「貴様らあぁぁーー!! 待たんかあぁぁぁーー!!!」
「あのスピードから加速だと!? やるな鉄人っ……!」
「だけどまだまだ僕らは……」
「「負けないぞおぉぉーー!!」」
「バカ2人が走っておる……」
「……まったく」
全力で廊下を走り鉄人から逃げる雄二と明久を、秀吉とムッツリーニは菓子パンを食べながらその様子を眺めていた。
もはや人外ともいえる鉄人だが、そんな鉄人のスピードから何とか逃げている2人も並外れた身体能力だ。
因みになぜ2人がこんなに頑張っているのかというと……
「お願いします鉄人っ! 今日は千春と映画なんですよ!? むさ苦しい鉄人なんかと補習を受けるより何倍いいと思ってるんですかっ!?」
「そうだぞ! 俺だって翔子と映画なんだ! あんたの筋肉見てる暇なんざないんだよ!」
「貴様ら…。どうやら貴様らには教師に対する礼儀も教える必要があるようだな! 補習室でじっくり教えてやるから覚悟しろ!」
「「ぬおぉぉぉーーー!!」」
更にスピードアップする三人。
ただでさえボロい旧校舎の床が既に悲鳴を上げている。
と、その時、戦況が動いた。
「「とりゃあぁー!」」
突然雄二と明久が走る向きを変えたかと思うと、空いていた窓にダイブ。
ここは3階だというのに、躊躇いもなく飛んだ。
「何っ!?」
その思わぬ行動に流石の鉄人も焦る。
窓の外を慌ててみるが、2人は無事着地していた。
そして当然のようにその様子も見ていた秀吉とムッツリーニは、2人の席からそれぞれ鞄を持ち……
ポイッ
窓の外に放り投げた。
「サンキュームッツリーニ!」
「ありがとね秀吉!」
下からそんな声がしたかと思うと、秀吉とムッツリーニは顔を見合わせ苦笑した。
「吉井と坂本め…! よもや逃げられるとは……!」
これ以上の追跡は不可能と感じた鉄人が補習のために教室に入ってき、秀吉が話しかける。
「済まんが大目にみてやってほしいのじゃ。心配せんでも、雄二と明久は補習を受けずとも点数がいいからのぅ」
「それに関してはこの間の補充試験を見たから問題はない。それに、あいつらに彼女がいて、何かは知らんがいざこざが解決したこともな」
「ならば許してやってくれんかの?」
「俺も少しだけなら善処してやるつもりだった」
「では何故……?」
「あいつらが俺の机に『今日の補習はサボります☆』という置き手紙と共にプロテインを大量においてなければな……!」
「……まぁ……そこは自己申告と差し入れをするようになった分勘弁してやってほしいのじゃ……」
☆★☆★☆★
「お待たせ千春。待った?」
「悪いな翔子。時間食っちまってよ」
放り投げられた鞄を受け取った僕と雄二は、千春と霧島さんの待つ校門へ。
鉄人に置き手紙したから大丈夫だと思ったんだけど、どうやら差し入れが気に食わなかったらしい。
つくづく我儘な人だ。
「あの……明君…。西村先生の怒鳴り声が聞こえてきたんだけど……」
「あぁ、あれ? 気にしちゃダメだよ?」
「……雄二も。何かあったの?」
「もう解決したから大丈夫だ」
逃げ切ったって意味だけど、嘘はついてない。
って、そんなことより早くこの場を離れないと。
秀吉達が多少の足止めはしてくれるとは思うけど、もしかすると鉄人がこの場にくるかもしれないし。
「そんなことより早く行こ? 映画始まっちゃうからさ」
「だな」
雄二も同じことを考えたのか、歩きだ……したかのように思えたのだが、
「ん、翔子」
進み出した雄二を見て、どことなく寂しげにしてしていた霧島さんに気づき、雄二はすっと手を差し出した。
「……うんっ」
笑顔で差し出された手を握る霧島さん。
あまり感情を顔に出さないタイプだから珍しい。
と、当然それをみて千春も羨ましそうに見るわけで……
「千春、手、繋ぐ?」
「うんっ!」
こうしてようやく、僕たち4人は歩きだした。
☆★☆★☆★
「平日だってのに人が多いな…」
「学生が目立つね…」
映画館についた僕達。
学生達が混み合う中で、僕達は券を買うため列に並んだ。
「見る映画はなんだっけか…?」
「……『初夏と果汁と場と点数』」
「……タイトルを聞いてなかった俺が悪いんだが……どんな内容なんだ……?」
「……成績の悪い主人公が夏の補習で付き添って教えてくれた女教師と恋に落ちる物語。学校という公共の場で生徒と教師の禁断の甘酸っぱい青春ラブストーリーで今大人気」
「へぇ。タイトルこそ変に感じたが、内容は面白そうだな」
「見応えがありそうだね」
「翔子ちゃんと2人で話し合って決めたんだ」
そうだよね。
千春達は女の子だからそういう恋愛物に興味があるんだね。
何となく…本当に何となく、たらればだけど、あの時あんな事件さえなかったら、もっと早くこんな場所に2人で来てたんだろうな、って思った。
やっぱり、いくら千春が言おうとあの事件は僕のせいなんだなって。
たぶんあの時の僕ははしゃぎすぎてた。
今のように、映画を楽しみにしてたり、昨日のように、抱きついてきたり。
……………思い出してちょっと鼻血が出そうになったけど……そんな時、中学の頃のままだったら、きっと冷静に千春を受け止めてなかった。
きっと、千春を傷つけてた。
だから、少しだけ大変だったけど、結局、今の時間、千春と一緒に居られることが出来たから良かったのかなって。
ねぇ、そう思っていいかな、千春?
ギュッ、と。
自然と千春の手を握る手に力が入った僕。
「? どうしたの明君?」
「ううん。何でもないよ。ただ、幸せだなぁ〜って。さ、中に入ろ?」
「うんっ、そうだね!」
チケットを購入した僕らは、ポップコーンと飲み物を買って劇場に入った。
あ、勿論僕が奢ったよ?
☆★☆★☆★
『何で……? 何でダメなんですか……?』
『それは……私とあなたが、教師と生徒の立場だから……』
『教師と生徒だとダメでしょうか……? 俺が生徒として先生と会ったから行けないんでしょうか……? もっと別の形で会ってたらよかったんでしょうか……?』
「ぁぅっ……」
映画もいよいよクライマックス。
やはり禁断の愛をコンセプトにしているだけあって、緊張がある。
隣の千春ももう泣いていて、僕はそんな千春の手をずっとしっかりと握っていた。
おいそこ。リア充爆ぜろとか言うな。
『だったら……だったら俺はもう、生徒じゃなくてもいい。赤点取ったって、退学になったっていい。いや、むしろそれを望みます』
『どうして……? どうして私があなたの為を思って離れているのに……あなたは……』
『そんなの……先生が好きだからに決まってるじゃないですか……っ! いくら……いくら先生が俺のことを思って行動してくれたとしても……離れるんだったら一緒です……!』
何かこう……先生の方が僕らに似てるなぁ、と。
多分、千春とは反対の隣に座る雄二もそう感じてると思う。
千春達はこの生徒と同じ考えだったんだろうなぁ、って。
こうやって客観的に見るとそう思うのに、どうして僕は千春から離れたんだろ……?
その答えは……
『俺から……逃げないでくださいよ……』
『っ……』
これなんだろうな……。
何時の間にか僕も涙を流し、映画はゆっくりと終わっていった。