「何の用なの雄二?」
まるで山奥の廃屋のような教室の外で2人の男が話していた。
一人は明久で、もう一人は赤髪の目立つ長身の『雄二』と呼ばれる男。
そして廃屋のような教室は明久と秀吉の属するFクラスの教室である。
「ちょいとお前に提案があってな」
「提案?」
丸で子供が悪巧みを考えているような笑みを浮かべる雄二。
明久は半分面倒くさそうにその話を聞いた。
「試召戦争をやらないか?」
「試召戦争?」
その言葉に明久は訝しげな目で雄二を見る。
試召戦争とはこの文月学園にある試験召喚システムを使った学力向上を目的とした制度で、Fクラスのような酷い設備を、上位クラスに勝ち設備を交換することによって改善できるというもの。
だが、今日はどのクラスと戦っても確実に戦力差があるはずの始業式。
明久は雄二が何を企んでいるのか全くもって分からなかった。
「そうだ。試召戦争で最終的にはAクラスを狙おうと思っている」
「Aクラスを? このFクラスで?」
「当然。俺は世の中学力だけじゃないということを証明したいんだ」
どうせ明久はこの提案に乗るだろうとヤマを張っていた雄二だが、そのヤマは大きく外れることとなる。
「僕はパス。例え戦争をやるとしても、僕は参加しないよ」
「はぁ!? 正気か明久!?」
「正気も正気。大体、世の中学力だけじゃないって言っても、学力は人を計る一つのモノサシだよ? 」
バカが言うとは思えない言葉に雄二は思わず目を見開く。
それに気がついた明久は『しまった…』と思うが今更意見を変えるつもりは無かった。
「い、一体どうしたんだ明久…?」
「別に。ただ、いくら僕がバカでもAクラスに勝つのは無理だってことくらい分かるよ」
「そんなことはないっ! お前が協力してくれれば絶対に勝てる!」
そんなことは明久にだって分かっていた。雄二がこのように何かしら思いついた以上、本当にAクラスを倒せることくらい。
でもその条件は『明久が参加する』というものが入っているのだ。
明久は自分が観察処分者故、他人よりも召喚獣の扱いに長けていることを理解している。
だからこそ雄二の作戦に必要だということも。
ただ、それを分かった上で断っているのだ。
「でも僕は参加しない。だって観察処分者にはフィードバックがあるんだよ?」
「だ、だが姫路をAクラスの設備にやって助けるものと思えば……っ!」
必死に明久の説得を試みる雄二。
そんな真剣さにも明久は揺れない。
揺れるわけがないのだ。
「姫路は病弱だろ? だったらこんな埃っぽい教室に居させるのは酷とは思わないか?」
「思う。でもAクラスにだって病弱な人はいるんじゃない? ううん。寧ろ病弱な人は多いはずだ」
「それでも……っ!」
「やるなら学園長にでも話して姫路さんだけ特別な対処を取ってもらうべきだよ」
「……っ! ……もういい。お前に頼ろうとした俺がバカだったな」
そういうと雄二は怒り心頭で一人教室の中へと入っていった。
「ゴメン雄二……。Aクラスにはきっと……千春がいるからさ……」
そんな明久の呟きを聞くことなく。
だがそんな明久自身、雄二の提案を断ることで、大切な人を護ったつもりがもっと最悪な事態に転ぼうとは思いもしていなかった。