸い明久は料理が好きだった為、千春にご馳走するための料理を作ることでだいぶ気を惑わすことが出来るだろうと考えたのだ。

覗いてしまうリスクを減らし、更にはその間に千春への料理を作ることができる。

正に一石二鳥の作戦だ。

 

「あ、明君がそういうなら……」

 

明久に負け渋々お風呂へと向かう千春。

洗面所に通じる扉を閉めた後、台所で手を洗って料理に取り掛かった。

 

今日作るのは瓦そば。

パエリアやオムライスなどでも良かったのだが、パエリアだと時間が掛かり、オムライスだと早く出来上がってしまう。

明久の理想としては、千春が上がる前後に出来上がる感じにしたかったので、その時間を30分として落ち着いたのが瓦そば。

あまり知られてないようだが、結構おいしい。

 

「ええっと……サラダ油はっと……」

 

キッチン棚を開けサラダ油を探す明久に一つの試練が。

 

実は明久の家、風呂場とキッチンの位置が非常に近い。

その為、明久達の他誰もいない部屋で、物を探している程度だと風呂場の音が聞こえてくるのだ。

 

因みに今聞こえてくるのは千春が服を脱いでいる音。

シュルシュルと鳴るのはきっと制服のリボンを外しているのだろう。

 

明久はいかんいかんとすんでのところで耐え、サラダ油を見つけるとフライパンに流した。

 

そこからは麺をフライパンで炒めたり、肉、卵などを焼いたりするので風呂場の音は聞こえず、明久は何とか耐えることが出来た、のだが。

 

「明君〜」

「ちょっ、千春!? 何してるの!?」

 

それは料理終盤。

明久がリビングにてホットプレートに置いた瓦そばに薬味を乗せている時のことだった。

お風呂から上がった千春はパジャマ姿で明久に後ろから抱きつく。

 

「ん…明君の匂いだぁ……」

 

嬉しそうに明久の背中に頬ずりする千春。

 

「あのね……? 私、一度こういうことしてみたかったんだ…。恋人がすることみたいで憧れだったの…」

 

ポツリと呟くように言った千春の言葉に、焦っていた明久も止まる。

千春が犯されてしまったのは付き合いはじめた翌日のこと。

色々とやりたかったことをする間もなく訪れた悪夢。

だが、そんな悪夢を乗り越えて、こうして目の前に明久がいることが千春にとって非常に嬉しかったのだろう。

離れたくないと言わんばかりに、抱きついている手がギュッと強くなる。

明久はそんな自身の前に回っている千春の手に、そっと手を重ねた。

 

「大丈夫だよ千春。僕はここにいるからさ。何でも、千春がしたいことはやってあげる。でも、その前にご飯食べよっか?」

「うん…」

 

香ばしい匂いのする茶蕎麦の上に綺麗に並べられた薬味。

もうお腹はペコペコだ。

二人は仲良く、夕食を楽しんだ。

 

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